インタビュー & 特集
INTERVIEW! ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』音月桂さん×一路真輝さん×鈴木裕美さん
元・宝塚の男役トップの美女に囲まれた演出家の鈴木裕美さんが「宝塚の娘役みたい!」ととってもご機嫌。稽古場での撮影だったため、裸足だった彼女が「あ、靴はきましょうか?」と言うと「私が脱ぎましょうか?」と気配り発言の一路真輝さん。そのやり取りを大笑いしながら眺める新進女優(!)の音月桂さん。インタビュー前から和気あいあいの様子、写真からも感じ取れませんか? 陽気な彼女たちが取り組む新作はとびっきりの心理スリラーです。
(撮影/熊谷仁男 取材・文/小柳照久)
INTERVIEW & SPECIAL 2014 6/30 UPDATE
●ここ数年、韓国のミュージカルが日本で上演されることが増え、再演を重ねている『サ・ビ・タ』や『パルレ』の他、今年1月は『シャーロック ホームズ』が上演、一路真輝さんは女性版ワトソンとして出演されてましたね。
一路 譜面を見た段階では「うわ、この音に行くか!」という部分がたくさんあって、難しかったんですけど、身体に音楽が入って歌えるようになってみると、観ているお客さんは、なんか心地良いらしいんですよ。ちょっと日本の昭和的なものがどこかにあるんですね。こっちが頑張っただけお客さんも「うん、良い感じ」「懐かしい感じ」って思ってもらえるのが韓国ミュージカルの音楽の印象です。
鈴木 なんとなく懐かしい、聞いたことあるかもってものがね、あるんですよ。
一路 やはり? 昨日、家で今回のナンバーを口ずさんでいたら、母が「良いねー!」って声かけてくれたんですよ。普段、例えばブロードウェイのミュージカルを練習していてもそんなことなかったんでビックリしました。
●ところで、今回の『ブラック メリーポピンズ』は韓国産のミュージカルで演じるのは日本人なんですけど、お話は……。
鈴木 ドイツの話なんですよね(笑)。そのへん自由ですよね。韓国ではミュージカルはまだまだ若い文化なんだと思うんですよ。多分、韓国には70歳のミュージカル俳優はいないんじゃないかな。日本はいらっしゃるじゃないですか、70歳超えでミュージカルを沢山やってらっしゃる方。ミュージカル文化がまだ新しい韓国の作品は、すごくエネルギーに溢れていて「何でもあり!」的なものを凄く感じます。
●音月さんは宝塚退団後「初ミュージカル♪」でございますね~。
音月 一年半ぶりに舞台に立たせていただきます。毎日、とっても楽しいです。改めて、私、やっぱりお芝居することが好きなんだと感じています。宝塚の時とは違うことが多くて、すべてにおいてフレッシュです。
●今日も稽古場に入った時、最初音月さんだとわかりませんでしたよ。
音月 本当ですか?
●宝塚時代も『スサノオ』や『青い鳥を捜して』でキュートな娘役姿を披露されてましたが、どのあたりがフレッシュなんですか?
音月 作品によっては娘役をやったことがあるんですが、当時はスカートをはいて稽古していると落ち着かなかったですね。
一路 歌稽古の時に「男役やってたのにすごいねー」と言ったら、自分では違和感があるんですって。
音月 どこか自分の中で切り替えられない意固地になっている部分があるみたいです。
一路 空気感が違うから、きっと一年半あいてても、その違和感を消す事が出来ないのでしょうね、まだ。慣れもあるし、それに長年使ってきた自分の声もありますから。
鈴木 はたからだとそう見えないよ、全然。「ああ、ソプラノなの?」って。自分で歌っていて気持ち良い声ってあるんだろうけど、こちらには気持ちよく聞こえてる。でもお客さんびっくりしちゃうんでしょうね。高い声に。
音月 今はまだ裏声で歌っている自分に慣れてなくて、感情が思うように乗せられないような気がして。苦戦してます。
一路 (急に上級生モードで)大丈夫だからもうそんなことは言わないのっ。
音月 (裏声で)はいっ! 頑張ってますっ(笑)。
●一路さんの時はどうでしたか? 『王様と私』のアンナ先生で女優デビュー。
一路 私はね、そんなに変わらなかったんですよ。キーは男役よりもちょっと高い位でしたから。で、最初がそうでしたから、できることなら地声でゆきたくて。裏声を使うか使わないかで、よく演出家とディスカションしました(笑)。男役時代からのファンのみなさまも驚かれるでしょうから、徐々に、徐々に声を広げていきました。
鈴木 今までもたくさん元・男役さんとご一緒してますが、一路さんと『アンナ・カレーニナ』をご一緒した時は辞められてしばらくたってたのですっかり女優さんでした。音月さんは、こういっちゃなんですけど、まだ辞めて間もないのに、こんなに男役から女優への違和感のない人は初めてです!
