インタビュー & 特集

INTERVIEW! DRUM TAO『百花繚乱 日本ドラム絵巻』 宮本亜門さん

演出家・宮本亜門さんが、『太平洋序曲』と同じ松井るみさん、コシノジュンコさんと組んで、和太鼓エンターテイメント集団“DRUM TAO”の舞台『百花繚乱 日本ドラム絵巻』の演出を手がけました。日本全国でツアー公演中の本作ですが、東京でも7月16日から天王洲 銀河劇場にて初日を迎え、絶賛上演中です。(取材・文/高橋彩子、撮影/齋藤ジン)

INTERVIEW & SPECIAL 2015 7/26 UPDATE

――今回、DRUM TAOの演出を初めて手がけられたわけですが、きっかけは何だったのでしょうか?


 海外で「TAO」の文字を見たことはあり、カンパニーの存在は知っていたのですが、恥ずかしながら、日本のカンパニーとは知りませんでした。その後、舞台を見せていただいたところ、エネルギッシュで、ショーとして面白く、1曲1曲のイメージがすごく膨らんできたんです。その時に演出のお話をいただいて。僕は若い頃から日本のものが好きで、日舞をやったりお茶をやったりしていたのが、いつの間にかミュージカルの人になっていました。けれども、神奈川芸術劇場で『金閣寺』や『耳なし芳一』を上演した辺りから「原点回帰したいなあ」と思っていたところだったので、ちょうどスケジュールが合ったこともあり、すぐにお引き受けして阿蘇にあるTAOの稽古場に行きました。


――阿蘇はいかがでしたか?

 想像を絶する場所で、「こういう世界があるんだ!」と驚きましたね。僕は沖縄が好きですが、また違った雰囲気でした。巨大なマグマが地下を通っていて、その上でTAOの皆さんが、早朝から深夜から、ずっと太鼓を響かせている。自然と常に繋がっていて、太鼓の本質、根源のエネルギーを感じました。
 そうした環境の中、TAOの人達と一緒に1ヶ月、合宿のように過ごしたのですが、寮に入っていた高校時代を思い出しましたね。TAOの若い人達はネットを使ってはいけないんです。買い物も3週間に一度、「今日は全員で買い物に行こう!」という時だけ、お風呂に入って出かける。それが彼らにとって最高の一日なんですよね。「やったー、買い物に行けるぞ」と喜んでいる彼らの姿を見ていると、「どこの国の人たちだろう?」と(笑)。現代ではなかなかないことだけれど、それくらい追い込まないと、あれだけの演奏はできないのでしょうね。といっても彼らは変わった人達ではなく、自分の意思で来ていて、ストイックな状態を喜んでいる。僕は「合宿かー。体育会系、苦手だから演劇の世界に入ったのに」と思いましたけれども(笑)、楽しい体験でした。


――今回の『百花繚乱 日本ドラム絵巻』は、TAO初の物語作品だそうですね。

 僕は最初、どう作るか決めていなくて、出演者みんなに個人的に聞いて歩いたんです、「TAOでやってきて、どの作品が一番好き?」って。そうしたら、皆がある作品を挙げました。それは東日本大震災のすぐ後にやった作品で、東北の人達から「TAOの太鼓がないとつらいです」「来てください」と言われて作ったものだから、思い入れがあるわけです。人を勇気付けるとか活力を与えるとか、そういうものが太鼓にはあるんだ、と僕は改めて思いました。それで今回、物語に天変地異を入れたんです。我々は自然のおかげで生きていて、辛いことがあっても明日に向かっていく。その活力を、この作品で出したいと考えたんです。太鼓のエネルギー、表現、そして今の時代を、ノンバーバルで、色々な方に色々に感じていただけたら嬉しいです。


――噴火により、親を亡くした少年の物語だとか。


 平和な村に、父と母と息子が暮しているのですが、大きな噴火が起き、両親が亡くなってしまう。息子は、村人たちに助けられながら成長していきます。ところが、隣村から、天変地異で混乱した村人たちが襲ってくる。そこで、こちらの村でも対抗しようということで、訓練をするようになっていきます。舞台上には、長い棒が人を突くもの、短い棒が太鼓のバチとして象徴的に現れるのですが、少年は戸惑います、一体、手は、太鼓を叩くものなのか、武器を持つものなのかと。すると天女が降りてきて、人が結ばれていくのは、音楽であり楽器であると説くのです。
 これは個人的な思いなのですが、天変地異など大きな変化が起きた時、それを怖がる人と、受け入れて次に行こうとする人と、個性があぶりされて行くのは、人類の歴史に常に起きて来たことですよね。氷河期とか、魔女狩りとか。今、日本だけではなく世界がまた、その時期に来ている気がするんです。そうした中で、自分たちがどこに向かおうとしているのかということに、僕は興味があります。だから敢えて、繰り返される天変地異の中でどうするかを描こうと考えました。実際、太鼓には、すごく激しく人をたたきつける音も出せれば、優しさあふれるリズムも刻むことができる。あるいは、人間の鼓動であったり、切なさであったり、雷であったり、小さな水が滴る音であったり……全部、表現できるんです。そういう多様性を活かした、カラフルな世界になっていると思います。


――TAOの人達にとって、物語の人物として演じながら太鼓を叩くのも初めての体験だったわけですよね? もともと俳優ではない方に、どのように演技指導をされたのですか?

