インタビュー & 特集

大千穐楽のライブ配信も決定! 三谷幸喜作『大地(Social Distancing version)』観劇レポート

7月1日にPARCO劇場で開幕し、現在は大阪・サンケイホールブリーゼで上演されている三谷幸喜の新作舞台『大地(Social Distancing version)』。「三谷流俳優論」を掲げる本作は、笑える場面もあれば、やるせない思いに胸が締めつけられる瞬間がある。演劇を愛する人に、今の時代にこそ観てほしい舞台。長期の日程を無事に重ね、いよいよ終盤となった公演の模様を、ネタばれに留意しながらレポート。本公演のチケットはまだ若干発売中だが、8月23日の大千穐楽を含む限定ライブ配信が決定したので、劇場へ足を運べない人もぜひチェックして!(文/小野寺亜紀、舞台写真撮影/阿部章仁)

INTERVIEW & SPECIAL 2020 8/20 UPDATE

現在『大地(Social Distancing version)』を上演中のサンケイホールブリーゼは約900席の中劇場だが、さらに座席を左右1席空けての販売なので、観劇できる人数は限られている。劇場では入場時の手・足元消毒、検温のほか様々な新型コロナウイルス感染予防対策を実施。「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」のダウンロード、「大阪コロナ追跡システム」への登録などを入口で確認し、安心のもとでの観劇を徹底していた。開演前の場内は私語のない張り詰めた空気が漂っていたが、舞台が始まると自然に笑いが起き、普段との違いを気にすることなく観劇することができた。

1983年に劇団「東京サンシャインボーイズ」を結成した三谷幸喜。それから35年以上、三谷は、舞台はもちろん、ドラマも映画も「役者さんありき」で創作してきたと本作のプログラムで語っている。だからこそ、俳優に寄せるまなざしは温かく鋭い。その観察眼で描いた世界は、ファンタジーのようでリアル。驚くような展開を盛り込みつつ、最終的に俳優への大きな愛が詰まった作品となっていた。

物語の舞台は、とある時代の共産主義国家で、反政府主義のレッテルを貼られた俳優が収容された施設。バラックをモチーフにしたようなセットのなか、仕切られた8つのブロックにそれぞれの居住スペースがあり、ベッドや台が置かれている。らせん状の通路を行ったり来たりすることで、俳優同士の距離感を保つなど、“三密”を避けた演出「Social Distancing version」という点が、逆に新しく興味深い。

俳優たちは荒地を耕し、家畜の世話をするのが日課だが、つい自己主張すると食事抜きの憂き目にあう。ただ、彼らの指導員ホデク(栗原英雄)が演劇好きというところから、幸か不幸か通常の収容所ではあり得ない“芝居”が始まることに。

俳優といってもジャンルはさまざまで、個性が入り乱れているから収拾がつかない。世界的なパントマイムの名手だが高齢のプルーハ(浅野和之)、やけに騒がしい大道芸人のピンカス(藤井隆)。スーツ姿で一見クールだが、肉体美自慢の風変わりな映画スター、ブロツキー(山本耕史)。これらのキャラクターも三谷のあて書きだけあって、ちょっとした芝居でも観客の心をつかんで離さない。何度もドッという笑いが起きていた。

俳優たちの“座長”でありながら施設の上層部には抜け目がない、人間味溢れるバチェクは、三谷作品初出演の辻萬長。その太く明瞭な発声を場内に響かせ、「演劇人とは何たるか」を体現。2幕では抱腹絶倒の演技も見せる。辻との呼吸が抜群なのが、政府役人ドランスキー役の小澤雄太。俳優たちの壁となる役を毅然と演じているが、そのリアクションといい、どこか憎めないのがミソ。

ほかに、映画『記憶にございません!』で中井貴一演じる総理大臣の息子を好演した濱田龍臣は、演劇好きの学生だったミミンコ役。本作では語り手としても活躍、心地いいバランスの芝居で作品を導く。女形のツベルチェクを美しい佇まいで表現しながら(所作指導に篠井英介とあって、完成度に納得!)、ときに湧き上がる想いを熱く吐露した竜星涼。持ち味の異なる若手二人が、このドラマに奥行きを生み出していた。後半で登場する、ミミンコの恋人・ズデンガ(まりゑ)があっけらかんと語る言葉も深く、決して忘れられない。

さらに三谷の盟友・相島一之演じるツルハは、演出家目線の審美眼をもち、言葉一つひとつが作者の代弁のように響いてくる。正直者で損をするツルハだが、そんな役者も三谷は愛してやまないのだろう。

芝居の才能はあまり認められていないが、フットワークの軽さなどから仲間に頼りにされているのがチャペック(大泉洋)。この収容所に自分の価値を見出し、裏表なくふるまう彼に、観ているほうは親近感さえ覚えていくのだが――。

“演じる”ことで何かを見出そうとする役者たち。その影の部分も恐れず描くことで、光があぶり出される劇構造が鮮やか。俳優という立場に限ったことではなく、それぞれが自分の役割について振り返りたくなるような余白があり、静かな感動が最後は押し寄せる。

これまでの日常が失われ、当たり前に楽しめたエンタテインメントが奪われた今の世の中でなお一層、作品のメッセージが深く突き刺さる。11人の俳優が、それを芝居の力でありありと伝えてくるからこそ、観客は満席に劣らぬ万雷の拍手で応えていたように感じた。約2か月におよぶ公演で芝居がどう熟していったのか、開幕序盤や7月の配信で本作を体感した人も、ラストのライブ配信で見届けてほしい。

【公演情報】
PARCO 劇場オープニング・シリーズ
『大地』 (Social Distancing version)
作・演出:三谷幸喜
出演:大泉洋 山本耕史 竜星涼 栗原英雄 藤井隆 濱田龍臣 小澤雄太 まりゑ 相島一之 浅野和之 辻 萬長
※「辻」は“一点しんにょう”

【東京公演】2020年7月1日~8月8日 PARCO劇場
【大阪公演】2020年8月12日~8月23日 サンケイホールブリーゼ
全席指定12800円 チケット発売中
詳細は、https://kyodo-osaka.co.jp/search/detail/1012をご覧下さい。

[大阪公演ライブ配信]
大千穐楽を含む限定3公演を、Streaming+ by イープラス、PIA LIVE STREAMにてライブ配信。
8月22日(土)13時開演:視聴チケットは8月22日13時販売終了
8月22日(土)18時開演:視聴チケットは8月22日18時販売終了
8月23日(日)13時開演(大千穐楽):視聴チケットは8月23日13時販売終了
視聴チケット料金:3000円(税込)
購入URL:
ぴあ https://w.pia.jp/t/daichi2020/
e+  https://eplus.jp/mitani2020-st/


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