インタビュー & 特集
「お茶とお菓子と歌う落語で、お客様といい時間を共有したい」『劇的茶屋』永野拓也さん×高橋卓士さんインタビュー
ミュージカルを軸に、日本の古き良き伝統・落語、そして最先端の生配信プラットフォームを掛け合わせた、新しいエンターテインメント『劇的茶屋』(ほとり企画)。7月4日からロングラン生配信がスタートします。
第一弾『謳う芝浜』は落語の「芝浜」を題材に、高橋卓士さん、宮島朋宏さん、和田清香さん、飯野めぐみさん、加藤潤一さん、川口竜也さん、横山敬さん、俵和也さん、遠山さやかさんらミュージカル界で活躍する実力派キャストが日替わりでリモート出演。
『劇的茶屋』を立ち上げた永野拓也さんは、『わたるのいじらしい婚活』など新鮮な感覚でオリジナルミュージカルを生み出す気鋭の演出家。『サムシング・ロッテン!』で観客を物語の世界に誘うミンストレル役を演じた高橋卓士さんが、腕はいいものの酒好きでうだつがあがらない魚屋の熊を演じます。
永野さん、高橋さんにお話を伺いました。
(取材・文/大原 薫)
INTERVIEW & SPECIAL 2020 7/2 UPDATE
――どうして『劇的茶屋』の企画を立ち上げたのでしょうか?
永野 実は去年くらいから、古民家や庵などで役者とお客様が一緒に卓を囲みながら上演するロングラン公演を計画していました。それが新型コロナウイルス感染症対策でできなくなって。「今やる価値があるとしたら、何があるんだろう」と卓ちゃん(高橋)とも話し合いました。演劇の延長線上でオンラインバージョンの演劇をするということだけでなく、お茶とお菓子と歌う落語で、お客様に僕らと一緒にいい時間を過ごす感覚を持っていただけないかなということで『劇的茶屋』を企画したんです。
――オンラインでミュージカルを上演するということで、作り手としては今までの劇場版の公演とはどういうところが違いましたか。
永野 一つはテクノロジー周り。今まで舞台で関わってきたスタッフに助けてもらい、高原紳輔くんがテクノロジー関係の勉強をしてくれて、配信を形にする可能性が見えた。
もう一つは芝居。僕らは今まで生にこだわってやってきました。相手の些細な変化に注目して、一緒の空気を共有してきたので、それが映像を通すとまったく違う。卓ちゃんも苦労したと思うし。
高橋 大変でした。
永野 (笑)だよね。
高橋 相手がどんなボールを投げてきたとしても、自分が用意したものをすぐに提示できるタイプの俳優さんもいるけれど、僕はそれができない。その場にあるものを感じながら演じたいと思って、今までずっとやってきたんです。リモートではそうはいかなくて。
永野 最初は、共通のやり方を見つけるところから始めたからね。
高橋 でも、今となってはオンラインでも空気のようなものを見つけられるようになってきた。
永野 稽古の最初から見てきて、人間って状況に応じてこんなに変われるんだということに本当に感動しましたよ。
――ミュージカルだから、リモート出演で歌う難しさもあると思うんです。
高橋 芝居の中で歌うこと自体は慣れているけれど、今回はそれにプラスして役者が音を出したり、リバーブをかけたり、背景を変えたり、色々自分で操作しないといけないんですよね。劇場公演でも演じながら「サス(照明)の位置はここかな」と考えたりしていますが、今回はそれが5チャンネルくらい増えている。
永野 芝居だけでなく音楽、ダンス、立ち位置とか決まりごとが多いミュージカルを演じてきた方々だから、今回できているのかなと思いますね。
高橋 音楽の話で言うと、今回はめちゃめちゃカッコいい曲を書いていただいてるんですよ。
永野 そうそう。ミュージカルの作曲をしている方ってあまり多くないんです。だからもっと多くの方に、様々なジャンルの方に挑戦してみてほしいと思っていたのが、今回叶った。『謳う芝浜』では伝統芸能ポップアーティストの川嶋志乃舞さんに作曲していただいたんです。かなりのチャレンジ・オファーでしたが(笑)、いい出会いになりましたね。
――『劇的茶屋』で落語を題材にした理由は?
