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『エリザベート』宝塚初演25周年を記念したガラ・コンサート、望海風斗トートのアニヴァーサリースペシャルver.レポ
4月5日に大阪で開幕し、5月5日に東京で千穐楽を迎えた『エリザベート TAKRAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』。宝塚の歴代キャストが集まり、多彩なバージョンで繰り広げられたステージは、これまでのエリザベート伝説に新たな感動と驚きを与える充実したものだった。その中から5月3日~5日の3日間、無観客で行われた「アニヴァーサリースペシャルバージョン」をレポート。トート役の望海風斗、エリザベート役の夢咲ねね・明日海りおは宝塚の同期生であり、退団後ならではの夢の競演を果たした。(文/小野寺亜紀 撮影/Studio Elenish)
NEWS & INFORMATION 2021 5/26 UPDATE
1996年に宝塚歌劇団雪組にて日本初演を迎えた『エリザベート』。ウィーン発のミュージカルを、小池修一郎が潤色・演出した宝塚歌劇版は、黄泉の帝王トート(死)を主役に据え、オーストリー=ハンガリー帝国の皇妃エリザベートとの“愛”をより深く、ロマンティックに描き大ヒットとなった。
これまで各組で再演を重ね、計10回上演。いずれも持ち味を活かした個性豊かなトートを筆頭に、出演者たちが様々なアプローチで役を演じ、多くの伝説を生み出してきた。その感動が蘇る豪華なキャスティングの「スペシャル・ガラ・コンサート」が、25周年を記念して5年ぶりに開幕。なお、緊急事態宣言発出を受け、4月28日以降の公演は残念ながら中止となったが、無観客での生中継が複数回行われ、最終的に全国のエリザベートファンに幅広く感動を届けることとなった。
今回、各時代を象徴する多彩なバージョンが企画されたが、その中から7人の歴代トート、6人の歴代エリザベートが並んだ大阪公演初日の「アニヴァーサリー 25周年バージョン」、明日海りおを中心とする「フルコスチューム’14花組バージョン」、朝夏まなとを中心とする「フルコスチューム’16宙組バージョン」については、今後発売予定の「オモシィプレスVOL.14」でレポートしているので、こちらでは望海風斗を中心とする「アニヴァーサリースペシャルバージョン」(以下、「スペシャルver.」)の模様を詳しくお届けする。
この「スペシャルver.」は、扮装はせず「役のイメージに合った衣裳を着用してコンサート形式で本編を上演する」というものだったはずが…!トート役の望海が登場すると、画面に釘付けとなった。
右側の額から右耳の辺りまで施されたフェイスペイント。白っぽいメッシュの入ったストレートのロングヘアにそのペイントが映え、計算されたような美しい横顔に見惚れた。涙のようにキラリと光るアイメイクも、繊細に煌めく黒の衣裳も望海の端正な魅力を引き立て、トートの“この世の者とは異なる格好よさ”“妖しい色気”がストレートに伝わってきて、役への敬意と気迫を感じた。
望海にとってトート役は今回が初披露。4月11日に宝塚歌劇団を卒業してから短い期間でこの造り込みとは驚く。
それはもちろん、歌や芝居にも言える。望海は歌で語り、端々の観客にまで心を伝えられる稀有な歌唱力の持ち主。鋭い眼差しで「最後のダンス」を歌い上げる時は、ヒヤッとした冷たさと愛を勝ち得るための熱情を、圧巻の声量でもって自在に表現してみせる。
居室でエリザベートに「あなたには頼らない!」と拒絶されると、さらに手を差し出し、初めての恋に戸惑うような表情も一瞬見せてドキリとさせる。また、ルドルフを妖しく鼓舞する「闇が広がる」では、世界を覆いつくすような深い歌声で迫っていく威圧感がすごい。一方、「愛と死の輪舞(リプライズ)」では少し声を震わせながら歌い出し、目に涙を浮かべて、トートの抑えきれない感情を切々と吐露する――。突っ走る純愛、怒り、嫉妬、悲しみ、すべてを包み込む愛と、全編通し、その歌声で黄泉の帝王の世界を押し広げた革新的なトートだった。ぜひいつか、大勢の観客の前で再び披露してほしい。
また、1幕では元星組トップ娘役の夢咲ねね、2幕では元花組トップスターの明日海りおがエリザベートに扮するという、スペシャルな配役となった。夢咲はシンプルなセットの中でも、皇后の気高さを内側からワイドに放ち、芯の強さを感じさせる歌唱でも引き込んだ。
明日海は約1週間前まで、力強くミステリアスなトートを演じていたとは思えない、鮮やかな変身ぶりで驚かせた。淡いブルーのドレスの後ろ姿にまで、皇后が背負ってきた孤独や、揺るぐことない誇りが見て取れ、息子を失った悲しみを子守歌のように柔らかく痛々しく歌う。望海トートと最後に対面した時の、まっさらに生まれ変わったような表情も忘れられない。
夢咲、明日海は望海と同期というドリーミーな座組みだが、この「スペシャルver.」には他にも89期が多く揃った。麗しい容姿と悲劇の中に一点の光を求める前向きな声でルドルフを構築した七海ひろき、ハプスブルク帝国への責任を絶大な威厳に込めた皇太后ゾフィー役の純矢ちとせ、パンチのあるマダム・ヴォルフを生み出した大月さゆ、年月の変化も巧みに表現したケンペン役の美翔かずき、と脇まで同期生が多数固め、安定感のあるコンビネーションを見せた。
