インタビュー & 特集

INTERVIEW! 『ヴォイサリオン』水夏希さん×藤沢文翁さん

超豪華キャストが集まって、上質な音楽と豪華な演出で一夜の夢を出現させる新しい朗読劇、『ヴォイサリオン』。2作品上演される中で「女王がいた客室」に出演する水夏希さんと原作・脚本・演出の藤沢文翁さんにお話を伺いました。(取材・文/大原薫、撮影/熊谷仁男)

INTERVIEW & SPECIAL 2016 8/20 UPDATE

_DSC2886_pp――水さんに出演をお願いしたのは?
藤沢 ずっとご一緒したいなと思い続けていたんですよ。
 私もです! ずっとご一緒したいと言ってました。私が初めて藤沢さんの作品を見たのが、彩吹真央ちゃんが出た『HYPNAGOGIA』(2013)。まず開演前に楽屋にお邪魔したら、衣装が素晴らしかったので「大好き、この衣装」って写真をたくさん撮ったんです(笑)。そして、客席に行ったら「この美術は、なんて奥深いんだろう」と感動して。そして、朗読劇が始まったら人間の想像力をかきたてる、音と視覚効果とがあって、涙が止まらなくなった。
藤沢 ありがとうございます。それは楽屋で言ってほしかった(笑)! あれから何年でしょう。泣いたなんて、初めて聞きました。
 (笑)。素晴らしい世界だなと思って。それからこの世界に一度足を踏み入れたいとずっと野望を抱いていたんですよ。
藤沢 今回「女王がいた客室」に登場する客室係のエレオノーラという役は売れない女優という設定なんですね。元宝塚トップスターの水さんと真逆の役をやっていただくのも面白いかなと思って、今回お願いしたんです。
 私は血液型がA型なので細かく下準備をするタイプなんです。今回竹下(景子)さんが演じる貴族の役を私がやるとしたら、時代や貴族まで事細かく調べると思う。でも、今回は「何も知らない女優」という役だから、こんなにも下準備のいらない役は初めて!(笑)と思って。
藤沢 そうか。でも水さんと真逆の役をやるのは大変じゃないですか? 売れなかった時代なんてないでしょう?
 そんなことないですよ。まだ役がつかない下級生の頃はそうでしたから。

_DSC2789――今回の『ヴォイサリオン』では「女王がいた客室」と「Mr. Prisoner」の2作品を上演されるんですね。
藤沢 シアタークリエでしかできない、日比谷らしい高級感のある朗読劇を始めたいとお話をいただいて、「祭典のようなものを」ということで今までやったことがない2作品連続上演を企画しました。私が若い頃ずっといたパリとロンドンという二つの都市が舞台で、「女王がいた客室」は扉の向こうにロマノフ王朝の秘密があるというお話。「Mr. Prisoner」はロンドンの牢獄には決して言葉をかけてはいけない囚人がいるという物語で、両作品とも時代は19世紀。“扉の向こうに秘密がある”というテーマで共通しています。

――藤沢さんが創る朗読劇は俳優や声優など多ジャンルの方が出演するのが特色ですよね。
藤沢 過去には声優だけでなく、元宝塚の方や歌舞伎役者、柳家花緑さんといった落語家の方にも出ていただいてるんですよ。それぞれが持っている魅力や味があって、今まで交わったことがない方たちが交わると面白い化学反応が起きるんですよね。

――今回水さんは平田広明さん、山路和弘さん、竹下景子さんとの共演です。
 皆さんすごいキャリアの方ばかりで、大変です(笑)。
藤沢 いやいや、平田さんも山路さんも緊張していましたよ(笑)。平田さんはジョニー・デップの声優をやっていて、山路さんはアル・パチーノの声優。
 すごい!
藤沢 だから、声を聞くとハリウッドですね(笑)。
 そう聞くとますます緊張しますよ。今回は朗読劇だから、(俳優の)動きはないんですよね。
藤沢 ないです。
 声だけで世界を表現して、お客様の耳に訴えかけるというのも緊張しますね。ただ、藤沢さんの場合は衣装や音楽など、効果にとても凝ってらっしゃるから。
藤沢 今回はジュリアード音楽院大学院を卒業して賞も取った(同校作曲科の最優秀作品に贈られるPalmer Dixon Prize受賞)小杉紗代さんが作曲と音楽監督で、東宝ミュージカルの衣裳も日頃手掛けているチームがこの時代の服装を作ってくれますから。
 素晴らしい!
藤沢 我々の衣装も舞台装置も、通常の舞台とは違って制約がない。自由にデザインができるんです。これが朗読劇のメリットなんです。

