連載
第2回ゲスト『喜安浩平のオレ哲学』第3週
連載対談「川本成のオレ哲学」(略してオレ哲)。第2回目のゲスト喜安浩平さんとの対談もいよいよ最終回。アニメ『テニプリ』の話から始まったおふたりの話の行き着く先は!?(写真/下坂敦俊、構成・文/中村恵美)
COLUMN 2012 3/14 UPDATE
川本:喜安くんとは、『テニプリ』(『テニスの王子様』)の声優仲間から始まったわけだけど、喜安くんは、『テニプリ』みたいな作品に関わるのも好きなんだよね。アニメが好きというか、メンバーが好きなの?
喜安:メンバーが好きだし作品も好き。ある種、荒唐無稽な物語なんだけど、ほんとに感動する瞬間、気持ちがぐっとくる瞬間が自分の中にあって、少しでもお客さんと共有したいと思う。だから、俺はとにかく試合をさせてくれって訴えてる(笑)。
川本:イベントも面白かったよね。アニメのイベントなのに、コントとかやるようになって。全く『テニプリ』とは関係ないよね。『テニプリ』が盛り上がった理由として、そういうのも少なからずあればいいな、と思ってるけど(笑)。
喜安:それにしても、許斐先生は、器のでかい先生だよねぇ。俺、アルバム出させてもらったけど、普通歌を歌うところを、全部コントだよ! 全部自分の書きおろしのコントにして、レギュラーの皆さんに出てもらって。要は、オフィシャルで同人誌を作ったみたいなものだからね。当事者たちが勝手にパロディーを作ってるのを、原作の許斐先生が受け入れてくれている。
川本:そういうのはダメ!って言う人、いっぱいいるよね。
喜安:いると思う。
川本:許斐先生は、面白いこと好きなんだろうな。
喜安:それに、メンバーも諦めない人が多かった(笑)。成くんもそうだし、小野坂さんも、(高橋)広樹も、結構皆したたか。自分たちの表現を、なんとかそこに忍び込ませられないかってずっと考えている人たちが、運良くそろっていた。
川本:自分じゃなきゃダメっていうか、このメンバーじゃなきゃやれないようなことを。怖いもの知らずというか、武道館でコントやりましたからねぇ。ボンボン持って(笑)。
喜安:しかも非常にプリミティブな、原始的なコント。ワーっておどけて最後スリッパでなぐられるみたいな(笑)。
川本:そういうコントを見に来た若いお客さんがいて、演劇やドラマに全く興味がなかったとする。だけど、そういう子が、コレきっかけで演劇に来てくれたりしてね。それって、たとえばケラさんや松尾(スズキ)さんが開拓したお客さんとは別のところを掘ってる気はするんだよね。それは僕ら世代としては、いいんじゃないかなってね。
喜安:いいと思う。こっちが一生懸命に、半端なことしなければ、響く人にはちゃんと響くから。
川本:すごい純粋だからね。
喜安:うん。それでいて、武道館で『テニプリ』のイベント見ることと、僕が作家としてテニプリとはまったく関係ないことを書いていることとを、お客さんは理性的に受け止めて、ちゃんと楽しみ方を選んでくれている。皆さん、頭いいなぁって思う.。
川本:頭いいね。ところで、ずっと思ってたんだけど、喜安くんって、男と女の描き方が凄く面白いよね。男と女の違いというのは、自分の中であるの?
喜安:あるね。すごくある。基本
どうやら僕は女性上位だと思ってるみたいで。
川本:世の中すべてそうでしょ?
