インタビュー & 特集
INTERVIEW! 『冬眠する熊に添い寝してごらん』井上芳雄さん Part.1
Bunkamuraシアターコクーンにて1/9(木)~2/1(土)に上演され、2/7(金)~2/12(水)には森ノ宮ピロティホールで上演される『冬眠する熊に添い寝してごらん』。この作品で、10年ぶりに蜷川演出の舞台に立っている井上芳雄さんに、舞台の合間を縫ってのロングインタビュー。稽古期間から、実際に幕が開いてからの気持ちなど、赤裸々に語っていただきました!(文/武田吏都、写真/齋藤ジン)
INTERVIEW & SPECIAL 2014 2/7 UPDATE
――『冬眠する熊に添い寝してごらん』は“一筋縄ではいかない”という感じが特にする作品ですが、キャストとして毎公演どんな気持ちで臨んでいますか?
毎日必死にテンション上げてやってるって感じですけどね。あまりこういう話をやったことがないので、あの世界に行けるんだろうか、今日は行けないかもしれないって毎回思いながら。一緒にやっている上田(竜也)くんや(鈴木)杏ちゃんと一緒に「できるよ、できるよ!」って励ましあいというか、テンション高めあいながらやっています。稽古中はこの世界を作る、入るっていう大変さがあったと思うんですけど、それを毎回やるという別の大変さを、改めて感じているというか。
――でもそれはこれまでの舞台でもずっとやってきたことだと思うので、改めておっしゃるのはまた違う種類の大変さがあるということ?
やっぱりちょっと種類は違う気がします。なんていうのかな、ちょっとでもテンション落としたら死ぬぞ、みたいな(笑)。登場人物みんな基本的に生きてる温度が高いようなところがあって、そのエネルギーを毎回出すことに命の危険を感じる気がするっていうか。でも出さないとやれなくて、今日は行けないんじゃないかと、本能的に不安になったり。
――動物的、野生的な感覚が研ぎ澄まされるんですかね。動物がたくさん出てくる作品でもありますけど(笑)。
そうそう、だからあまり考えてもできないし。ただの瞬発というか、そこで感じることは全部やってみよう、みたいな。心も体も意識も全部開いて、舞台に出て行くという感じですかね。
――ト書きの重要性が高かったり、脚本の形態としてもユニークなものですが、他の作品と比べて役を作る上での違いはありましたか?
蜷川さんが「この人(井上が演じる川下一(カワシモ ハジメ)は松岡修造みたいな人だな」って言ったから、僕の中ではそこから松岡さんのことしか頭になくて。松岡さんならどう言うか、どうするかみたいな。一というよりほぼ松岡さんを演じているというか、極端な話(笑)。ただ……これちょっと誤解される表現かもしれないけど、演じるって意味ではすごく気が楽なんです。台詞やト書きを1個1個追っていって、こことここは矛盾してるとか、この人はこんなことはしないとか、そういうホンではないじゃないですか。それこそ松岡さんみたいなテンションの高さとか、暴力的なまでのポジティブさとか(笑)そういうのはなくさないようにとは思うんですけど、それぐらいで、細かいところはなんでもありなんじゃないかなっていう気はしていて。
――なるほど。ものすごく軽やかな印象がありました。
だからあんまり何も考えていないんですよね。とにかくテンション保てるかとか、ノドが持つかなとか、結構基本的な部分が主っていうか。
――難解と受け止められがちな、少なくとも井上さんご自身やファンはこれまであまり経験したことのないタイプの作品ですが、初日の幕が開くまで、お客さんにどう受け止められるだろうといった不安はありましたか?
