インタビュー & 特集

INTERVIEW! 『十二夜』Special ★演出家 ジョン・ケアードさん

 シェイクスピアの喜劇『十二夜』が、3月8日より日生劇場で上演されます。そこでomoshiiでは、舞台『十二夜』のキャスト&スタッフに集中連載インタビュー。まずは演出家ジョン・ケアードさんです!(文・小柳照久、写真・浅沼ノア)

INTERVIEW & SPECIAL 2015 3/7 UPDATE

取材の際に、コーヒーを飲もうとして砂糖をこぼしてしまったジョン・ケアードさん。すかさず「シェイクスピアはできるんだけど、シュガーは苦手なんだよ」とお茶目な言葉遊びを披露してくれました。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの名誉アソシエイト・ディレクターの彼に「シェイクスピアを楽しむツボ」を伺ってみました。

***

シェイクスピアというと台詞の洪水というイメージがあって、気軽に見るには少々敷居が高い気がしてしまうのですが、最初の掴み部分、演出される時にどんなことを心がけていますか?

観客の立場になると、立て板に水のような台詞回しだと楽しめないですね。役者が台詞の量に忙殺され早口でまくし立ててしまったり、また、喜劇役者が観客を笑わせようと頑張ってしまったりすると、言葉から意味が抜けてしまい、ただ音だけが流れているように見えてしまいます。
シェイクスピア作品は実はイギリス人でも理解できない言葉がたくさん登場するんです。400年前に書かれた古典に「わからない!」とお手上げになってしまうイギリス人も少なくありません。ですから、イギリスでシェイクスピアを上演するとき、私は役者たちに「観客に理解されることを信じて演じることが大切」だと説いています。役者が台詞にいっぱいいっぱいだと観客はついてきてくれません。「現代語じゃないからダメ」と拒絶反応を起こされてしまいます。
イギリス人にとってシェイクスピアは、日本人にとっての歌舞伎のような存在ですね。台詞の一つ一つに意味が込められていて、いろんな情報が秘められていますし。一番重要なのは、シェイクスピアが何を書いているか伝わること。役者が正しいペースで台詞をしゃべれば観客もちゃんとついていけるんです。

とはいえ、日本とは歴史も文化も違うので、ことに喜劇における「笑いの共有」は難しくないですか?

シェイクスピアの喜劇の笑いは、登場人物の置かれた状況の可笑しさにあります。そして、その状況がどんどんクレイジーな方向に進むので面白いのですが、シェイクスピアはゆっくりゆっくり、観客をいざなってくれるので、起きていることがジワジワとわかってきます。日本の「お笑い」とはまた違った面白さを体感してみてください。

 

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以前、ミュージカル『レ・ミゼラブル』については「音符の数が決まっているので、英語版の1/3の情報しか訳されてない」ということをおっしゃっていましたが、ストレートプレイにおける、日本語と英語のスピード感やリズム感はいかがなものでしょうか?

ストレートプレイではほとんど全て翻訳されています。日本の俳優は欧米の俳優よりも早口な傾向がありますので上演時間も大差ありません。日常生活でも日本人の方が忙しく過ごしているのも影響しているのかもしれませんね(笑)。そして、英語から日本語に訳す段階で、古典だった台詞が現代語に訳されているので、日本の観客の皆さんは言葉の面で困ることがありませんから、理解が楽な部分があります。それに、良い翻訳だと、日本語としても美しいものになっているので、台詞回しは英語とは違いますが、同じ感覚を共有できれば良いものが生まれると思っています。

日本ならではの反応を感じることはありますか?

欧米の劇場と日本の劇場の大きな違いは客層です。男女での観劇がベースの欧米と違って、日本は女性客中心に偏っています。芝居は舞台上の演技だけでなく、登場人物の言動に観客がどう反応するかも大切なので、観客が女性ばかりだと、客席のリアクションも偏ったものになってしまいます。ここ30年、日本で仕事をして徐々に変化はしていますが、まだまだ男性が少ないですね。シェイクスピアの繊細なお芝居は女性ばかりでなく、もっと男性にも観ていただきたいと思っています。

_R6A3195今回のプロダクションではどんな演出プランを考えているんですか?

