インタビュー & 特集

『月の獣』を観終わったあとに、感じたことを誰かと話してほしい――岸井ゆきのさんインタビュー

大河ドラマ『真田丸』や連続テレビ小説『まんぷく』などで注目を集め、ここ数年、映画・ドラマ・舞台とジャンルを問わずひっぱりだこの岸井ゆきのさん。どんな役も演じきる実力派として知られ、初主演映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』では第39回ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞を、今年公開の映画『愛がなんだ』では第11回TAMA映画賞・最優秀新進女優賞を受賞しました。『髑髏城の七人 Season風』の沙霧役も記憶に新しいところ。そんな彼女が次に出演する舞台は、12月7日に紀伊國屋ホールで開幕する『月の獣』。アメリカ・ウィスコンシン州出身のリチャード・カリノスキーが、第一次世界大戦中に起きたアルメニア人迫害の実話に基づいて描いた戯曲です。アルメニア人の孤児の少女・セタを演じる岸井さんに、お稽古が始まる前のタイミングで話を聞きました。(取材・文/千葉玲子、撮影/藤田亜弓、ヘアメイク/藤垣結圭、スタイリング/岡本純子)

INTERVIEW & SPECIAL 2019 11/22 UPDATE

『月の獣』STORY
第一次世界大戦の終戦から3年が経った1921年、アメリカ・ミルウォーキー。

生まれ育ったオスマン帝国(現・トルコ)の迫害により家族を失い、一人アメリカへと亡命した青年・アラム(眞島秀和)は、写真だけで選んだ同じアルメニア人の孤児の少女・セタ(岸井ゆきの)を妻として自分の元に呼び寄せる。

新たな生活を始めるため、理想の家族を強制するアラム。だが、まだ幼く、心に深い闇を抱えるセタは期待に応えることができなかった…。

二人の間に新しい家族ができぬまま年月が経ったある日、彼らの前に孤児の少年(升水柚希)が現れる。少年との出会いにより、少しずつ変わっていくアラム。やがて彼が大切に飾る穴の開いた家族写真に対する思いが明らかになっていく。

生き残った二人が夫婦になって
家族を作ることが生きる目的になっていく

――『月の獣』は、アメリカ・ウィスコンシン州出身のリチャード・カリノスキーが、第一次世界大戦中に起きたアルメニア人迫害の実話に基づいて描いた戯曲です。初演は1995年。以降、19ヶ国語で翻訳、20ヶ国以上で上演され、2001年にはフランス演劇界で最も権威ある「モリエール賞」を受賞しています。

日本では4年ぶりの上演ですが、もともと、演出の栗山民也さんが15年以上大切にあたためてきた戯曲だとうかがいました。なぜ思い入れがある作品なのか、理由をお聞きになりましたか?

はい、栗山さんと眞島(秀和)さんと食事会があって、そのときにうかがいました。栗山さんはたびたびパリに行っているそうで、中でもとくに好きなフランスの「太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ)」で観た作品だそうです。そのときの主演俳優のシモンさんが、やはりアルメニア人で。彼がすすめてくれた戯曲でもあって、すごく大切なんだとおっしゃっていました。

とくに『月の獣』は「今やるべき芝居だ」と強く感じられたそうです。戦争がベースにあるのですが、これは家族の話でもある。歴史的な背景があったうえで、「失われたものをもう一度取り戻したい」と願う姿なんだと。

――岸井さんは、作品の第一印象はいかがでしたか?

オファーをいただいて初めて戯曲を読んで、すごくおもしろくて、ぜひ!と思いました。私は翻訳劇の経験は多くないですし、栗山さんとも初めてご一緒しますし、四人だけの芝居も、紀伊國屋ホールという場所も、初めてづくしです。でも自分にとっては、「この挑戦はしてみたい挑戦だな」と感じて。

あらすじだけ聞くと、もっと重たい作品なのかなと想像したのですが、いざ台本を読み始めたら、こんなに自由奔放で明るい少女が主役なんだ、と意外でした。

――最初に登場するとき、アラムは19歳で、セタは15歳。アルメニア人迫害によって家族を失い、アメリカに亡命して来ます。ふたりが突然「夫婦になる」ところから物語がスタートします。

アラムとセタの、テンポのいい、可愛い会話から始まるんです。セタは15歳でこんなにいろんなことを経験してきたのに、ほんとに明るいんです。もし想像通りに重たい話だったら、単純じゃないですか。でも『月の獣』はそうではなくて、この明るさの裏には、本当にいろんなことがあって、だからこそこの作品はおもしろいのかなって。

劇中で時間の経過は3回あって、アラムとセタの長い年月を約2時間にぎゅっと凝縮した作品です。

――二人それぞれに苦しい過去があって、アラムは自分の理想を押し付けがちで、セタは彼の期待に応えられない。好き同士が夫婦になっていくというのではなく、ぶつかり合って家族になろうとしていくのですが、岸井さんは、現時点では二人の関係性をどう感じていますか?

