インタビュー & 特集

「俺が思っていた以上に知られていたことにびっくりした」spi インタビュー
「仲間との絆」や「真実の愛」、「困難に立ち向かう」とい う普遍的テーマをジョークやパロディ満載で描いた長編アニメ映画『シュレッ ク』のミュージカル版、『シュレック・ザ・ミュージカル』トライアウト公演が、日本人キャストで初上演される。主人公・シュレックを演じるspiさんにお話をうかがった。(撮影/須田卓馬 文/臼井祥子)
INTERVIEW & SPECIAL 2022 8/10 UPDATE
●『シュレック』出演の経緯を教えてください。
オーディションを見つけたママに「受けてほしい」と言われまして。「絶対合うから」って言うんですが、最初は受けるつもりはなかったんです。スケジュール的に無理だと思ったんですよ。『シュレック』は好きだし、面白そうだけど、根を詰めすぎるような仕事の仕方はしたくないから。でも一晩寝て、ありかなという気がしてきました。親孝行もしたいし、頑張ってやってみてもいいのかも、と思ってオーディションに応募して、受けたら受かりました。
『シュレック』のアニメは14歳頃に観ていました。(オーディションに向けて)ミュージカル版を勉強していく中で、これはやってみたいという気持ちが強くなりました。音楽がめっちゃいいし、話がアニメより人間くさい。舞台で観ると、人間が演じているだけで親近感が一気に上がる気がします。
●シュレックというキャラクターに惹かれる部分はどこですか?
彼は、世の中がよしとしているものとつながれない存在ですよね。自分の好きなものが世の中ではゲテモノ扱いされている。虐げられているというよりは、社会と共感がないんですよね。マジョリティが好きなものが好きじゃない。だから一人でいいやと思ってる。みんな自分のことを恐れているし、一人で孤独に生きていくぜって感覚があるんです。
俺はイケメンだし、歌うまいし、背が高いし、自信もあるし、いい男ですけど(笑)、骨格から顔から日本人ではないんですよ。周りと違うという意味ではシュレックと変わらない。今ではそれを武器だと言えるけど、ちっちゃいころは劣等感を抱えていました。
みんなと違う。周りから自分たちとは違う生命体として扱われてる。距離を取られてる。もちろんドンキーみたいに、そこから近づいてくる人もいるけど…、ハーフってそういう幼少期を過ごす事もあるんですよ。だから、シュレックが孤独を選んだみたいに、俺は孤高を選びました。そこは共通点かなと思います。
●孤独と孤高の違いとは?
孤独はマイナスだけど、孤高はプラスだと思っています。周りとの違いを「それは武器なんだよ」「それってカッコいいよ」「歌がうまいよ」と言ってくれた人がいるんですよ。そうやって肯定してくれた人たちが、シュレックより圧倒的に多いから、孤独にはならなかったです。
●稽古場の様子はいかがですか?
めっちゃ空気いいですよ。歌稽古も終わって、もう立ち稽古に入っています。ガンガン進んで、岸本(功喜/演出)さんは、全部を通してから調整していこうというやり方をしているので、俺にはめっちゃやりやすいです。
●気になる共演者の方は?
ヤングフィオナの二人(小金花奈・矢山花)がめっちゃいいです。絶対観たほうがいい。超かわいいです。
●ドラゴンをどう表現するんだろうとか、身長が低いファークアード卿を泉見洋平さんがどう演じられるのか、気になっています。
ドラゴンは、劇場で実際に観ていただくとして、泉見さんは、膝立ちで演じられます。超汗だくになってやってますよ。その状態で踊らないといけないから大変。ご本人は「膝に来るかなと思ったらふとももが痛い」って言ってました。「慣れると思う」とも言ってましたけど。
●そしてやはりspiさんのシュレックが楽しみです。最初にお話を聞いたときに、ぴったりだなと思ったんですよ。
それはなんなんですか? 逆に。みなさんそうおっしゃるんですけど、なんでなの?
●大きいからじゃないでしょうか。大きくて体格が男らしい。そして何より歌がうまくないと成立しないから。
そっか。ああ、たしかに、背が高くてもすらっとした細身の役者がやる役ではないよね。でも俺、一番びっくりしたのは「spiさんがシュレックってぴったりだよね」と業界で言われているらしいんですけど、俺の名前がそこまで浸透しているってことです。俺ってそんなに知られてるの?
