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スタジオライフ 萩尾望都原作『エッグスタンド』製作発表記者会見
劇団スタジオライフの2017年新作として、萩尾望都原作『エッグスタンド』が初舞台化! 2月7日(火)、都内にて製作記者会見が行われました。(文・Photos /Yukari Watanabe)
NEWS & INFORMATION 2017 2/14 UPDATE
『エッグスタンド』は、漫画家・萩尾望都さんが1984年に発表した短編作品です。この作品が劇団スタジオライフによって、初めて舞台化されます。
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舞台は第二次世界大戦中、ドイツ占領下のパリ。キャバレーの踊り子ルイーズと少年ラウル、レジスタンスのマルシャンが出会い、孤独を抱える三人の共同生活が始まる。マルシャンとラウルは、ルイーズが二年前にドイツから逃亡してきたユダヤの血をひく者と知ることとなる。ルイーズの秘密に寄り添うように自分の秘密を打ち明けていく少年ラウル…それは、少年が抱えるにはあまりに重すぎる秘密だった。
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会見には、漫画表現の革新と長年の創作活動を評価され、漫画家として手塚治虫、水木しげるに続き2016年度朝日賞を受賞した萩尾望都さんが登壇し、脚本・演出家の倉田淳さんとの特別対談が行われました。
対談の中で萩尾望都さんは『エッグスタンド』について、「私の両親が戦争を体験した世代で、なぜ戦争をしたのかと素朴な疑問を持っていました。日本を舞台にしたものはあまりに生々しく直視できなかったので、高校生の頃、図書館でヨーロッパを舞台にしたドキュメント等を読んでいました。その後、映画『24時間の情事』を観てショックを受け、戦争の悲しみは、結局は個々人の上に落ちてくることを痛感しました。実のところ、戦争は本を読んでもわからない、距離があると感じていますが、自分の描く漫画で、少しでも感じ取ってもらえればと思って書いた作品です」と執筆のきっかけを語りました。また「ロシア(旧ソビエト連邦)訪問中に交通事故に遭って、モスクワで2週間の入院生活を送った」ために執筆が予定より1年遅れたエピソードを披露。「その経験で、人生はあっけなく、事故に遭い亡くなっていたかもしれないことに気付き、それまでの暗い性格から開き直ることができたと思います」と、作品誕生秘話も明かされました。
また作品のタイトルについて「(エッグスタンドとは)ゆで卵を支える食器のことです。卵はもともと壊れやすいものですが、地球や世界も同じく不安定なもので、エッグスタンドに乗せて守らなければならない、世界は決して頑丈ではない、という危機感を感じています。暗い作品ではありますが、今回も倉田マジックで、何かを感じていただける舞台にしてくださることを楽しみにしています」と初舞台化にエールを送りました。
スタジオライフは、1996 年に『トーマの心臓』を初演して以来、20 年以上に渡り『訪問者』『マージナル』『メッシュ』『11人いる』等萩尾望都作品を次々と舞台化し、萩尾望都の世界感を体現化する劇団として、高い評価を得ています。脚本・演出の倉田淳さんも「作品の中で出てくる、卵の中で温められすぎて孵化できずに死んだ雛は、少年ラウルのことだけでなく、今現在、そこにある危機でもあります。世の中は危うく、ちょっとしたことで傾いてしまう。今この時期だからこそ、上演の意味は深いと思っています」と語りました。
対談後に行われた製作発表でも、倉田さんはあらためて『エッグスタンド』初舞台化について、100ページ程の短編であるがその重さは計り知れないものがあること、また名作といわれる作品には「普遍」が存在することに気付いたことなどを語り、「人間はどう生きるべきか、何をすべきかはいつの時代にも普遍的なテーマです。この意味深い作品に真摯に取り組んでいます。1時間半程の上演時間になりますが、萩尾先生の無駄な構成のない作品に寄り添いながら、凝縮した時間を感じてほしいです。また、幕切れのマルシャンの言葉を、観劇くださる方と一緒に考えていきたいと思います」と作品への思いを述べました。
