インタビュー & 特集
「ミュージカルの魔法にかかりたい」武田真治インタビュー
チャールズ・ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』を 原作にしたミュージカル『スクルージ ~クリスマス・キャロル~』が、12月7日に初日を迎える。ドケチな金貸しのスクルージが、親友の亡霊とクリスマスの精霊に過去と現在と未来へ誘われ、クリスマスの朝、新たなスタートを切る物語だ。日本では1994年に初演。以降95、97、99年、2013年に新演出版、2015、19年と公演を重ねている。稽古開始前の9月、2013年からボブ・クラチット役で出演している武田真治に、武田自身の舞台の、過去と現在と未来を語ってもらった。(撮影/藤記美帆 文/臼井祥子)
INTERVIEW & SPECIAL 2022 12/3 UPDATE
●『スクルージ』は2019年から、3年ぶりの上演となります。
僕が最初に出演させて頂いたのが2013年。その時はクラチット家のナンバーがなかったのですが、座長・市村さんのご意見もあり、2015年の公演から入ることになりました。貧しくても明るく楽しく暮らす家族の様子を音楽とダンスで見せられるということと、「真治の見せ場としても必要だ」と言ってくださってのことでした。
市村さんは本当にすごいですよ。出ずっぱりな上にワイヤーフライングもある。今年73歳なんですよね。楽しんで演じていらっしゃる姿を見ると、自分の将来の目標になります。彼のキャリアは、僕からはるかに遠いところにありますが、同じ舞台に立っていると、いかに奇跡的な作品に出演できて、いかに奇跡的な俳優と共演できているのかを感じることができます。
●武田さんも、初舞台の『身毒丸』以来、数々の舞台に出演されてきました。『スクルージ』にちなんで、武田さんの舞台の、過去と現在と未来をうかがいたいです。
初舞台は蜷川幸雄さんの『身毒丸』(1995年)。舞台って、右も左も分からない状態で主演をやるもんじゃないなと思いました。恵まれたキャリアのスタートではあったけど、やりきれたかどうか問われると、主役を演じるからには、やはりもっとスキルがある状態で、なによりあらゆることに対しての精神力が培われてから経験すべきだったと今でも思っています。
そこから9年くらい舞台には出ず、9年ぶりに出たのが三池崇史さんという映像の監督が演出をされた『夜叉ヶ池』(2004年)でした。舞台の世界のルールだけじゃないところで一緒にものを作ってくれる方が演出ということなら、もう一度、0から舞台に挑戦するには、またとない機会だなと。
初めてミュージカルに出演したのが『エリザベート』(2006年)です。僕は、あの作品に出るまで、日本のミュージカルシーンがこんなに熱いものだとは知らなかったんですよ。初ミュージカルで”黄泉の帝王・トート”役という、これもまた幸運すぎるミュージカルキャリアのスタートでした。最近うなされるほどは思わなくなったんですけど、「タイムマシーンがあるならどこに戻りたいですか?」という質問に対して、以前はよく「『エリザベート』の開幕前に戻りたい」と答えていました。キャリアの頂点にあの役があるべきだったのに、スタートで出会ってしまったことで「もっとうまくできたはずだった」という思いがずっとありました。
●そういう経験をして、舞台から離れていく役者さんも少なくないと思うのですが、そこからコンスタントに出演を続けていらっしゃいますね。
続けてこれた最大の理由は、紛れもなく、うまくできない悔しさではあったのですが、ミュージカルって健全というか、精神的にちょっとスポーツのような感覚があるんですよね。ストレートプレイには演技に正解がなくて、作品によっては僕にとって不健全に感じる時もありましたが、ミュージカルってある程度の正解があるんです。振り付けが合っているとか、音程を外していないとか、きっかけのタイミングが合っているというような。そこに正解があって、訓練がそこに導いてくれる。それをクリアしていけば、絶望的に落ち込むことことはありませんから。
それと、ミュージカルの現場で出会う役者さんたちにはアスリートのような爽やかさがあって。稽古後に酒を飲みながら演劇論を語るみたいなことが、僕は苦手だったんですが、ミュージカルにはそういう慣習があまりなかったから、気が楽でしたね。ミュージカルの俳優さんって稽古で肉体を消耗するからメンテナンスが必要なんですよね。だから終わったらさっと帰る。だから純粋に技術を磨きあえるんです。もしかしたらそれがミュージカルのダメなところだと言う古いタイプのストレートプレイヤーもいるかもしれませんが…技じゃなくてハートで演じるもんだと。もちろん、それは大前提で絶対的な正解だと思うんですが、今は僕に欠けていた技術に向き合おうかなと。
それと、ミュージカルでは、やはり音楽の力がすごいなあというのもあります。音楽がそのまま風景になる。音楽がかかることで、未来になったり、火の中になったりする。オーディエンスとして自分がどの魔法にかかりやすいかという話なんですが、僕自身がまずその魔法にかかりたいんです。
●それが武田さんの舞台の現在だとしたら、未来はどうなっているでしょうか?
そうですね。未来のことはわからないので、もしかしたら「ストレートプレイこそ舞台だ」と思うようになっているかもしれません。ミュージカルでもすごくいい役をたくさん頂いて、自分なりに技術も磨いてきました。それとは別に、少年時代に見た、サックスプレイヤーでありたいという夢もまだ続いています。ドラマやバラエティーも常に挑戦したいですし、YouTubeもやっていますので、どんどん自分の得意なことや好きなことを発信していきたいです。
一番近い未来には『スクルージ』があります。結婚してから初めての『スクルージ』です。いかなる状況でも家庭の中で明るく振る舞うクラチットを見習いたいですし、家庭を持ったことで僕の芝居に何か変化が現れたらいいなと思っています。
[公演情報]
ミュージカル『スクルージ ~クリスマス・キャロル~』
2022年12月7日(水)~12月25日(日)
日生劇場
原作:チャールズ・ディケンズ
脚本・作曲・作詞:レスリー・ブリカッス
演出:井上尊晶
出演:市村正親 武田真治 相葉裕樹 実咲凜音 安崎 求 愛原実花 今 陽子 今井清隆 ほか
https://horipro-stage.jp/stage/scrooge2022/