インタビュー & 特集

INTERVIEW! 片桐 仁さん 『海峡の光』

辻仁成さんが、自身の芥川賞受賞作『海峡の光』を舞台化。自ら演出・脚本を務め、中村獅童さん演じる受刑者・花井を主人公にした新たな『海峡の光』を生みだしました。この舞台に看守・斉藤役で片桐 仁さんが出演します。稽古初期の片桐さんにお話をうかがいました。
撮影/熊谷仁男 取材・文/高橋彩子

INTERVIEW & SPECIAL 2014 4/7 UPDATE

●辻仁成さんの芥川賞受賞作を、作家自身の脚本・演出で舞台化するということで話題の『海峡の光』。お稽古が始まってみて、いかがですか?

辻さんの頭の中でイメージが爆発していて、毎日のように大きな加筆があるのですが、それがだいたい僕がらみのシーンなので困っています(笑)。というのも、そもそも原作の小説は斉藤の目線で描かれているので、辻さんは戯曲化の段階で、獅童さん演じる花井については新たに書き込んでいらっしゃる。それが今度、僕の役である斉藤についても、奥さんとのやりとりや刑務官同士の会話などを通して、舞台版として掘り下げられているところなんです。

●片桐さん演じる刑務官・斉藤の前に、子供時代にいじめられた相手である花井修(中村獅童)が受刑者として現れるという物語ですが、時系列としては、回想形式で子供時代の話が出て来るのでしょうか?

そうですね。刑務所での現代と昔とが、ぱぱぱっと入れ替わっていく中で、次第に斉藤が花井の幻影に苛まれていきます。僕はその幻影から影響を受ける立場なので、なるべく色々なことをキャッチしなくてはと思いながら演じています。獅童さんは先輩感、兄貴感がすごくて、カリスマ的で、声も良いから、そこがまた花井っぽい。僕はそこにどんどん“巻き込まれて”いこうと考えています。

●今、巻き込まれるとおっしゃいましたが、この物語に描かれる斉藤と花井の関係は本当に独特で、因縁めいていますよね。

不思議な関係ですよね。斉藤は刑務官なのに、なんだかんだ言って受刑者の花井には逆らえないと思っている。一方の花井は、管理される側なのに周囲に対して強い影響力を発揮していくし、刑務所という場所で縛られているはずなのに、ずっとそこにいたいと願っていて、欲から解放され、自由さと神々しさを増しているように見える。そういう二人を通して、人間って何だろうとか、幸せって何だろうとか、そうしたことが描かれているんだと思います。

●単なる他人を超えた存在というか…。

表と裏というか、一人の人間の二面性みたいなところがあります。実際、企画段階では、獅童さんが一人で両方の役を演じるという話もあったらしいです。でも僕個人は、斉藤のほうに惹かれますね。誰にでも、仕事上の役職での自分とか、夫としての自分とか、そうした分け方があると思うのですが、そういうものを抜きにした時、自分はどういう人間なんだろうと、常に考えて揺らいでいる斉藤は、人間らしくて魅力的。 “片桐仁”にしても、若い人が多い現場と先輩が多い現場では違うし、彫刻業の時と俳優業の時も違うけれど、本当は何がやりたいのか、いつも探しているような感じがあるので。

●その時その時の役割に収まりきらない自分というものも、出て来るのでしょうし。

それはあると思います。そして、他の人って、意外とそういうところを見ていたりもする。トーク番組で、自信がなかっただけだったのに「しゃべりたくなさそうにしているあの感じでお願いします」と言われることもあるし、自分では良くなかったなあと思っている演技を「良かった」と言われることもある。だから、自分の可能性って、自分だけでは計り知れないんですよね。こちらの意図が伝わりやすい芝居とそうでない芝居がある上に、観る人によっても違いが生まれるから、そこが大変だし、面白い。さらに演劇は、目の前にお客さんが座っていますから、そういう人たちの圧力みたいなものに、ぐっと耐えることにカタルシスもあります。

