インタビュー & 特集
SPECIAL! 『レディ・ベス』シルヴェスター・リーヴァイ氏インタビュー
ミヒャエル・クンツェ×シルヴェスター・リーヴァイ×小池修一郎のゴールデントリオによる新作ミュージカル『レディ・ベス』がいよいよ今月、日本でワールドプレミアとなります。2014年の超話題作とあって、早々に行われた製作発表記者会見は一般募集のオーディエンス約200名が参加して大規模に行われ、大いに盛り上がりました。その興奮が冷めやらぬ翌日、音楽・編曲のリーヴァイ氏に今回の音楽のお仕事についてお話を伺いました。(文・小柳照久、撮影・熊谷仁男)
INTERVIEW & SPECIAL 2014 4/2 UPDATE
――盛大な『レディ・ベス』製作発表でした。
リーヴァイ 特別な体験をさせていただきました。会場中が熱気に満ちていましたね。檀上もスターの方々が勢ぞろいしていて、もの凄いエネルギーが流れていました。プレスのみなさんにプレゼンテーションするのと同時に、ミュージカル・ファンのみなさんにもアピールできて興奮しました。
――いよいよ『レディ・ベス』の姿が見えてきましたが、リーヴァイさんはいつごろからこの作品に関わっているのですか。
リーヴァイ (製作発表の段階では)既に作曲は終わっています。4年くらいかかりました。『エリザベート』では4年半、『モーツァルト!』では5年。でも、私は時間をかけてじっくり作品を練り上げていくタイプなんです。一度作った曲は、1~2週間たったころ、もう一度聴きなおしてみます。すると「あ、これじゃないな」「変えてみなきゃ」と思うことが出てきたりします。何回聴き直しても自分で納得できるよう、熟成させるために時間が必要なのです。
芸術というものは、感じないことを無理矢理表現することはできないので、今日はこれ、明日はあれという予定は立てずに、その日のコンディションや仕事場に到着した時の気分で「今日はこの場面に取り掛かろうかな」というように作っています。これは何年も作業していく中で出来上がったスタイルです。
――製作発表の会場では英語版で『レディ・ベス』のナンバーが流れていました。
リーヴァイ そうですね。歌詞と音楽が出来上がると、クンツェさんとともにスタジオに入り、曲のイメージに合う歌手とデモ用のレコーディングを行います。そして、今一度、歌詞やメロディを調整して一つの形に整えます。これが最初の段階です。
――日本では何をされるのですか。
リーヴァイ キャスティングされた俳優に実際に歌ってもらい、キーの高さの調整などを行います。一例ですが、『レディ・べス』でロビン役を演じる山崎育三郎さんに、以前『モーツァルト!』でご一緒した時の感覚で、「キーを下げましょうか?」と声をかけてみたら「僕、もっと上げてほしいです」と言うので、ためしに上げてみたら、素晴らしい歌を聞かせてくれました。通常、私の曲は高すぎることが多いんですが(笑)。
もちろん、場合によっては「無理だ」と言うこともあります。例えば、『エリザベート』の「私だけに」は変ホ長調で作曲しましたが、キャラクターを活かすためにこだわった響きなので、基本的に移調は認めていません。オリジナルのキーで歌える人をキャスティングします。
一方で、今回、べスの家庭教師・アスカム先生のナンバーは、あらかじめ山口祐一郎さんにキーの高さを相談しました。このように場合によって、状況によって、クリエイティビティのかかわり方というのが変わってきます。
――製作発表後、初日までの流れもお聞きかせください。
リーヴァイ 初日までの数ヶ月前は、音楽監督の甲斐正人さんと作業していました。甲斐さんとは18年前からの仲で、ご自身も作曲家であり、指揮者であり、私の音楽を熟知してくださっているので、絶対の信頼を置いてます。ピアノ譜とオーケストラ譜の見比べを行っていると、私ですら見落としてしまうような小さな違いを見つけてくれるんですよ。
また、稽古が始まった時に無駄な時間を取らせないような準備もふたりで行っています。例えば「ミュージカル・ナンバーの最後をリピートしてちょっと伸ばした方が効果的なのではないか」とか、「楽譜では下がっているけれど、デモテープでは最後の音が1オクターブ上がっていたりしている。さてどっちが良いかな?」などと相談しています。