喜安:うん。
川本:わかる。
喜安:凄く女性賛歌をしたいんだけど、だからと言って、女の人が見て、気持ちが良い作品を書きたいとは思わなくて。どうもそこがひねくれてるんだけど、
男をおとしめて、女を讃える。
川本:ああ。
喜安:男を下げて、女を上げる。謙譲語と同じ(笑)。(この間の公演の)『スケベな話』も、基本、女の人が強かった。
川本:男って駄目だね。
喜安:駄目だよね。冷静に見れば見るほど、駄目なとこしか目に入ってこない。
川本:男ってずっとウンコとかで笑ってるじゃん。女の人ってよく考えたら、小・中学生の頃から「ばかね男って」という視線で、だいたい年上の男子に恋するでしょ。
喜安:そうそう。
川本:女の人は生き物が違うんだろうねぇ。僕の劇団246の作品でもね、喜安くんがいつも書いてくれる本は、男が駄目じゃないですか。大体女の人に叱られる。ブル(ドッキングヘッドロック)を見に行っても、大体、喜安くんがごめんなさいって言ってることが多い(笑)。
喜安:(笑)
川本:男が女に「ごめんなさい」って言うセリフ、好きでしょ。
喜安:(笑)そうだね。でも、すごいね、ちゃんと見てくれてる。
川本:でも、大体世の中そうなってる。結婚すると、男は捨てられがちになる。これが人生の縮図だと思う。男女のあり方に興味があるんだよね?
喜安:そうだね。すごくある。
川本:男と女を書かせたら、中山美穂のダンナの辻仁成よりも、俺は喜安くんのほうが、100倍いい気がする。
喜安:ありがとうございます(笑)。
川本:いつも男は女にもてるかどうかしか考えてないしさ。おしゃれするのも全部、女のこと、考えてる。世の中って全てスケベから生まれる。
喜安:ほんとにそう思う。毎回いろんなテーマで書いてるけど、たまたま今回、それら余分な物を取っ払ったら、スケベの話になってしまった。結局、
すべては、常にスケベとともにある。
川本:そうだよ。VHSのビデオが出た時もインターネットが広まったのもね。カッコつけてもっともらしいこと言うけど、結局は、エロいこと、見たいからだろ!って。
喜安:そうだね。
川本:絶対そうですもの。あんなの。
喜安:エロにつながったものは、生き残るんだよ(笑)。
川本:携帯もだよね。個人的に直接連絡を取るために。エロのために使ってる(笑)。
喜安:実際、性欲とか食欲が、いろんなことの根源になってるなと思うんですよ。でも、最近なんかね、演劇もなんとなく草食系になってきたというか。昔は、演劇って文科系の人がやるように見えて、実は、蓋開けてみるとずいぶん肉食系の人が蠢いているイメージだったんだけど。
川本:なるほど、喜安くんはそういう時代の演劇の道を通ってきた。それが、今は草食系になってきたと。
喜安:そうです。
川本:音楽もテレビも、皆、そうなんだ。
喜安:そうですね。くわえて、それこそ普通にセックスの話を、あけすけに書ききる作品もあるんだけど、例えば、ポツドールの三浦大輔さんの描き方を真似た感じの作風があって、それがある種のスタイルになっているように思う。
川本:ほう。
喜安:僕としては、演劇で表現するなら、もっと
自分の性癖というか、自分の中の、個人的な部分に踏み込んでいかないと、どうにもなんない
と思ってしまうんですよ。三浦さんはそこに踏み込んだから素晴らしいけど、それを真似るだけではなにかちょっと足りない。不細工じゃないなって。基本、不細工なものだと思うんですね人は。
川本:僕なんて、不細工がかっこいいと思うタイプだけどね。でも、違う人もいるんでしょうね。土下座するとか謝ったりするのは、すごい素敵じゃん。
喜安:かといって、20代前半の役者さんが、みんな僕と違っちゃってるのかというと、そうでもない。台本一緒に読んでもらうと、男も女も面白いって言ってくれる。だから、作り手が問題提起するかどうかってだけの話で、男が土下座するような面白さは、皆、本能的にわかってはいるんだなと。だけど、それをなんとなく描かなくなっている感じなのかな。
川本:流行っているものがあるじゃん。世の中でのセオリーというか、スタイル。それがここ5年ぐらい停滞してんのかね。
喜安:かもしれないね。
川本:若い人も、知れば「おおっ」て思ったりするじゃん、それが世の中的に、あまり見たり知ったりする機会がないのかもしれないね。
喜安:そうですね。
川本:若いコといえば、イケメンという言葉が叫ばれて久しいですが。
喜安:はい。
川本:20代の男性役者さんは、皆、イケメンって言われてるけど、実はその子たちがすべての人たちがイケメンでいたいと思っているわけではない。それこそ女の前で土下座する芝居をしたいと思ってる、ほんとの自分を表現したいと思っている役者さんがいっぱいるなと思って。なんとなくそこを気持ちよくノックしてあげられる作品が作れるといいなって思ってるんですよ。
喜安:イケメンってジャンルに嵌められてるよね。もっともっと、それぞれの役者さん個人の表現できる物があるはずなのに、なんとなく大枠でとらえられてしまいかねないっていう、危険を凄く感じちゃう。
川本:この前、イケメンって言われてるある役者が、「俺は一刻も早く坊主にしたい」って言ってた。「おお、何か面白いな」って。イケメンって、結局、髪型じゃない?
