インタビュー & 特集

INTERVIEW! 金森穣さんx井関佐和子さん@Noism「ZAZA」

舞踊家としてモーリス・ベジャールやイリ・キリアンに師事し、現在はNoism芸術監督・演出振付家として次々と問題作を発表する金森穣さんと、Noismのプリマであり副芸術監督でもある井関佐和子さん。プライベートでもよきパートナーであるお2人に、5月24日に初演が迫ったNoism1の新作『ZAZA~祈りと欲望の間(はざま)に』について伺いました。(取材・文/仲野マリ)

INTERVIEW & SPECIAL 2013 5/23 UPDATE

――『ZAZA~祈りと欲望の間(はざま)に』は、第1部が『A・N・D・A・N・T・E』〈時の間〉、第2部が『囚われの女王』〈性の間〉、第3部『ZAZA』が〈欲の間〉という構成の、独立性が高い3部作です。そのコンセプトと特徴をおしえてください。

金森:今回はそれぞれにNoism設立以降初となる挑戦が組み込まれています。『A・N・D・A・N・T・E』は筆頭舞踊家である井関佐和子が出演しない初の金森作品、逆に第2部『囚われの女王』は、その井関佐和子だけが踊る独舞作品、そして第3部『ZAZA』では、舞踊家達1人1人に「舞台上で彼らが何をしたいか」をアンケートし、彼らの「欲望」に基づいて構成・演出した作品となっています。

――初めての井関さん抜きの作品づくりに不安はなかったですか?

金森:Noismは来年4月で設立10周年になりますが、これまでずっとずっと井関佐和子という抜きんでた才能を中心に作品を作ってきました。でも、最近はカンパニー全体としてのレベルも上がり、評価も得てきました。何より、カンパニーとしてのまとまりが出てきたと思います。Noismとしての方向性を一人ひとりが理解し、身体性も精神性も共有できている。佐和子がいなかったときに、彼らの中から誰が作品を引っ張って行くのか、そこに興味を惹かれたわけです。舞踊団としても他にも佐和子レベルの舞踊家を育てなければならないし、自分としても、佐和子という切り札抜きで作品を成立させる、いい試練でもあります。

 ――第1部では、バッハのアンダンテ(ヴァイオリン協奏曲 第1番イ短調BWV1401第2楽章 Andante)という正味5~6分の作品を、20分くらいに引き延ばして使っています。「時の間(はざま)」と説明のある第1部ですが、この手法をとった理由は何ですか?

金森:現代社会では、すべてが早く、安く、新しく、と速度感が求められていて、効率ばかり追求する傾向にあります。でも実際は、何事にも時間はかかるものだし、たとえ一瞬に見えたとしても、そこには美しいもの、はかないものがたくさんあるような気がします。だからこそ、一見ムダと思われるような長い時間、十分な過程を経なければたどり着けない感動が存在するのではないか。第1部の「A・N・D・A・N・T・E」では、その点をコンセプトにしています。

 具体的には、ドからレにものすごい時間をかけて進むみたいな感じに引き延ばして使っています。バッハの名曲をいじくりまわすな、といわれそうですが、逆に名曲でなければできないことなんです。いろいろな曲で試しましたが、本当にシンプルなバッハの音の配列だからこそ、引き延ばしても美しい。原曲と同じく情緒ある音楽になりました。

 音の長さが情緒を醸し出すというのは、和の文化では珍しいことではありません。日本舞踊の長唄とか、人形浄瑠璃とか能の謡とか、お正月の歌会始めで和歌を詠むときとか、文字で読んだらものすごく短いものを、あえてゆっくりとした節に乗せて味わい、読み解いていく。まさにあれが「A・N・D・A・N・T・E」の世界。こうした非日常性、出来事の享受の仕方は、日本には昔からあったものなんです。

 ――「囚われの女王」で、井関さんは4人の登場人物を踊り分けるということですが、井関さん初のソロ作品に込めた思いは?

井関:いつもソロを踊っているので格別初めてという気持ちはありませんが、1つの作品を1人だけで踊るのは、たしかに今回が初めてです。

金森:『囚われの女王』はシベリウスのコーラス曲で、フィンランドの詩をもとにしてつくられています。物語に出てくる4人の登場人物を、佐和子はすべて1人で演じ、踊ります。それぞれのキャラクターをいかに表現するか、すごくハードルが高い。でもこれまで『見世物小屋シリーズ』など、物語性の強いものを経験して、彼女は技術的なものだけでなく、表現者としても卓越してきていると確信します。この作品は佐和子のために作りました。今の佐和子でなくてはできない作品です。