鳳真由演じるフランツ・ヨーゼフは、年を重ねてもエリザベートへの大きな愛を貫く温かさが、確かな歌唱からまっすぐ伝わってきた。そして、今コンサートでは舞台上のオーケストラ演奏とも一体となって物語を引っ張っていく、大きな役割を担っていると感じるルイジ・ルキーニ役。実力充分の宇月颯が、軽妙に物語を運んでいくことで、心地よい波に乗っているような爽快感を味わえた。なお、5月3日は、ルドルフ役を澄輝さやとが演じたが、覚悟を決めた皇太子の熱さと、母の前でうなだれる儚さを併せ持つ魅力的な役作りだった。
宝塚歌劇団から唯一特別出演した専科の悠真倫は、やはり歌の巧さも包容力も際立つマックス侯爵を造形。他にも数多くのバージョンを力強く支えた、全日程キャスト陣の的確なパフォーマンスが、タカラジェンヌの底知れないパワーを体現していたこと。そして、劇場でも全身に感じた素晴らしいオーケストラ演奏による音楽の至福が、感動をより大きなものにしたことを付け加えたい。
千穐楽のカーテンコールで望海は、期間途中からの稽古参加にも関わらず共演者が助けてくれたことに触れ、「みんながこの舞台に賭けていたので、自分自身も精一杯力を出さなければと奮い立たせてくれました」とまず挨拶。「二人の美しい、全然違う魅力を持ったシシィだからこそ、私もトートを創り上げることができました。『エリザベート』はファン時代から大好きな作品でしたが、さらに大好きになり、抜けられない魅力を知ってしまい、これからもずっとずっとこの作品を愛していきたいです!」と、作品への熱い思いを打ち明けた。そして「ここにお客様はいらっしゃらないけれど、皆さまの温かさが伝わってきました。どうか心の栄養補給を忘れずにお過ごし下さい」と全国へ笑顔でメッセージを送った。
コロナ禍をくぐり抜け、全キャスト揃って元気に完走した今コンサート。5年前の「スペシャル・ガラ・コンサート」とはまた違う感慨が何度も押し寄せた。全日程キャストを代表して綾月せりが、「『エリザベート』がこの先30周年、50周年、100周年と皆さまに愛され続けますように」と挨拶で述べたが、きっとこれからも団結力に溢れた宝塚の現役生、卒業生たちが、培った芸と人生経験を活かして豊かにパフォーマンスをグレードアップさせていくに違いない。25年前の初演、あまりの衝撃で幕間にしばらく立ち上がれなかった『エリザベート』の感動が、いまだに新たな形で更新されていくことに、心からの幸せを感じた。
【公演データ】
『エリザベート TAKRAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』
2021年4月5日(月)~4月11日(日) 梅田芸術劇場メインホール
2021年4月17日(土)~5月5日(水・祝) 東急シアターオーブ
脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽:シルヴェスター・リーヴァイ
オリジナル・プロダクション:ウィーン劇場協会
構成・演出・訳詞:小池修一郎
演出:小柳奈穂子
出演:麻路さき、稔幸、えまおゆう、姿月あさと、和央ようか、白城あやか、
湖月わたる、月影瞳、彩輝なお、安蘭けい、春野寿美礼、朝海ひかる、
大空ゆうひ、瀬奈じゅん、水夏希、大鳥れい、霧矢大夢、紫城るい、北翔海莉、白羽ゆり、
凰稀かなめ、朝夏まなと、夢咲ねね、望海風斗、明日海りお、
蘭乃はな、愛希れいか、実咲凜音、花乃まりあ
初風緑、彩吹真央/出雲綾、嘉月絵理、越乃リュウ
悠真倫(宝塚歌劇団)
初嶺麿代、望月理世、綾月せり、麻尋えりか、扇けい、愛純もえり、純矢ちとせ、大月さゆ、美翔かずき、七海ひろき、芽吹幸奈、如月蓮、宇月颯、琴音和葉、玲実くれあ、鳳真由、咲希あかね、澄輝さやと、天真みちる、貴澄隼人、菜那くらら、花陽みく、蒼羽りく、煌海ルイセ、桜舞しおん、蒼矢朋季、矢吹世奈
公式サイト:https://www.umegei.com/elisabethgala25/
本公演のDVDの発売も決定!
【DVDデータ】
全バージョンを収録した豪華3枚組DVD
価格:13200 円(税込)
発売日:2021年9月24日予定
内容
[Disc1]
「アニヴァーサリー 25 周年ver.」を全編収録
(収録日:4月5日12:00公演 出演:麻路さき、姿月あさと、彩輝なお、春野寿美礼、瀬奈じゅん、水夏希、朝夏まなと、他)
[Disc2]
「フルコスチュームver.」&「アニヴァーサリースペシャルver.」の各ロングダイジェスト
・「フルコスチューム’14花組ver.」明日海りお、他 < ACT1 > 4月24日17:00公演&< ACT2 >4月10日12:00 公演
・「フルコスチューム’16宙組ver.」朝夏まなと、他 5月1日12:00公演
・「アニヴァーサリースペシャル ver.」望海風斗、他 < ACT1 > 5月3日17:00公演&< ACT2 >5月5日13:00 公演
[Disc3]
「アニヴァーサリー 組ver.」(全5公演)のダイジェスト集
・「’96 星組ver.」麻路さき、他
・「’98 宙組 ver.」姿月あさと、他
・「’02 花組 ver.」春野寿美礼、他
・「’07 雪組 ver.」水夏希、他
・「’09 月組 ver.」瀬奈じゅん、他
詳細は公式サイトへ