_DSC2823

――朗読劇に特化してやってらっしゃる方というのは、今の日本では他に藤沢さん以外にはいらっしゃらないと思うのですが。
藤沢 そうですね。隙間産業です(笑)。

――どうして始められたんですか?
藤沢 僕はイギリスで演劇を学んだんですが、イギリスは朗読劇がとても盛んなんです。子供のころ、クリスマスに暖炉を囲んで家族の前で本を読むという習慣がある国なので。僕が日本に帰ってきたのは不況で舞台を作るための予算が少ない時代だったんですが、それでも質が高いものを提供するにはどうしたらいいかと考えたときに、思いついたのが朗読劇でした。日本にも落語などいろいろな話芸があるので、それをイギリス式の朗読劇と組み合わせて、オリジナルで日本にしかないシステムが作れないかな、と。最初にやったのが『HYPNAGOGIA』の初演(2009)。それがことのほかうまくいったので、続けていくことになりました。朗読劇の良いところは、衣装やセットの自由があること。それにお客様がそれぞれのシーンを自分で想像して、持って帰れるんです。
 それはありますよね。同じ作品でも、自分が人生経験を経てまた見に行ったら、違う景色が見られるだろうと思うんです。

_DSC2957_pp――水さんは昨年リーディングドラマ『サンタ・エビータ~タンゴの調べに蘇る魂』、音楽朗読劇『幸せは蒼穹の果てに』と朗読劇に出演されましたね。
 そのときは歌も動きもある朗読劇だったんですが、なるほどと思ったのは「動きを言葉に乗せる」ということ。たとえば「布をどかす」と言うとき、「どかす」動きを言葉に乗せる、とアドバイスいただいたんです。
藤沢 確かにテクニック的なものはありますね。ただ、僕の場合はナレーションが一切登場しないのが持ち味なので、会話の中でお互いに同じ空間をイメージして掛け合いで進めていくんです。だから、リハーサルのテンポ感は早いですね。

――朗読劇ならではの演出というのはありますか?
藤沢 「歌わないミュージカル」と言われたこともあるんですが、音楽との掛け合いが重要になってきますね。
 演じる人によって、キャラクターの印象を変えるというのもありますよね。
藤沢 ありますね。水さんの出演する回は舞台チームなので、立ち姿も相当美しいだろうし、そこが持ち味になると思う。今ははっきり言えないですけど、水さんの衣装が楽しみ。
 メイドですか?
藤沢 まさかのメイド(笑)。いえ、アキバ系のメイド服ではなくて、東宝の衣装チームならではのもので、とてもオシャレなものになると思いますよ。

_DSC2881――ロマノフ王朝の生き残りとなった貴族たちが登場するドラマです。
藤沢 これはフランスに取材に行って、滞在したパリのホテルで脚本を書いたんです。余談ですが、小池(修一郎)先生とホテルの廊下ですれ違って。
 ええっ!?
藤沢 そのまま皆で飲みに行って、深夜までバレエの話で盛り上がりました(笑)。実は僕の学生時代の友人にも、現国王の子供や没落した貴族の子供がいたんです。ヨーロッパでは、滅んでしまったものと今のものが混在しているんですね。以前、ハプスブルクの血を引く、でも今は普通にサラリーマンをしている家庭の子供が僕の家に遊びに来たんです。食事していて「(パンに使う)バターナイフある?」と聞かれて「ナイフしかないけど」と答えたら、一瞬ためらって「それでもいいよ」と言ったんです。その後、「あのとき、一瞬ためらったよね」と聞いたら、「貴族は誰が見てなくてもバターナイフでパンに塗るものなんだ」と言っていたのが印象的でした。
 なるほどね。
藤沢 それはかっこいいけれど、逆に生きにくいだろうなと思うんです。この言葉が心に残りましたね。
 「過去に縋って生きていられないけれど、過去と一緒にも生きていられない」という台詞がありますよね。私も、宝塚を退団した後の第二の人生を生きている。昨日たまたま宝塚の下級生に会ったんですが、「夢の世界に生きている人たちなんだな」と感じたんです。在団中は感じていなかったけれど、退団したら現実の世界に生きないといけない。もちろんいい部分もあるけれど、切なさもあるなって。だから、今回の藤沢さんの脚本で「自分でも変えたくても変えられない、その血が流れているんだもの」というのに感動しましたね。
藤沢 でも、宝塚のトップスターを一回やってしまったら、普通の女の子に戻れないでしょう?
 私もそうか(笑)。宝塚OGバージョンの『CHICAGO』のニューヨーク公演では本編の後にタカラヅカアンコールというショーがあって、羽根を背負ったんですが、そのときのワクワク感ったらなかった。
藤沢 僕らは鶏泥棒をしない限り、羽根を背負うことはないですからね(笑)。あの羽根って素敵ですけど、結局何なんでしょうね?
 ……考えたことなかった。
藤沢 スターになると、自然と生えるものなんですかね。
 そうですね。羽根があることが当然でした。
藤沢 僕は元宝塚の方とお仕事させていただいて嬉しいことと嫌なことと一点ずつあるんです。嫌なことというのは、一緒に写真を撮ると、江戸時代の人の僕と外国人みたいな画になるんです(笑)。いい点は、舞台を終わって楽屋を出ると、待っているファンの皆さんが僕にまで「ありがとうございます」と言いながら手を振ってくれるんです。「ああ、宝塚を退団するときの楽屋出はこういう気分か」と思いながら帰っていくのが、個人的な楽しみですね。

