インタビュー & 特集

INTERVIEW! 大駱駝艦・天賦典式 創立40周年公演『ウイルス』 麿赤兒さん part1

今年、創設から40年を迎える大駱駝艦。国内はもとよりヨーロッパやアメリカなど海外でも公演を行い、近年では舞台『金閣寺』に舞踏手たちが参加するなど、注目を集める舞踏カンパニーです。その40周年記念公演が7月5日より世田谷パブリックシアターにて上演されます。公演に先立ち、主宰者の麿赤兒さんにお話をうかがいました。

(取材・文/高橋彩子 トップ画像撮影/荒木経惟)

INTERVIEW & SPECIAL 2012 7/1 UPDATE

*大駱駝艦40周年の新作でなぜ、“ウィルス”という題材に至ったのでしょうか?

僕は作品を創るにあたって、だいたい、古いほうへ古いほうへと行くんです。以前は、自分の出身地である奈良だとか、僕の師匠・土方巽の故郷である東北だとか、そういうところに原風景を求めていたけれども、遡るうち、35億年前から存在しているウィルスに辿り着いたんです。何かに寄生しないと生きられないウィルスの性質というのは、人間を含めて全生物に言えること。「風が吹けば桶屋が儲かる」じゃないけれど、すべては連関していると考えられます。

*つまり、より深く広く、原風景、原始を求めた結果であると?

35億年前がどういう風景だったかはわからないけれども、なんらかの影響を受けて、人間は存在しているわけですね。付け焼き刃で勉強したところによれば、ウィルスはだいたい、一人の人間の身体に3億個くらいあって、絶妙にバランスで、人間を人間たらしめている。ウィルスだとか遺伝子だとか、そういう小さなものが身体の中でたくさん蠢いていて、一歩間違えると致命的になる、その“ハラハラ感”も面白いね。我々はウィルスを、遺伝子を、宿主として綿々と運ぶ。そうしたもののために一生懸命生きているとも言えるわけだ。そんな人間の可愛さ、愛おしさというのかなあ。

「海印の馬」2004(世田谷パブリックシアター) 撮影/山崎博人

*ウィルスを病原体と考えると排除の対象ですが、宿主との共生関係もあるわけですよね。

そうですね。共生にも色々あって、宿主が進化するように働く場合もある。その進化にしたって、必ずしも人間の善悪の範疇にはない。マジョリティ(多数派)だから健康、マイノリティ(少数派)だから病気ということになるけれども、本当はマジョリティが病気かもしれないわけですよ。そもそも、顕微鏡で細胞を見ても、58パーセントくらいは「不明」らしいね。そんなふうにわからないことを、さらに踊りとしてこねくり回すから、余計にわけがわからなくなる(笑)。わからなさの広大な海を前に浜辺に立っているのが、楽しいんです。

*そうした世界を、どのように作品にしていかれるのでしょう?

例えば言語能力を司る遺伝子に“FOXP2”というのがある。賢い・ずるい・すり抜けるといった狐のイメージを込めた名前なわけですね。日本でも狐は化かすと言うでしょ。そういうふうに、ウィルスやDNAやRNAにはキャラクターがあるんです。それはもう、シェイクスピア劇のようにドラマティックなものなんですよ。寄生して別のものになっていくというのは宗教的というか、仏の世界みたいですらあるし。

だから、出演者に「お前はレトロウィルスだ」とか「FOXP2だ」といった具合に役を決める。そして、あほみたいな演出ですけど、「お前、5億年を背負っているはずだろ、まだ3000年にしか見えないぞ」とか言うんです(笑)。空想、想像、妄想の世界なんだけれども、言われたほうが「5億年だぞ!」ってグーッとやっているうちに、面白いことに、本当に5億年背負っている感じが生まれてくるんですよ。

「魂戯れ」2006(前進座) 撮影/松田純一

*現代にありながら5億年を目指して苦闘する、いわば身体のせめぎ合いが、先程おっしゃったような、ウィルスがギリギリのバランスで身体に存在するハラハラ感とも重なるわけでしょうか。

そのせめぎ合いが、ハラハラするしエロティックなんだよな。やっていくうちに、舞台にしても、ウィルスの指図でやっているような気になってくるんだ。

*いわば、ウィルスに身体が動かされている、と?

そうそう。今まではそういうものを神様とか呼んで作品にしてきたけれど、ウィルスも、わからない・見えないという点で神に通じるところがあるよね。その意味では、これまでやってきたこととつながっています。

*今回の『ウィルス』では、デトロイト・テクノのジェフ・ミルズさんが音楽を手がけるのも話題です。公式ウェブサイトの動画でウィルスの情念に言及なさっていましたが、その情念とテクノが、どうつながるかも気になります。

彼は前回の『灰の人』パリ公演を観に来てくれて。今回、5曲作ってもらったかな。尺八演奏家の土井啓輔さん(『灰の人』の音楽も担当)と二人の作曲を使います。まあ、どこまでが情念でどこまでがマテリアルなものかに関しては主観的なことだし、僕はエロ指数が高いから、エロティックかどうかが大事。エロもホルモンの働きだと考えると、それは情念というよりマテリアルに近いし、数字だってアルファベットだって見方によってはエロティックでしょ。

彼はセンスのいい人だし、その音が鳴っているだけでこちらの琴線に触れる。この間、うちの稽古場へ来て、とても面白がっていました。音楽と踊りの相互作用だから、既にできていた振付が音楽とぴたっと合っちゃうところもあるし、僕の固定概念からはみ出す「あ!」と思うものがいっぱいありますね。

(part.2に続く)

「カミノコクウ」2007(世田谷パブリックシアター) 撮影/松田純一

 

[プロフィール]

麿赤兒

まろ・あかじ
1943年生まれ、奈良県出身。
「ぶどうの会」(山本安英主宰)を経て、1964年より舞踏家土方巽に師事。その間唐十郎との運命的出会いにより状況劇場設立に参加。唐の「特権的肉体論」を具現化する役者として、60~70年代の演劇界に大きな変革の嵐を起こす。状況劇場退団後、72年に舞踏集団「大駱駝艦(だいらくだかん)」を旗揚げし、舞踏に大仕掛けを用いた圧倒的スペクタクル性の強い様式を導入。“天賦典式”(てんぷてんしき)と名付けたその様式により国内外で注目を集める。また、役者としても活躍。映画『月はどっちに出ている』『KILL BILL』ドラマ『水戸黄門』『篤姫』『サラリーマン金太郎』舞台『毛皮のマリー』『丹下佐膳』など数多くの作品に出演している。2006年度文化庁長官賞受賞。2012年10月にはフランス・メキシコでの公演が決定している。

[公演情報]

大駱駝艦・天賦典式 創立40周年公演『ウイルス』

7月5日(木)~8日(日) 世田谷パブリックシアター
振鋳(振付)・演出:麿赤兒
鋳態・出演:
麿赤兒
村松卓矢 / 向 雲太郎 / 田村一行 / 松田篤史 / 塩谷智司 / 奥山ばらば / 湯山大一郎
若羽幸平 / 橋本まつり / 小田直哉 / 小林優太
我妻恵美子 / 高桑晶子 / 鉾久奈緒美 / 藤本梓 / 真鍋淳子 / 梁 鐘譽 / 伊藤梨紗 / 岡本彩 / 西森由美子 / 三田夕香 (以上22名)

問い合わせ:大駱駝艦 0422-21-4984  ticket@dairakudakan.com
http://www.dairakudakan.com/


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