インタビュー & 特集
INTERVIEW! 『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』成河さん(2)
5月20日~6月8日世田谷パブリックシアターにて上演される『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』。こちらに出演される成河(ソンハ)さんにお話を伺いました。(取材・文/高橋彩子、撮影/笹井孝祐)
INTERVIEW & SPECIAL 2014 5/16 UPDATE
(1)のつづき。
――そのアッカーマンさんを含め、これまで、錚々たる演出家の舞台にご出演されていますが、森さんの演出はどんな感じですか?
これ、僕、一時間喋りますけどいいですか?(笑) 結論から言うと、身も心も投げ出せる方。森さんの前ではすべて見破られるので、嘘がつけません。もちろん手を抜くわけではないですけど、ちょっといい加減なことをしたら、すぐ捕まるんです。とにかく演劇を見る目が肥えていらっしゃるし、感性の部分でもすごい。一筋縄じゃいかない相手が目の前に座っているというのは、キツいことでもありますけど、これほど頼もしいことはないですよね。あと、良い演出家って、考えがコロコロ変わるんです。サイモン・マクバーニーなんて「それは30秒前に言ったことだ!」と怒り出す人ですけど、森さんもおそらくですが敢えて、意地でも、固執しない。で、飽きっぽい。ある程度固まったかなと思ったところで、次のパターン行きましょうと言うんです。森さんが飽きたらお客さんは飽きるということですし、それは突き詰めれば僕らがどこかで飽きているということ。常に掘り続けない限り、森さんには見抜かれてしまうので、俳優は必然的に掘り下げることを選ぶようになります。そうやって幾つもの道を辿って、「結局あそこは何に決まったんだっけ?」ということを、おざなりにして、次に進む。これって素晴らしいことなんですよ!
――固まらないまま進む稽古って、もやもやしません?
俳優にとっては非常にしんどいですね。でも森さんは、意外と僕と世代が近く、お互い30代ということもあるのか、すごく話を聞いてくれます。一人一人が腑に落ちるまで議論を尽くし時間をかけてくれて、急がないし、「急がなくていいよ」と言ってくれるし、成果主義に走った時は止めてくれる。そういうふうに、きちんとコミュニケーションを取ってくれる丁寧さと、ころころ変わっていく飽きっぽさとのバランスが良い方なんです。誰よりも勉強なさっていて、何かあったら「すみません。読んでみてわかったんですが、昨日言ったことは間違いでした。もう一回考えさせてください」とか、きちんとご自分の非を認めてくださるところも潔くて素敵ですね。僕は本当に目がハートマークですよ、「森さん〜!」って(笑)。
――稽古場の雰囲気、良さそうですね。
座組みの中は一つにまとまっています。内野(聖陽)さんを先頭に、みんなで心がけているのは、翻訳劇だからといって不自然な言い回しにしないこと。だから、他の人のシーンや台詞についてもバンバン意見を言うんですよ。最初、内野さんがご自分の台詞じゃないところの翻訳にも意見を言うので、わーっと思って、じゃあ試しに僕も、とドキドキしながら言い始めて。今や、みんなして言い合っていますよ。稽古が終わったあと、家で次のシーンを英語で読んできて、翌日は「小田島さんはこういう意図で訳されたんだろうけど、今やっている感じではもっとこうなんじゃないか」みたいな議論から稽古が始まるんです。それを現場主義で認めてくださる小田島さんや議論をさせてくれる森さんのお陰で、最高に贅沢な時間を過ごしていますね。こういうことがやりたいから、演劇やっているんだよなあと感じます。
――ルエリがルームシェアするマイケル役の浦井健治さんはいかがですか?
