インタビュー & 特集

佳代が経験している痛みを、自分もしっかり感じ取っていきたいーー『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』咲妃みゆさんインタビュー

なんて感受性が豊かな人なのかーー。1月7日から開幕するミュージカル『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』でヒロイン・折口佳代を演じる咲妃みゆさんの話を聞いていると、つい、うん、うん、と頷いてしまう。語る言葉の一つ一つが、実感をもって、嘘のない気持ちから生まれている。だからこの方のお芝居は、歌は、透明感を失わずに観客に届くのかと納得した取材だった。お稽古中の心境のほか、近年の歌への意識の変化についても聞いた。(取材・文/千葉玲子、撮影/藤田亜弓)

INTERVIEW & SPECIAL 2019 12/26 UPDATE

命には終わりがない
果てしないつながりの中で、ずっと受け継がれていく

――『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』は、1988年に音楽座の旗揚げ作品として初演され、その後何度も再演されています。これを観てミュージカルを好きになった、ミュージカル俳優を志したという声も多く、長年愛されている名作ですが、咲妃さんは過去に音楽座ミュージカルをご覧になったことは?

音楽座さんの存在も、『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』という作品のタイトルも存じ上げていたのですが、実際に拝見したことはなく、今回が“はじめまして”に等しいです。

――お稽古も半ばぐらいまで進んでいるそうですが、どんなところに作品の魅力を感じていますか?

本当にたくさんの魅力が詰まった作品なのですが、やはり、夢を抱くことの大切さ、大事な人を思い続ける心の清らかさを日々感じています。それと、言葉にするのは難しいのですが…命って終わりがない…果てしないつながりの中で、ずっと受け継がれていくものなんだよ、ということを、この作品が教えてくれているというか。

素晴らしい楽曲を歌わせていただいているときだったり、お芝居で誰かのセリフを聞いた瞬間だったり、心にまっすぐ響いてくるものがあって。私の魂も、誰かから受け継ぎ、誰かに受け渡していくのかなあ…といった感覚を覚えます。

この物語をご覧になったら、きっと、「一人じゃないよ」って…みんな、大きなつながりの中で関わり合って生きているんだと感じていただけるのではないかと思います。

――作曲家志望の青年・三浦悠介(井上芳雄)と、スリで生計を立てる孤児の少女・折口佳代が遊園地の迷路で偶然出会い、時空を超えた二人のラブストーリーが物語の軸になっていきます。咲妃さんはヒロイン・佳代を演じますが、どんな人物でしょうか?

“まっっっっっすぐ!”という感じの、本当にまっすぐな女性です。生命力にあふれていて、今、佳代さんについていくのに必死です(笑)。佳代にはつらい展開も待ち受けていて、決して明るい人生ではないのですが…前向きに突き進んでいく姿に、本名の自分が突き動かされているのを感じます。今、この世の中にあふれているものは「決して当たり前じゃないんだ」と思いながら生きている感じです。

――お稽古場で、それほど濃い時間を過ごされているんですね。

はい。本当にかけがえのない時間ですね。その影響が私生活にも表れ始めていて。

――どんなふうに?

今まで以上に、自分のことばかりじゃなく、身の回りで起こることに意識がいくようになったんです。街中ですれ違う方たちや、今まで何気なく聴いていた音にも意識がいって。

私自身は死の淵に立たされた経験があるわけではないのですが、佳代を演じるうえで、命って有限だし、いつまでも輝き続けられる保証はどこにもない、と感じるんです。だから、「この世界がいつまでも平和であったらいいのに」とか…おこがましいんですけれども、お稽古場と家との往復でぼんやり考えたりしています。

――佳代は大阪出身です。関西弁のお役はこれまでにもありましたか?

京都弁に挑戦したことがありますが、大阪弁は初めてです。ちょっとしたアクセントのズレも違和感につながってしまうので、自分の中でしっかりと落とし込むのが難しいですね。

――最初は、関西弁のセリフの録音を繰り返し聴いて覚える、という感じだったのですか?

はい。そこから始めて、だいたいの音色を覚えた段階で立ち稽古がスタートして。でも実際に会話してみると、練習してきたようにはいかなかったですね。自分が日頃話す言葉とミックスされてしまったり、うっかり変な関西弁を作っちゃったりして(笑)。演出の小林 香さんも関西弁をお話しされますし、キャストさんにも関西出身の方がいらっしゃるので、ご指摘いただきながら学んでいます。

その場面の稽古が終わっても
涙が止まらないシーンもある

――演出の小林 香さんからは、どんなリクエストがありましたか?

