インタビュー & 特集

デヴィッド・ルヴォーが手がける音楽劇『道』 ジェルソミーナ役・蒔田彩珠さんインタビュー

イタリア映画の巨匠フェリーニの代表作『道』を、鬼才デヴィッド・ルヴォーが舞台化する。フェリーニとルヴォーと言えば、映画『8 1/2』を原作としたミュージカル『NINE』が思い出される。今回はルヴォーと初タッグとなる草彅 剛がザンパノ役で主演することも話題に。オーディションでジェルソミーナ役に抜擢された16歳の蒔田彩珠(まきた・あじゅ)に、稽古に入る前のタイミングで話を聞いた。(取材・文/千葉玲子、撮影/三浦一喜、スタイリング/岡本純子、ヘアメイク/石川奈緒記)

INTERVIEW & SPECIAL 2018 11/15 UPDATE

20代の頃からイギリス演劇界で名を馳せ、ウェストエンドやブロードウェイを中心に40年以上演出家として活躍し続けるデヴィッド・ルヴォー。日本との縁は深く、日本で初めて手掛けたのは1988年の舞台『危険な関係』(麻実れい主演)だった。
 
その後も三島由紀夫の『双頭の鷲』や『サド侯爵夫人』などを上演したのち、1993年から、今は無きベニサン・ピットを拠点にプロデューサー門井均と現代演劇の実験プロジェクト「tpt(Theatre Project Tokyo)」を展開。『テレーズ・ラカン』、『あわれ彼女は娼婦』、『三人姉妹』、『令嬢ジュリー』をはじめ数多くの作品に光をあててきた。

『NINE THE MUSICAL』や『ルドルフ~ザ・ラストキス~』などでミュージカルファンにも鮮烈な印象を残している。日本でも20作以上を演出していて、ルヴォーから演劇を学んだ俳優・女優は多いだろう。最近では、2018年4月のNBC全米生放送ミュージカル『ジーザス・クライスト・スーパースター』の演出も大きな話題になった。
 
そんな彼の最新作が、12月に日生劇場で幕があがる音楽劇『道 -La Strada-』だ。1954年公開のフェデリコ・フェリーニのイタリア映画を、日本で初めて舞台化する。怪力自慢の大道芸人ザンパノ(草彅 剛)に買われて、終戦後イタリアの貧しい田舎町で旅回りをする少女・ジェルソミーナ役に抜擢されたのは、16歳の蒔田彩珠(まきた・あじゅ)。
 
ルヴォーは、蒔田の印象をこう語っている。
「蒔田彩珠さんは日本映画界の若手スターだけでなく、果敢な冒険家のように思えます。私に会いにきた時、彼女の持ってきたものはギターと満面の笑みでした。そこには何の細工もありません。
フェリーニの映画『道』のジェルソミーナ役として、ワールド・シネマで衝撃的な初登場を果たしたジュリエッタ・マシーナを思うとき、私はやはりその笑顔を思い出します。そして、そこには圧倒されるほど『シンプル』かつ『本物』の何かが存在しています。これは、蒔田さんと出会った瞬間に受けた印象と同じでした。すぐに『正しい』と思ったと同時に、最も無垢な危険性を感じました。
一流の日本演劇界におけるこの新たな才能と共に、どのように本作を作るか、とても楽しみにしています。」

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――蒔田さんは7歳で子役デビューされて、TVドラマ『重版出来!』(TBS)や『anone』(NTV)、映画『三度目の殺人』や『万引き家族』(いずれも是枝裕和監督)など映像作品で活躍されています。もともと舞台に興味はありましたか?

正直なところ…怖いなと思っていました。『道』のオーディションに行くときも、恐る恐る…という感じだったんです。でもオーディションで初めてルヴォーさんにお会いして、ルヴォーさんとなら安心して舞台に挑戦できると感じました。オーディションを受ける前と後では、舞台に対する意識が変わりましたね。

――ルヴォーさんとなら、と思えた理由は?

オーディションのとき、この『道』をどんな舞台にしたいか、いろいろと教えてくださったんです。そのお話しているときのルヴォーさんがとても楽しそうで、本当に好きなんだな、この舞台を成功させたいんだなという思いを強く感じました。だからルヴォーさんとならば、しっかりとコミュニケーションを取りながら挑戦できるのではないかと思いました。

――ルヴォーさんはどんな舞台にしたいとおっしゃっていたのですか?

「音楽劇」とありますが、音楽ではなく物語を描く“人”がメインだとおっしゃっていました。歌がうまくなければいけないということではないし、人と人とがしっかりと通い合ったお芝居をして、そこに音楽がある、という舞台にしたいと。

――オーディションではどんなことを?

お芝居はせず、いろいろなお話をさせていただきました。特技を披露する時間があったので、アコースティックギターを持っていって弾き語りをしました。映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(初の主演映画。2018年7月公開。湯浅弘章監督。南沙良とダブル主演)がきっかけでギターを練習し始めて、それからずっと続けていたので、映画の中でカバーした「あの素晴らしい愛をもう一度」を歌いました。

――ルヴォーさんのコメントにある「彼女の持ってきたものはギターと満面の笑みでした。そこには何の細工もありません」という言葉に、本日お会いして、笑顔を拝見して、とても納得しました。話が遡りますが、そもそも蒔田さんが女優を志したきっかけは?

何歳頃だったかはもう覚えていませんが、ずっと女優さんになりたいと思っていました。でも、子役としてデビューしてからも、オーディションを受けてもすごく緊張して受からないことが続いていて…。まず大人に慣れようということで、大学の自主制作映画に出演したりしていました。

――ターニングポイントとなった作品は?

