インタビュー & 特集

“私”と“彼”の関係性のスリルを追い求めて──ミュージカル『スリル・ミー』公演レポート

キャスト2人とピアノ1台でまさにスリリングな100分の時を生み出し続けたミュージカル『スリル・ミー』がついに日本初演から10年を迎えました。日本初演キャストである田代万里生さん・新納慎也さんペアの復活、前回から続投してさらに演技を深める成河さん・福士誠治さんペア、そして松岡広大さん・山崎大輝さんペアの初登場と3組のキャストで新たなる『スリル・ミー』の世界を繰り広げます。この10年を振り返りながら、3ペアをコンプリートした公演レポートをお届けします。(撮影/田中亜紀 文/大原 薫)

INTERVIEW & SPECIAL 2021 4/11 UPDATE

本記事には『スリル・ミー』のネタバレとなる内容が含まれます。あらかじめご了承ください。また写真はすべて2021年公演のものです。

***

思えば、『スリル・ミー』と共にあった10年だった。
筆者の本作との出会いは初演のビジュアル撮影現場へ取材に伺ったとき。
今回の10周年記念公演のビジュアル撮影現場は多数のマスコミが詰めかけ、取材や撮影が賑やかに行われていた。オモシィプレスの取材で話を伺った新納さんがポツリとおっしゃったのは「10年前は(取材は)全然いなかったんだよね」。その「全然いなかった」中でわずかに存在した取材陣の一人だった筆者は、初々しく初対面の挨拶を交わす松下洸平さんと柿澤勇人さんの姿を密かに目撃していた。

初演公演はアトリエ・フォンテーヌ。閉館目前、わずか120席の劇場。地下に向かって一歩一歩足を進めると、そこには息詰まるような「禁じられた森」があった……。

左上:彼役 新納慎也、右下:私役 田代万里生


今まで観たミュージカルとはまったく違う『スリル・ミー』独特の緊迫感、二人の俳優によるデッドヒートに心を奪われ、上演される度に観続けた。日本キャストの公演だけでなく、韓国キャストのチェ・ジェウンさん、キム・ムヨルさんが出演した銀河劇場公演、さらには韓国・ソウルでの公演、ニューヨークでの作者ステファン・ドルギノフさんがネイサン(”私”)役で出演した『スリル・ミー』12周年記念再結集コンサート(内容的にはミュージカル全編上演・2017年)、ロンドンでの公演(2018年)と様々な『スリル・ミー』を追い掛けた。

そして、今回の10周年記念公演。新たなステージへと向かう『スリル・ミー』を目撃するため劇場に足を運んだ。上演されるのは東京芸術劇場シアターウエスト。初演劇場のアトリエ・フォンテーヌも彷彿とさせるコンパクトな空間だ。

下:私役 成河 上:彼役 福士誠治


今から約100年前、シカゴで実際に起きた殺人事件が題材。監獄の仮釈放審議委員会で収監者“私”が34年前に彼と犯した犯罪について語り始める。なぜ19歳の“私”と“彼”は少年を殺したのか? 二人にとっての真実は何なのか、二人の出演者と一台のピアノで追っていくミュージカルだ。

ピアノの第一音で場内の明かりが一気に落とされる瞬間から、スリリングな物語はスタートする。栗山民也さんの演出は徹底的に私と彼の心理を突き詰めるもの。タイトルになる「スリル」は“私”と“彼”の関係性であって、絶え間なく二人のパワーバランスが変わる様を立ち位置の高低で視覚的にも明確に印象付ける。それだけに、二人が同じ高さで向かい合って話す終幕の会話が際立つ。

左上:私役 松岡広大 右下:彼役 山崎大輝

今回記憶に残ったのは、被害少年を誘い出そうと現れた“彼”がマフラーで口元を覆って現れたことだ。コロナ禍が続き、マスクで口元を覆っている人を見慣れている今の時期、舞台上で口元を覆う“彼”の姿を観てハッとすると同時に、自分を取り巻く現実に揺り戻される。100年前の“私”と“彼”が無意識にまとっていた閉塞感に共通するものを、マスク観劇をしている私たちも持っているのだろうか。そんなことを考えさせられる一瞬だった。

そして、3組のペアによって生み出される関係性も物語もそれぞれ異なって見えるところが、『スリル・ミー』観劇の醍醐味である。

「伝説」と言われた“私”田代万里生さんと“彼”新納慎也さんペアの9年ぶりの復活。濃厚すぎるほどの空気感。この作品をゼロから立ち上げた過程はオモシィプレスのインタビューで語っていただいたけれど、今回はさらに二人の関係を突き詰めて演じていた。緻密に、どこにも決して緩みなく、二人の心理の糸が張り巡らされているからこそ、これだけ観客の心を掻き立てるのか……という新しい発見があった。