喜安:(笑)。そうだね。
川本:髪型の、外ハネ文化ってあるじゃない? 皆、坊主にすれば、誰が本当にイケメンかわかるよ。
喜安:わかるわかる。はっきりわかる。皆、白黒はっきりさせよう(笑)。
川本:全員坊主にしてみりゃいいって。100人に1人ぐらいしか本物はいないって。
喜安:そうなんですよ。なかなかいないよ、ほんとのイケメンは。
ちょっとどうかと思うようなヘンテコな帽子を全員被ってみろよと。
ヘンテコな帽子をかぶってみて、初めて真価を問われるんだと。
川本:そうそう、その帽子姿でもイケメンだったら、お前は本物のイケメンとして認めよう(笑)。
喜安:そうなんだよね。そういうチャレンジを出来る場所を作るためにも、ブル(ドッキングヘッドロック)をやっているというところがありますよ。今、小劇場のあり方も10年前とは違ってきてるなと思っていて。具体的に言うと、いろんな所にまた喧嘩を売ってしまいそうなんですが。
川本:いいと思いますよ。
喜安:小劇場という枠と、テニミュなどに代表される、若い男の子たちが看板になる芝居の境界が、昔はもっとあいまいだったと思うんです。今はそこが、どんどんカテゴリーとしてくっきりさせられてきていて、何か、分けられちゃってる感じがする。小劇場の人たちもそれに対して構えているというか、「あの人たちはイケメンだから、こっちは小劇場だから」って。もっと、そんなちっちゃいカテゴリーの中じゃなくて、ちゃんと勝負したほうがいいなと。
川本:うんうん。
喜安:「どんどんイケメンいらっしゃいよ!もっと変なこと、色々なことしたいならこっちにいくらでも土俵はあるんだよ!」って提示しつづけないと、演劇界は発展しないなと思うんです。全ての作品がそうとは思わないですけど、企画・キャスティングの時点で、その先がはたしてあるのかって思う公演も、ないわけではない。
川本:商業的なものはあるからねぇ。とにかく表現がしたいと思ってる若い役者が、いろんな情報を得たり、いろいろ見たりしているうちに、自分がやりたいのはこっちなんだってわかるかもしれないもんね。
喜安:そう。昔より圧倒的に情報を手に入れる手段はいっぱいあるんだから。
川本:でも、あるから、逆に行動しないのかもね。
喜安:ああ、なるほど。
川本:昔は、情報が無かったからこそ、必死にさがしたから。
喜安:そうかもしれない。どっか俺がはまる場所はないだろうかと。
川本:脚で稼いだのってあるのかもしれない。必死だった。でもさ、俺たち37、8歳だけど、もう二つ上の世代あたりは、俺たちのことを、そんなふうに思ってたのかね。
喜安:その都度その都度、あるのかもしれないね。こうやって、「今の演劇はこうだね」って言ってる感じは、僕らが10代後半とか20代の時に、うるさく言ってたおじさんたちと同じようなこと言ってんのかもしれない。でも、そこはあえて譲らず(笑)、
これからも、上なり下なりと喧嘩していかなきゃね。
第二回喜安浩平さんの「オレ哲学」は今回で最終回です。 お楽しみいただけましたでしょうか? 次回のゲストは、*pnish*の佐野大樹さんです! 近日公開、お楽しみに!
