インタビュー & 特集
KAKUTAのプロデュース公演『往転』に挑む長村航希さん
初演時、青木豪が演出を手掛け、大きな話題作になった『往転』が、作者である桑原裕子自身の演出、2020年2月20日より、満を持しての再演。初演当時はまだ小学生だった長村航希にとって、この作品は新たな挑戦になりそうだ。(文/湊屋一子、撮影/藤田亜弓)
INTERVIEW & SPECIAL 2020 2/22 UPDATE
2011年、東日本大震災が起きる中、桑原が悩みぬいて書き上げた『往転』。信頼する演出家、青木に預け外部キャスト中心で行われた公演は、第56回岸田戯曲賞や第15回鶴屋南北戯曲賞の最終候補作としてノミネートされるなど、注目を浴びる作品となった。
今新たに桑原が演出を手掛けるにあたり、ホームであるKAKUTAのプロデュース公演として再構築。新たなキャストを投入して挑む。 子役として2003年に舞台からキャリアをスタートし、近年は映像作品に軸足を置いて俳優活動をしてきた長村は、昨年からまた舞台に出演し始めている。『妖怪百鬼夜高校』『さよなら西湖くん』と、同世代の、同性の俳優がぶつかり合う作品を選んだ昨年とは一転して、今年は異なる世代が混沌とした世界を描く『往転』に挑むことに。
「再演ということで、稽古前に台本は頂いて読み進めたのですが、“どんな役なのか?”自分でもなかなかつかめなかったんです。観てないので、どんな感じの舞台になるのかイメージできてなくて。ただ、それで不安というよりは楽しみで。台本を読んで、こんな風か、あんな風か考えたり、相手の方の演技や演出家の桑原さんの指示で、変化させていければと思って挑んでいます」
9歳から舞台に立ってきた長村だが、この仕事で生きていこうと覚悟のようなものができたのは、10年近くたった2014年のテレビドラマ『東京が戦場になった日』のロケでのこと。
「空襲で燃える街を、オープンセットを本当に燃やして、消火するというシーン。本物の火が勢いよく燃えてて、その中に入って、本当にすごく怖かったんです。無我夢中で、その時演技じゃない“何かに入った”気がしました」 彼にとっては歴史の教科書に出てくる出来事だった戦争。それは、生きた人の身の上に起こった事実なのだと、肌で感じた。
「何十年前かの、自分と同じくらいの年の人がこの体験をしたのかと……俳優って、自分ではない人生を生きる、一人の自分では体験できない多くの人生を生きることなんだと実感して、それからこの仕事を一生やっていけたら……と思うようになりました」 俳優として生きていくことに、不安がないわけではない。
「地元の友達はもうけっこう結婚してて、子どももいたりして、“子どものために、やりたくない仕事でも頑張れる”なんて言ってるのを聞くと、自分がまだ自分だけのために生きてて、好きなことを追いかけてていいのかなあなんて思うこともあります」
そんな不安も含めて、自分の経験。演技に活かされると思いたい。
「やりたいことも憂鬱なこともいっぱいある自分と、今回挑みます庵野くんという役がシンクロしてくる気がするんです。稽古期間から1つのセリフをいろんな思いで言ってみたり、正解はわからないけど、そのときそのときの僕なりの“こうかな?”を探すたびに、正解に近づいていければと思ってます。ゴールがないからこそ、毎回発見があるのが楽しみです」
長村航希 おさむら・こうき
1994年1月17日生まれ、愛知県出身、子役として舞台デビュー、名古屋で活躍後、活動の場を東京に移し、確かな演技力でテレビ・映画・舞台などにて活躍。近年の主な出演作に テレビドラマ『ゆとりですがなにか』(日テレ)まりぶ舎弟役、『妖怪!百鬼夜高等学校』(BS日テレ)かまいたち役、NHKスペシャル『詐欺の子』遠山役、映画『人狼ゲーム クレイジーフォックス』、『暗殺教室』岡島大河役など。2020年は、2月公開の映画『ぐるり1200キロ、はじまりの旅』、テレビ『絶メシロード』(テレビ東京)堀内正人役などに出演している。
『往転』
2020年2月20日~3月1日 本多劇場
作・演出:桑原裕子
出演:峯村リエ 入江雅人 / 小島聖 米村亮太朗
異儀田夏葉 多田香織 置田浩紳 森崎健康 吉田紗也美
長村航希 / 成清正紀 岡まゆみ
チケットお問い合わせ:パパゲーノTEL:080-4805-8850 (平日11時~18時)