井関:そこまで私のため、といわれると、正直、プレッシャー感じます(笑)。そうですね、演じるというと少し違う気がします。私は舞踊家なので、体をそのキャラクターにもっていくという感じでしょうか。とはいえ、4つですから大変。瞬間的に変えていかなければならず、難しいです。せめて頭の中では、今誰になっているのかわかっていないと、ただの踊りになってしまう。単なる踊りであれば、テクニックだけでまとめられるんですが。形を変えるだけではダメなので、キャラクターごとの人生を考えながら踊っていこうかなと思っています。

金森:シベリウスの音楽の中から4人の登場人物の感情を読み解いて、振り付けています。シベリウスに見てもらいたいくらい。『中国の不思議な役人』のときも、バルトークに見てもらいたいと思いましたが、今回もいいものができました。自信作です。

井関:シベリウスの曲はときどき大がかりで、最初聞いて、ちょっと恥ずかしくなってしまうようなところがあったんです。でも、穣さんの言うとおりに踊っていくと、だんだん自然に感じられるようになっていきました。

金森:この物語はあらすじだけをたどると、英雄が女王を救うというものすごく単純なおとぎ話に見えますが、背景にはフィンランドの民族解放という歴史が含まれていて、その精神性が音楽に息づいていますから、そのあたりも感じつつ作っていきました。そして4人を踊り分けていきながら、最後は男でも女でもなく、女王でも番人でもなく、性もなにも超えて、究極佐和子自身が解き放たれて、幽玄な何ものかになるのを期待しています。

 ――「ZAZA」に使われた「THE THE」の音楽とは?

金森:「The The」は1980年代の音楽のロックバンドで、「The time of the time」というトートロジー(同語反復)から派生して「THE THE」=「ザザ」という音や言葉について色々と検索していたとき偶然見つかったのが、「THE THE」というバンドでした。彼らは映画のサウンドトラックも制作していて、『MOONBUG』はあるカメラマンが宇宙飛行士を追いかけたドキュメンタリー、『TONY』は社会に適応できなくて殺人を繰り返す男の話です。月に行きたいといって何兆円も税金を投入する欲望。あるいは社会に適応できないために殺人を犯す人間の欲望は、果たして善悪で語れるものなのか。このようなアイロニカルな欲望に塗られた人間に対する、ある種の哀愁のようなものを彼らの音楽から感じました。

 ――アンケートによって、舞踊家の「欲望」は明らかになりましたか?

見世物小屋シリーズ第3弾Noism1『Nameless Voice~水の庭、砂の家』演出振付:金森穣(2012年) 撮影:篠山紀信

金森:通常、舞台では演出振付家が欲するものを舞踊家たちに踊らせます。では舞踊家たちは何を欲しているのか。彼らが舞台でやりたいことをアンケートで集め、ワークショップで形にしながら演出していったのです。アンケートをして驚いたのは、意外とみんな、自分にいいことばかりではなく、傷つけられることを欲するんですよ。追い込まれたときに自分がどうなるか、それを知りたいという欲望もあるんですね。だから必ずしも楽しいことばかりではなく、一面的には捉えられるものではないと改めて思いました。

 ――舞踊家11人の欲望から発せられた痛み、哀しみ、歓びが1つの舞台の上で交錯するとき、舞台はどうなるのか。それらを見る観客は何を感じるか。「祈りと欲望の間に」という副題に託した思いを聞かせてください。

金森:まず、舞踊家という存在そのものが、欲のかたまりだと思います。人に見られたい。誰よりも多く見られたい。一番になりたい。老いにも抗いたい。でも、佐和子の踊りを見ていると、踊りそのものが『祈り』に通じるときがある。どんな作品を作っていても、その美しい瞬間をつかみたいと私はいつも思っているんです。

見世物小屋シリーズ第3弾Noism1『Nameless Voice~水の庭、砂の家』演出振付:金森穣(2012年)  撮影:篠山紀信

井関:舞台に立ちたい、踊りたい。でも、それが自己満足では終わってほしくない。努力して生み出したものが何かに変わってほしい。それが人に伝わってほしいと私も思っています。

金森:これだけ賭けて生きている瞬間が、ほかの誰かの涙になったり、感動になったりする。その変容の瞬間に神々しいものを感じ、私は『祈り』と呼ぶのかもしれません。その“時”をつかみとりたい、それが演出家としての私の欲望です。第3部ではワークショップを重ねることで、いろいろな欲望をどう組み合わせるか、何を中心にして、どう配置するか、さまざまに検討を重ねました。先ほどお話ししたように、欲望には痛々しい、ネガティブな形もたくさんあるのです。それでも、それらを組み合わせることで、あるとき『祈り』に昇華する瞬間がある。何かに向けて叫んでいるようにみえる時がある。それは本当に美しい光景です。観客の皆さんと、その“時”を共有できることを願っています。