ゲスト・プロフィール 喜安浩平(きやす・こうへい)
1998年ケラリーノ・サンドロヴィッチが主宰するナイロン100℃『Φ(ファイ)』で舞台デビュー。以来、ナイロン100℃の俳優として、演劇ユニット「ブルドッキングヘッドロック」の作・演出家として、さらには、人気アニメ『テニスの王子様』海堂の声優として、さまざまなジャンルで才能を花開かせている。川本主宰「時速246億」にも、vol.03より脚本を提供している。
ホスト・プロフィール 川本成(かわもと・なる)
欽ちゃん劇団1期生として在籍。1994年“あさりど”結成。主な出演番組としてTV『笑っていいとも!』9代目いいとも青年隊、『王様のブランチ』他、TV・ラジオ・舞台に多数出演。現在はTV『スタイルプラス』へのレギュラー出演や、アニメ『テニスの王子様』、『遊戯王デュエルモンスターズGX』他で声優として活躍の場を広げ、舞台では『小堺クンのおすましでSHOW』、『冒険者たち』他、また自ら『時速246億』を主宰し、定期的かつ精力的に舞台をプロデュースしている。
★お知らせ★その1
喜安浩平さん作・演出の舞台のおしらせです!
PLAY PARK2012〜日本短編舞台フェス〜
ブルドッキングヘッドロック 『スケベの話』PLAY PARK編
日程:2012年4月22日(日)19:30〜/4月25日(水)19:30〜
会場:渋谷・CBGKシブゲキ!!
チケット予約・問合せ:http://playpark.info/
★お知らせ★その2
川本成さん主宰 時速246億公演のおしらせです!
時速246億vol.A「No.721」
日程:2012年4月24日(火)~5月2日(水)
会場:新宿シアターモリエール
作・演出:御笠ノ忠次
出演:飯野雅彦・海老澤健次・郷本直也・清水宏・DAIZO・豊永利行(スーパーエキセントリックシアター)・藤原祐規・宮下雄也(RUN&GUN)※50音順/川本成
料金:前売¥4,500 当日¥4,700(全席指定・税込)
チケット:3月18日(日)10:00~一般発売開始
e+(イープラス)http: //eplus.jp/jisoku246oku/(PC・携帯)
ローソンチケットhttp://l-tike.com/jisoku246oku/(PC・携帯)
0570-084-003(Lコード:30092) 0570-000-407(オペレーター対応)
時速246億ホームページ:http://www.jisoku246.com/
お問合せ:萩本企画 欽劇事務局 03-3795-5259
★お知らせ★その3
河村隆(CV:川本成)4thシングル、好評発売中です!
あの場所まで-sloping road-
発売日:2012年2月15日(水)
定価:¥1,000(税込)
メディア:マキシシングル
品番:NECM-10170
発売元:株式会社ティー ワイ エンタテインメント
販売本:キングレコード株式会社
(C)許斐剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト
★お知らせ★その4
川本さんが主宰している、時速246億の第5回公演『グレイトフルデッド』のDVDが、2011年11月30日(水)に発売となりました! 劇場の興奮と臨場感をご家庭で味わえます。この機会に、ぜひお求めください。アニメイト他、CDショップなどで取り扱っておりますので、お問合せ下さい。
時速246億vol.05『グレイトフルデッド』DVD絶賛発売中
【定価】¥4,500(税込)
【品番】NEBS-10001
【発売元】株式会社ティー ワイ エンタテインメント
【販売元】キングレコード株式会社
時速246億ホームページ:http://www.jisoku246.c