インタビュー & 特集

いつも目の奥が生き生きしている人でありたい――『お勢、断行』上白石萌歌さんインタビュー
劇場アニメ『未来のミライ』の主人公・くんちゃんの声や、TVドラマ『3年A組』の景山澪奈役、大河ドラマ『いだてん』の前畑秀子役などで知られる上白石萌歌さん。2018年公開の映画『羊と鋼の森』では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞、トーク番組『A-Studio』ではサブMCを務め、今年9月には「adieu(アデュー)」名義で本格的な音楽活動をスタートするなど、ボーダーレスに活躍中です。そんな彼女が、2020年2月に世田谷パブリックシアターで開幕する『お勢、断行』で、本格的なストレートプレイに挑戦します。偶然にも、公演初日に二十歳のお誕生日を迎えるという上白石さんに、お稽古を控えた心境などを伺いました。(取材・文/千葉玲子、撮影/藤田亜弓)
INTERVIEW & SPECIAL 2019 10/18 UPDATE
無垢な少女が少しずつ変貌して大人になっていく様を
お芝居で見せていけたら
――これまで、ミュージカル『魔女の宅急便』や『続・時をかける少女』、『るろうに剣心』などに出演してきた上白石さん。本格的なストレートプレイは初めてですね。
そうなんです。私、世田谷パブリックシアターで上演されている作品が好きで、よく観に行っていたんです。とても静かな場所ですよね。そこでいろんなお芝居が生まれる。その空間が大好きなので、今回自分も立てることが幸せです。演劇に馴染みがないお客さまにも、この機会に劇場へ足を運んでいただいて、この空間の醍醐味を感じていただけたらうれしいなと思っています。
(作・演出の)倉持(裕)さんの作品はいくつか拝見していて、姉(上白石萌音)が出演していたこともあり、『火星の二人』(18年)は二度観に行ったくらい好きでした。いつか私もご一緒したいと密かに思っていたので、うれしいです。
倉持さんのお芝居は、良い意味で一度では噛み砕き切れないというか、繰り返し観るとさらに新しい味わいが出てきますよね。『火星の二人』でも最初は飲み込めない部分があって、姉に台本を読ませてもらって、もう一度観に行ったんです。
――台本をお読みになって。
はい、結末から読んでみました。そうしたら、序盤で「この人があやしい」とか(笑)、「ああ、だからこの人はこう動いたんだ」と読み込むことができて、すごくおもしろかったです。
ほかに「鎌塚氏シリーズ」なども拝見したのですが、クスっと笑えるユーモアが散りばめられていて、お客さまも気持ちが凝り固まらないというか、肩の力を抜いて観られるところも素敵だなと思います。
――小さい頃から舞台を観るのもお好きだったのですか?
このお仕事を始める前から、習い事としてミュージカルアカデミーに通っていました。幼稚園くらいから、ミュージカルなどを観に行くことも多かったですね。
最近は、どちらかというと、ミュージカルよりもストレートプレイのほうに興味が湧いてきて。気になったお芝居を自分で調べて劇場に行くことも多いです。
――何かきっかけがあったのですか?
友人が出演していたりしたのがきっかけだったと思います。最近だと、仲良しの萩原利久が出ていた『お気に召すまま』を観に行きました。シェイクスピアの複雑なセリフをすべて把握できたわけではないんですが、空間の広がり方とか、言葉の散らばり方がおもしろいなと感じたり、客席を効果的に使うような演出で、俳優さんの空気を間近で感じることができて印象に残っています。
――上白石さんは読書家ですか?
はい、すごく好きですね。ジャンルはいろいろですけど、近代文学、女性作家がとくに好きです。吉本ばななさんや、綿矢りささん、原田マハさんの旅行記のような作品もおもしろかったです。
――今回の『お勢、断行』は、江戸川乱歩の短編『お勢登場』に出てくる悪女・お勢をモチーフに、倉持さんが書き下ろす新作です。乱歩の小説はお読みになりましたか?