●知られてますよ!
俺が思っていた以上に知られていたんだなってことにちょっとびっくりしました。
●spiさんは作品の幅が広いですよね。グランドミュージカルにも、2.5次元舞台にも出ていますし、2.5次元だと「spiさんが加わった事で歌に厚みが出た」って感じることもあるので、印象が強いのでは?
よく言われます(笑)。
●原作ファンの方も、ご自分の好きな作品がspiさんの力でより素敵な舞台になっていたらうれしいと思います。
なるほど。俺はオファー順に仕事をやっているだけだから、ジャンルには全然こだわりはないんです。特に戦略とかもなく、目の前の仕事をコツコツやっているだけです。でもまあ最近は「主演かヒールか2番手以外はやりたくないです」と言ってます(笑)。
舞台上にいない時間がめちゃくちゃ苦手なんですよ。舞台に出たり着替えたり、ずっと何かをしてる、余計なことを考える時間がないのがいいんです。舞台をやるならいっぱいいっぱいでゼエゼエになりたい。
●そう言えるだけの実力がspiさんにはあると思います。いつぐらいから本腰を入れて歌の練習を始めたんですか?
25、6歳の頃に、すごくトレーニングを積んだ時期がありました。その後もボイトレには行ってたんですけど、最近行き始めた先生のハマりがよくて、ここ一年くらい通っていて、手応えを感じるようになってきました。
先生ひとりからもらえるものって、1、2個なんですよ。いろんな先生からいろんなものをもらって、今の先生でパカっと花開いたんじゃないかな。俺、こういう歌い方でいいんだって思えるようになってきました。
●そうやって頑張ってきた、原動力は?
俺自身、スピアマン ・ウィリアムが、spiのファンなんですよ。だからマネージャーのスピアマン ・ウィリアムとして、spiくんにもっとうまくなってほしい。spiくんがヘタなのはたまらない。
だからボイストレーニングを積みます。で、積んで行くなかで求められる瞬間が来るわけです。その時に、誠実にコツコツ仕事ができるように、人に勇気や希望を与えられるように、笑いを提供できるように、エンターテインメントに携われるように、求められるクオリティをクリアしておきたいから、日々取り組んでいます。
●そんなspiさんから見て、この人はすごい!と思える役者さんは?
海宝直人! やっぱりあいつはちょっと別格。まだ勝てないなと思うんです。登っている山が違うんだってことも頭ではわかっています。でもまだ腹に落ちてなくて、感情的に「なにくそ」って思ってしまう。海宝は海宝の山を、俺は俺の山を登ってるって納得できるくらい、俺自身が、努力とキャリアを積めればいいのかなと思ってます。
●『シュレック』は心の美しさを問う物語でもあると思いますが、最後にspiさんにとって「美しさ」とは何かを教えてください。
見た目でいえば、機能美かな。「機能の良さを追い求めた結果、こういう見た目になりました」みたいなものがあるじゃん? シャンデリアと、光の行く先を計算されている照明器具の違いというか。ゴテゴテよりルネッサンスが好き。金箔のゴテゴテもカッコいいし好きだけど、四角い額縁のほうが美しいなって思っちゃう。
人間の美しさを言うなら、思いやりじゃないかな。愛が一番です。
●その愛の姿が『シュレック』で観られるのでしょうか。
おっしゃる通りです!
『シュレック・ザ・ミュージカル』トライアウト公演は、8月15日にプレビュー公演、16日から28日まで、東京・東京建物 Brillia HALLにて上演されます。
[公演データ]
『シュレック・ザ・ミュージカル』トライアウト公演
2022 年 8 月 15 日(月)~28 日(日) 東京建物 Brillia HALL
原作:ドリームワークスアニメーション『シュレック』/ウィリアム・スタイグ『みにくいシュレック』 脚本・作詞:デヴィッド・リンゼイ=アベアー
作曲:ジニーン・テソーリ
翻訳・訳詞・音楽監督:小島良太
演出:岸本功喜
出演:spi 福田えり 吉田純也 岡村さやか 須藤香菜 新里宏太 鎌田誠樹 鈴木たけゆき 熊澤沙穂 岩﨑巧馬 大井新生 澤田真里愛 石田彩夏 大村真佑 小金花奈・矢山花(W キャスト)/泉見洋平