やっぱり『ゴーイング マイ ホーム』ですね(2012年。是枝裕和監督が初めて手掛けた民放TVドラマ)。

――10歳のときですね。阿部寛さんの娘役でした。

初めてのTVドラマで、監督ときちんと向き合ったことも初めてでした。6ヶ月くらい長期間の撮影が続く中で、是枝監督や阿部寛さん、山口智子さんとずっと一緒にお芝居をさせていただいたので、やっぱり一番印象深いです。『ゴーイング・マイ・ホーム』のときはまだ、“お芝居をしている”というよりも私は自然のままだったのですが、大人の方たちが真剣に役と向き合っている姿を間近で見て、私もちゃんと役と向き合いながら、自分のお芝居ができるようになりたい、これからも女優を続けたいと思った作品でした。

――今年公開された映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』は初主演だったのですね。

はい。同世代の子たちと一緒に、自分も主演として映画を作り上げていく現場が初めてだったので、いろいろと学んだことがありました。

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――そして、今回の舞台の原作となるフェリーニの『道』をご覧になって、いかがでしたか?

ザンパノとジェルソミーナが、お互いに必要な存在になっていくけれども、ずっとうまくいくわけじゃなくて…離れていって、また追いかけて…そういう部分に切なさを感じました。登場人物はみんな、芯が温かいんですよね。優しいけれど切ない。私が、今までに経験したことがない感情だと思いました。

この映画が持つ独特の雰囲気を崩さないで演じることができるのかなというのが…今一番心配なところです。この映画を、ちゃんと大切にしたいので。ジェルソミーナって、すごく明るいわけでもすごく暗いわけでもない…簡単に説明ができないんですよね…。自分が感じたことをそのまま表現する女の子で、嬉しかったら笑うし、悲しかったら泣く。感情が顔の表情にすぐ表れる、素直な子なんだと思います。それを遠くからご覧になる方にも伝わるように表現するにはどうしたらいいか、そこが一番の課題かなと思っています。

――映画では、セリフだけでなくパントマイムや、映像そのものの描写で観客に感じさせるシーンも多いですよね。あとは、ジェルソミーナのどんなところが魅力的だと思いましたか?

やっぱり、純粋でまっすぐなところ。ずっと一緒にいるとザンパノの身勝手さを感じるけど、でも自分が離れたらザンパノが一人になってしまう。それは一見ジェルソミーナの優しさに見えますけど、彼女自身もザンパノを必要としているんですよね。そんな二人の距離感が切ないです。ジェルソミーナの純粋さからくる、この二人だからこその関係性なのかなと思います。

――好きなシーンはありますか?

ザンパノがジェルソミーナを置いて行ってしまうシーンで、ザンパノがそっとトランペットを置いていくところに一番ぐっときました。セリフがあるわけでも表情が写っているわけでもないんですけど、それはせめてものジェルソミーナへの優しさなのかなって。ザンパノは、ジェルソミーナを置いて行くことに罪悪感があるけど、でも彼女を背負いきれない。だからそっとトランペットを置いていくという。

――ジェルソミーナはトランペットを吹くシーンがあります。蒔田さんもトランペットの練習を?

はい、練習しています!

――出演が決まってから、ボイストレーニングもされているとか。

この機会にスタートしました。ドラマや映画ではあまり声を張ることはなかったので、舞台のお稽古や本番で喉をだめにしないように学んでいます。呼吸の仕方や筋肉の使い方によって声のハリやトーンがぜんぜん変わってくるのを、すごく実感しています。

――声のコントロールの幅が広がっていくと、この舞台はもちろん、その先のお仕事にも繋がっていくでしょうね。

本当にそう思います。

――稽古に入るうえで、不安や楽しみなことはありますか?(取材は稽古開始前に行われた)

初めて共演する方が多く、本当に初めてのことばかりなので、想像もつかない世界です。不安というよりは、毎日が新しい発見、本番が始まってからも毎日新しいことに気づくんだろうなと思うと、すべてがすごく楽しみですね! やるからには、自分なりのジェルソミーナを毎日研究していけたらと思っています。ジェルソミーナという人物を大切にして、ほかのキャストさんが演じるいろいろな登場人物たちと一緒に、『道』という作品を作り上げていきたいです。
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蒔田彩珠(まきた・あじゅ)
2002年生まれ、神奈川県出身。是枝裕和監督が手掛けたTVドラマ『ゴーイング マイ ホーム』(2012年)で実力が評価され注目を集める。映画『三度目の殺人』(17年)では主人公・重盛の娘を演じ印象的な芝居を見せた。その後も『重版出来!』(TBS)、山田太一ドラマスペシャル『五年目のひとり』(EX)、『みをつくし料理帖』(NHK)、『anone』(NTV)、『透明なゆりかご』(NHK)など多数の映像作品に出演。2018年は『友罪』(瀬々敬久監督)、『猫は抱くもの』(犬童一心監督)、『万引き家族』(是枝裕和監督)、初主演を務めた『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(湯浅弘章監督)など出演映画が多数公開。『道』で舞台初出演を果たす。

音楽劇『道』
2018年12月8日(土)~28日(金)日生劇場
演出:デヴィッド・ルヴォー
脚本:ゲイブ・マッキンリー
出演:
ザンパノ/草彅 剛
ジェルソミーナ/蒔田彩珠
イル・マット/海宝直人
モリール/佐藤流司
池田有希子、石井 咲、上口耕平、フィリップ・エマール、岡崎大樹、金子大介、鹿野真央、土井ケイト、西川大貴、橋本好弘、春海四方、妃海 風、安田カナ(50音順)
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