インタビュー & 特集
INTERVIEW! ミュージカル『キャバレー』 大貫勇輔さん
東京国際フォーラムホールCにて、絶賛上演中のブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』。今回、藤原紀香さんの相手役に大抜擢されたのが、大貫勇輔さん。本作品で、役者としての初舞台を踏んだばかりの大貫さんに、現在の心境を語っていただきました。(写真/森口信之、取材・文/中村恵美)
INTERVIEW & SPECIAL 2012 3/13 UPDATE
ブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』は、これまで世界各国で何度も上演されている傑作ミュージカルです。2年前、藤原紀香さん主演で上演された際には、演出の小池修一郎氏が菊田一夫演劇大賞を受賞するなど、高評価を得たのも記憶に新しいところ。今回、待望の再演にあたって、ヒロイン藤原紀香さんの相手役に大抜擢されたのが、期待の若手俳優・大貫勇輔さん。これまではダンサーとして八面六臂の活躍をしていた彼が、本格的な「俳優」としてセンセーショナルなデビューを果たしました。
――大貫さんは、ヒロイン・サリーと恋に落ちる若い作家クリフを演じていらっしゃいますが、初日が開いて、実際にお客様の前に立ってみて、いかがですか?
「初日は、案外、緊張しなかったんです。ちゃんと『キャバレー』の住人として、生きることができていると感じました。実際に幕が開いてみて感じたのは、稽古場では、お客さまに見られるということをまったく意識していなくて、ただ、クリフとして存在することだけを考えてやっていたんですが、それだけじゃダメだなと。見られていることを感じながら、空気の張り方を変えなければならない。お客様へエネルギーを送りながら、今は少しずつ、会場全体へ自分の意識を広げていくようにしています」
――ちなみに、今日の出来は、何点ぐらいでしたか?
「60点ぐらいですね(笑)昨日の登場シーンは、比較的うまくいって80点でした。でも、毎日、意識していかなければならないことが、まだまだたくさんあります」
――紀香さんとのコンビはいかがですか?
「本当に、紀香さんは、美しくて、可愛らしくて、優しい方なんです。僕は、再演から参加しているので、毎日居残り稽古していたんですが、それこそ毎日つきあってくれましたし、二人の役を入れ替えて台詞合わせをしてくれたり、『何でもいいから言ってね』『のど痛かったらこれ食べて』と、本当に些細なことまで気を使っていただきました。相手役が紀香さんじゃなきゃ、できなかったと思います」
――その甲斐あって、本当に紀香さんとのカップルはとっても美しくてバランスがバッチリです。プログラムでは、クリフの役作りに悩んでいる感じでしたが、今はクリフの人物像は固まりましたか?
「稽古場では、霞の中で、どれが正解なのかわからなかったんですが、幕が開いて、少しずつみえてきました。特に、劇場に入ってから思ったのは、『もっとカッコつけていいんだ』ということ。クリフは、人にどう見られているかを常に意識しているような人間、カッコイイと思われたい人間、見栄っ張りな男だと思うんです。それが、サリーと出会ってからメッキがはがされていく。そういう雰囲気を出せればと思ってやっています」
――かっこつけの甘ちゃんの部分はありますよね。
「そうですね。クリフは、僕の中では勝手に28歳という設定にしています(笑)。アメリカ出身の彼は、ロンドン、ローマ、ヴェネツィア、パリと、ベルリンに来る前に4カ国回っているんですが、きっとそれぞれの国でそれなりの物語もあったと思うんです。そういうバックボーンをこれからどれだけ、にじませることができるか、それが課題でもあります。稽古場では、ベルリンのことだけでいっぱいいっぱいでしたから(笑)。
今日、共演の増沢(望)さんに、『いい役者とは?』と聞いてみたんです。そしたらまさに、バックボーンを感じさせることのできる役者だとおっしゃっていた。そういった雰囲気を出せるテクニックのある俳優が、いい俳優といえるんでしょうね」
――大貫さんにとって、お芝居の面白さはどんなところにありますか?
「ウソなのにリアル、リアルなのにウソ、というところですね。大貫勇輔なのにクリフとして生きてることが、まずウソですから(笑)。今回は、クリフとして、できるだけナチュラルでいたいと思っています」
――クリフと似ているところはありますか?
「僕のほうがもっとポジティブかな。クリフのように、グジグジ考えない性格ですね。見られている職業なので、見栄っ張りなところは似ているかもしれないです(笑)。それと、クリフは作家で文系ですが、僕は、完全なる理系。声の出し方や感情の持っていき方なども、論理的に理解するタイプです」
――ラストシーンでクリフの死の演出が印象的ですが。
「僕の中の解釈では、列車に乗ったところから、夢の中だと思っているんです。もしかしたら死ぬという可能性もありうるんだよ、ということを表しているんだと思う。実際に死んだかどうかは問題じゃない。いつ戦争が起こるかわからない。いつどんなことが起きるかわからない。MCはもしかしたら神の象徴かもしれない。世の中の大体のことは、残酷に終わる。そういうメッセージが込められたラストシーンだと思っています」
――最後に、これからご覧になるお客様にメッセージをお願いします。
「衣食住があるから、芸があると思いますが、でも芸がなければ魂は干からびてしまいます。エンターテインメントは魂の源、祈りだと思うんです。演じることで、祈りのエネルギーが、被災地まで飛んでいくはずだと信じています。この『キャバレー』という作品は、誰しもどこかしら引っかかる部分が必ずある、深いメッセージを持ったミュージカルです。そのメッセージを受け止めながら、それでいて楽しく華やかなシーンも多い作品なので、お客様には存分に楽しんでいただきたいと思います」
大貫さんからのムービーメッセージをどうぞ!
おおぬき・ゆうすけ
7歳よりダンスを始め、17歳よりプロダンサーとして数々の作品に出演。ジャズ、バレエ、ストリート、アクロバット、コンテンポラリー等多岐に渡るジャンルのダンスを習得し、活躍の幅を広げている。また、近年では振付家としても活動している。DDDダンサー。昨年、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』で「死のダンサー」を演じ、ミュージカルファンから注目を浴びた。
ブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』
2012年3月2日(金)~18日(日)東京国際フォーラム ホールC
2012年3月23日(金)~24日(土)石川・北陸電力会館 本多の森ホール
2012年3月30日(金)~4月1日(日)大阪・梅田芸術劇場 メインホール
2012年4月7日(土)~8日(日)愛知・中日劇場
脚本/ジョー・マステロフ
(ジョン・ヴァン・ドルーテンの戯曲、クリストファー・イシャーウッドの原作に拠る。)
作曲/ジョン・カンダー
作詞/フレッド・エブ
修辞・訳詞・演出/小池修一郎
出演/藤原紀香、諸星和己、大貫勇輔、高嶺ふぶき、増沢望、杜けあき、木場勝己ほか