永野 海外でシェイクスピアをアレンジしてリバイバル上演し、やがて原典のシェイクスピアに戻るように、日本の芸能でも伝統や文化を繋げていくことができたらと思っていたというのが一つ。
もう一つは、安楽庵というお坊さん。感染症が流行った時代に、安楽さんが「大衆がそれでも前を向いて生きられるように」と仏の教えを面白おかしく語ったのが落語の始まりだという説があるんです。コロナという原因がわかっている今の時代と違って、当時は原因もわからずどんどん人が死んでいくわけだから、すごい恐怖だったと思う。そんな中で、大衆の生活に落とし込んで、正面から向かい合った安楽さんが僕は大好きなんですよ。
コロナで劇場が使えなくなって、仕事をみんな失って、演劇に対する国民の厳しい言葉を聞いて、悲しくて……。今まで人生を賭けてやってきたものですからね。でも、僕らが社会に対してどう折り合いをつけてきたのか、見直す良い機会になりました。
僕らは安楽さんに見習うことが多いんじゃないかと思って。300年続いた落語という巨人の肩に乗せていただこうと思ったんです。
――落語のストーリーを演じるのはいかがですか。
高橋 僕は江戸弁が好きなんです。言葉のテンポ感やせっかちな感じに惹かれて、いつか演じたいなと思っていました。熊は「ザ・江戸っ子」というか、頭が悪くて学がなくて、でも情に厚くて、嘘をついて反省して……みたいな、感情がすごい勢いで振り切れているんですよ。わかりやすく飛んでいるキャラクターにどうリアリティを吹き込んでいくか。しかも、普通の稽古場や劇場でなくオンラインで演じるというのは、実際やってみたらめちゃくちゃ難しい!
永野 あははは。
――お客様が見えない、共演者が隣にいない状態で演じるのは、確かに難しそうです。
高橋 最初にオンライン稽古をしたとき、スタッフのマイクをミュートにしていなかったんです。演じていてみんなの笑い声が聞こえてきたら、一気にドライブがかかって。
永野 職業柄、そうだよね(笑)。
高橋 「ここが面白いんだ、じゃあ、ここをもっと膨らませようか」みたいな。次にマイクがミュートになったときの寂しさって言ったらなかった(笑)。でも、逆にお客様の反応で芝居がぶれたりやり過ぎになることもあると思うので、いいところも悪いところもありますね。
――なるほど。永野さんが高橋さんを『謳う芝浜』の熊に起用した理由をお聞かせください。
永野 僕はミュージカルに作るにあたって、リアリティを乗せることをテーマにしています。もちろん歌や踊りのスキルはとても大事ですが、そこにドラマが乗ってこそミュージカルだと思っているので。卓ちゃんは芝居を歌にちゃんと乗せてくれる人。『芝浜』の熊は業が深い人間なんですよ。お金を拾って「もう働かねえ」と言い出す熊が傲慢に見えたり、筋違いな亭主関白に見えたら、現代のお客様は好きになれないと思うんですよね。でも、卓ちゃんには奔放な空気感と愛嬌があって、何か悪いことをしたとしても許せるような可愛げがある熊を演じてくれるんじゃないかと思って、お願いしたんです。
高橋 どうもありがとう。初めて聞いた。
永野 こういうことはあんまり本人には言わないからね。
――では、高橋さんから見て永野さんという演出家は。
高橋 演出家って、役者にいろんなボールを投げて、言葉巧みに人を操っていくところがあると思うんですが、拓也は言葉に嘘を感じない。上っ面じゃなくて、お互いに腹を見せあって進めていきたいと思える演出家ですね。
――先ほどオンラインの稽古を見せていただきました。落語は元々噺家がいろんな人格を一人で語るという、ある種バーチャルなものだから、オンラインの画面で左右に熊とおかみさんが分かれて並んでいても、違和感がない。オンラインで上演するには向いている題材なのではないかと思いました。
永野 そうかもしれませんね。スタッフの一人から、落語が題材だから、(キャストの演じている映像が別々の)小部屋に分かれていても気にならないと言われました。
