インタビュー & 特集

INTERVIEW! 舞台『MACBETH』矢崎広さん×板垣恭一さん 対談 part2

初主演舞台『MACBETH』に挑む矢崎広さんと、演出の板垣恭一さん。ふたりが初めて一緒に仕事をした舞台『大江戸鍋祭』を経て、板垣さんが矢崎さんに重ね見るマクベスの姿とは……。

(写真/笹井孝祐 取材・文/臼井祥子)

INTERVIEW & SPECIAL 2012 6/29 UPDATE

*『大江戸鍋祭』の時に、板垣さんが、矢崎さんを発見した瞬間ってありましたか?

板垣 最初のホン読みですね。真剣さを感じたんです。この子は人生かかっているんだなって思ったから、素晴らしいなって。僕もそうなんだよ。人生というか生活がかかってる。

矢崎 僕は本当に、「真剣になれよ」「お前これしかないだろう」って言ってくれる人が周りに多くて……。前に板垣さんが「なんでもいいから面白いことをやってよ」っておっしゃったことがあって、それは「必要なシーンにしてくれ」って意味なんです。だから僕はプルプルしてたし、すごく怖かった。カットされたらどうしようって。

板垣 確かにそうだね。面白くなかったらカットしちゃえばいいんだもん。僕が守るのはお客さんにとって面白いものであって、役者じゃない。仲良くなるのが仕事じゃない。覚悟を決めてなきゃお客さんに負けるんですよ。お客さんってすごくしたたかで、「ブラボー」って言いながら面白くなかったら次は来ない。だから僕は「本気で戦う人はおいで」ってやり方になる。特に若い人たちとやるときは。

矢崎 本当に、僕ら若手は板垣さんみたいな演出家さんに支えられていると思います。厳しいけど、それが本当の優しさだと思うんです。

板垣 主演には厳しいけど?

矢崎 ははは。

板垣 前にインタビューでそう言ってたけど、あれ、違うからね。僕は主演に厳しいんじゃなくて、三上(真史)に厳しかったの。だってね、三上君ならできると思ったから。頑張ってるのはわかってるけど届かなかったらダメなんだよ。そいつが一番損するじゃん。頑張ってない子を怒るより、頑張っているヤツがどれだけ真面目に戦えるかを考えるよ。

矢崎 僕は、『大江戸鍋祭』の現場で、一瞬泣きそうになったことがあるんですよ。板垣さんが一人ひとりに真剣にダメ出しをしたことがあって。「君はもっとこうしたほうがいい」「それは認めるけど、君はもっとこうしろ」って全員に。こんな、なんて愛のあることをしてくれるんだって。だってそんなこと別にしなくてもいいじゃないですか。

板垣 通し稽古の後だよね。あの時、僕はたぶん出来が良くなかったことで怒っていたんです。でも「コラー」って言ってもしょうがなくて、何がダメなのかを明らかにしないといけない。そういう時に、十把一絡げには言うまいと決めているんだよ。だって役者さんは結局一人ひとりだからね。役者っていうのはチームだけどライバルなんですよ。みんな孤独な戦いをしてる。だから「そこらへんの人たちはこう」なんて言えないよ。

でも実はあの時は途中で、ちょっと失敗したと思った(笑)。右から順番に言いはじめたから、24人全員に言わないといけなくなっちゃった。せめて番手の上からとかにしとけばよかったなあと。それも事実なんですけど。

矢崎 だとしても、すごく感動した。言われないまま消えていったヤツとかもいるんです。怒ってもらえるとか指摘してもらえるのってすごいことで、だからこそ僕はあの時間が、すごく幸せな時間に感じました。つらかったけど、役者と演出家として、すごく幸せだったなって。そこからスイッチが入った役者も多いと思う。