音月 (照れまくって手をふりつつ)いやいやいや。
鈴木 多分、みんなそう思ってるんじゃないかな。余談ですが、今回のカンパニーのみんな、異様に仲が良いです。気持ち悪いです(笑)。割と変なレベルです。微笑ましいレベルをちょっと超えてます。
一路 こんど聞いてみよう。みんな、共演してきてますもんね、元・宝塚の人と。
●さて『ブラック メリーポピンズ』は、どんなストーリーなんですか?
鈴木 お屋敷が火事で焼け落ちて、お父さんが何らかのことで焼死していて、でも、子供たちは記憶がなくて・・・、誰に何があった? って話です。
一路 その全てを知っているのが私が演じるメリー。……ネタバレになるからこれ以上聞かれると正直ツライ!!!(笑)。
●キャッチコピーが心理スリラーミュージカルとなってますが、てっきり鈴木さんがお付けになったのかと思ってました。
鈴木 いやいやいや、私はもっと控えめな性格で(一同爆笑)。……実は控えめじゃないんですけど、控えめにしておきたいなと、はい。心理スリラーミュージカル、大仰に出ちゃってますよね。韓国版からそうなってるんです。
一路 心理サスペンスっぽい印象ですね。
鈴木 韓国ではサスペンスもまとめてスリラーと表現するようですよ。今回はちょっとサスペンスっぽいところ、謎とかミステリーな要素が出てきます。
一同 ああ、そうなんですか!(どよめく)
●子供時代と10数年後を瞬時に行き来する演技が必要な作品ですね。
鈴木 舞台美術のしかけで、2つの時代を説明してはいますが、ハッキリ言って大したしかけじゃないです。(笑)。衣装替えも、無理なのでないです。俳優さんの力で変えていこうと思ってます。
音月 宝塚の時は衣装や装置で時代の変化を表現できたので、それらに助けられる部分もやっぱりありしたけど…今回はそれらなしでお客様が観ていてどれくらいメリハリがつくか、勝負に出ます! やりがいがあります!!
鈴木 登場人物がたったの五人ですからね。今回は東京のみの上演になるんですが、会場の世田谷パブリックシアターが、大きすぎず、小さすぎず、とても良いんですよー。
●鈴木さんも演出だけでなく脚本を手掛けられたりもしますが、『ブラック メリーポピンズ』は脚本・演出だけでなく作曲まで、ソ・ユンミさんが一人で作り出した作品です!
