インタビュー & 特集

INTERVIEW! 『睡眠 -Sleep -』 勅使川原三郎さん part2

勅使川原三郎さんとオーレリー・デュポン(パリ・オペラ座バレエ団エトワール)さんが初共演することでも話題の『睡眠-Sleep-』について、前回に引き続き、勅使川原三郎さんにお話をうかがいました。(取材・文/高橋彩子)

INTERVIEW & SPECIAL 2014 8/11 UPDATE

Part1よりつづく


睡眠

――具体的には、どのような動きをお考えですか?

 ある種のフラジャリティ、つまり、か弱さや細やかさが、人間の強度や柔軟性や発展する力や加速する力や増大する力などの、もとになっていることを表現したいと考えています。言い換えれば、精密機械とジェットエンジンの関係です。要するに、睡眠というものが持つか弱さと、人間の想像力や身体的な動きの活発さとが“対”になったダイナミズムを表現したいのです。
 今、オーレリー・デュポンや佐東利穂子と共に丁寧に取り組んでいるのは、身体が浮いた状態がどのような流れを生むか、といったこと。身体の7割は水分で、地球も7割が水だそうですね。比喩的な意味での水と睡眠だとか、水に浮かぶ・漂う・溶けるイメージといったものは、これまで僕が取り組んで来た呼吸や空気とも近い。睡眠をテーマにし、言葉やイメージや動きを溶け合わせるように稽古をしていくと、睡眠という「空間」が生まれます。それを発展させたものが場面となり、作品となっていくのです。ある意味では、顕微鏡のように望遠鏡のように、睡眠というものを拡大してみたらどんなものを見えるのか、という試みでもあります。

――顕微鏡の例が出ました。以前からそういう感覚はおありになったのでしょうが、舞台美術を含め視覚的にダイナミックにダンスを展開なさっていた80〜90年代と比べ、近年益々、微細な動きにじっくりと向き合っていらっしゃるようにお見受けします。

 そうかもしれません。もともと、稲垣足穂ではないけれど、「美のはかなさ」とか、弱さや微細なもの、宇宙などに興味がありましたが、一方で僕は何度もダンスを考え直すという作業をしてきました。ダンスは何を映し出しているのか、演劇や音楽との違いは何なのかを考えています。その結果、ダンスはより現実的であるべきだというのが、僕の一つの結論です。

――現実的とは?

 実感すること、つまり、自分の身体をじっくりともう一度見直すべきだということです。視覚的な要素も大事なのですが、外側を増大化させるのではなく、内側にあるものを膨らませて見ることが、より大切だという気がするのです。
 現在、ダンスにおいては、作品を作ることが、そのダンサーなり振付家なりの評価の第一義的なものになっています。演劇も同じかもしれない。しかし、僕が将来やりたいのは、ダンスのメソッド自体が作品になること、つまり、ダンスの基礎を作ること。
 僕が思うに、ダンスはその時その時のファッションに影響され過ぎていて、ファッションが変わればダンスも変わってしまう。それもいいけれど、あまりにも身体表現としての主体性がないのではないかと感じることも多いのです。それがダンスにおける弱さ、幼さであり、人の目を現実から逸らすことになってしまっている。例えば、思考する力が養われれば、同じものを観ても、もっと別のものが見えて来るはずなんです。

――視覚的なしかけがすごい!といった話題性がないと食指が動かない観客も少なくないようです。

 だからこそ、行き詰まっているのではないでしょうか。身体をいかに使うか、それがどんなものであるかの研究が、まだまだ足りないと思います。 
 例えば音楽では、単純化して言ってしまえば、バッハの練習曲のような仕事が、その後の音楽の発展の基礎を作り、現代のロックあるいは実験音楽などにも繋がっている。
 しかし、音楽や言語に比べて、ダンスの身体は、別のものと結びつき過ぎていて、ダンスそのものの研究がおざなりになっているのです。
 僕は、ダンスにおけるメソッドと作品が、対になっているような表現をしたい。『睡眠』もメソッドの研究を発展させたものになるはずですし、この研究はその先も続いていく。長い時間がかかるでしょう。でも僕は、1000年かかる革命なら、参加してみたいのです。

――壮大ですね。

 以前、ウィリアム・フォーサイスが「300年後に残る仕事をしたい」と言っていて、その時は随分と誇大妄想っぽいなあと思ったのですが、今良い・悪いという仕事ではないものができたら、それはすごく刺激的なことですよね。
 と同時に、50年100年なんてあっという間だろうとも感じています。映画の歴史が100年くらいなのに対して、ダンスって、いつ始まったかわからないくらい、人間の根源的なもの。でも、イサドラ・ダンカンやニジンスキーによって現代舞踊ができてからはやはり100年程度しか経っていません。映画はこの100年で、産業としてものすごく発展しましたけれども、ダンスは、やっている人の人口は増えたにしても、先程も言った通り、身体の面白さが注目されるのではなく、映像や音楽などに付随している感があります。もっとダンスそのもの、身体そのものを研究することが必要でしょう。

――昨年は、劇場・スタジオ・ギャラリーが設備された創作スペース「KARAS APPARATUS カラス アパラタス」をオープンされました。

 研究の場として、このスペースの意味は大きいです。「アップデイトダンス」シリーズとして、発表・公演の場にもしていますが、「こういうことに今取り組んでいる」ということを見せられるこの場所と、次の『睡眠』のような大きな劇場での公演との関係を、うまく考えていきたいですね。

――来年はKARAS結成30周年です。これだけ続いた理由とは?

 ダンスより前、美術を学んでいたこともあって、最初は、ダンス作品を作りたいというより、人間が動くとはどういうことかに興味がありました。文楽をはじめとする人形劇など、人間のかたちを模して動くものに惹かれましたし、映画も好きでした。身体に関する謎解きをするうち、今に至っています。
 そして僕は、ダンスをやることで、社会化されました。絵だけを描いていたら、一人で作品に埋没していたかもしれない。けれども、他の人と一緒に作り、劇場で発表するダンスでは、何千もの人と向き合います。そして、観客の反応を通して、時代時代に起きていることもわかるのです。たとえば『NOIJECT』という作品をドイツで上演した時には、観客から、作り手としては意識していなかったヴァルター・ベンヤミンの話をされました。
 そうやって、自分の中にあることが社会化する面白さと難しさ。それこそが、僕がダンスを続けている理由かもしれません。

「オルガン」+262s

勅使川原三郎   photo: Sakae Oguma

 

『睡眠-sleep-』
構成・振付・美術・照明:勅使川原三郎
出演:オーレリー・デュポン 佐東利穂子 鰐川枝里 勅使川原三郎 他
http://www.st-karas.com/sleep/

東京公演:8/14(木)~17(日) 東京芸術劇場プレイハウス 
お問い合わせ:東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296 (休館日を除く10時~19時

愛知公演:8/21(木)愛知県芸術劇場大ホール 
お問い合わせ:公益財団法人愛知県文化振興事業団 052-971-5609 (平日10時~18時)

兵庫公演:8/23(土)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール 
お問い合わせ:芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255 (10時~17時/月曜休※祝日の場合翌日)

 


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