インタビュー & 特集
「めちゃくちゃ楽しい10年でした」安西慎太郎インタビュー
2012年9月に初舞台を踏み、今年、俳優デビュー10周年を迎える安西慎太郎さん。稽古中の怪我による休演を経て、4月15日より主演舞台『象』が開幕、現在上演中だ。その稽古も終盤の4月上旬に、10年間の俳優生活を振り返ったお話をうかがった。
撮影 / 増田 慶(インタビュー)、岩村美佳(舞台写真) 文 / 臼井祥子
INTERVIEW & SPECIAL 2022 4/16 UPDATE
●10周年、おめでとうございます。
「あ、10周年か。そうなんだ」って思うくらい、いい意味であまり意識していなかったです。先のことを考えないでずっと舞台に立ってきたんですよ。初舞台の『コーパス・クリスティ 聖骸』(2012年)から始まって、一本一本、今回ダメだったらやめようというくらいの気持ちで舞台に出てました。
ダメだったらというのは、技術面や評価のことじゃなくて。お芝居のことって過程があるから、そこが百点満点じゃないのはしかたないけど、自分の中で、時間や気持ちをどれだけ作品にかけられたか。百パーセントその世界に没頭できたかという所の判断。もしそれが弱かったらやる意味がないなって思って、続けてきました。それが10年できていたなら、うれしいなと思います。
●基準はご自分の中にあるのですね。初舞台のことは覚えていますか?
もちろんです。演出家が青井陽治さんで、初めてで何もわからない僕を解放させてくれた。「好きなようにやりなよ」ということではないんですけど、「自分のやることをみんなが受け取ってくれるんだから、何も怖がらずにやっていいんだよ。君の思ったとおりに、間違ってもいいからやって、それはもう失敗なら失敗でいいし、楽しくやりなよ」って、いうことを教えてくださいました。その時は何もわからなかったけど、ひたすら楽しんでやることを教えていただいた初舞台でした。
それから『Try ・Angle -三人の演出家の視点- Vol.2 エドワード二世』(2013年)で、演出家の森新太郎さんとご一緒しました。それも一つの分岐点で、自分の中でいろいろなことを考えさせられた時間でした。森さんの演劇に対して、舞台づくりに対しての情熱がすごすぎて、当時19歳の僕は、こういう人のそばでできるのはうれしいな、これからもこういう人たちと出会っていきたいなと思いました。
そしてミュージカル『テニスの王子様』(2013〜14年)に出て、なんとなく「安西慎太郎という役者がいるんだな」といろんな方に知っていただけるようになりました。
振り返ると10年やってきたって実感はあまりないですね。記録は残ってるし、記憶もあるけど、なんかダダダダダってやってきた感じです。それも意図的じゃなくて自然とくっついてる感じ。すごく言葉にするのは難しいんですけど、大変なこともあったけど、めちゃくちゃ楽しい10年間だったなと思っています。
●今回の『象』もそうですが、安西さんはる・ひまわりさん製作の作品によく出演していらっしゃいますね。
プロデューサーさんの考えていらっしゃることが面白いんですよね。年末の「祭シリーズ」もですし、「リヴァ・る」(『僕のリヴァ・る』2016年/主演)とかも手がけていらっしゃる方です。
初めて出演したのは「る典」(『聖☆明治座・るの祭典〜あんまりカブると怒られちゃうよ〜』2014年)だったんですが、あの時は最初、よくわからなかった。異種格闘技みたいなんですよ。ボクシング会場に行ったらK−1の選手がいた、みたいな感じ。「階級が違うんだけど?」と思ったりして。そういうごちゃ混ぜ感がありました。
それで、この食材とこの食材を混ぜて、うまいスープできるの?と思ったらめちゃめちゃうまい。調理方法は基本的には演出家が決めるんだけど、役者やスタッフが「これちょっとカレー粉入れたらよくない?」って意見を言って、みんなで作っていく感じがすごくいい。
あと、お客様がすごく楽しみにしているのが、直で伝わるんですよ。それはもちろんほかの舞台でも伝わってくるんですけど……「る典」で緞帳が上がった瞬間の「うわ! すごいな! マジか!!」って思った感覚を今も覚えています。「あー、すっごく楽しみにしてくださってるんだな」って真っ直ぐ伝わってきたんですよ。
●あと個人的には、安西さんが主演された『絢爛とか爛漫とか』(2019年)が印象深くて、特に4場の語りは情景が浮かび上がるようで素晴らしかったです。
あの舞台は、あれ(4場の語り)を言うための作品でもあります。でもあれは稽古もあまりしなかったんですよ。裕美さん(演出家/鈴木裕美)からは「絶対に必要なものがあるからここではこうやって」というような指示が3箇所くらいあって、それ以外は「本当に自分が見えていて、やってもらえれば問題ない」と言っていただいていました。
その分、1から3場までを信じられないくらい稽古して、男四人で積み上げていました。それが出来上がっていたから、めちゃめちゃのせやすかった。だから4場がすごかったというより、1から3ができていたからできたことなんです。
●安西さんご自身が、転機になったと感じる作品は?
