インタビュー & 特集
福本莉子が、舞台『お勢、断行』の晶役に挑む!「舞台は私の原点。同年代のみなさんにもぜひ劇場に来てほしいな」
江戸川乱歩の作品を原案に、全く新たな物語で稀代の悪女を描く、舞台『お勢、断行』。2020年、新型コロナの影響で中止となった本作が、2年越しに待望の上演。今回新たにキャスティングされた、現在注目度ナンバーワンの若手女優・福本莉子さんに、今の意気込みを聞いた。(文/横澤由香、撮影/増田慶、ヘアメイク/冨永朋子(アルール)、スタイリスト/武久真理江 衣装協力/ overlace(ブラウス・スカート)、mamian(シューズ)、chabi jewelry (イヤカフ、リング))
INTERVIEW & SPECIAL 2022 5/10 UPDATE
──まずは台本を読んだときの印象を教えてください。
初めて読んだときは「難しいなぁ」というのが素直な感想です。そこから前回のゲネプロの映像を拝見したり、あと本読みに参加して…その時に初めて自分の中でこの物語が繋がった気がしました。みなさんが演じている姿を初めて観て、本当に衝撃を受けたんです! 2年前に稽古されていたことももちろんありますけど、テンポ感も良く、自分一人で台本を読んでいた時には思ってもいなかったような箇所でクスッと笑ってしまったり、もう「出来上がってる!」って思いました。「頑張ってついていかなくちゃ」って。
──一度出来上がっている作品への途中参加というのは、より緊張感が増しますよね。
はい。出来上がっている流れとテンポの中で自分の台詞の番を待っているのはやっぱりすごく緊張しましたし、常に「よし、ここだ。行くぞ」って感じで(笑)、ドキドキしながら参加して行きました。
──作・演出の倉持裕さんからのオーダーやアドバイスなどは?
稽古初日は本読み、翌日から立ち稽古だったんですが、そこで「なんでも聞いてね」っておしゃっていただいて、正直に「難しい作品ですね」とお伝えしました。そうしたら倉持さんも「確かに中でも晶(あきら)はすごく難しい役柄だから」と言ってくださって。例えばお勢に対してどれぐらいの“好き度”が高いのかとか、父に対しての愛の大きさとか、叔母に対してはどんな感情を抱いているのかとか…一人一人に対する気持ちのベクトルをしっかり決めないと彼女の怒りや憎しみの強さも変わってくるので、「役についてはまずそこから考えよう」というようにお話ししていきました。
──百戦錬磨の大人の駆け引きの中に放り込まれた大人未満の晶。そんないたいけな少女の心の中に潜む“熱”のようなモノが観ていてもなかなか掴めないところが晶の魅力でもある。とても気になる人物ですし、面白いし、だからこそ非常に存在感の難しい役どころでもありますね。
難しいです(笑)。日常のうわべだけの付き合い、本音と建前が入り乱れた物語世界に居て、晶もそういう思いで言ってる事と本当の気持ちが違うことも多いんですけど、でもその本音のことを考えすぎちゃうと台詞を言うのでも混乱しちゃうから、晶は台本に書いているそのままに正直に演じるのがいいんじゃない?ってアドバイスいただいた時も「ああ、そうだなぁ」って思いました。晶が実際にどう思っているのかという部分のヒントは倉持さんにもらいつつ、でも書かれているそのままを素直に演じられたらいいなぁって。特に父が入院してしまってからの晶は家の中でも誰が悪で誰が善なのかっていうところに一番乱されるじゃないですか! それぞれに言ってることも違うし、大好きなお勢の言ってることすら「本当なのかな?」って。そういう意味でもこの中で一番振り回されてるなぁって思いますし、この中でも一番純粋、なのかなぁ…うーん…いや、ただ純粋なだけじゃないっていうのも、晶の魅力ですね。みんなの中では一番薄味ですけど(笑)。
──ピュアな晶にすら「でも実は…」と人間の性(さが)が匂い立ってくるのは、やはり江戸川乱歩ワールドの引力。
そうですね。お稽古はこれから後半に入って行くところなので、ますますそういうところもちゃんと考えていかなくちゃなぁと思っています。
──これまでミュージカルや音楽劇に出演されてきた福本さんにとって、今作は初のストレートプレイになります。
ミュージカルは悲しみでも喜びでも感情が一番大きくなった時にワッと歌が来て、舞台が転換して…と、歌うことによってひとつの山やメリハリがあるじゃないですか。でもストレートプレイは会話、ずっと喋っているところを飽きさせずお客様に観てもらう技術がすごく必要なんだなって、稽古をしていて実感していますし、やはりそこがミュージカルの表現とストレートプレイの表現との大きな違いですね。“言葉で魅せる”“台詞で惹きつける”。特にこういう台詞量の多いお芝居の中、言葉だけで緩急をつけて行く大切さ。倉持さんの作品の持つ良いテンポの中で、そういう良いリズムの崩し方…何かを印象付ける台詞を発するポイントを自分で見つけながらお芝居をするために、いつも以上にアンテナを張ってます。登場人物も多いので、まさにどのタイミングでどこに晶の感情が動いた台詞を発するのかっていうのを探りながら、関係性を掴みながら、思い切り感覚を張り巡らせている感じです(笑)。
──カンパニーのみなさんの印象はいかがでしょう?