実は、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが初来日の時、会場が日生劇場でした。私にとって愛着のある劇場です。日生劇場は大劇場ですが、非常にアットホームな作りで、舞台から客席が近く感じます。今回は、舞台美術担当のヨハン・エンゲルスと、舞台と客席をいかに近づけるかについて何度も話し合い、オーケストラピットのスペースを利用して、張り出し舞台を設置しました。実は2014年11月に『十二夜』のデザインを終わらせて、ヨハンは亡くなったので、この作品が最後の仕事になります。今、稽古をしながら、ほろ苦さと甘さを噛みしめています。時間、喪失、死を扱っている『十二夜』という作品を、ヨハンにささげたいと思います。
シェイクスピア作品の多くは屋外の劇場で初演されましたが、『十二夜』は初演の時から屋内劇場で上演された珍しい作品です。作られたのは『オセロ』と同時期ですが、英雄は登場しません。人間と人間との関係が綿密に描かれた、音楽でいうと室内楽のような作品です。よって、カンパニーという考え方がとても重要で、チラシなどで大きく扱われている四人以外にも重要な役がたくさんあります。サー・トービーはある意味もっとも大きな存在ですし、侍女のマライアは仕えているオリヴィアと同じくらいのウェイトの役、フェステやサー・アンドルーなど、キャスト全員が重要な役どころを担うお芝居です。

ジョンさんは既に何度も『十二夜』を手掛けられているそうですが、今回、初めての試みもおありと伺いました。

ヴァイオラとシザーリオは双子の役ですが、別々の役者が演じることが多い中、今回初めて、双子の男女を一人の役者で演じます。音月桂さんは宝塚出身ということで、男役として独自の芝居スタイルを確立していますが、女性としてはとても自然体です。非常に興味深いです。今回は劇団での上演ではないので、出演者それぞれのバックボーンは異なりますが、カンパニーとしてとてもまとまっています。

『十二夜』は「ハッピー!」で終わる時と、「ハッピー?」で終わる時がありますが、ジョンさんはこの作品ラストについてはどう思われてますか?

一筋縄ではいかないですね。誰も死ななかったという意味ではハッピーかもしれないけれど、役によっては幸せになれないで終わりますし、マルヴォーリオにいたっては復讐劇という、幸せとは逆方向に進んでいきますから。『十二夜』というお話は「死」から話が始まり、人々が何かをつかんで、「未来」に向かって終わるんです。ちなみに、シェイクスピアにおける悲劇や喜劇には形式があるんですが、ご存じですか?

シェイクスピアにおける悲劇と喜劇の区別ですか? ぜひ教えてください!

_R6A3133悲劇とは女性が死ぬことです。『マクベス』はマクベス夫人の死で話が終結します。また『リア王』も、80オーバーで精神的にも狂ってしまった彼が死んだだけでは予定調和ですが、うら若いコーディリアが死ぬことで悲劇となります。『ハムレット』はオフィーリアが亡くなるので悲劇です。その背景は、若い女性が死ぬと子供が生まれない、未来につながらないということがあります。新しい世界が生まれないことが悲劇なのです。
一方、喜劇は結婚で終わります。結婚することで子供が生まれ、未来につながります。ですから、シェイクスピアの喜劇はお笑いというよりも、未来に向けての希望を描いている、心温まるものとも言えますね。

バックボーンを伺うだけで、作品の観方が広がり、公演がますます楽しみになってきました。

シェイクスピアも史劇ものは確かに難しいです。イギリスでも全てのシェイクスピア作品が上演されているわけじゃないんです。悲劇や喜劇は人間を描いているので馴染みやすいですし、『十二夜』は普通の人たちが愛のためにクレイジーなことをするので、役者たちのリアルな演技で笑いが生じる作品です。すごく面白く観られるので、ぜひ劇場にいらしてください。女性だけでなく、男性の方にもぜひご覧いただきたいですね。


『十二夜』
日程:3月8日(日)~30日(月) 会場:日生劇場
作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:松岡和子
演出:ジョン・ケアード
出演:音月桂、小西遼生、中嶋朋子、橋本さとし 他 
問:東宝テレザーブ ℡03・3201・7777  ※大分、大阪、公演あり

 


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