インタビュー & 特集

長塚圭史作品が2作品同時期上演『アジアの女』『桜姫〜燃焦旋律隊殺於焼跡』

この9月、長塚圭史の作品が相次いて上演される。一つは2006年に初演で高評価を得た『アジアの女』。今回は石原さとみ主演、吉田鋼太郎が出演のほか演出も担当することで話題を呼んでいる。もう一つは『桜姫〜燃焦旋律隊殺於焼跡(もえてこがれてばんどごろし)』。歌舞伎の『桜姫東文章』(鶴屋南北)に着想を得て10年前に書いたものだが、上演は初めてで演出は長塚自身が行う。それぞれの作品について、「今」上演する意義について聞いた。(取材・文/仲野マリ、撮影/藤田亜弓)

INTERVIEW & SPECIAL 2019 9/5 UPDATE

人間とは愚かなもの。それでも人生にひとすじの光を見つけたい

「アジアの女」あらすじ
大災害で崩壊した町で、半壊状態の自宅に住み続ける兄と妹。以前から心を病んだ状態だった妹・麻希子(石原さとみ)が回復する一方で、麻希子の世話をし続けていた兄・晃郎(山内圭哉)は酒浸りの日々。そこに書けない作家・一ノ瀬(吉田鋼太郎)がやってきて元編集者の晃郎に「俺に物語を書かせろ」と迫る。一ノ瀬の出現は麻希子に外の世界への一歩を決意させ、3人の力関係は少しずつずれていく。

鋼太郎さんの演出は丁寧かつチャレンジング

稽古初日の本読みに同席させていただいた時、鋼太郎さんが非常に丁寧に演出されることに感銘を受けました。鋼太郎さんは、セリフの一つ一つにどんな意味あるのか、それをちゃんと分析して、何かの力に変えようとしてくれる。この劇について面白がり、可能性を感じてくれているというのがわかり、全面的に信頼しています。それに、3時間くらいの本読みの間に、鋼太郎さんのサジェスチョンでそれぞれのキャラクターを魅力的に変化させている。出演者の人たちが、最初とは格段に違うところまで到達できているんですよ。少し試すようなやり方もあって、俳優の皆さんも、いつもとは異なる自分の可能性を発見できるんじゃないかな。自分のやり方以外でも役に向き合い、役を捉えて作っていける、豊かな稽古場になるだろうなと感じました。

「攻め」の舞台で先入観もぶっ飛ばす

今回、13年ぶりの再演です。作った当初は東日本大震災の前だし、アジアの情勢も昨今のようなことになるとは思いもよりませんでした。『アジアの女』という作品が現在の状況と結び付けられ、ある種の先入観を持たれることは否めません。でもそれは鋼太郎さんも覚悟の上で、だからこそ「攻め」の舞台づくりを進めています。ただ、現在の社会と照らし合わせて見るだけの芝居ではないので。大きく崩壊した社会で裸一貫になってしまったら、僕らはそこから何が出来るのか、どう輝けるか、それぞれの人間たちがどう生きていくかを描いています。人間は、基本的には愚かな生き物。でもだからこそ、少しでも、小さくても、何かしら希望の光が見つかるといいなと、そんな気持ちで作っています。亜希子や晃郎、一ノ瀬らを通し、自分の愚かさとか、自分という人間のサイズを痛感するわけですが、そういうのは前より想像しやすい時代になっているのではないでしょうか。