●しかも今回、俳優の皆さんは、作家がまず小説の中で自由に書いた世界を、舞台で実際に演じなければなりません。

難しさはありますよね。小説を読んでから観に来られるかどうかによっても、印象が変わるでしょうし。辻さんも舞台版にするには相当な苦労があったはずですけど、失礼な言い方をすれば「うまいことやったな」と(笑)。小説と脚本では一部、展開が違う箇所もあるし、何よりこの世界を生身で表現するところに、衝撃を受けてもらえると思います。戯曲のト書きには、動きから音楽から照明から、すごく細かく書かれているので、辻さんがイメージするところまで到達したいし、そこから先、どこまで伝えられるかは、役者の力次第。稽古はハイペースで進んでいますが、まだまだやれることは多いなと感じています。

●ちなみに斉藤はラグビーをやっていて筋骨隆々という設定です。

困っちゃいます(笑)。獅童さんも体格良いし、他の刑務官の方々も大きいし。だけど、何らかのかたちで斉藤の威圧感は出したいですね。それによって、彼の弱さとの落差も出るので。刑務官という仕事自体、人間であることを超えたいわば聖職で、無理をしているところがある気がするんですよ。ずっと犯罪者と一緒にいて、会話したらいけないし、出所する時にはがんばれよって思うわけじゃないですか。辻さんは小説を書く前にすごく取材をされていて、斉藤のモデルになった刑務官が実在していて、飲みに行った先で元受刑者に遭うと、「向こうは自由にやっているのに自分はずっと刑務所にいなきゃいけない。どっちが捕われているんだろう?」と考えたりする、と話していたそうです。

●稽古場では、辻さんからどんな演出・注意を?

斉藤は、家にいたはずなのにいきなり回想が始まって、「あ!」ってなるリアクションが多いんですけど、ふざけていないのに辻さんから「ふざけないでくれ」と言われたりします(笑)。あと、回想の場面で、花井を尾行するんですが、これも「コントっぽく見えちゃう」と。ずっとコントをやってきたし、演劇でも普段、コメディ的な部分を担うことが多いので、どうしてもそう見えてしまうみたいで。今回は、囚人同士では和むようなシーンもあるんですけど、僕には笑える場面は一切なく、緊張感を維持し続けなければなりません。

●なぜ今、そうした芝居に挑もうと思われたのですか?

こういうお話は、いつか来ないかなと思っていました。お芝居自体には、コメディだろうがそうでなかろうが優劣はないですけど、僕自身のイメージとして新しいものが欲しくて、シリアスな役がやりたかったんです。でも、この髪型にこの眼鏡ですから、なかなか話が来なくて。今回は、髪も眼鏡もやめる予定。新しい自分を観てほしいです。

●髪を切るのは何年ぶりでしょうか?

96年のデビュー以来ですから、18年ぶりです。この機に片桐仁のイメージが変わるといいなという願望はありますね。コメディは一番好きだし、ラーメンズというコントグループでの活動がメインではあるんですけど、お芝居では、ちょっと風貌が変わっただけでガラリと変化して見えるのも醍醐味。こっちの気の持ちようというのもあるかもしれないですし。去年40歳になり、色々な可能性を考えていきたいと思っているところに、この機会をいただいたので、大いに挑戦したいですね。

[プロフィール]

片桐 仁

かたぎり・じん
俳優、コメディアンで、コントユニット「ラーメンズ」の一人。独特の存在感で、舞台、ドラマ、CMなどで活躍している。最近の舞台出演作品は『ライクドロシー』『小野寺の弟・小野寺の姉』『レミング―世界の涯まで連れてって』など。

[公演情報]

読売新聞創刊 140 周年記念 『海峡の光』

4 月 11 日(金)~29 日(火・祝) よみうり大手町ホール
脚本・演出; 辻仁成
音楽:SUGIZO
出演:中村獅童、片桐仁、村川絵梨/青木玄徳、曽世海司、佐藤洋介、水野愛子、玉城裕規、前内孝文、明石鉄平、諸橋幸太、小早川浩一、俊藤光利、横山一敏、勝矢
公式サイト●
http://www.ntv.co.jp/event/stage/kaikyo.html
http://yomi.otemachi-hall.com/event/event_2103.html
問い合わせ:サンライズプロモーション東京●0570-00-3337


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