日々たくさんのアドバイスをいただいていて、本当に感謝するばかりです。香さんとは、以前コンサートでご一緒して以来なのですが、お稽古に入る前に、「きっと大変なお役だけれど、一緒に乗り越えていきましょう」と言葉をかけていただいて。

実際にスタートしてみると、想像を超える産みの苦しみ…あえて“苦しみ”という表現をしますが、それは役者として喜びでもあり、ありがたいことなんですけれど…その苦しい日々に香さんが寄り添ってくださり、いつも的確な道標(みちしるべ)をくださいます。

今回とくに大切にしたいとお話ししているのは、佳代は、今目の前に広がっているものだけじゃなく、その向う側の“大いなるもの”と向き合いながら生きている、ということなんです。

――一度終わったはずの命を、とある形で蘇生させて生きているから、ということでしょうか…?

そうです。ただ生きているのとは違った意識で毎日を過ごしているということを、きちんと念頭に置いて作り上げていっています。

――そんな佳代が悠介に出会って、人生が変わっていくわけですね。

かけがえのない存在と出会えたことで守るべきものができて、その守るべきもののために、彼女は魂を注ぎ込む。その覚悟が彼女にはあるんです。

佳代がたどる人生には、幸せな出来事ももちろんありますが、想像を絶するつらい経験もあって…。心がえぐられるようなシーンでは、その場面のお稽古が終わっても涙が止まらない日もあります。

これも言葉にするのが難しいのですが…今の時代、さまざまな家庭環境があるなかで、つらい思いを抱えている方々もいらっしゃると思います。そういった、悲しくも世の中にあふれているつらい事件を彷彿とさせるシーンもありますし、それをあえてオブラートに包まずに舞台上で表現しているので、そういった場面では心も体も痛いです。

でも、「これはお芝居」と割り切って演じるのではなく、物語の中で生きている人物として、その人が経験している痛みを自分もちゃんと感じ取っていきたいんです。だから…いつまで身がもつがわかりません(笑)。

――お稽古が終わったら、いよいよ本番ですからね。

そう、本番がすべてですからね。お稽古で燃え尽きてはいけないので。ですので、今、自分史上いちばんの健康志向で生きています! お稽古にすべてを注ぎ込みすぎて、お肌からも水分がどんどん抜けてしまって…(笑)。

――そんなふうには見えないですよ(笑)。

でも自分としては、お稽古が始まってからこんなに笑っていられるとは思っていなかったです。

――そうだったんですか。

もっと自分自身を追い込んで、見えない出口を探しながらお稽古していくんだろうなと思っていたんです。私はどちらかというとその傾向に陥りやすいタイプなので。

――今までも?

はい。先日も香さんから、「ほら、ゆうみちゃんはすぐに下を向く~」と言われたのですが(笑)、そうやって悩んで貝になりそうになった私を、「こっちだよ」と引き上げてくださるのが、香さんや、井上芳雄さんや、土居裕子さんや、共演者のみなさまなんです。本当に感謝しています。

土居裕子さんと話していると
佳代さんと向かい合っているような気持ちになる

――音楽座で初代・佳代を演じていた土居裕子さんとのエピソードがありましたら教えてください。

裕子さんとお話しするだけで涙がこみあげてくるという、不思議な現象が起こるくらい、本当に大きな愛で包んでくださる方です。大丈夫、大丈夫って、日々もがく私を見守ってくださいます。

――土居さんからはどんなアドバイスを?

佳代さんの根底に流れている信念についてですね。なぜこの行動を取るのかといったロジカルな話ではなく、この瞬間の佳代はどういう気持ちで生きているんだろう…?といったことをお聞きして、裕子さんも、つい最近まで演じていらっしゃったかのように、とても新鮮で的確なお返事をくださるんです。そのとき、裕子さんの目の奥の色が変わるんです。「あ、裕子さんの中に佳代さんが見える…!」って。だから、裕子さんと言葉を交わしている=佳代さんと話をしているような気持ちになります。

――悠介を演じる井上芳雄さんについてはいかがでしょう?