僕自身が初めてだから、どこまで伝わるのかなっていうのは多少ありましたけど、根本的な不安はなかったような気がしますね。やっぱり蜷川さんという大きな存在の人がいて、「よくわかんねえけどやろう。やるぞ!」って風になっているから(笑)、そこに着いていく信頼感や安心感はすごくあったので。だから理解はできなくても何か持って帰ってもらえるんじゃないかなっていう期待はありました。それにゲネプロまでずっと、笑いの場面でもシーンとしてたから、お客さんが入った方がやりやすいだろうっていうのはみんな言っていたんです。実際幕が開いたら、特に一幕とか反応がたくさんあったし。
――確かにあの、一(井上)とひばり(鈴木)とのラブシーンなんかは稽古場ではやりづらそうですね(笑)。
あそこは稽古場では2、3回しかやらなかったんですよ。蜷川さんが気を遣ってくださってというか、最初にやったときに「お、ここまでやってくれたか」って感じになって(笑)。あまり慣れるのもよくないから、無駄にやるのはやめよう、みたいな。今も段取りとか全然決まっていないんですよね。杏ちゃんとお互いに、ここはこうしようっていうのは多少はあるけど、いる場所も毎回違っている感じで。
――今回、作品理解のための特別な時間はあったんですか? みんなでテーブルを囲んで話し合ったりとか。
ほとんどないですね。本読みもしなかったし。作者(古川日出男)本読みはあったんですけど、僕らはやらずにすぐ立ち稽古でした。もちろん役者同士で「これどういうことだろうね?」とか、蜷川さんの話の中でも出てきたりはしましたけど。で、どうしてもわからないときは、演助の方に古川さんに直接メールして聞いてもらったりしていました。そうすると、結構詳細な答えが返ってくるんです。まあ当然だけど、「あ、全部説明できることなんだ」と思いながらやっていましたね。
――井上さんご自身の最初に台本を読んだ印象は?
やっぱりわかんないなと思いました。話がどんどん飛ぶし、出てくる人たちみんなぶっ飛んでるし。……とは思ったんですけど、蜷川さんがこれをどう具現化、3D化するのかは興味があるなと思いました。あとやっぱり僕の個人的なことだけ言わせてもらえれば、蜷川さんと10年ぶりにやらせてもらうことがすごく大きくて。作品そのものより、もう一度蜷川さんとやれるのかというところがテーマではあったので。
――それは10年前の『ハムレット』(蜷川演出、井上はレアティーズ役で出演)での経験を踏まえての発言ですね。不安やリベンジしたい気持ちとかを抱えつつ、StarSなどの活動もされていたわけですね(笑)。
まあ忙しすぎて、あまり考える暇なかったんですけど(笑)。ただ10年前のことはほんとにトラウマのように、怖くて大変だったって感覚しか残っていないんですよね。もちろん10年前と今の自分は違うだろうけど、何が変わって何が変わっていないかなんて自分にはよくわからないし。作品をやらせてもらうことは演出家に身を預けてその世界に入っていくことだから、そうしたときに自分がどのぐらい応えられるのかなって不安はやっぱり、稽古が近づくにつれてありました。10年前は蜷川さんに「井上くんはまだミルクな感じがするな」みたいなこと言われていたので、じゃあ今はミルクっぽくなくなってるのかどうかも自分ではわからないし。だからもう「わかんねえな!」と(笑)。やってみるしかないっていうか、できる限りの準備をして、とにかく今持ってるものを出すしかないなと。だから台詞は稽古初日までに覚えていたし。それでダメだったらまた1からやるしかないなぐらいの決意ではいましたね。
井上芳雄●いのうえ・よしお
1979年、福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科在学中の2000年に『エリザベート』のルドルフ役でデビュー。以後、ミュージカルや舞台を中心に活躍。06年読売演劇大賞杉村春子賞、08年菊田一夫演劇賞、13年読売演劇大賞優秀男優賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞 他を受賞。出演作にミュージカル『モーツァルト!』『ウェディング・シンガー』『キャンディード』『三銃士』『二都物語』、舞台『ハムレット』『ロマンス』『組曲虐殺』『イーハトーボの劇列車』、映画『おのぼり物語』『宇宙兄弟』『プレーンズ』など。本年は3月~4月『ダディ・ロング・レッグズ〜足ながおじさんより〜』、9月『シェルブールの雨傘』、11月~12月『モーツァルト!』に出演予定。
『冬眠する熊に添い寝してごらん』
2014/1/9(木)~2/1(土) Bunkamura シアターコクーン
2014/2/7(金)~2/12(水) 森ノ宮ピロティホール
作:古川日出男
演出:蜷川幸雄
出演:上田竜也、井上芳雄、鈴木杏、勝村政信
立石涼子、大石継太、冨樫真、間宮啓行、木村靖司、石井愃一、瑳川哲朗、沢竜二ほか