_DSC2965

――最後に、お二人が期待していることをお聞かせください。
 本番が3回しかないんですが、なかなか出会えない方たちからいろいろなものを吸収したいなと思っています。稽古と本番の時間を共有できることにワクワクしていますね。
藤沢 水さんの回は各界のトップが集まる回なんですよ。平田さんと山路さんは声優界のトップ。水さんは元宝塚のトップスターで、竹下景子さんは『クイズダービー』で三択の女王としてトップにいた方ですから。
 (笑)本当ですね!
藤沢 この方たちが一夜に集まるのは本当になかなかないことですよ。今まで他の朗読劇を見たことがある方でも、これはまったくの別もの。衣装や音楽も含めて、生の圧力を実際に感じて、楽しんでいただきたいなと思いますね。

_DSC2999

水夏希●みず・なつき
女優。元宝塚歌劇団雪組男役トップスター。主な出演作:「7DOORS~青ひげ公の城~」、「客家~千古光芒の民~」、「屋根の上のヴァイオリン弾き」、「TATTOO 14」、「Love Chase!!」、「CHICAGO~宝塚歌劇100周年OGバージョン~」、リーディングドラマ「サンタ・エビータ~タンゴの調べに蘇る魂」、音楽朗読劇「幸せは蒼穹の果てに」、DANCE OPERA「マスカレード~Final」、「新版 義経千本桜」、「DANCE SYMPHONY最終楽章」、「Honganji」等。

藤沢文翁●ふじさわ・ぶんおう
劇作家・演出家。1976年4月19日 港区六本木生まれ。ロンドン大学ゴールドスミス演劇学部(Ba Drama And Theatre Arts )卒業。ロバート・ゴードン、ジョン・ロンドン、アナ・ファース、ベン・レビタスらに師事。2005年、ロンドンのKings Head劇場で演出家・劇作家デビューを果たし、国内外で活動している。英国朗読劇を独自に改良した音楽性に溢れ、セットや衣装、特殊効果など細部にまでこだわるそのスタイルは「藤沢朗読劇」と呼ばれ進化を続けている。


クリエ プレミア音楽劇『VOICARION〜ヴォイサリオン〜』
2016年8月27日(土)~9月5日(月)
シアタークリエ
原作・脚本・演出:藤沢文翁
作曲・音楽監督:小杉紗代
出演者:
「女王がいた客室」
8/27   鈴村 健一 浪川 大輔 沢城 みゆき
8/28   中村 悠一 山口 勝平 沢城 みゆき
8/29   石田 彰 保志 総一朗 三森 すずこ
8/31  甲斐田 ゆき 入野 自由 三森 すずこ
9/1・2  平田 広明 山路 和弘 水 夏希
8/27- 9/2(全公演出演)  竹下 景子

「Mr.Prisoner」
9/3- 9/5  上川 隆也 林原 めぐみ 山寺宏一
 http://www.tohostage.com/voicarion/


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