芳雄さんは、もう、すべてが素晴らしくて。早くみなさまに“芳雄さんの悠介さん”と出会っていただきたいです。中でも素晴らしいのは、歌が“歌”として聴こえてこないことです…“言葉”として届いてくるんです。もちろんメロディに寄り添って歌っていらっしゃるんですが、さらにその上をいっているというか。

(劇中で悠介が佳代のことを歌う)「あなたには、わからないでしょう♪」というフレーズなども、「歌が始まった」と思わないんです。ただ純粋に、今あふれている思いがそのまま出て、その言葉にメロディがふっと寄り添っているような。言葉にならない説得力があって、歌を聴いているというよりお芝居なんですね。(ここまで力説して、ひと呼吸置いてから)この感じが、(文章を読んで)みなさまに伝わるといいんですけれども…(笑)。

“楽譜が見えない歌い方”をすると
お客さまに言葉が届きやすい

――客席から観ていると、咲妃さんご自身も、歌と感情をリンクさせるのがとても上手な方だと以前から思っていました。

(はにかみながら俯いて)…ありがとうございます。

――すみません、褒められるのはあまり…? 撮影のときもカメラマンから「かわいい」とお伝えしたら照れていらっしゃって。

いえ、その…褒めていただけて、ちゃっかりその気になってしまう自分が嫌なんです(笑)。

――歌に気持ちを乗せるために、咲妃さんが大事にされているのはどんなことでしょうか?

今回、歌唱指導の林 アキラさんから、一つ一つの単語ではなく、フレーズを大事にすると気持ちが届きやすいと教えていただきました。それこそ、井上芳雄さんはそういった歌い方が本当に素晴らしいのですが、日本語の流れを大事にして、“楽譜が見えない歌い方”をすると、お客さまに言葉が届きやすいと。

何公演も繰り返し演じさせていただく上で、音符を正確にとか、ピッチやブレスなど注意すべき点に意識がいってしまうんですが、もっと気持ちの延長で自然と歌えるように、そこをいつも目指していますね。

それができたときは、歌う側もすごく心地よかったりするんです。私自身、まだその経験は少ないんですけれども。

――そういう感覚を知ったのは、何かきっかけがあったのですか?

はっきりとはわからないのですが、ソロでオーケストラコンサート(『First Bloom』)をさせていただいた頃から、「歌って楽しい」、「歌うってなんて幸せなことなんだろう」と思える瞬間が増えたような気がします。これまで出演させていただいたミュージカルの中でも、お芝居の延長で歌に心が伴ったとき、新たな感覚を得られたりしました。

それはもちろん、本格的なボイストレーニングを受けたり、基礎トレーニングがあってこそだと思いますが。「歌うって自然なことなんだ」、「実はそんなに力まずにできることなんだ」と、ようやく気づき始めました。

――義務感ではなく、自然体な感覚でしょうか。

少し、自分自身に余裕が出てきたのかもしれません。「せねばならぬ」が「やりたい」に変わっていったというか…。歌だけでなく、さまざまな物事への取り組み方が変化してきています。舞台やコンサート以外のお仕事もそうですし、プライベートも含めて、より自発的に向き合うことができているなと感じます。

咲妃みゆ(さきひ・みゆ)
3月16日生まれ、宮崎県出身。2010年に宝塚歌劇団に入団。月組に配属。12年『ロミオとジュリエット』で新人公演初主演。14年、雪組に組み替え後、雪組トップ娘役に就任。『ルパン三世』マリー・アントワネット役、『星逢一夜』泉役、『ローマの休日』アン王女役など、さまざまな作品でヒロインを務める。17年『幕末太陽傳』のおそめ役を最後に、宝塚歌劇団を退団。退団後の主な出演作に、ミュージカル『ゴースト』、『ラブ・ネバー・ダイ』、ドラマ『まだ結婚できない男』など。18年に初のソロ・オーケストラ・コンサートのLIVE音源を収録した『First Bloom』をリリース。20年5月よりミュージカル『ニュージーズ』にキャサリン役で出演予定。

【公演情報】
ミュージカル『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』


原作:筒井広志「アルファ・ケンタウリからの客」
演出:小林 香
出演:井上芳雄、咲妃みゆ/畠中 洋、吉野圭吾、濱田めぐみ、上原理生、仙名彩世、内藤大希、北川理恵、大月さゆ、川口大地、横田剛基、松田未莉亜、早川一矢、松野乃知、相川 忍、井上一馬、藤咲みどり、照井裕隆、福井晶一/土居裕子
※東京公演では吉野圭吾と福井晶一がWキャストで出演し、全国公演では吉野がシングルキャスト。
※全国公演では濱田めぐみに代わり、月影 瞳が出演。
【東京公演】2020年1月7日(火)~2月2日(日)日比谷シアタークリエ
【福岡公演】2020年2月7日(金)~9日(日)福岡市民会館
【大阪公演】2020年2月12日(水)~15日(土)新歌舞伎座
※詳細はhttps://www.tohostage.com/shabondama/をご覧ください。


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