「究極の愛」が田代・新納ペアに栗山さんがサジェッションしたテーマだったと聞くが、一般的に言う「慈愛」のような愛ではないにしても、こういう愛の形があるのか、と考えさせられる。激しく彼を求める田代“私”。一方、冷たく突き放しているように見せて本人も気づかないほど微かに(「お前じゃなきゃダメなんだ」の台詞に)愛情をにじませる新納“彼”。音楽性の豊かさは随一で、音楽が持つドラマに身を委ねられた。10年前よりもむしろ若々しいのでは?と思わせる19歳の田代“私”は歌声による力も大きいのかもしれない。

左:私役 田代万里生 右:彼役 新納慎也

私役 田代万里生

彼役 新納慎也

 

2018年公演に続いて登場する“私”成河さんと“彼”福士誠治さんのペア。10年でいつの間にか筆者の中に出来上がっていた『スリル・ミー』に対する固定観念を覆す二人の演技に目が釘付けになった。オモシィプレスのインタビューで成河さんは、二人の関係は「愛していると思っているけれど、実は自分の中の何かを満たそうとする“獲物”のようなもの」と語ったが、実際観劇して、私と彼の心にある深い闇を覗き込んだような森閑としたものを感じる。

成河“私”は階段を上るときの揺れる足取り、吐息のような歌い出しから54歳の男の生き様を滲ませる。一方19歳の成河“私”はどこまでも彼を追い詰めていく怖さがある(まさにスリル!)。福士“彼”はナイフのように鋭い姿を見せる。自ら超人と言いクールにふるまう“彼”が嫉妬の的である弟の話を語るときの激しさに隠された内面が覗く。

左:私役 成河 右:彼役 福士誠治

私役:成河

彼役 福士誠治

 

今回が初登場となる“私”松岡広大さんと“彼”山崎大輝さんのペア。役柄の実年齢にもっとも近いリアリティがこのペアの身上だろう。「若さの暴走」というテーマが栗山さんから示されたとのことだが、若さゆえに間違った方向へと走っていかざるを得ない疾走感があり、同じ100分の上演時間でももっとも短く感じたのがこのペアかもしれない。

松岡さんでこれまで拝見したのは劇団☆新感線『髑髏城の瞳』Season月の霧丸など優れた身体能力を生かした明るいキャラクターだったが、今回は一転。個性を感じさせる声が印象的で、とにかく必死に“彼”を求める姿が健気でさえある。山崎さんは今回が海外ミュージカル初出演。見事なスタイルと表現力ある歌声で謎めいた彼を演じて、今後のミュージカルでの活躍が楽しみになった。

私役 松岡広大 右:彼役 山崎大輝

私役 松岡広大

彼役 山崎大輝

 

***

ここで、海外での『スリル・ミー』の話に再び触れる。欧米版と韓国版・日本版の大きな違いは、役名が欧米版は“ネイサン”・“リチャード”(モデルとなった事件当事者の本名)であるのに対し、韓国版・日本版は“私”・“彼”だということだ。ニューヨークとロンドンで観て印象的だったのは、「弟でなく、別の誰かを殺す」「そっちのほうがずっといい」という台詞や、「99年一緒だ」という台詞で数人から笑いが起きたことだ(両地とも同じ個所で笑いが起きた)。日本や韓国ではまず考えられない反応なので非常に印象的だったのだが、これは二人のことを「なんて愚かなことをしているんだ」と引いた目線で観ている観客が何人かはいるということなのだろう。

韓国版・日本版では役名をなくして“私”“彼”の物語という設定にしたのは、特殊な若者の特異な話でなく、観客と地続きの普遍性を持ったドラマとして描きたかったということではないだろうか。そして、その意図通り、日本の観客たちは私と彼の関係性のスリルに強く惹きつけられ、どこまでも追い求めざるを得ない。人が人を求める。人間の根源ともいえる命題に突きつけた問いの答えは初演から10年たった今も筆者は解明できていない。その謎に直面するためにまた劇場へと向かうのだ。

***

ミュージカル『スリル・ミー』は5月2日(日)まで、東京・東京芸術劇場シアターウエストにて上演中。詳細は公式サイトにて。
https://horipro-stage.jp/stage/thrillme2021/

 


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