板垣 そういう仕事だからね。役者によってついている場所の違うやる気スイッチを見つけるのが僕の仕事。うまくスイッチが入ったら、物理的にも演劇的にもケガをしないようにルールを示すことが演出家の役目です。だって僕一人で考えていたって面白いものにならないんですよ。僕の想像力を超えていった先に、面白いものがあるんだから。

*そして今回『MACBETH』で、主演と演出家としてガッツリ取り組まれるわけですが、板垣さんは矢崎さんのマクベスにどんな期待をされていますか。

板垣 さっきも言ったけど、矢崎くんは真剣だなと思います。ある意味マクベスさんも真剣に生きるからこそ問題を起こしてしまうわけじゃないですか。そこはすごくリンクするなと思いました。だから矢崎広で『マクベス』は面白そうだなと。

*矢崎さんの年齢的には、普通ならマクベスよりロミオやハムレットですよね。

板垣 広くんは、すごいマクベスに合っていると思ったんです。マクベスというキャラクターに。ロミオとかだったら面白味がそんなにない。そういうイメージじゃないって。もちろんできるとは思うんだけど、苦悩するプリンスというよりも苦悩する王様のほうが、矢崎広の魅力が出せるかなと。

役者の年齢自体が、作品に深い関わりをもつということはあると思います。たとえば老人を扱っている作品とかね。『オセロ』とか。でもマクベスって、中堅どころの人がやってるイメージはあるけど、若い人がやってもかまわないって思っていたんですよ。だってそのほうが人格が定まっていない感じがするじゃないですか。必死な奥さんと一緒に必死にやっちゃうことで、自業自得な結果に進んでいくって話だと思うんで、「若さ」はマクベスを描く時にかえっていいんじゃないって思ってます。

だってこんなこの夫婦がさ、40歳くらいだったらさ、「お前ら大人としてどう考えてるじゃい」って言いたくなるよ(笑)。マクベスには「若さ」「人としての青さ」を持っていてほしいって思っていたので、矢崎くんっていう若い役者さんがハマるかな、矢崎広、生き急いでる感じっていうのが、角を曲がりきれずに死んでしまうかもみたいなのが、観てると面白いかなと思います。

(part3に続く)

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[プロフィール]

矢崎 広

やざき・ひろし
1987年07月10日生まれ、山形県出身
2004年、ミュージカル『空色勾玉』で初舞台を踏む。『愛と青春の宝塚』『ザ★ミュージックマン』『時計じかけのオレンジ』『ドラキュラ』『大江戸鍋祭~あんまりはしゃぎすぎると討たれちゃうよ~』『サンセット大通り』など数多くの舞台に出演。映画『バッテリー』やドラマ『ごくせん』『戦国鍋TV』『勇者ヨシヒコと魔王の城』など映像の仕事でも活躍している。
http://www.tristone.co.jp/actors/yazaki/

 

板垣恭一

いたがき・きょういち
第三舞台を経て、フリーの演出家になる。最近の主な演出作品に『スピリチュアルな1日』『僕等の図書室』『ビューティフル•サンデイ』『大江戸鍋祭』『サイド•ショウ』『姉妹たちの庭で』『新春戦国鍋祭』『アントニーとクレオパトラ』『キサラギ』『奇跡のメロディ』など。劇場の大きさやジャンルを問わず活躍。演技学校の講師を務めるほか、映像ディレクターとしても活動中。
http://itata.exblog.jp/

 

[公演情報]

『MACBETH』

8月11日(土)~19日(日) ラフォーレミュージアム原宿
原作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:河合祥一郎
脚本:斎藤栄作
演出:板垣恭一
出演:矢崎広、馬渕英俚可 / 永田彬(RUN&GUN)、国沢一誠(ヒカリゴケ)、小林且弥、二瓶拓也、末原拓馬、マーク、長倉正明、山本侑平、加藤啓 / 松村雄基
お問い合わせ:る・ひまわり 03-6277-6622(平日11:00~19:00)
http://ameblo.jp/yazakimacbeth/
http://le-himawari.co.jp/

 


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