まだお稽古が始まっていないので、あまりお話できないんですけど…、他人同士が一緒になるには、困難が伴うと思うんです。でも、わかり合えない部分もいっぱいあるけど、アラムもセタも、生きのびてアメリカに来た。そこがまず、二人が共有できるところ。なかなか、誰とでも共有できる体験じゃないですよね。そこは二人にとって、とても大きいんじゃないかと思います。

生き残った二人が夫婦になって、家族を作ることが、生きる目的になっていく。

最初は二人ともすごく希望を持ってアメリカにやって来たけれど、意外とうまくいかなくて…苦しむんですよね。アラムが夫としてセタに要求することはけっこう厳しくて、セタはセタで、ニコニコしながらも受け入れられないところもある。二人の関係を外側から見たら、それぞれの気持ちがわかるんですけど…。家族になるって、本当に難しいですよね。

今は、実際にお稽古が始まったら、(セタとして)アラムのことをどう思うんだろうな…?って考えています。

――お稽古してみないとわからないですよね。

たとえばセタが明るく言っているように見えるセリフとか、笑いをこらえたり、笑い出したりするシーンもあるんですけど、心の内はどんな風になるんだろうって。それがすごく楽しみですし、すごく難しそうだなとも思っています。

でも、さっきお話ししたように、『月の獣』は家族の話なんです。いろんな歴史があって、過去にとらわれて問題が起きるけれど、その問題が起こっている場所は家族。

きっと、観終わったあとに、自分の頭で考えるものをたくさん受け取る作品です。もちろん「あのシーンが良かった」っていう感想もうれしいですけど、自分自身に重ねて「私はこうなんだよね」と考えてもらえたらいいなって。自分の家族のこととか、自分のこと、感じたことを言葉にして誰かと話してほしいなと思います。

「自分がこうなりたい」じゃなく
「この作品をどうしたいか」をいつも考えている

――岸井さんは現在27歳。役者として、たとえば「30歳ではこうなっていたい」といった目標はありますか?

何歳だからどうしようとか、あまり考えていないんです。いつも目の前のことに必死で、気づいたら27歳でした(笑)。毎回その作品ごとのプレッシャーみたいなものを作品から感じて、それと向き合っている感じです。「自分がこうなりたい」じゃなくて、「この作品をどうしたいか」を考えていますね。気づいたら、こんなに大きなお仕事もさせていただけるようになっていて。

(役者を始めて)最初の3、4年くらいはセリフがほとんどなくて、その頃のことが今も強く心に残っていて。(『月の獣』のチラシを見ながら)だから今は、こうして二番目に名前を載せていただいているのが信じられないです。自分の顔が大きく載ってる!って(笑)。本当にありがたいです。

30歳になっても、今までと変わらず、作品のことで悩み続けていたいですね。

――映画や芝居を観るのがとてもお好きだそうですが、純粋にお客さんとして、どんなタイプの役者さんに惹かれますか?

自分とはかけ離れた存在なので、参考にしたりというわけではないんですが、私はずっとホアキン・フェニックスが好きです。最近『ジョーカー』を観たんですが、もう、彼がお芝居をしているとは思えないですよね。役そのもの。だから観ている私は100%作品を楽しんでいて、観終わったあと、ずっと頭から離れないんです。

(9月に日本公開された)『アド・アストラ』のブラッド・ピットもすごかったです。脈拍が80を超えない宇宙飛行士の役で、感情を表に出さず、表情だけの一人芝居が続く。『ジョーカー』もそうでしたが、セリフで語るシーンは少なくて、でも、ほんの少しの目の動きとかシワとか、何も言わずにじっとしていてもスクリーンいっぱいに伝わる何かがあるんです。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も素晴らしかったですし、『アド・アストラ』のお芝居も圧倒的でした。

映画って、気づいたら3分くらい喋っていないシーンとかもよくあって、そういうシーンでずっと見ていられる、ずっと見ていたいなと思える瞬間が好きですし、言葉じゃない部分で伝わるお芝居が好きなんだと思います。

【プロフィール】
岸井ゆきの(きしい・ゆきの)
TBSドラマ『小公女セイラ』でデビュー。NHK大河ドラマ『真田丸』で注目を集め、以後、映画・ドラマ・舞台と幅広く活躍する若手実力派。近年の主な出演作に、映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』、『愛がなんだ』、『いちごの唄』、NHK連続テレビ小説『まんぷく』、フジテレビ『十九歳』、『ルパンの娘』、NHK土曜ドラマ『少年寅次郎』、舞台『るつぼ』、『髑髏城の七人 Season風』など。2020年、映画『前田建設ファンタジー営業部』の公開が控えている。

【公演情報】
『月の獣』
作:リチャード・カリノスキー
演出:栗山民也
出演:眞島秀和、岸井ゆきの、久保酎吉、升水柚希
【東京公演】12月7日(土)~23日(月)紀伊國屋ホール
【新潟公演】12月25日(水)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
【兵庫公演】12月28日(土)~29日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
※詳細はhttps://www.tsukinokemono.com/をご覧ください。


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