インタビュー & 特集
INTERVIEW!こまつ座『きらめく星座』田代万里生さん Part1
井上ひさしの「昭和庶民伝三部作」第一作目にあたる『きらめく星座』が、約3年ぶりに上演されます。2014年に、本作で初めてストレートプレイに挑みながらも、怪我のために無念の途中降板となった田代万里生さん。前回と同じメインキャストが揃っての再演にあたり、3年前の思い出を交えながら、改めて作品と向き合う心境を語ってくれました。
(取材・文/千葉玲子、撮影/石沢真実)
INTERVIEW & SPECIAL 2017 9/1 UPDATE
畳の上で裸足になって、下駄を履いて
日本人の役も初めてだった
――もう一度『きらめく星座』に出演すると決まったとき、どんなお気持ちでしたか?
お話を伺ったときは、「嬉しい」が半分、「どうしよう」が半分、「こわい」が半分……あ、半分じゃなくて3分の1ずつですね(笑)。そんな心境でした。2014年に、降板で一時的に上演自体がストップしてしまい(代役を立てて公演は再開)、チケットを買ってくださったお客様にも本当に申し訳ないことになってしまって、すごくご迷惑をおかけしたのにもかかわらず、もう一度声をかけてくださったことに驚きましたし、嬉しかったです。できるかな?って悩んだりもしたんですけど……栗山さんから再演の出演依頼をいただいて。もう一度がんばって、今度はしっかりと完走して、オデオン堂に帰りたいなと思いました。
――『きらめく星座』で描かれるのは、太平洋戦争前夜の激動の日本。浅草のレコード店・オデオン堂を舞台に、ピアノの生演奏にのせて庶民の切実な姿が浮かび上がる音楽劇です。田代さんにとっては、初めてのストレートプレイでしたね。
ストレートプレイも、日本人の役も初めてだったんです。普段は、アメリカ人やオーストリア人、イギリス人など外国人役ばかり演じてるんですけど(笑)、日本人の「正一」という名前を頂いて、畳の上で裸足になって、下駄を履いてっていうのが新鮮でした。日本人だったら誰もが心当たりがある家族の話、おじいちゃんやおばあちゃんから聞いていたような話を、自分がその時代に身を置いて演じるということ。オペラやミュージカルとはまったく違う心意気を持たないとできない作品ですね。とは言え、オデオン堂に流れるジャズや昭和歌謡など音楽がふんだんに使われていて、演じるうえで音楽がすごく助けになります。正一も小笠原家に集う皆も、音楽に元気づけられたり、音楽があることで皆がまとまっていったり、共感できる部分も多いです。
――田代さんが演じるのは、長男の小笠原正一。田代さんのコメントに「寅さんのように天真爛漫な存在でありながら、時代と闘い続ける、絶対音感を持つ脱走兵」とありますね。
井上ひさしさんが『男はつらいよ』の寅さんが大好きで、寅さんを意識して書かれた人物だそうなんです。2014年にお稽古に入るときには、井上麻矢さんが寅さんの本をいっぱいプレゼントしてくださいました。エッセイ集もあれば、寅さん名言集みたいな本もあったりして。井上ひさしさんは渥美清さんとお仕事されたこともあるそうで、浅草と柴又は少し離れてますけど、土地柄も近いですよね。『きらめく星座』の正一も、突然ふらっと家に帰ってきて、粋なことを言って、「またな」って去っていく。そしてまた、ふらっと帰ってくる。毎回何かしらのエピソードを持って帰ってきたり、家族を大事にしたり、正一が上海土産を置いていくシーンなんて本当に寅さんのような恰好をしていて(笑)、確かに似てるんですよね。ヒントになることがたくさんあったので、3年前も寅さんの映画をたくさん観たりして研究してました。
――ご自身と正一に共通点はありますか?
一番の共通点は、音楽が好きっていうところですね。正一にはみさをっていう妹がいるんですけど、僕は一人っ子なので、妹がいる役はなんだか嬉しいですね(笑)。それこそ、寅さんにもさくらっていう妹がいて、すごく大事にしていて、みさをにもさくらにも旦那さんがいて(笑)。そういう、妹を大事にしている感覚も、寅さんを観て感じるものがあったりします。
――『きらめく星座』で好きな場面は?
たくさんあって選べないんですけど、再演にあたって感慨深くなるだろうと思うのは、正一の登場シーン。浅草の家へ帰ってきた正一が家の中を見回して「変わってないなあ、ちっとも変ってない」と言うセリフは、すごく身に沁みると思います。正一は、軍隊から脱走して何カ月か逃げ回った末に家に帰って来て、久しぶりに家族と会うんです。今回、3年前と同じセット、同じメンバーで小笠原家を演じるので、3年ぶりにあの家であの家族に会えるっていうのは、正一と僕自身がリンクしてくるんじゃないかな。
――井上ひさしさんの音楽劇の代表作でもありますが、田代さんが好きな曲は?
やっぱり、二幕の最初と最後に歌われる『青空(マイ・ブルー・ヘブン)』ですね。今でもこの曲を聴くと泣きそうになります。3年前を思い出して。作品自体への思い入れもあるし、前回の無念もあって。ほかにも、『一杯のコーヒーから』、『チャイナ・タンゴ』、『星めぐりの歌』……ほんと、名曲ばかりで全部好きですね。中でも『青空』はこの作品のテーマソングとも言えると思いますし、一番大事な曲です。
田代万里生(たしろ・まりお)
1984年生まれ、埼玉県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科テノール専攻卒業。3 歳からピアノを学び、7歳でヴァイオリン、13歳でトランペット、15歳からテノール歌手の父より本格的に声楽を学ぶ。2003年『欲望という名の電車』で本格的にオペラデビュー。その後 09年『マルグリット』でミュージカルデビューを果たす。近年の主な舞台出演作に、『グレート・ギャツビー』『Clementia vol.3』『エリザベート』『スウィーニー・トッド』『CHESS THE MUSICAL』『スリル・ミー』『ラブ・ネバー・ダイ』『エニシング・ゴーズ』『トゥモロー・モーニング』『サンセット大通り』など。第39回菊田一夫演劇賞受賞。
こまつ座第120回公演
『きらめく星座』
[東京公演]2017年11月5日(日)~23日(木・祝)紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(タカシマヤタイムズスクエア南館7階)
[地方公演]2017年11月30日(木)仙南・えずこホール・大ホール
作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:秋山菜津子、山西惇、久保酎吉、田代万里生、木村靖司、後藤浩明、深谷美歩、阿岐之将一、岩男海史、木場勝己
【スペシャルトークショー】
11月7日(火)1:00公演後 秋山菜津子・山西惇・田代万里生・木村靖司・深谷美歩
11月12日(日)1:00公演後 吉原毅(城南信用金庫 顧問)-戦争の足音が聞こえる時代に-
11月16日(木)1:00公演後【井上ひさし誕生日特別トークショー】辻萬長・木場勝己・久保酎吉・後藤浩明
11月21日(火)1:00公演後 いとうせいこう(作家・クリエーター)-「音楽」は「笑い」を連れてくる!-
【同時開催】
『こまつ座のキセキ』
第120回公演を記念して、こまつ座33年間の軌跡が秘蔵の資料とともに展示されます。ほかでは見られない貴重な資料を一挙公開。『きらめく星座』公演期間中、劇場ロビーにて開催。
※詳細はhttp://www.komatsuza.co.jp/をご覧ください。