浦井君は、ミュージカル界の松田優作ですよ! 立ち稽古に入ってすぐのころ、浦井君演じるマイケルが小林勝也さん演じるフランク・マカードルにお腹を殴られるシーンで、まだ殺陣もついていないから、あくまで殴られた体(てい)で、浦井君は呻き続けなきゃいけなかったんです。でも彼は手を抜かないわけですよ。呻き続けて、結果どうしたかと言うと、吐いたんです、ぶわーって。「ごめんなさい、吐いちゃいました」と稽古が止まったんですけど、すごいなあと思って。お芝居に向かう姿勢が、全身全霊全力だし、それでいてめちゃくちゃ空気が読める人でもあるので、一緒にやっていて楽しいですね。
――先程、「贅沢な時間」とおっしゃいましたが、それはどこかで終わるわけですよね。まもなく公演初日です。
でもね、終わらせないほうがいいと思うんですよ。稽古場では毎日毎日、じっくりと土を耕しているわけですよね。睡眠だって勉強するために取らなきゃくらいの勢いで、24時間、この芝居のために使っている。それなのに、どこかで急いで“それっぽいところ”にはめ込んだら、こういう題材をやる意味はない。このペースのまま耕し続けて、半年後を目指すような気持ちで、過程を観てもらえばいいんです。これだけの作品を1〜2ヶ月でまとめるなんて、傲慢な話なので。
――なるほど。俳優の皆さんも考え続けるし、幕が開いてからは、観客も一緒に考え始める、と。
言葉も解釈も、何パターンも考えられる戯曲なので、本番中にもどんどん変化していくんじゃないでしょうか。千秋楽まで思考を止めないことが一番大事なんだろうと思いますね。まあ、言い方の問題ですけど、急がなきゃというふうには、できるだけ考えないようにしています。サービスに偏ってしまったら、つまらないものになってしまうでしょうから。
――この1年間の成河さんの活動を見ると、昨年の『アジア温泉』と『春琴』の国内外ツアーのあと、『ショーシャンクの空に』があり、今年は『9days Queen』、そして本作。改めて、ヴァラエティに富んでいるなあと思います。
雑食ですよね(笑)。いただいたものを楽しく演じているだけですけど、振り返ると、色々とやっているなとは思います。ただ、違うものとしては捉えていないですね。今回の『ビッグ・フェラー』は本当に手強くて、その手強さに自分が気づいているのも一つの成長かもしれないですけど、これまでの演劇活動の中で教わったこと、見聞きしたこと、経験したことを、総動員して注ぎ込む用意があります。全部を使わないと、あまりにも分からなさ過ぎる世界ですから。今はとても充実しています。
★★★成河さんからのメッセージです★★★
プロフィール
成河(ソンハ)
1981年生まれ、東京都出身。平成20年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞受賞、 『BLUE/ORANGE』および『春琴』の演技により第18回読売演劇大賞 優秀男優賞受賞。著名な演出家とともに幅広い舞台で活躍。最近の舞台では『ショーシャンクの空に』主演、『9days Queen~九日間の女王~』など。
『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』
2014年5月20日(火)~2014年6月08日(日)
世田谷パブリックシアター
[作] リチャード・ビーン
[翻訳] 小田島恒志
[演出] 森新太郎
[美術] 二村周作 [照明] 佐藤啓 [音響] 藤田赤目
[衣裳] 半田悦子 [ヘアメイク] 川端富生 [アクション] 渥美博 [映像] 冨田中理
[演出助手] 城田美樹 [舞台監督] 澁谷壽久
[出演] 内野聖陽 / 浦井健治 / 明星真由美 町田マリー 黒田大輔 小林勝也 / 成河
[国内ツアー]
■兵庫公演
6月12日(木)~15日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
お問合せ:芸術文化チケットセンターオフィス 0798-68-0255
■新潟公演
6月21日(土)・22日(日) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
お問合せ:りゅーとぴあチケット専用ダイヤル 025-224-5521
■豊橋公演
6月28日(土)・29日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
お問合せ:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 0532-39-8810
■大津公演
7月5日(土) 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
お問合せ:びわ湖ホールチケットセンター 077-523-7136
公式サイト http://setagaya-pt.jp/theater_info/2014/05/the_big_fellah.html