鈴木 すごいバイタリティーですよね。作られている方がお若いし、韓国のミュージカル界自体が若くてエネルギーに溢れていて生き生きとしているのが強く伝わってきます。「作りたい」「やりた~い」「こんなシーンがやってみたいわ~」っていう熱さが、私が劇団を立ち上げた頃の「いいのだ、やるのだ! ん? そこはいいよ!!」という、理屈は良いんだ、やりたいのだというシンプルで強い気持ちを思い出させます。
一路 先日、『シャーロック ホームズ』を韓国キャストの方たちが観に来られたんです。日本版は橋本さとしさんがシャーロック・ホームズをやってらしたのですが、韓国版の主演の方がまだ若くって。で、一緒にご飯を食べに行った時、開口一番に「僕は羨ましかったです」と。「何が?」って訊いたら、「日本の劇場には歴史がある、そしてお客さんにも何か歴史のようなものを感じる」と言うから、「私のファンの方の中には30年も応援して下さる方がいらっしゃるのよ」と言ったら、もうね、持ってた箸を落としました(笑)。要するに、韓国はミュージカルが根付いて間もないので30年見続けているようなファンがまだいらっしゃらないと。その歴史が羨ましくて、僕も日本の劇場に立ちたいと。
音月 すごーい。そうなんですね。
一路 こんなにも勢いのある人たちが羨ましがるからには、私たちも負けてられないぞという思いになったんですよ。先日韓国に行ったとき、ある劇場に行ったのですが、近代的すぎて、劇場らしさをあまり感じなかったんです。ロビーも日本とはだいぶ雰囲気が違ったし。
鈴木 その劇場にはまだ劇場の神様が来てないんですね。劇場の神様って良い芝居が何本かかからないと来ない。ただやってるだけでは来なくて、「良い芝居」を何本もやってるといらっしゃるんです。「ダメな芝居」じゃいくらやってても来ないんだよね。
音月 なるほど…。神様がいないって、初めて聞きました。面白いですね!
一路 彼らからの羨望を私たちはプレッシャーとして受け取って、今回の『ブラック メリーポピンズ』では、韓国ミュージカルならではの勢いは残しつつ、ミュージカルを何本もやっていてストレートプレイの知識も凄い鈴木さんが演出するとこうなるんだ、韓国と日本が二つの国の良いところどりをして作るとこうなったぞという舞台をお見せしたいですね。
音月 韓国版の映像を見た時に、曲は繊細だし、面白いお話だなと思ったんですが、お国柄も感じました。韓国の方は個々のアピールが凄い印象でしたが、私たちの「みんなで一緒に」というチームワークは同じアジアでもアプローチが違うので、今回の鈴木さんの演出で、韓国版に負けない作品になるんじゃないかと期待してます。出演者として入れていただけたのも幸せですし命をかけて演っていきます!
一路 お、大きく出たましたね!(笑)。
●韓国オリジナル版は2012年初演で、去年再演して、今年は6月に再再演が開幕、8月末まで上演予定です。
音月 日本版が終わったら、韓国版も観に行きたいです! 今、この作品にはまってます!!
ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』は、7月5日から東京・世田谷パブリックシアターにて上演されます。
[プロフィール]
音月桂
(おとづき・けい)
1998年宝塚歌劇団・84期生として初舞台を踏む。2010年雪組トップスターに就任。2012年12月に『JIN-仁/GOLD SPARK!』で退団。退団後は映像を中心に活躍。本作で一年半ぶりに舞台に立つ。
一路真輝
(いちろ・まき)
宝塚歌劇団トップスターとして活躍し、1996年日本初演となる『エリザベート』(トート)で退団。同年、東宝ミュージカル『王様と私』のアンナ役で女優として活動を始める。以後、『エリザベート』『アンナ・カレーニナ』『リタルダンド』など数々の舞台で活躍している。
鈴木裕美
(すずき・ゆみ)
日本女子大学在学中に「自転車キンクリート」を結成、同劇団のほとんどの公演を演出。現在、小劇場から大劇場までジャンルを問わず様々な舞台の演出を手掛けている。最近の主な舞台は『夜中に犬に起こった奇妙な事件』『フランケンシュタイン』『きのうみたゆめ』『宝塚BOYS』など。
[公演情報]
ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』
7月5日(土)〜20日(日) 世田谷パブリックシアター
脚本・作詞・音楽:ソ・ユンミ
演出:鈴木裕美
上演台本:田村孝裕
訳詞:高橋亜子
出演:音月桂 小西遼生 良知真次 上山竜司 一路真輝
問い合わせ:
東宝テレザーブ:03-3201−7777
公式サイト●http://www.m-bmp.com