 演出家を迎えること自体、彼らには初めてでしたから、最初はテレがすごくて、顔は笑っていても目は笑っていなかったですね(笑)。「こういう時はどうする?」とか「人が死んだ時ってこうなるよね?」とか、そういうことを伝えるのは、俳優に対する演出と同じです。
 彼らは、動きを全部、自分たちで作るんです。動きとリズムを作る訓練をしていて、座長がそれを判断してまとめるのが今までのやり方。それを僕も踏襲し、彼らがもっているもののパズルを合わせた上で、「ここはもうちょっとこうできないか」、例えば階段に一列になって千手観音的な動きをやってほしいとか、そういうことを入れ込んでいきました。また、太鼓を叩く際に、強弱だけでなく「自然の勢いを感じて」「マグマになって、怒りを発散して叩いて」「親が死んだあとの少年の思いを表現して」など、具体的な感情を入れ込んでいきました。さらに僕からの提案で、ラテンのリズムなども隠し味として入れたりしています。
 もともと俳優ではないけれど、太鼓で訓練している彼らの感受性は強いですし、TAO自体、いつも公演では新しいものを提示したいという気持ちでやってきているそうなので、演奏と感情がリンクしたとき、すごく強い表現になっていきました。


――その世界を観客と直に分かち合う趣向もあるようですね。

 劇場にいらした方はお分かりになると思いますが、太鼓の生の音って、心に響くとかそういう次元ではなく、皮膚に響くんです。今回、世界で初めて“月鼓(げっこ)”という膜だけの太鼓を使うのですが、それなんて、どーんと打つと音響の機材も僕達もぶるぶるって震える。つまり全部、“体感”なんです。額縁のドラマを超えて迫って来るのが太鼓の魅力ですから、観客と一緒に体感したいと願っています。


――衣裳はコシノジュンコさん、美術は松井るみさん。05年にトニー賞候補になった『太平洋序曲』と同じチームの再結成となります。

 三人に共通しているのは、日本の魅力を伝えたいけれど、その際に伝統だけでなく、そこに新たなスパイスや、今まで見たことのない面白いものを入れようとする姿勢です。
 コシノさんからは、天女なのに花魁の衣裳が出て来て「うわー、これどうするの?というところからスタートしましたが、結果的に、聖なるものと俗なるものの両方を認めるような世界観ができました。コシノさんはTAOとこれまでに何度も組んでいるので、TAOのビッグファンでもあるコシノさんを悩ませたらいけないなと思っていたけど、違う魅力を引き出してくれて嬉しいと喜んでいただきました。
 るみさんには、金屏風の中で物語が展開するようお願いしたのですが、屏風に映像を当てる難しさがありましたね。大変な作業でしたけれども、日本の魅力を出すため、ある部分は繊細に、ある部分は大胆にやりました。


――この作品は全国公演後、来年にはオフブロードウェイで上演なさるとか。

去年、向こうに行った時も、オフで二つ、アジアのカンパニーがやってましたが、正直言ってTAOのコピーだったんです。こっちから勝負かけて行かないともったいない。玉三郎さんも鼓童と『アマテラス』をなさっていますが、TAOの団員だけで物語を作るという意味では初めてなので、こういうものがあるんだということをオフブロードウェイの観客に初体験させることが楽しみです。海外の方をぎゃふんと言わしたいですね(笑)。

 

DRUM TAO『百花繚乱 日本ドラム絵巻』
日程:2015年07月16日(木)~26日(日)
天王洲 銀河劇場

※そのほか、11月まで全国ツアー中、2016年オフブロードウェイ・スカーボールセンターにて公演

構成・演出:宮本 亜門 × 衣装:コシノジュンコ × 総指揮:フランコ ドラオ
出演メンバー:
西 亜里沙・岸野 央明・江良 拓哉・水藤 義徳・河原 シンゴ・相戸 喜代子・原崎 太郎・谷中 宏康・原口 純一・山口 泰明・中田 勝平 ・生越 寛康・山本 啓介・山口 竜昇・林 祐矢・荻野 靖晃・中井 沙紀・麓 大輔・椿 拓也・比和野 航大・清田 慎也・三重野 朋美
チケットお問い合わせ先 東京音協03-5774-3030 (平日10:00~17:30 土日祝:休)

http://www.drum-tao.com/


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