 

プロフィール

Jo KANAMORI  撮影:篠山紀信

金森穣●演出振付家、舞踊家。りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督、Noism芸術監督。ルードラ・ベジャール・ローザンヌにて、モーリス・ベジャールらに師事。ネザーランド・ダンス・シアターⅡ、リヨン・オペラ座バレエ、ヨーテボリ・バレエを経て2002年帰国。’03年、初のセルフ・プロデュース公演『no・mad・ic project ~ 7 fragments in memory』で朝日舞台芸術賞を受賞し、一躍注目を集める。’04年4月、りゅーとぴあ舞踊部門芸術監督に就任し、劇場専属舞踊団Noismを立ち上げる。海外での豊富な経験を活かし次々に打ち出す作品と革新的な創造性に満ちたカンパニー活動は高い評価を得ており、近年ではサイトウ・キネン・フェスティバル松本での小澤征爾指揮によるオペラの演出振付を行う等、幅広く活動している。平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞ほか受賞歴多数。公式サイトwww.jokanamori.com

 

Sawako ISEKI  撮影:篠山紀信

井関佐和子●舞踊家。Noism副芸術監督。1978年高知県生まれ。3歳よりクラシックバレエを一の宮咲子に師事。16歳で渡欧。スイス・チューリッヒ国立バレエ学校を経て、ルードラ・ベジャール・ローザンヌにて、モーリス・ベジャール他に師事。’99年ネザーランド・ダンス・シアターⅡ(オランダ)に入団し、イリ・キリアン、オハッド・ナハリン、ポール・ライトフット等の作品を踊る。’01年クルベルグ・バレエ(スウェーデン)に移籍し、マッツ・エック、ヨハン・インガー等の作品を踊る。’04年4月Noism結成メンバーとなり、金森穣作品においては常に主要なパートを務め、現在日本を代表する舞踊家のひとりとして各方面から高い評価と注目を集めている。’08年よりバレエミストレス、’10年よりNoism副芸術監督も務める。公式ブログ / www.amekago.net/blog/iseki.php   Twitter / @sawakoiseki

 

公演情報  Noism1 『ZAZA ~ 祈りと欲望の間に』

 

演出振付:金森穣
衣裳:堂本教子
椅子・机:須長檀
出演:Noism1

第1部『A・N・D・A・N・T・E』
音楽:J.S. Bach『ヴァイオリン協奏曲 第1番 第2楽章 Andante』

第2部『囚われの女王』
音楽:J. Sibelius『囚われの女王』

第3部『ZAZA』
音楽:soundtrack by THE THE『MOONBUG』&『TONY』より抜粋

新潟公演
2013年5月24日(金)~5月26日(日)全3回公演
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
料金:一般5,000円 学生2,500円
※各公演後にアフタートーク有り
5月24日出演:堂本教子(衣裳デザイナー)
5月25日出演:須長檀(家具デザイナー)
5月26日出演:乗越たかお(作家・ヤサぐれ舞踊評論家)

 
神奈川公演
2013年5月31日(金)~6月2日(日)全3回公演
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場・ホール
料金:5,500円
※各公演後にアフタートーク有り
5月31日出演:宮前義之(ISSEY MIYAKEデザイナー)
6月1日出演:松永大司(映画監督)
6月2日出演:成田久(アーティスト&資生堂アートディレクター)

 
静岡公演
2013年7月20日(土)、7月21日(日)全2回公演
会場:静岡県 静岡芸術劇場
料金:一般大人4,000円 大学生・専門学校生2,000円 高校生以下1,000円 ほか
※各公演後にアフタートーク有り

 

Noism1  

井関佐和子(副芸術監督)、宮河愛一郎、藤井 泉、中川 賢、真下 恵、青木枝美、藤澤拓也、宮原由紀夫、亀井彩加、角田レオナルド仁、石原悠子(準メンバー)

りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館が舞踊部門芸術監督に金森穣を迎えたことにより、日本初の劇場専属舞踊団として2004年4月設立。新潟を拠点として、日本国内ツアーをはじめこれまでに海外7か国10都市でも公演を行っている。プロフェッショナルな身体性と鋭い問題意識に裏打ちされた作品・カンパニー活動に対する評価は高い。’09年にはモスクワ・チェーホフ演劇祭との共同制作、’11年にはサイトウ・キネン・フェスティバル松本制作のオペラ&バレエにカンパニーとして参加する等、活動の幅を広げ、今なお国内唯一の公共劇場専属舞踊団として、21世紀日本の劇場文化発展の一翼を担うべく、常にクリエイティブな活動を続けている。第8回朝日舞台芸術賞舞踊賞受賞。  http://www.noism.jp/

 


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