インタビュー & 特集
「仕事だけじゃなく人間として成長していきたい」相葉裕樹 インタビュー
チャールズ・ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』を 原作にしたミュージカル『スクルージ ~クリスマス・キャロル~』が、12月7日に初日を迎える。ドケチな金貸しのスクルージが、親友の亡霊とクリスマスの精霊に過去と現在と未来へ誘われ、クリスマスの朝、新たなスタートを切る物語だ。日本では1994年に初演。以降95、97、99年、2013年に新演出版、2015、19年と公演を重ねている。稽古開始前の9月、今作、ハリー/若き日のスクルージ役で初参加となる相葉裕樹に、相葉自身の舞台の、過去と現在と未来を語ってもらった。(撮影/藤記美帆 文/臼井祥子)
INTERVIEW & SPECIAL 2022 12/3 UPDATE
●相葉さんは17歳の時にミュージカル『テニスの王子様』(2005年〜2008年)で初舞台を踏んでいらっしゃいます。今年、35歳になって、人生の半分以上を舞台とともに生きていますね。
そうなんですよ。芸能界を目指し、ストリートライブをやって、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストに出て、そのあと、「テニミュ」をきっかけに俳優の道に進むことになりました。あのころは、ここまで舞台に立ち続けようと思っていたわけではなかったです。当時の相葉少年が思い描いていた未来とは、今は全然違うところにいます。
『PIPPIN』(2007年)や『リトルショップ・オブ・ホラーズ』(2012年)などたくさんの舞台に立ってきて、どれも大変で、その都度苦しんできました。作品に向き合うたびに課題が見つかって、できないことにもがき苦しむ、というのが常でしたね。そんな中で、初めて出演したグランドミュージカルが『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』(2015年)でした。
●市村正親さんと初めてお仕事をご一緒した作品ですね。
はい。今回の『スクルージ』は「ラ・カージュ」以来の共演となります。「ラ・カージュ」に出演して、もっとミュージカルを頑張ろうと思えたんです。きっかけをもらえた作品でした。日生劇場に立たせていただいたので、次にどこを目指したらいいのかなあとも思って、「20代のうちに、帝国劇場に立ちたい」。
●その目標が『レ・ミゼラブル』(2017年〜2021年)でかなったのですね。
これはもう、運とタイミングです。当時いた事務所に、たまたまオーディションの話が来たんです。それでマネージャーさんが「うちに相葉がいます」と言ってくれた。僕は「どうする?」って聞かれて、「無理だと思いますけど受けてみます」と(笑)。本当に、受かる自信は全然なかったです。挑戦だけでもしてみますという感じでした。
オーディションの結果が出るまでにすごく時間がかかったんですよね。待っている間にほかの仕事をいくつもお断りして、これで決まらなかったら来年は仕事が何もないみたいな状態でした。「ダメならダメって早く言って」「ああ、どうなるんだろう、俺」と不安に思っていた時期に「アンジョルラス、決まったよ」と連絡が来て、リアルに泣きました。道が拓けたかもしれないって。
もし受からなかったとしても、それはそれで別の道があったかもしれません。でも、確実に一歩前進できたのが、『レ・ミゼラブル』でした。
●映画『レ・ミゼラブル』が2012年に公開され、ミュージカルも2013年に新演出版がスタート。長い歴史を持つ作品が新たなファンを獲得して、さらに人気が高まる中での出演でしたね。
本当にそうなんです。実際にその作品の舞台に立って、正直、怖かったです。数々の人が出演してきた歴史のある作品で、学生たちのリーダーであるアンジョルラス役。大事なシーンを引っ張っていかないといけない。帝国劇場に立つということにも責任を感じていたし、自分にできるのかなと。でもそれまで歌ってきた歌の中で、実は一番歌いやすかったんです。
●周囲の評価も変わったのでは?