「なんでそんなに面白いの!?」っていうくらい、みなさんすごく面白くて。フフッ(笑)。私は池谷(のぶえ)さんとの掛け合いも多く、それもやっていてとっても楽しいんですよ。稽古場では前回の映像を見返しながらそのシーンをおさらいしていくんですけど、池谷さんのシーンでは特にみなさんから笑いが起きてますね。何回観ても笑ってしまう、真剣にやっているからこそ面白くなってしまうのって倉持さんの他の作品でも感じる魅力なんですけど、あのクスッとなってしまう笑いのセンスが私は好きで、兼ねてから「どうやって作ってるんだろう」ってずっと気になってたんですけど、役者さんの魅力はもちろん、倉持さんが「それ、ちょっと晶に向けて言ってみてください」と演出しただけでさらに断然面白くなる、より面白くなる。そのちょっとの変化の効果が、すごい! しかも今作は一度出来上がっているものをさらにより面白くしようって思いでみなさんが稽古に取り組んでいる。もう決まっているもの、完成しているモノを壊してさらに新しいところへと進んでいくことができるのってすごいなぁと思います。
──晶の憧れの女性、お勢を演じる倉科カナさんの美しき悪女ぶりも楽しみです。
倉科さんは長台詞も多いし、とても難しい台詞をこなしていらして、素晴らしいです。昔の言い回しという部分での難しさもある上で、私が…現代のたちが聞いてもそれが分かる、伝わってくる。「いかに台詞を聞かせるか」という姿勢であったりその姿はカッコいいなぁって思います。
──大正末期という時代設定も独特のムードを添えてくれて。
江戸川乱歩の世界観、ダークでクラシックで日本ならではの独特なムードは私も好きです。美術や衣裳、そして今回は斎藤ネコさんの音楽もすごくカッコいいですし、俳優さんもみなさん個性豊かでキャラクターもすでに確立されている。その中で私が演じる晶は純粋無垢である意味浮いている人間もあるんですけど、その中でもどうやったら存在感を出せるかとか、舞台でどうやったら魅力的に見えるのかをずっと研究しています。根本的なことですけど、声の使い方ももう一度見直して、稽古を積むのと同時に自分個人として練習していくべきことも大事にしていこうと思います。
私は初めての大きなお仕事が舞台で、その舞台があったから「ああ、お芝居って楽しいな」って思えた。だから舞台は私の原点。でもコロナ禍となりずっと舞台ができない時期が続いて…出演するはずの作品が中止になったりもしましたしね。だから今回はもう念願の舞台。やっと舞台に立てる!って気持ちでわくわくしています。何度同じシーンを演じても毎回違うお芝居が生まれるし、稽古中も本番中もずっとずっと作品が変化し続けていく。それがまたお芝居の可能性をさらに感じさせてくれるし、始めから終わりまで気持ちが途切れることなく一気に演じきれるのも好き。ずっとやっていきたいし、こうして実際にお芝居ができる機会をいただきみなさんにお届けできることは本当に貴重なことなんだなぁって、改めて思っています。私が今できる精一杯を役にぶつけたいです。
──こうしてお話を伺っていても舞台への愛情が溢れ出ているのを感じます。本番が待ち遠しいですね。
個人的には私と同年代の皆さんにもぜひ劇場に来て欲しいな。舞台って一見難しそうな印象もありますし、私自身、このお仕事を始めるまでは舞台は遠いモノという印象で観に行ったことがなかったんですけど、今、特に映像作品はスマートフォンなどで手軽に観られる時代になっています。そういう状況だからこそ生で俳優さんの熱が感じられる機会はやはり舞台だけですし、舞台にしかない魅力ってたくさんある。「なんか面白そうだな」っていう軽い気持ちで全然いいんです。まずは観てみようかなって足を運んでくださったら嬉しいし、実際に観劇して「難しかったけど楽しかった」って、新たな出会いになってもいいですよね。
福本莉子(ふくもと・りこ)
大阪市出身。2016年第8回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリ・集英社賞(セブンティーン賞)をW受賞。2018年映画『のみとり侍』にて女優デビュー。以降、映画『思い、思われ、ふり、ふられ』『しあわせのマスカット』『君が落とした青空』、ミュージカル『魔女の宅急便』、音楽劇『あらしの夜に』、ドラマ『昭和歌謡ミュージカル また逢う日まで』などで主演、ドラマ『夢中さ、きみに。』『消えた初恋』でヒロインを演じて、好評を博す。他、『華麗なる一族』(WOWOW)、『金魚妻』(Netflix)などに出演。本作の後にも5月27日公開の映画『20歳のソウル』、7月29日公開の映画『今夜、世界からこの恋が消えても』、10月には舞台『アルキメデスの大戦』など、今年も続々と出演作が決定している。今、いちばん注目度の高い若手女優の一人。
『お勢、断行』
2022年5月11日(水)~24日(火)東京・世田谷パブリックシアター
2022年5月28日(土)~29日(日)兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2022年6月4日(土)~5日(日)愛知・春日井市民会館
2022年6月12日(日)長野・まつもと市民芸術館 主ホール
2022年6月16日(木)福岡・福岡市民会館 大ホール
2022年6月19日(日)島根・島根県民会館 大ホール
原案/江戸川乱歩
作・演出/倉持裕
音楽/斎藤ネコ
出演/倉科カナ、福本莉子、江口のりこ、池谷のぶえ、堀井新太、粕谷吉洋、千葉雅子、大空ゆうひ、正名僕蔵、梶原善