インタビュー & 特集

「笹本さんは妖精みたいだと思ってました!」 『ジキル&ハイド』笹本玲奈×真彩希帆 対談
2023年3月より、東京・東京国際フォーラム ホールCで上演されるミュージカル『ジキル&ハイド』。2代目のヘンリー・ジキル役、石丸幹二が今回の公演で卒業し、3代目の柿澤勇人に引き継ぐことが決定。今回は石丸と柿澤がWキャストで上演される。ジキルとハイドの間で翻弄される娼婦・ルーシー役は、前回より続投の笹本玲奈と、元 宝塚歌劇団雪組トップ娘役、真彩希帆が、Wキャストで務める。これが初共演となる笹本と真彩が、芝居への思いを熱く語り合った。(撮影/増田慶 文/臼井祥子)
INTERVIEW & SPECIAL 2023 2/9 UPDATE
●笹本さんは2012年版、2016年版にジキルの婚約者・エマ役、2018年版では初めてルーシー役で出演されました。
笹本 そうですね。前回はエマからルーシーになって、まったく違う作品に出ている感覚でした。そこから5年の間に、振り幅の広い、いろいろな役を演じてきて、年齢も重ねているので、また挑戦するのがすごく楽しみです。再演というより、新作に出るような感覚で挑めたらなと思っています。
●真彩さんは、『ジキル&ハイド』は初めてですね。
真彩 はい! 濱田(めぐみ)さんが出演されているときに舞台は拝見していたのですが、まさか自分が出ることになるとは思わなかったです。演出の山田和也さんとは、今メアリー・ロバート役で出演している『シスター・アクト』でご一緒しています(取材は2022年12月)。音楽監督の甲斐(正人)先生は、在団中の最後の公演の音楽を作曲してくださった方ということもあり、スタッフさんにご縁のある方が多いので、安心して臆せず作っていけたらなと思っています。
●笹本さんと真彩さん、お互いの印象はいかがですか?
笹本 ポスター撮影の時に初めてお会いしたんですよね。
真彩 印象、私から言っていいですか? 私は笹本さんを『マリー・アントワネット』で初めて拝見しました。それからもいろんな作品を拝見して、すごく妖精みたいな方だなと思っていました。頭身バランスが素晴らしくて、でもお人形さんというよりは妖精さん。役によってエネルギッシュだったり、イメージ通りの繊細で柔らかなものを出されたりしている姿を観てきたので、撮影の時に、「本物の笹本さんだ!」と思いました。
笹本 本物(笑)。
真彩 私は出来上がるのがめちゃくちゃ遅い人間なのですが、笹本さんからいろいろなものを吸収したいと思っています。最後印象じゃなくてすみません(笑)。
笹本 ありがとうございます。私は真彩さんをテレビで拝見しています。
真彩 『FNS歌謡祭』ですか?
笹本 はい。なんて声が美しくて歌が上手な方なんだろうと思ったのが、一番最初の印象です。共通の知り合いも多いのですが、みんなから「今度一緒にやるんでしょう? すごくいい子だから仲良くなると思うよ」と言われていて、お会いするのを楽しみにしていました。私も出来上がるのが遅いタイプで、特にこの作品はずっと悩みながら作っていました。時間があったら甲斐先生や歌唱指導のちあき(しん)さんに歌を見てもらったりして。すごく追求しちゃうんですよね。考えても正解が見つからなくて迷宮入りしちゃうことが多かったから、今回もそうなると思うので、一緒に模索しながらやっていけたらと思っています。
真彩 はい! よろしくお願いします。
笹本 本当に深いんですよ。この作品って、曲がいいとか、ジキルとハイドが豹変するところにフューチャーされがちなんですが、実は脚本(ほん)がすごくよく作られていて、読めば読むほど深いんです。やればやるほど、「こんなふうにも考えられるんだな」って発見があったり、「こういう部分は自分にもあるな」と重ねて考えてしまったり。どの役もすごく深く作られています。だからやればやるほど面白い分、答えを探すのに時間がかかってしまいます。
●エマからルーシーに役が変わって、見方が変わりましたか?
笹本 私はずっと、めぐさん(濱田めぐみ)のルーシー、私の中での大正解を間近で見てきたんです。だからいざ自分がやった時に、めぐさんがやったこととのギャップがありました。どうやっても追いつかないし、同じ役作りをしてもそれは自分のルーシーではないんですよ。そこからのスタートでしたから。作中でルーシーの過去が深く描かれているわけではないんです。どういう生まれ育ちで、どういう暮らしをしてきて、何歳で、文字が読めるのか読めないのか、というバックグラウンドを演じ手が自由に作れてしまうので、深めていこうとすると迷宮入りしてしまう(笑)。前回は前回の正解にたどり着いたかもしれないけど、今回はそれは忘れて、またゼロスタートです。
●真彩さんはルーシー役の役作りについて、どんなふうに考えていますか?
真彩 どんな感じになるのかもう全然わからないです! でも一つ言えるのは、今やっているメアリー・ロバートという役と180度違うということですよね(笑)。ルーシーの歌は今まであまり触れる機会のなかった音が多いので、どんな自分の声に出会えるか楽しみです。すごくマニアックな話になってしまいますが、私は声帯が短くて、ガンガン鳴らすと喉を壊しやすいので、そこは慎重に練習し組み立て、柔軟に声帯を使っていこうと考えています。お芝居に関しては、考えすぎタイプなので、しっかり緻密に考えていく部分と感覚で演じる部分のバランスが取れたらいいなと思います。考えると迷宮入りしてしまうのは、私もです! 今回どういうアプローチで役作りをするのがいいかお稽古が始まっていないのでまだわからないのですが、音楽の力をうまくお借りして、役を作っていきたいと思います。
●ルーシーは大人の女性で、色気のある役柄だと思います。セクシーな女性を演じることについては、いかがでしょう?
