インタビュー & 特集

INTERVIEW!こまつ座『私はだれでしょう』朝海ひかるさん

井上ひさし作、栗山民也演出『私はだれでしょう』が10年ぶりに再演されます。第二次世界大戦後の混乱期、ラジオ番組に情熱を注ぐ川北京子と周囲の人々の人間模様を描いた、心温まる音楽劇。京子役を務める朝海ひかるさんに、宝塚歌劇団退団から満10年を経て挑む新たな舞台について伺いました。(取材・文/高橋彩子、撮影/増田慶、ヘアメイク/国府田圭)

INTERVIEW & SPECIAL 2017 2/11 UPDATE

――今回、『私はだれでしょう』に出演を決められた理由は何でしょうか?
 井上先生の作品は客席で拝見していたころから素晴らしいと感じていましたが、その後『しみじみ日本・乃木大将』『國語元年』に出演させていただく中で、先生の戯曲の奥深さ、言葉の重みを感じ、先生の世界に一層魅了され、もっともっと携わりたいと願うようになったんです。さらに演出の栗山民也先生は、これまで『おもひでぽろぽろ』『アドルフに告ぐ』『國語元年』でお芝居のいろはを教えてくださった、尊敬する方。今回のお話をいただいた時はとても嬉しく、ぜひ出演したいと思いました。
――『國語元年』では、栗山さんから井上作品についてどんな説明・指導がありましたか?
 私は井上先生が生きていらしたころには先生の作品に出演できませんでしたから、先生がお書きになった際のお気持ちや、どのようにその言葉を探し当てられたのかについて、状況をご存じの栗山先生から一つひとつ教えていただくことで、井上先生をより身近に感じることができましたね。いかにこの場面、この言葉、この句読点が大事なのかをじっくりと説明してくださり、一言一句間違えてはいけないとおっしゃっていたのも印象深いです。演じ手としては、なんとなくのニュアンスで「てにをは」が違うまま覚えてしまうことはあるのでプレッシャーもありますが、気をつけて大事に演じなければと考えています。
――井上ひさし流の音楽劇は、他のミュージカルとはやはり違いますか?
 違いますね。『國語元年』には「きらきら星」のメロディーに乗せて違う歌詞で歌う場面があったのですが、栗山先生が1番から2番にかけて、宇宙に向かって広がるように歌ってとおっしゃって、「この歌ってそんなに壮大だったんだ!」と。ミュージカルのように音楽的な発声というより、聴く人の感情を揺さぶるような声の表情をつける、というご指導が多かったです。日常の延長から、さらに世界が広がっていくというか、たとえば、歌う中で一つ屋根の下で暮らす人たちの絆が強くなっていくといった具合に、感情の表し方をとても細かく表現する必要があるんです。
――なるほど。身近なところから始まって大きなテーマになっていくのが井上作品の特徴ですが、歌の中もそうなっているわけですね。
 そうなんです。井上先生のお芝居って、身近な話でありつつ、観終わった後に大きな問題を提示してくれますよね。個々の場面もその積み重ねで実現していくということなのでしょう。一度では理解できないこともたくさんありますが、わからないことに出会っても、「こういう言い回しがあるんだ」と新鮮だったり、「そういう歴史があったのか」と調べたりと、勉強をさせていただける作品です。と同時に、その時代を生きた人の生(なま)の感情を知ることができるのが、とても魅力的で。簡単な言葉ですけれども、演じながらいつも感動してしまいます。
――『私はだれでしょう』については、現時点(稽古開始前)ではどのようなことをお感じでしょうか?
 終戦直後、東京のど真ん中で、負けた国の人々がどう生きたのか、どんな苦労や決意で行動したのかについて、テレビの特集番組や本などでうっすらとイメージにあったことが、より具体的に目の前で繰り広げられていくお芝居という印象です。井上先生は必ず、その時代だけではなく今に繋がる描き方をされているので、観客の皆様にも現実を見ていると感じ、その先に今の日本があることを実感していただけるよう、リアルに演じたいですね。そして最後には、タイトルが表す意味の奥深さをかみしめていただけたら嬉しいです。
――朝海さん演じる川北京子は、ラジオ番組「尋ね人」に情熱を注ぐ素敵な女性ですよね。
 今は女性が大活躍する時代ですが、京子という女性は、あの時代に、リーダーシップを発揮して皆をとりまとめ、自分の行動に責任を持って生きている。その心の裏には、特攻隊にいながら出撃を拒んだ彼女の弟の存在が大きくあって…。だからこそ彼女はラジオでの人探しに人生を賭け、危険を冒してでも信念を貫く。フィクションではありますけれども、こういう方もいらしたんだろうなと思わせてくれる人物造形になっているので、観ているお客様にも彼女の思いに寄り添っていただけたらと思います。

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朝海ひかる(あさみ・ひかる)
1972年生まれ、宮城県出身。91年宝塚歌劇団入団。2002年雪組トップスターに就任。06年に宝塚歌劇団を退団後は、『DANCIN’CRAZY』『蜘蛛女のキス』『エリザベート』『ローマの休日』『おもひでぽろぽろ』『天翔ける風に』『CHICAGO』『ボンベイドリームス』『アドルフに告ぐ』『幽霊』など、ジャンルを問わず幅広い舞台作品で女優として活躍している。井上ひさし作品への出演は、『しみじみ日本・乃木大将』(12年)、『國語元年』(15年)に続いて三度目となる。

こまつ座第116回公演/2017都民芸術フェスティバル参加公演
『私はだれでしょう』
2017年3月5日(日)~26日(日)紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(新宿南口)
作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:朝海ひかる、枝元萌、大鷹明良、尾上寛之、平埜生成、八幡みゆき、吉田栄作、朴勝哲(ピアノ演奏)
2010年に他界した井上ひさしの、07年初演の作品。終戦の翌年、昭和21年の夏。占領下日本の放送を監督するCIE(民間情報教育局)の監視のもと、日本放送協会の脚本班分室室長の川北京子(朝海ひかる)は、ラジオ番組「尋ね人」を企画。室員の山本三枝子(枝元萌)、脇村圭子(八幡みゆき)らとともに、戦後の混乱の中での人探しに尽力している。そこにあらわれた、CIEのラジオ担当官フランク馬場(吉田栄作)、労働組合の高梨勝介(尾上寛之)、放送用語調査室主任・佐久間岩雄(大鷹明良)、そして、記憶を失ったため自分が誰だかわからない山田太郎?(平埜生成)。それぞれの事情と思いとが交錯する中、物語は思いがけない展開を迎える……。
※詳細はhttp://www.komatsuza.co.jp/をご覧ください。


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