実際に稽古が始まってからはキャストに曲の構成やニュアンスを説明し、さらにオーケストラが加わってからもまたチェック・調整を行うという日々が初日まで続きます。演出家やプロデューサーとも、芝居の流れや全体のバランス、上演時間などの調整を持ち掛けられます。
――リーヴァイさんの作品はどのように歌うのが望ましいのでしょうか。
リーヴァイ 私の作品にはある程度の歌唱技術が求められますが、ただ技術的に音を追うのではなく、俳優の歌として、曲の内面を表現してもらいたいと思っています。オーディションを突破する俳優さんはみなさん素晴らしい才能をお持ちですが、時にはまだ技術的に熟していない人がキャスティングされることもあります。そんな時は、その才能を活かすべく、歌のレッスンについてお話をすることもあります。エリザベートやレディ・ベスのような高貴でドラマティックな役の場合は「位取り」が大切です。役者が体感したことを表現して初めて、お客様に感じていただけるものとなるので、歌唱力だけでなく役者としての力量も求められます。
――今回の舞台は世界初演となりますが、演出の小池修一郎さんとは『エリザベート』『モーツァルト!』に続いて三本目になりますね。
リーヴァイ 小池さんとは18年前に知り合いました。その翌年に宝塚で『エリザベート』が日本で初演されました。そして『モーツァルト!』は舞台全体を効果的に使った素晴らしい演出で私のお気に入りの一つとなっています。今回も完全なる信頼、いや、それ以上のものを感じています。2014年は、宝塚歌劇団の創立100周年ということで、小池さんの参加がスケジュール的に難しかったのですが、宝塚歌劇団や東宝の関係諸氏のご協力により、彼が『レディ・ベス』に参加できることになって、心から感謝しています。
製作発表ではほんの数曲しか披露できませんでしたが、たくさんの素敵な曲を書き下ろしました。自信作です。私も初日を楽しみにしてます。
――世界各地で作品が上演されるリーヴァイさんですが日本のカンパニーの特徴ってありますか?
リーヴァイ どのプロダクションも自分の子供のようなものなので、可愛くてたまらないのですが、それぞれ個性はあります。今回、『レディ・ベス』では、高いクオリティでダブルキャストが組まれたことが嬉しいです。欧米ではファースト・キャスト、セカンド・キャストと呼ばれるのですが、カンパニー内での扱いや、俳優のクオリティに差があって、残念に思うことがしばしばあります。自分の作品を観に行って、クオリティが落ちていると、生みの親としては悲しくなるのと同時に、お客さんのことを思うと腹立たしく感じることもあります。しかし、今回のカンパニーでは、互いに刺激を与え合いながら、対等に競い合えるという、素晴らしいWキャストが組まれています。そのようなキャストの皆さんを集めて下さったことに感謝しています。
――今回、多くの役でWキャストが組まれましたが、個性や声質が異なる役者たちです。
リーヴァイ Wキャストのメリットは、作品を違った角度から眺められることです。だから、お互いに相手をコピーしちゃダメだよ、とよく言ってます。コピーしてしまうと個性がなくなってしまいます。もちろん、キャラクターは役に合ってないといけないけれど、それでも個性というのは絶対必要なもので、役者ごとに自分の魅力を舞台で見せなければなりません。メイン・キャストの歌は全員それぞれの味がありますので、多彩な組み合わせの中、観るたびに異なる魅力が見られることに、とてもHAPPYな気持ちです。初日に向け、スタッフ・キャスト一丸になってさらにブラッシュアップしていきます。どうぞご期待ください。
Photo by Leslie Kee
ミュージカル『レディ・ベス』
2014年4月13日(日)~5月24日(土)帝国劇場(東京)※プレビュー公演4月11日(金)・12日(土)
2014年7月19日(土)~8月3日(日)梅田芸術劇場メインホール(大阪)
2014年8月10日(日)~9月7日(日)博多座(福岡)
2014年9月13日(土)~24日(水)中日劇場(愛知)
脚本・歌詞/ミヒャエル・クンツェ
音楽・編曲/シルヴェスター・リーヴァイ
演出・訳詞/小池修一郎
出演/平野 綾/花總まり、山崎育三郎/加藤和樹、未来優希/吉沢梨絵、平方元基/古川雄大、和音美桜、吉野圭吾、石川 禅、涼風真世、石丸幹二/山口祐一郎
お問い合わせ/東宝テレザーブ 03-3201-7777
公式サイト/http://www.tohostage.com/ladybess/