インタビュー & 特集
INTERVIEW! 「新春浅草歌舞伎」 中村隼人さん
「新春浅草歌舞伎」の魅力とそれぞれの抱負を伺う出演者インタビュー。ラストを飾るのは中村隼人さんです。(文/仲野マリ、撮影/増田慶)
INTERVIEW & SPECIAL 2017 1/11 UPDATE
4人の中では23歳と最年少ながら、6年連続6回目の出演の中村隼人。今回は『御存 鈴ヶ森』で主役の白井権八を勤めるほか、『角力場』の与五郎、『傾城反魂香』の狩野雅楽之助、『棒しばり』の曽根松兵衛を演じる。第1,2部合わせて5演目中4演目に出演と大奮闘だ。
僕にとって特別な浅草になりそうです
「高校2年のときから毎年出させていただいております。今回は全部で4役勤めさせていただきますが、その中でも『鈴ヶ森』の権八はたいへん大きなお役です。2012年2月、新橋演舞場で(中村)吉右衛門のおじさまが長兵衛、(中村)勘三郎のおじさまが権八をなさった舞台を拝見して本当に感動し、以来ずっと憧れていた作品に、権八として出させていただけるのは本当に光栄なこと。お役は(中村)梅玉のおじさまに習っています。国立劇場開場50周年記念公演『仮名手本忠臣蔵』で大星力弥を教えていただいているときに権八をやることが決まり、できたら権八もおじさまにお稽古をつけていただきたいと思っていた矢先、おじさまが父(中村錦之助)に『教えてみたい』と言ってくださったと聞いて、胸が一杯になりました。梅玉のおじさまもいろいろな方に教わっていらした権八だと思いますので、すべてを吸収していきたいと思います。何をどこまでできるかわかりませんが、まずは権八のセリフには型がありますのでそれを習うことと、自分はだんまり(暗闇の中で手探り)での立廻りの経験がないので、おじさまに教わりながら、暗がりの砂浜をお客様にも感じてもらえるようにしっかりと演じられればと思います」
柔らかさを出すためには「体を殺す」ことが必要
『角力場』の与五郎は、上方の大商家の若旦那の役だ。関取のパトロンになったり芸者に入れ揚げたりしているが、才覚も生活力もない優男。頼りなさと同時に憎めない愛嬌と品のよさも併せ持っている必要がある。
「“つっころばし”と呼ばれるお役で、いろいろと経験された方がなさることの多いお役です。自分はまだ若く、また体も大きいので、体の殺し方・使い方を勉強し、関取の濡髪関との対比がはっきり出るように演じていきたいです」
ここで『仮名手本忠臣蔵』で力弥を演じた経験が生きてくるという。
「力弥のお役をすると決まった時、『隼人が力弥? 背が大きすぎない?』っていう声もありました。たしかに女方が演じるイメージの強い役ですが、合わないと思われたのはとても悔しかった。悩みましたけれど、梅玉のおじさまが、とにかく優しく柔らかく、と体の遣い方だけでなくセリフの遣い方も熱心に教えてくださいました。だから力弥をひと月勤めることができたのはすごくうれしかったですし、このとき覚えたことが今回、与五郎や権八を演じるときの柔らかさにつながると思います」
「雅楽之助」では自分らしさを出してはじけたい
かたや、『傾城反魂香』の雅楽之助はうってかわって豪快な役。いわゆるご注進もの(戦場などから現場の報告をする役)で、主君の娘が悪者につかまってしまったこと、援軍の要請を報告に来る。
「それまでは又平が一人前の絵師として認められるかどうかという話だったところへ、雅楽之助の登場で物語の展開がガラッと変わるので、初役ですが、場の空気を変えられたらと思います。とはいえ、演じるのは短い時間。その短時間で自分を出せるのか。自分は体は大きいですが性格的には地味な方で、内にこもりがちなんです。役者に向いていないんじゃないかと悩んだときもありましたが、それを砕いてくれたのが猿之助さんです。『ワンピース』で猿之助さんとご一緒して、自分の出し方、迫力の出し方をすごく教わりました。雅楽之助はそれが生きる場所かなと思います。権八や与五郎と違って体の大きさを生かせる役ですし、重い芝居のカンフル剤となってのびのびと自分らしさを出してはじけ、猿之助さんにも『お、やってるな』と思ってもらえるようしっかりと勤めたいです」
ついにかなった主役をやる夢
「浅草歌舞伎に出演させていただいていて、お客様からも『隼人、今年も浅草出てるね』とお声をかけていただけるのはうれしかったのですが、年齢がお兄さん方に比べ離れていることもあり、なかなか芯でお芝居をさせていただく機会がありませんでした。3年前にメンバーが一新した際にも、やはり脇のお役……。大きなお役ではあったのですが、主役ではなかった。自分はそこにこだわってしまいました。どうにかして主役をやりたい、浅草で1本主役をやらせてもらうんだという気持ちが強くなり、まず顔と名前を憶えてもらわなくてはと映像など歌舞伎以外の世界にも飛び出していきました。ですから、2017年の新春浅草歌舞伎は、自分にとって特別な公演。『鈴ヶ森』というお芝居は出てくる人数も少ないので、より責任の重いお役です。期待をかけていただいた分、任せていただいた分、それにこたえなければなりません。戦力に数えられるだけの演技をし、その結果がまた次につながるよう、自分にできるすべてを全力でぶつけたいと思います」
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なかむら・はやと●初代/屋号:萬屋(よろずや)
中村錦之助の長男。平成5年11月30日生まれ。平成14年に初舞台。端正な顔立ちと細身の長身が魅力。スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』でサンジ、イナズマの2役で出演し新たなファンを獲得。テレビドラマなど歌舞伎以外にも挑戦している。
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最新刊「omoshii mag vol.8」に、尾上松也さん、坂東巳之助さん、中村壱太郎さん、中村隼人さんがご登場!
ぜひ、誌面でもカッコイイお写真とインタビューをご堪能ください。
『新春浅草歌舞伎』
1/2(月)~26(木)浅草公会堂
出演/尾上松也、坂東巳之助、中村壱太郎、中村隼人/中村錦之助ほか
☎0570・000・489(チケットホン松竹)
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