笹本 私はもともとセクシーではないからなあ(笑)。「どん底」という店のナンバーワンには変わりはないんですけど、セクシーだから人気とはかぎらないだろうし、おしゃべりが上手だから人気なのかもしれないですし。そう考えて、セクシーとか妖艶とかは、前回最終的に追求していきませんでした。今回はどうなるかまだわからないですけど。もしかしたら、ヘンリーが石丸さんなのか、カッキー(柿澤勇人)なのかで、変わってもいいのかもしれないですね。
真彩 私も普段、色気と関係ない人間なので、どうしようって感じですね(笑)。でも、それがいろんな役と向き合うことの面白さでもありますよね。宝塚にいるときも娼婦の役をやったことはあります。新人公演で『エリザベート』のマダム・ヴォルフを演じたりもしました。本当になぜか色気が必要とされる役が多くて、でも私自身はまったくそういう人間じゃないから、いつもどうやって演じてきたのか…。降りてこいー!って感じです(笑)。色気にもいろいろあると思うので、ルーシーについては、境遇によって生まれざるを得なかった色気の中に心の純真さみたいなものを表現できたらいいなと…。
●今回は、石丸さんから柿澤さんへ、バトンタッチの公演でもあります。役者さんにとって、役を受け継いでいくって、どんな気持ちですか?
笹本 役を受け継いで、卒業して、ということが多かったので、それが当たり前の感覚で、この役を渡したくないみたいな気持ちにはならないかな。むしろ、一つの役があまりにも長いと早く脱却したいという気持ちになります。その役のイメージが強くて、大人の役がやれなくなってしまうのが怖かったんですよ。
真彩 それまでに演じてきた皆様、時間を費やしてご自身の正解を作り上げて来られたと思うので、その大切なお役を受け継いでまたその次に…というように作品自体もまた歴史を積み重ねる。そして演じる人が違えば自然と違うものになるのも面白いですよね。
●ファンの方は、そういうキャストさんによる違いを楽しみにしている部分もありますよね。
笹本 Wキャストもそうですね。人が違うから、顔も違うし、背も違うし、声も違う。違って当たり前なんです。
真彩 そうですね! 作品や音楽、それぞれの役者さんの芝居を思い切り楽しんでいただけたらいいなと思います。でも私、Wキャストってもっとバチバチするものだと思ってたんですよ! 宝塚では、特に娘役はあまりWキャストってことがないので。
笹本 そうなんだ?
真彩 退団後『笑う男』で 熊谷彩春ちゃんと初めてWキャストで演じた時、何か質問して「そんなことわかりません(冷たい声で)」って言われたらどうしようと思って(笑)。
笹本 そんなイメージ?(笑)
真彩 でも全然そんなことはなく(笑)、めちゃくちゃいい人ばかりで、Wキャストっていいものだなと思いました。今回ももう(笹本に)助けてもらう未来しか見えないです(笑)。
笹本 私も本当にいろいろ教えてもらいたいです。一緒に頑張りましょう。
真彩 よろしくお願いします!
●最後に読者さんにメッセージをお願いします。
笹本 『ジキル&ハイド』は一つ一つの曲があまりにもビッグナンバーすぎて、コンサートみたいになってしまいそうなところがあるのですが、山田さんの手掛けている日本版は鹿賀丈史さん(初演から2007年までヘンリー・ジキル役)が演じていらっしゃる頃から、芝居と歌が切り離されていないんです。例えば「時が来た」というナンバーを歌うときも、歌う人の気持ちから音楽が生まれている。そこが日本版の素敵なところだと思います。楽曲の素晴らしさはもちろんのこと、脚本の素晴らしさ、一人一人のキャラクターが生の人間として生きている姿を、お見せできたらと思っています。
真彩 そう思います。ミュージカルの歌って、ただメロディが流れてくるのではなくて、何を思ってどうしてそのメロディになったのかが、表現されていることが魅力だと思うんです。なぜその場面に行くのか、なぜその始まりで、そこからどう最後まで行くのか、という道筋を、自分の中で丁寧に糸を巡らせて行けたらいいなと思っています。ぜひ楽しんでいただけたらうれしいです。
ミュージカル『ジキル&ハイド』は3月11日(土)~3月28日(火)東京・東京国際フォーラム ホールC、ほか、4月に愛知、山形、大阪にて上演されます。
詳細は下記公式サイトにてご確認ください。
https://horipro-stage.jp/stage/jekyllandhyde2023/
[公演情報]
ミュージカル『ジキル&ハイド』
2023年3月11日(土)~3月28日(火)
東京・東京国際フォーラム ホールC
2023年4月8日(土)、9日(日)
愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
2023年4月15日(土)、16日(日)
山形・やまぎん県民ホール
2023年4月20日(木)~23日(日)
大阪・梅田芸術劇場メインホール
音楽:フランク・ワイルドホーン
脚本・詞:レスリー・ブリカッス
演出:山田和也
上演台本・詞:髙平哲郎
出演:石丸幹二/柿澤勇人(Wキャスト)、笹本玲奈/真彩希帆(Wキャスト)、Dream Ami/桜井玲香、(Wキャスト)、石井一孝/上川一哉(Wキャスト)、畠中 洋、佐藤 誓、栗原英雄 ほか
お問い合わせ:ホリプロチケットセンター 03-3490-4949(東京)
キョードー東海 052-972-7466(愛知)
キョードー東北 022-217-7788(山形)
梅田芸術劇場 06-6377-3800(大阪)