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SPECIAL! BUCK-TICK今井寿×宇野亞喜良×スタジオライフ 奇跡のコラボ!
男優集団スタジオライフの『天守物語』が開幕! 泉鏡花原作の美の世界をBUCK-TICK今井寿さんのロックと宇野亞喜良さんの美術が華麗に彩り、今まで誰も見たことがない世界に誘います。(文・大原 薫)
INTERVIEW & SPECIAL 2012 6/17 UPDATE
初めて舞台音楽を担当する今井寿さんが作曲したのは、「BEGINNING」Opening version(テーマ曲「通らんせ」)「HOWLING」Aggressive version(テーマ曲「通らんせ」)「WAITING」「RAP」「TEQUILLA BANQUET」「ALIENS」「HOWLING」Ending version(テーマ曲「通らんせ」)の全7曲。特にテーマ曲となる「通らんせ」は「誰も聞いたことがない『とおりゃんせ』を」という上演台本・演出の倉田淳さんのお願いにより書き下ろしたもの。ロックの激しい響きが泉鏡花作品の根底に流れる「体制・固定観念に対するアンチテーゼ」の精神をそのまま体現して、劇的世界をさらに押し広げます。
また、スタジオライフとは3度目のコラボレーションとなるのは宇野亞喜良さんの美術。空間を日本に固定せず「どこでもないどこか、いつでもないいつか」と設定しているのを受けて、富姫が住む天守はピンク色で表現。劇中に重要な役割を果たす獅子頭もゴールドのライオンに。目にも鮮やかな「この世ならぬものの世界」を作り上げました。大胆な和洋折衷デザインの衣裳、それにヘアメイクまでもがAQUIRAX仕様で、総合的なビジュアル面でも見どころの多い舞台です。
スタジオライフにとっては『夜叉ケ池』『海神別荘』に続き、なんと20年ぶりの泉鏡花作品の上演。上演台本・演出の倉田淳さんは「『天守物語』を上演することで、(スタジオライフが)次の扉を開ける一つのパワーになれば」と強い意気込みで臨みます。泉鏡花作品を上演するときに問題になるのは、やはり言葉の問題。現代人に耳馴染みがない言葉をすぐに理解できるものに適宜置き換えながらも、泉鏡花の作劇の精神を失わないという難度の高いチャレンジに成功しました。
ストーリーは「生きて人が帰ったためしがないという天守閣。そこには妖怪・富姫と侍女たちが暮らしている。そこに殿様秘蔵の鷹が迷い込んだとして鷹匠・姫川図書之助が現れて……」というもの。今回のスタジオライフ版では富姫が妖怪になるまでのバックボーンを強調して見せることで、「恋に生きる女性」としての富姫をクローズアップし、富姫と図書之助の恋物語に焦点を当てます。
ダブルキャストの公演で、筆者が見たのはQチームの富姫・及川健さん、姫川図書之助・荒木健太朗さんバージョン。凛とした佇まいにどこか愛らしい雰囲気を添えた及川さんの富姫。恋する女性としての心情を叙情豊かに描き出します。小柄な及川さんが実に大きく立派に見える瞬間もあって、劇空間の支配の仕方が城主である妖怪の存在の大きさとマッチする非常に素晴らしいものでした。図書之助の荒木健太朗さんは『トーマの心臓』『訪問者』以来2年ぶりのスタジオライフ出演。「スタジオライフの舞台がこんなにハードだったとは(笑)」というほど、激しい立ち回りも含めて演じています。従来の舞台化では「二枚目」的な立ち位置で演じられることが多かった図書之助にリアルな心情を落とし込むことで、富姫と図書之助の恋がより鮮やかに浮かび上がるのです。
ダブルキャストのJチームは富姫・岩崎大さん、姫川図書之助・松本慎也さんが演じます。Qチームとまったく違った芝居が想像されるだけに(富姫の身長差が20センチ以上!)、こちらのチームにも注目が集まります。
作品前半はお天守の妖怪たちの世界をインパクト強く描き出します。なにしろ、通常の舞台では「富姫の侍女」といわれる妖怪たちも、スタジオライフ版では「レディース」なのですから。何より冒頭の「通らんせ」を歌う石飛幸治さん、林勇輔さんが大迫力! 二人の歌声が今井寿さんの音楽の奥深さをさらに引き立たせます。特に『レ・ミゼラブル』グランテール役を経て、石飛さんの歌声がさらに艶やかさを増していることにも注目。ススキ役の曽世海司さんをはじめとするレディースたちのパワーある演技で、人間ならぬ身の妖怪たちということに大きな説得力を与えています。
富姫友人の亀姫は関戸博一さんは無邪気で残酷なお姫様を演じ、朱の盤の牧島進一さん、舌長姥の青木隆敏さんも予想外のインパクトで見せてくれます。そして、ラストを締めくくる近江之丞桃六の倉本徹さんの存在感と大きさがひときわ際っています。
スタジオライフ版の特徴として、泉鏡花の戯曲では妖怪たちの台詞のみで描かれている人間たちの場面も実際に演じて見せることによって、見る者にわかりやすいアレンジに。城の領主役には新人の鈴木翔音さんを抜擢。客席を縦横無尽に使ったアクションシーンは息つく暇もないほどの迫力です。特に、通常はススキの長台詞で表現されている、図書之助が城主に追われ再び天守に戻ってくるシーンが、歌と殺陣を交えたミュージカル仕立てに。迫力ある表現でスタジオライフならではの名シーンを生み出しています。
今まで誰も見たことがない泉鏡花……スタジオライフの『天守物語』は6月24日まで紀伊国屋ホールにて、その後、6月30日~7月1日まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演されます。
[公演情報]
スタジオライフ公演『天守物語』
6月9日〜24日 東京・紀伊国屋ホール
6月30日〜7月1日 大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
作:泉鏡花
上演台本・演出:倉田淳
美術・衣裳:宇野亞喜良
テーマ曲:今井寿
出演:及川健、岩崎大、荒木健太朗、松本慎也、林勇輔、曽世海司、青木隆敏、牧島進一、関戸博一、緒方和也、神野明人、原田洋二郎、織田和晃、鈴木智久、倉本徹、山崎康一、石飛幸治、藤原啓児ほか
問い合わせ:スタジオライフ 03-5929-7039(平日12:00~18:00)
http://www.studio-life.com/