「リヴァ・る」です。四人芝居で、兄弟をテーマにした3作のオムニバス作品でした。その中の一つに『盲目のジェロニモとその兄』という小説を原作にした舞台があって、僕がジェロニモ役で、(小林)且弥さんがお兄ちゃんの役。その作品で、僕がジェロニモとしてセリフを言った時に、且弥さんに「それじゃ返せないよ」って言われたんですよ。「それじゃ俺のセリフが返せない」って。
それが僕は、すごく、ストンと腑に落ちたんです。「そっか。そっか。そっか。そうだよな」って。それが転機というか自分の中で芝居とは何かを考える瞬間だったなと思います。
●初舞台からずっと舞台に出演されてきた安西さんですが、2020年12月の『忠臣蔵討入・る祭』と2021年1月の『GHOST WRITER』を体調不良で降板されて、半年ほど休業されました。
初めてのことで、休んでいた間にやっぱり一回考えたんですよ。役者っていう職業はすごく好きなんだけど、健康面やいろんなことを考えてみて、この先もやっていいんだろうかと。ずっと考えて、悩んで、結局、好きだもんなというところに行き着きました。基本的にちっちゃい頃から好きなことしかやらない性格だったんです。そういう人間が好きなことを捨ててしまうとなんにもならないなと思って、エンジンをかけ直しました。
でもあの時間が、すごく自分を強くしてくれたと思うんです。最初は苦しくてしかたなかったけど、途中から「俺は今、人ができない経験をしているな」と思ったら、そんな時間も楽しくなってきました。
復帰作となった舞台『デュラララ!!』~円首方足の章~(2021年)の稽古の最初、顔合わせの時は、カッコつけなんで泣いてないですけど、なんか「(ささやき声で)うわーやばいなあ」って感じでした。「役者さんいる。スタッフさんいる。台本があるな。現場だな。幸せだな」って感じ。いつもどおりの顔をしてましたけどね。
とはいえ不安がなかったかというと、不安しかなかった。最初はなんか宙を歩いてるみたいで、板をちゃんと踏めてない気がして。でもよくよく考えてみれば不安なんてみんな持ってて、それぞれの不安と戦いながら生きてるんだから、こんなの普通だなと思って。
●お休み期間を経て、お芝居に変化はありましたか?
芝居が変わったかは自分ではわからないけど、穏やかになったってよく言われます。
●安西さんは以前から穏やかな人だった気がしますが。
僕は尖ってます。尖ってるけど、それを鋭利なものに見せてないのかも。でも尖っている部分は確実にあります。そこは変わらないです。
ただ、「穏やかになった」って言われて「丸くなったってことですか?」と聞いたら、「そうじゃないんだよ」って。それで考えてみたら、たしかに僕は怒らなくなりました。「死ぬわけじゃあるまいし」って思いが、その根本にある。「だから大丈夫だよ」って思えるようになったんだと思います。
●最新作『象』について、教えてください。
「リヴァ・る」で共演した且弥さんは、役者さんの中で一番、この人のお芝居はすごいなと思う方なんです。その且弥さんが演出される舞台です。僕はそこにすごく価値を見出しています。
且弥さんは「実在感」を大切にされていて、「台本があって、作っているものだから、これはフィクションで、そこでさらに嘘をついてしまったら、本当に嘘だよね。だから嘘はつかないでほしい」と言われました。僕にはまだ未熟な部分があるけど、そこは徹底的に取り組みたいと思っています。
この舞台で僕が演じる松山のことを、観てくださった方が「わかるよ。そうだよね」って思われるかはわからないけど、このなんとも言えない現代社会の中で、松山みたいに生きている人ってたくさんいると思うんです。そういう人たちに観に来てほしい。見終わった後に飲みに行って作品について語り合うという感じじゃなくて、一人でしみじみと「そうだよなあ…」ってなるんじゃないかな。
僕は舞台って、一回捨ててしまったもの、なくしてしまったものを、拾い上げるものだと思っているんですけど、この舞台はそれより「今生きているこの瞬間のものを、捨てたほうがいいのか、持っておいたほうがいいのか」という感じ。そういう選択を問いかけているように思います。
小難しいわけではなくて、物語的には難しいところはまったくないですし、コロナ禍で実際に起きていることに近いというか、かけ離れているものではないので、世界に入り込みやすいんじゃないかな。それに、7人の登場人物が全員ちょっと変な人たちで「この人たちやばいな」っていう面白さもすごくありますよ。ぜひ観に来ていただきたいです!
舞台『象』は、4月15日から17日まで、KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ にて上演します。詳細は下記、公式サイトにてご確認ください。
https://le-himawari.co.jp/galleries/view/00132/00611
無料の会員限定ページに、アザーカットを掲載しています!合わせてお楽しみください。
また、このページ下部に舞台写真も掲載中。盛りだくさんでお届けします!