気がついたら、ミュージカル俳優と見られるようになっていました。初めは「全然!」という感じでしたよ。僕の中でミュージカルは敷居が高かったし、自分にはまだ技量がない。でも、それは自分が決めることじゃない、周りが決めることだなって思いました。
それまではどこの現場に行っても、2.5次元の人、特撮の人って目で見られていたんですよ。今に比べて、それが決して褒め言葉じゃないというか…。だから「あの相葉が『レ・ミゼラブル』に?」って空気も感じていました。それが、気がつけば「『レ・ミゼラブル』に出ているアンジョルラス役の相葉さんですよね?」ってなっていた。年齢もあるのかもしれないけど、キャリアを積む中で周囲の見方が変わるんだなあって。面白いですよね。
●相葉さん自身の舞台へのスタンスは変わりましたか?
そこは変わっていないです。大変だし、苦しいことも多いけど、本番をやって、最終的には出てよかったなって思うんです。苦しいことは今もあります。常に人に評価されて、いい悪いと批判されるし、一生懸命やったことがお客様に届いていないと感じることもある。自分の表現の幅や引き出しの狭さに気づくこともあります。でもそれが俳優の仕事だよなって思うんですよ。だからスタンスは変わらないけど、考え方は変わったかも。
今は失敗を恐れなくなりました。舞台に立つって怖いけど、人間だし、ロボじゃないし、失敗もする。それでも挑戦させてもらえるのがプロの仕事ではあるなと。もちろん今も恥はかきたくないんです。でも恥をかくことに怯えなくなりました。鈍感になったのかなあ。失敗しても死ぬわけじゃないし、舞台に立ちたくても立てなかった人もいるのに、自分はやらせてもらっているんだから、大丈夫。仕事を舐めてるわけじゃなくて、真剣にやった上で、それでもうまくいかないことがあった時に自分の心をどう保つか。その保ち方を、昔より身につけています。
●2020年から、ミュージカル『新テニスの王子様』(2020年〜)で、久しぶりに古巣に戻られましたね。
新テニミュは楽しいです。岸(祐二)さんも出演されているんですが、岸さんのいいところがドーンと出ているんですよ。ジャベールの歌にはないロングトーンでハイトーンが出てる。「ここで本領発揮?」ってびっくりしました。きっと岸さんにそう言ったら「俺はもっとできるよ」って言うと思いますけど(笑)。
●今、いろんな舞台で活躍されている相葉さんですが、未来はどうなりますか?
未来って難しいですよね。幸せな未来でいたいと思うんです。そのためにはスクルージみたいに、過去をきちんと振り返らないといけないんですけど、本当に振り返るのは怖かったりする。自分の弱さや未熟さを見ないといけないから。それを認めたくなくて、突っぱねたり、人のせいにしたり、いいところしか見なかったりしてしまいがちなんですけど、悪い部分をちゃんと見て、自分をいましめて次に進まないといけない。
空ばっかり見ちゃいけないんですよ。足元の石ころをちゃんと片付けていかないといけない。過去を見て、今、何をするのが大事か、どう変わっていくべきか、どう過ごすか、向き合う時間をとって行こうと思っています。仕事のキャリアを積むだけじゃなくて、人間として成長していきたいなって最近思うようになりました。
『スクルージ』のテーマにも通じるのですが、お金を稼ぐことが正義だったり、キャリアを積むことが偉かったり、そういうことって多々あると思います。でもスクルージはそれでは幸せになれていなかったじゃないですか。だから僕も、そうならないために、ちゃんと足元の石ころを片付けていきたい。
直近の未来である『スクルージ』では、さっきもお話ししたとおり、市村正親さんと「ラ・カージュ」以来共演します。当時は自分のことでいっぱいいっぱいだったので、あらためてもう一度勉強したいです。現場での居方とか、いろんなことを。目指すべき背中だと思っています。あれから7年経って、自分がどれだけのことができるようになったのか見てもらいたい。もう一度市村さんとご一緒できる喜びを感じながら責任を持って務めたいと思っています。
[公演情報]
ミュージカル『スクルージ ~クリスマス・キャロル~』
2022年12月7日(水)~12月25日(日)
日生劇場
原作:チャールズ・ディケンズ
脚本・作曲・作詞:レスリー・ブリカッス
演出:井上尊晶
出演:市村正親 武田真治 相葉裕樹 実咲凜音 安崎 求 愛原実花 今 陽子 今井清隆 ほか
https://horipro-stage.jp/stage/scrooge2022/