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SPECIAL!スタジオライフが『アドルフに告ぐ』を上演
戦後70年という節目の年となる今年。劇団創立30周年を迎えた男優劇団スタジオライフが『アドルフに告ぐ』を新宿・紀伊国屋ホールにて上演中だ。 『アドルフに告ぐ』は漫画界の巨匠・手塚治虫が週刊文春で連載した傑作漫画。日本で育ったドイツ人少年アドルフ・カウフマン、ユダヤ人少年アドルフ・カミル、さらにナチスの総統アドルフ・ヒットラー……アドルフの名を持つ3人の数奇な運命をたどる壮大な舞台を2時間10分に凝縮して見せる。 (取材・文/大原 薫 写真/Yukari Watanabe)
INTERVIEW & SPECIAL 2015 7/29 UPDATE
スタジオライフでの『アドルフに告ぐ』初演は2007年。今回は単なる再演ではなくリブート上演として、ドイツ編と日本編とに新たに書き換えて各編をWキャストで上演。さらに、スタジオライフオリジナルの展開も含まれる特別編も上演される。合わせて全5バージョンでの上演となる。
日本とドイツを舞台にした長編の作品をギュッと凝縮して見せて、スピーディに場面を展開。多数の登場人物をこなすため、1人で何役も演じる人も。しかし、決して慌ただしいと感じることはなく、戦争とは何か、人間とは何かを深く考えさせる力作となっている。
神戸に育ったアドルフ・カウフマンとアドルフ・カミルは、ドイツ人とユダヤ人という人種の垣根を越えて熱い友情で結ばれていた。ある日、カミルが偶然、アドルフ・ヒットラーの出生の秘密を知ってしまった時から、二人の運命は大きく変わり始める……。
純粋な気持ちで友情を育ててきた二人のアドルフがたどる運命のなんと過酷なことか。幼いときの友情が熱いものであればあるほど、二人がナチスと戦争によって運命を歪められていく様が痛々しい。そして、その歪みはたとえ戦争が終わっても、元に戻りはしないところが恐ろしいところだ。一人一人の人間の生き様を描き出す倉田淳の作・演出により、「こんな思いを決して繰り返してはいけない」と深く考えさせられた。原作と同じラストシーンの後にもう1場面がオリジナルで付け加えられているが、そのシーンに倉田が未来に託す希望を見た。
筆者は松本慎也のカウフマン、緒方和也のカミル、曽世海司の峠草平によるドイツ編(MGバージョン)及び仲原裕之のカウフマン、緒方和也のカミルによる特別編を観劇。2007年版でカミル役だった松本はカウフマン役を演じ、彼の心理の移り変わりを繊細に表現。また、仲原裕之のカウフマンはまっすぐな心情を持つ故に、ナチスへと駆り立てられていってしまう恐ろしさを表した。ストーリーテラー的な役どころである峠を演じた曽世は物語の骨格をしっかりと支える演技を見せる。2007年に次いでヒットラーを演じる甲斐政彦は、卑小な部分も含めて「人間ヒットラー」を描き出す。
また、山本芳樹のカウフマンと奥田努のカミルによるバージョンも感情の機微を細やかに描いていて、見応えがあるとのこと。是非とも各バージョンから浮かび上がる『アドルフに告ぐ』の世界を堪能していただきたい。
『アドルフに告ぐ』は8月2日(日)まで紀伊國屋ホール、8月22(土)・23日(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演される。
【公演データ】
スタジオライフ公演
『アドルフに告ぐ』
2015年7月11日~8月2日 紀伊國屋ホール
8月22日・23日 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
原作:手塚治虫
上演台本・演出:倉田淳
詳細は以下の公式サイトをご確認ください。
http://www.studio-life.com/stage/message-to-adolf2015/