インタビュー & 特集
INTERVIEW! 『睡眠-sleep-』勅使川原三郎さん part1
勅使川原三郎さんとオーレリー・デュポン(パリ・オペラ座バレエ団エトワール)さんが初共演することでも話題の『睡眠 -Sleep -』について、勅使川原三郎さんにお話をうかがいました。(取材・文/高橋彩子)
INTERVIEW & SPECIAL 2014 8/10 UPDATE
――新作『睡眠-Sleep-』は、どのようなダンス作品になるのでしょうか?
僕は今回、眠るということそのものをテーマにします。夢ではなくて。
人間は、人生の1/3を眠って過ごしますが、眠っている状態のことは、自分ではよく分からない。眠っている人を外から見て「すやすや眠っている」「しがみつくように眠る」「とろけるように眠る」などと形容しますし、眠っている状態についても、小舟が浮かんでいるような状態、穏やかに安心している状態、あるいは、激しく唸ったりいびきをかいたり……と、様々に表現しますよね。そこから起きて、また眠るというサイクルも含めて、僕はとても興味深いと感じています。
――確かに、睡眠は、誰もが経験する日常的なものでありながら、同時に非日常的で、不思議なものでもありますね。
寝ている当人が意識できない世界に入って行くわけですし、 「永眠」「死んだように眠る」といった表現もある通り、睡眠というのは、死に近いものです。
さらに、寝ている時というのは、とても無防備で弱い状態ですよね。それは身体を休めるために必要な行為なのです。他の動作をしないことによって、寝ている時に、身体の細胞が生まれ変わり、新陳代謝していくのですから。
つまり睡眠とは、生と死が、福岡伸一さんの「動的平衡」のように存在している状態。それを、詩的にとらえることもできるし、状態を考えて動きとして解釈することもできる。面白いテーマだと思います。
――今回はパリ・オペラ座バレエ団を来年引退するエトワール、オーレリー・デュポンが出演します。彼女は勅使川原さんがパリ・オペラ座に振り付けた『闇は黒い馬を隠す』(2013)にも出演していました。オペラ座のダンサーたちはいかがでしたか?
『闇は黒い馬を隠す』は、“こういうダンサーとやりたい”という希望を僕のほうで出し、出演者が決まりました。僕はネザーランド・ダンス・シアターやフランクフルト・バレエ団など、創作ものをやるグループから委嘱されることが多いですが、パリ・オペラ座では古典もやるのが特徴的。当然のことながら、クラシックのテクニックは強いです。
去年の作品に参加したダンサーはみなエトワールで、外部の振付家との作業に関しても経験豊富でしたし、若いころから専属の教育機関で育てられているので、ただ踊りが優れているというだけでなく、学ぶとはどういうことか、きちんと訓練されているんですね。硬いようで柔らかいというか。僕が以前作った作品も見ていましたし、「サブローと一緒に作る」ということの準備はできていました。
オーレリー・デュポン photo: Agathe Poupeney
――オーレリー・デュポンに対しては、どういう印象をお持ちでしょうか。
技術的にも動きにも色々と高度なものをもっている方ですが、それ以前に、新しい動きに対する謙虚さや覚悟など、踊りへの向かい方に強いものを感じます。ただ作品のために出演してうまくこなせばいいという態度ではなく、芸術家として、ダンスそのものに対して献身的な態度というか、意識の高さが印象的です。
しかも、今までやってきたことを踏まえて自分を表現するとか、あるいは、役を演じるように没入するということではなく、ダンスに対して、まったくゼロから取り組むことができるのです。
――彼女ほどのキャリアがあれば、それまでの蓄積を武器にするのがむしろ自然だと思いますが、それを捨て去ることができるということですか?
ええ。自分をゼロにすることは簡単ではありませんが、逆に言えば優秀な人ほどそれができる。そうした素養がないと、高度なところまで行けないのではないでしょうか。
僕が今回、彼女に言ったのは、まだ表に出ていない、潜んでいるものがあるはずだから、それが現れる稽古をしましょうということ。彼女は目を輝かせて聴いていました。
結局、芸術というものは、キャリアの有無に関わらず、それぞれが自分に潜むものに対して挑戦し、表現していくもの。自分自身の内的なものと現実が出会い、その時にしかないものができるわけですから、挑戦の連続なのです。
(Part2へつづく)
勅使川原三郎 Photo:Rihoko Sato
『睡眠-sleep-』
構成・振付・美術・照明:勅使川原三郎
出演:オーレリー・デュポン 佐東利穂子 鰐川枝里 勅使川原三郎 他
http://www.st-karas.com/sleep/
東京公演:8/14(木)~17(日) 東京芸術劇場プレイハウス
お問い合わせ:東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296 (休館日を除く10時~19時
愛知公演:8/21(木)愛知県芸術劇場大ホール
お問い合わせ:公益財団法人愛知県文化振興事業団 052-971-5609 (平日10時~18時)
兵庫公演:8/23(土)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
お問い合わせ:芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255 (10時~17時/月曜休※祝日の場合翌日)