――劇場公演ではお客様と空間を共有することを心がけていたと思いますが、今回のオンライン公演ではいかがでしょうか。
永野 それはまさに試行錯誤している部分ですね。オンラインの演劇を見て、稽古をして、今までの延長線で考える生の一体感には到底たどり着かないと思った。
だからこそ、それならそれで新しいものを目指すことにしました。演劇には「第四の壁」という舞台上と客席を隔てる(想像上の、見えない)壁があると言われていますが、その壁を行き来できるのが話芸だと思うんです。(物語の登場人物のほかに)語りという、お客様とのパイプ役を置くことで、お客様が芝居の世界に入っていきやすくなるんじゃないかと思っていますね。そして、『劇的茶屋』ではチケットにお茶とお菓子がついています。自分たちで実際に同じお菓子を食べ、お茶を飲みながら見てみたら、感覚的にも全然違ったんですよ。お客様がお菓子とお茶を触媒として、五感を解放して、同じものを共有していると感じていただけたら嬉しいです。
――コロナウイルス収束後も含めて、この先はどんなビジョンをお持ちですか。
永野 この企画は半年を目標に掲げて、最終的には実際にお客様を客席に入れて配信するところまで持っていきたいと思っています。
『劇的茶屋』は僕らがやりたいことのファーストステップ。日本の文化や風土を大事にしながらミュージカルを作れないかなと、18歳の頃からずっと思っているんです。そこに至るまでにはクリエイターもチームも、スキルがある俳優さんもいないといけない。そういう方たちとたくさん出会いたいし、輸入が多いミュージカルですが、本当に良い作品をつくって、日本から輸出していけたらと思っています。
――期待しています! 最後に『劇的茶屋』第一回公演『謳う芝浜』、読者の皆様へのお誘いの言葉をお願いします。
高橋 一緒にはいられないけれど、見終わった後には一緒にいたような感覚、舞台とは違うけれど何かを共有できたという感覚になっていただけると僕は信じています。何回か収録をしたんですが、僕たちも画面と音を通して、確実に何か共有できたんです。その感覚をお客様も味わっていただけるんじゃないかと思ってワクワクしています。ぜひ、軽い気持ちで楽しんでいってください。
永野 僕にとって一番楽しい時間は、気心知れた人達と一緒の卓を囲んで美味しいものを食べる時なんです。今はリアルでは厳しいけれど、オンラインを通して気の合う人達とお菓子とお茶で卓を囲んで、「ああ、居心地のいい時間だったな、じゃあ、明日の仕事頑張るか」と思ってもらうことが、本当の意味でのレクリエーション=RE(再び)+CREATION(創る)に繋がると思う。僕らは回復する時間を作るために必死でやりますので、ぜひ気楽に観に来てください。
[公演情報]
『劇的茶屋』
作詞・脚本・演出:永野拓也
音楽監督・歌唱指導:高原紳輔
プロデュース・制作:三森千愛
プロデュース・広報:福田響志
出演:(五十音順)飯野めぐみ、加藤潤一、川口竜也、高橋卓士、俵和也、遠山さやか、宮島朋宏、横山敬、和田清香ほか
企画・製作:ほとり企画
シリーズ一席目
『劇的茶屋 謳う芝浜』
作曲:川島志乃舞
編曲:野呂尚輝
7月4日13時・5日14時 出演:高橋卓士・和田清香・宮島朋宏
7月7日20時・8日20時 出演:加藤潤一・飯野めぐみ・宮島朋宏
7月11日20時・12日14時・20時 出演:川口竜也・飯野めぐみ・宮島朋宏
7月14日20時・15日20時 出演:宮島朋宏・和田清香・横山敬
7月18日20時・19日14時・20時 出演:川口竜也・和田清香・俵和也
7月22日20時・23日20時 出演:俵和也・遠山さやか・横山敬
7月25日20時・26日20時 出演:川口竜也・遠山さやか・俵和也
7月29日20時・30日20時 出演:俵和也・遠山さやか・横山敬
ほとり企画『劇的茶屋』公式サイト・チケット購入 : https://www.gekitekichaya.com/