インタビュー & 特集
劇作家サイモン・スティーヴンスが語る森田剛主演『FORTUNE』
2020年1月13日に開幕し現在公演中の、森田剛主演の注目作、PARCO PRODUCE 2020『FORTUNE』。主人公が魂と引き換えに欲望をかなえるという、現代のファウストの物語だ。日英の共同制作となる本作の生みの親であり英国を代表する劇作家のサイモン・スティーヴンスに話を伺った。(文/高橋彩子、写真/洲脇理恵)
INTERVIEW & SPECIAL 2020 1/21 UPDATE
ーー『FORTUNE』は、古今東西に流布する様々なファウストの物語からインスパイアされたそうですね。
ファウスト神話に始まり、マーロウの『フォースタス博士』やゲーテの『ファウスト』、あるいはデヴィッド・リンチ監督『ロスト・ハイウェイ』やヴィム・ヴェンダース監督『ベルリン天使の詩』、アラン・パーカー監督『エンジェル・ハート』などをもとに書いた、“メタ・ファウスト”なオリジナル作品です。
ーーこの題材と最初に出会ったのは、いつのことですか?
10代の頃、クリストファー・マーロウの戯曲『フォースタス博士』を読んだのが最初かな。僕は俗っぽい人間だけれど、魂を売る見返りに欲しいものをもらうという行為や地獄落ちは、とても恐ろしいと思ったし、そこから、メフィストフェレスやサタン、永遠に罪を背負うということ、などについて考えるようになりました。
ーー実際、魂の救済があるゲーテの『ファウスト』よりも、本作はもう少し恐ろしいところに踏み込んでいるように感じます。
そこはマーロウに近いでしょうね。マーロウの『フォースタス博士』がグローブ座で初演された時、観客は劇場に悪魔が入り込んだと思い、悲鳴を上げて劇場から走り出たそうです。僕はそれと同じ効果を東京にももたらしたい。皆さんもそういうものが好きでしょう? 『シャイニング』や『エクソシスト』、それから日本には『リング』のようなホラーの傑作もあるわけだし。人間は、恐怖の領域に入り込むのが好きな動物です。恐怖を抱かせるようなものの存在を認めることで、人は成長するとも思います。
ーーこの作品を、メルボルンのホテルで6日間で書き上げたとか。悪魔に魅入られるような経験はされましたか?
書いたのは6日ですが、その前の半年間、作品のために様々なリサーチをしました。中でも、司祭にインタビューして神や悪魔や天国や地獄とは何かについて聞いたのは、面白かったし役に立ちましたね。こうしたリサーチから、物語、役柄、世界観、そしてそれらを伝えるための構造をみつけていたので、メルボルンで書き始めるまでにはどのシーンで何が起きるか、もう自分にはわかっていました。
ですからあの6日間は、言ってみれば明確で統制が取れた実利的な時間だったのですが、同時にクレイジーな時間でもありました。僕は普段、子供や妻がいるからこそ、人間らしくいられるタイプで、彼らの存在によってバランスを保っているけれど、「自分の制服はどこ?」「夕飯は?」といった具合に重要で現実的な対応を求められる日常においては、自分の心の闇の中まで入り込めない。ところがあの6日間は、家族から離れ、地球の反対側で、想像力豊かな暗い物語に浸って執筆することができたのです。惨めな6日間でもありましたよ(笑)。
ーーそこから無事に帰還されてよかったです(笑)。
子供達にとってもね。
ーーそして、奥様にとっても!
あはは(笑)。妻は、僕の戯曲を読むたびに冗談を言うんです、「枕の下にナイフを隠して寝るしかないわ」って。誰かにも言われたことがあるんだけど、僕はコメディアンと正反対。日本ではどうかわからないけれど、ロンドンのスタンダップ・コメディアンは、仕事では人を笑わせ、実人生においては暗かったり惨めな思いをしている人が多い。一方、僕の場合、作品には暗くて怖いところがあるけれど、僕自身は明るくて馬鹿なことばかり言っています(笑)。
ーー今回、稽古に何日間も立ち会われましたね。どのような立ち位置で稽古場にいらしたのでしょう?
稽古場での劇作家は、演出家のために働くことが大切です。必要なものは何か、それをどう提供するかは、演出家によって異なりますから、朝食を一緒にしながら話をすることもあれば、飲み屋で会話をすることも、メールでやりとりをすることも、役者と共に稽古に参加することもある。今回のショーン(・ホームズ)とは旧知の間柄ですが、僕が役者と一緒に話をすることを望む演出家なんです。
僕は、自分が戯曲のオーソリティではないと考えています。自分にすら、何故こんなものを書いたのかわからないこともある。だから、知識を分け与えるのではなく、俳優と協力して、一緒に分かっていくのです。俳優が発見しやすいようにするのが僕の仕事ですね。
ーーそうした作業の中での、森田剛さんの印象はいかがでしたか?
彼の知性や才能、恐れ知らずなところ、チャーミングなところなどは、僕の戯曲の、それもダークな役柄を演じるにはうってつけでしょう。この作品には、お客さんの手をしっかり握りしめて「おいで」と誘い込む魅力が必要なんです。引き込んでおいて、「鏡を見てご覧!」と見せる(笑)。ショーンや共演者やスタッフの協力を得て、彼が素晴らしい何かを具現化できると信じています。
PARCO PRODUCE 2020『FORTUNE』
2020年1月13日~2月2日 東京芸術劇場プレイハウス 他 地方公演あり
作/サイモン・スティーヴンス
翻訳/広田敦郎
演出/ショーン・ホームズ
美術・衣裳/ポール・ウィルス
出演/森田剛、吉岡里帆、田畑智子、根岸季衣、鶴見辰吾 他