自分でない誰かの気持ちになる「演劇」は、豊かな人間関係への力になる

震災のような、日常生活もままならない状況に陥ると、演劇なんかやってる場合か?という声が出てきます。生きていく上で演劇がなくてはならないかどうか、それは人によって違うでしょう。でも演劇は、基本的にはものすごくプリミティブ(原初的)で力強い表現で、尚且つエンターテインメントにもなり得ます。だって何もなくても観客がいて、俳優がいればすぐに成立する。「ここはアメリカだ」って言ったらそこはアメリカ、「僕がピーターだ」と言ったら彼はピーター。人間の想像力って、なんて可能性に満ちているかってことですよ。演劇を通じて誰かの気持ちになる、自分ではない誰かになる、自分ではない誰かの声を聞く。そんな体験は、なかなかできないことじゃないですか。でも演劇だとすぐに出来るんです。だからもし何かが消失した場所でも娯楽性のあるものを見つけられるとしたら、そこで何かカタルシスでも感じることで、僕らが少しでも何か楽になったりできるんだったら、そこで演劇が、演劇でなくても想像力が生み出す何かがあっていい。それはいつも思っています。

歌舞伎の「実は」を逆手にとって、「なんでもあり」の展開を楽しむ

「桜姫〜燃焦旋律隊殺於焼跡」あらすじ
1945年、太平洋戦争敗戦直後。焼け野原の東京に佇む男・清玄。戦前、少年・白菊丸と心中を試みるが一人生き残ってしまったのだ。その清玄とぶつかったのは復員兵の権助。すべてがカオスの焼け跡で、何をしてでも生き抜こうと目をギラギラさせている。180度価値観がひっくり返った世の中で、もう一人、自ら歩む道を探す少女がいた。「私の人生こんなもんじゃない。もっとドラマチックな人生があるはずだ!」と孤児院を飛び出し、決められた嫁ぎ先をかなぐり捨てる。この3人が出会った時、「なんでもあり」の世の中で荒唐無稽な物語が始まる。

「コクーン歌舞伎」現代版のために書いたもう一つの物語

10年前、「コクーン歌舞伎」で『桜姫東文章』の歌舞伎版と現代版をやることになった際、僕は現代版の脚本を担当し、最終的には「南米バージョン」が採用され上演されました。でも最初に書いたのは「日本の戦後焼け跡バージョン」だったんです。こちらは書いたは書いたがお蔵入りになり、その後見返すこともなく忘れていて、それを最近、劇団(阿佐ヶ谷スパイダース)の山田(美紀)が、「あれ面白いから、やってみたら?」っていうから引っ張り出して読んでみたんです。彼女、あの時の演出助手をやっていたので読んでいたんです。書きっぱなしで推敲もしていないままの原稿ですが、荒唐無稽だけどいいところがいろいろあって、これ整理したら面白くなるかも、と思いました。ただ、ハードルが高いんですよ。もともと中村勘三郎、大竹しのぶ、古田新太、白井晃と、主演級の役者たちのために書いた芝居だから。だけど逆に言えば、あのキャスト・あの規模ではもうできないというのも事実。だからこそ劇団でやったらどうだろう、もうちょっと違うサイズにしたら面白そうだということになったんです。

歌舞伎の「実は、実は」を逆手にとって、「思った通りに生きてやる」を描く

鶴屋南北の元々の物語は、吉田家のお姫様桜姫と阿闍梨の清玄が出会って零落していくお話なんだけど、清玄が心中しようとして一緒に死ねなかった、この死ねないエネルギー、生きる執着が気に入って、それを題材にして行こうというわけです。その物語を戦後に置き換えますが、『桜姫東文章』という鶴屋南北の世界は、しっかりと残しています。歌舞伎は因果応報の世界で「実は…」という人物の裏設定がいっぱいあるんだけど、「実は、実は」の繰り返しでは現代劇にならない。そこで今回は逆に、こうだと思っていた社会が全部嘘だったっていう戦後のあの混沌の、ひっくり返ったあの理不尽の中で、生きるということを一つのワードにして展開して行く芝居になっています。つまり「思ったもん勝ち」に変換した。だからただの孤児かもしれない少女が桜姫になれる。まさに演劇的というか、言ったことがホントになるわけです。「私とあんたは出会っている」と言うと、出会っていたことになるし、「あんたの腕には刺青が入っているよ」というと、本当にある。そして自分の腕も見てみると、こっちにも同じ柄の刺青が入ってる! これで勝った!みたいなね。こうして「物語」に乗りかかっていく劇構造、めちゃくちゃだけど面白い、ワクワクするわけですよ。