さらに、主演の3役、ラウル、ルイーズ、マルシャンをダブルキャストで演じる俳優6人が、作品と役への思いを語りました。
ラウル役 松本慎也さん
「原作を読んでいると、上質な古いフランス映画の中に、自分が入り込んだ感覚になります。登場人物の繊細で微細な感情のやりとりがあり、その感情の機微を、生身の人間として舞台上で表現できるか、少しでも伝えることができればと思っています。ラウルは表面的には感情の起伏の少ない人間ですが、彼が抱える心の闇と、ルイーズのキスにより初めて流す涙の意味を、しっかり体現できるように努めたいと思います」
ラウル役 山本芳樹さん
「萩尾先生原作の新作に取り組むことは、久しぶりで、懐かしくも、新鮮に感じています。『トーマの心臓』や『訪問者』を初めて演じた頃のように、今あるスタジオライフの原点を感じています。素晴らしい原作を舞台化させていただくのは、役者冥利に尽きると感じています。それだけに難しいところもありますが、ワクワクしながら取り組んでいます。お客様の期待以上のものをお届けできるように、日々精進しています。1人でも多くの方に観ていただきたいです」
ルイーズ役 曽世海司さん
「この作品を30年以上前に先生が描かれていたことは、身が震える程すごいことだと思いました。自分たちのやるべきことは何かと考えると、一人ひとりがその人生を生きるということだと思います。それは演劇としては当たり前のことであるけれど、人物の感情に溺れすぎず、その人物として生きることに全うする、俳優としてそこを問われている作品です。実は今回の『エッグスタンド』の初日は、自分の人生初舞台である萩尾先生の『トーマの心臓』のバッカス役を演じた1997年3月1日から、ちょうど20年目に当たります。これも何かのご褒美と叱咤激励と捉え、精一杯頑張ります」
ルイーズ役 久保優二さん
「エッグスタンド初演において、ルイーズの役を演じることに幸せを感じています。『トーマの心臓』と『訪問者』を演じていた時に、楽屋で初めてこの作品を読み、感動しました。何一つ妥協することなく、自分にあるものを全て絞り出して、挑ませていただきたいです」
マルシャン役 岩崎大さん
「マルシャンは、ラウルやルイーズを支え見守る大人の男性で、ほぼ初めて挑戦する役です。原作には描かれていない過去に起きたことやその感情を探りながら、少しずつ形作っています。自分の中でどのように進化させ、表現していけるか、未知数ですが、楽しみでもあります。萩尾先生の作品に、スタジオライフならではのエッセンスを加えていければと思います」
マルシャン役 笠原浩夫さん
「毎日稽古していますが、やればやるほど、本を読めば読むほど、その重さを感じています。この作品では、殺人に対する価値観、倫理観が、根底で問われています。マルシャンとしては、現代につながる身近な重さとして伝えることができるか課題です。そして、何よりも観ている皆様を、冬のパリにご案内したいと思います」
また、萩尾作品に関わったことで、どのような影響を受けたかの質問に、出演者たちがコメント。山本芳樹さんは「『トーマの心臓』のユリスモールという役を通して、破壊と再生の物語に一緒に寄り添い生きることで、役者として核になるものを養うことができました。萩尾先生の作品と役との出会いが自分を形成するものの中で大きな割合を占めて存在しています」と話し、2013年入団の久保優二さんもまた「自分は根暗な人見知りでしたが、萩尾先生の作品を読み、稽古をしていると、自分の知らなかったところまで感情が広がり、気持ちの幅が大きくなり、成長させてもらっていることを実感します」と語りました。
『エッグスタンド』は3月1日より、新宿シアターサンモールにて上演されます。
[公演情報]
劇団スタジオライフ公演『エッグスタンド』
東京公演:3月1日(水)~20日(月・祝) シアターサンモール
大阪公演:3月24日(金)~26日(日) ABCホール
原作:萩尾望都(『エッグ・スタンド』小学館文庫『訪問者』収録)
脚本・演出:倉田淳
出演:松本慎也/山本芳樹 曽世海児/久保優二 岩崎大/笠原浩夫 他
お問い合わせ:劇団スタジオライフ☎03-5942-5067(平日12:00~18:00)
公式サイト http://www.studio-life.com/stage/eggstand2016/