勘三郎さんのエネルギーが乗り移って書いた作品

桜姫にしても清玄にしても、なぜこれほど生への執着があるものを当時書いたんだろうと思うと、やっぱり中村勘三郎さんと串田和美さんと、あの二人に熱烈に頼まれたら、どうしたって影響を受けちゃったんだということでしょう。勘三郎さんの、あのみなぎる活力、生命力を、それがあったからじゃないかなと今は思いますね。そういう出会いを与えてくれたのがコクーン歌舞伎です。今、お蔵入りになったものを一生懸命若い劇団と一緒になってジタバタ作っているわけですが、勘三郎さんという人がこういうの残してくれて、やれてるんだと思うと、非常にありがたいなと思います。

10年前より冷静な自分が、物語をブラッシュアップさせる

歌舞伎って本当によくできているんです。見得とか、見せ場も多いし。だから歌舞伎を現代劇にするのってそんなに簡単なことじゃありません。10年前はまだ生意気で、わざとややこしく書いたりとか、結構いろいろやっちゃってるんですよね(笑)。冷静に考えれば、もともとの歌舞伎の話がすごく複雑で筋もわかりにくいんだから、そんなにややこしくする必要はないんです。人の動きとどこがどうつながっているのか、ちゃんとつながって楽しめるように作っていった方が、それぞれのキャラクターが生き生きとする。登場人物が欲望を満たすために突っ走る姿が魅力的に見えなければいけないので、今は変に格好つけないで極めてシンプルに作っています。10年経ったから、今の自分だからここまで客観的に割り切れて作れているのは事実です。

アフタートークもバックステージも!映画を観に行く気軽さで劇場に来てほしい

今回は完全なるエンターテインメントという意識で作っているので、難しく考えず、「ちょっと映画見に行こうよ、じゃどこ行く?」みたいな感じで、「ちょっと芝居観に行こうよ、なんか吉祥寺でやってるから見に行かない?」ってそんな感じで観てもらえたらいいですね。若いエネルギーが入った今の阿佐ヶ谷スパイダースで、しっかりと荒唐無稽に面白く見せていきます。毎日バックステージツアーをやるし、アフタートーク、プレトークもあるし、みんな劇場でなんかやっています。僕たちと出会える場所として観に来てもらいたい。僕たちも、皆さんと出会えることを楽しみにしています。あ、公式サイトに原作のあらすじをわかりやすく説明した映像があります。これも見て頂けると更に面白いかもしれませんので是非。

■プロフィール


ながつか・けいし 1975年5月9日生まれ、東京都出身。劇作家・演出家・俳優。1996年演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成、若い世代を中心に人気を博す。2017年より劇団として活動。外部への作品提供・演出も多い。

■公演情報
『アジアの女』
2019年 9月6日〜9月29日 Bunkamura シアターコクーン
作:長塚圭史
演出:吉田鋼太郎
出演:石原さとみ、山内圭哉、矢本悠馬、水口早香、吉田鋼太郎
お問い合わせ:ホリプロチケットセンター 03-3490-4949(平日10:00〜18:00/土10:00〜13:00/日・祝休)
公式サイト:https://horipro-stage.jp/stage/asia2019/
当日券あり

阿佐ヶ谷スパイダース『桜姫〜燃焦旋律隊殺於焼跡(もえてこがれてばんどごろし)』
2019年 9月10日〜9月28日 吉祥寺シアター
作・演出:長塚圭史
原作:四代目鶴屋南北『桜姫東文章』
音楽:荻野清子
出演:大久保祥太郎、木村美月、坂本慶介、志甫まゆ子、伊達暁、ちすん、富岡晃一郎、長塚圭史、中山祐一朗、中村まこと、藤間爽子、村岡希美、森一生、李千鶴
お問い合わせ:阿佐ヶ谷スパイダース 070-4136-5788 (平日 12:00~18:00)


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