ちょうど今、『お勢登場』を読んでいる最中です。今のところ、あまり希望の光が差し込まない感じで……難しいですね(笑)。嘘をついている人がいたり、善意を持っている人がいたり、いろんな登場人物がいるなかで、本当の正義ってなんだろう?と問われる作品になっていくのだと思います。
『お勢、断行』のおおまかなプロットを読ませていただいたんですが、私が演じる役はオリジナルの要素が強いのではないかと……。
――そうですね、プロットの段階ではイメージするのが難しいと思うのですが、「物語の中心となる謀略の被害者・資産家の娘で、おっとりとしたお嬢様らしい外見ながら、その奥に秘めた強い意志を感じさせる役どころ」とあります。
おそらく、作中で一番振り回されてしまう役どころではあると思うんですよ。(物語は、資産家が強制入院させられたあたりから始まるが)そもそも、実の父をなぜ隔離病棟に入れなければならないのかとか、面会ができないとか、納得できないことばかりなんですけど、お勢と復讐の計画を立てているうちに、今まで味わったことのない高揚感を覚えていく。無垢な少女が少しずつ変貌して大人になっていく様を、お芝居で見せていけたらと思います。
――本日はメインビジュアルの撮影日ということで、これまでの上白石さんのイメージとは違ったヘアメイクが新鮮ですね。
メイクをしていただいているときは、ぼーっとしていて、パッっと鏡を見たら「違う自分がいるな」って思いました(笑)。事前にアートワークなどは見せていただいたんですけど、想像していたよりハッキリしたお化粧でびっくりしました。ちょっと近未来感があるような。本番はもっと大正時代に寄せた衣裳やメイクになるのかなと。
――そして、この公演中に二十歳になられるんですね?
そうなんです、『お勢、断行』の初日が誕生日なんです! すごい偶然なんですけど。
――初日が! それはうれしいですね。
お誕生日に作品に携わっていられるなんて、とてもありがたいことですし、今から楽しみです!
――10代でやり残さずにおきたいことと、二十歳になったらやりたいことはありますか?
そうですね……最近、けっこう自炊を続けているので、このまま極めていけたらと思います。二十歳になったら、そろそろ運転免許を取りたいです!
――ちなみに、免許を取ったら行きたいところはありますか?
長野が好きなので、車で行ってみたいです。お蕎麦が好きで、お休みの日に、都内で蕎麦めぐりをしているんです。だから、(蕎麦の)本場に遊びに行きたいですね。
――最後に、ジャンルを問わず、上白石さんがお仕事をするうえで大事にしていることを教えてください。
ちゃんと目が生きてる人になりたいなって、いつも思っています。お芝居をしているときもそうですし、それ以外のときでも、目の奥が生き生きしている人でありたいです。
――そう思うようになった理由はありますか?
素晴らしい役者さんを見ていると、目がすべてを物語っていて、そういう方って(お芝居以外の、たとえば)バラエティ番組などに出ているときも、心の底から楽しんでる、心から笑ってらっしゃると感じるんです。私自身も、与えられた役割をこなすだけじゃなくて、その役を、その瞬間を、しっかり一つ一つ生きていけば、それが少しずつ自分の良さになっていくのかなと思います。
上白石萌歌(かみしらいし・もか)
2000年2月28日生まれ、鹿児島県出身。11年に第7回「東宝シンデレラ」オーディションにてグランプリ受賞。WOWOWドラマ「東野圭吾『分身』」(12年)やTVドラマ『幽かな彼女』(13年)への出演をはじめ、雑誌モデルとしても活動をスタートする。以降、映画、ドラマ、舞台など幅広く活躍。主な出演作に、映画『脳漿炸裂ガール』、『羊と鋼の森』、『未来のミライ』(声の出演)、ドラマ『義母と娘のブルース』、『3年A組-今から皆さんは、人質です-』、『いだてん~東京オリムピック噺~』、舞台『魔女の宅急便』、『続・時をかける少女』、『るろうに剣心』など。19年に第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。9月より「adieu(アデュー)」名義で本格的な音楽活動を開始した。
『お勢、断行』あらすじ
大正末期、資産家の松成千代吉の屋敷に身を寄せた女流作家、お勢(倉科)がいる。
その屋敷には、千代吉の娘(上白石)と住み込みの女中(江口)、そして千代吉と小姑(池谷)からの圧力に苦しむ後妻(大空)がいた。
ある日、千代吉に屈辱を受けた代議士(梶原)は、後妻と結託し、松成家の財産をすべて奪い去ろうと、千代吉を狂人に仕立て上げる計画を練る。女中、精神病院の医院長(正名)、貧しい電灯工事夫(柳下)らを巻き込み、首尾よく進むかに見えたが、第一の殺人がおき、計画は思わぬ惨劇へと突き進む――。
倉持 裕(作・演出)コメント
江戸川乱歩『お勢登場』の主人公である悪女お勢を、大正末期から昭和初期という時代背景はそのままに、また別の、黒い思惑の絡み合った場所に送り込み、活躍させたいと思ったのが始まりだった。
財産目当ての謀略によって、隔離病棟に幽閉された資産家。共犯者に黙ってめいめい大小さまざまな罪を犯す悪人たち。彼らに独自の倫理観でもって制裁を加えようと目論むお勢。そうした筋立ての物語を、あえて細切れに解体し、同一の場面を複数の視点で繰り返し描き、皆様を、善悪が目まぐるしく入れ替わる世界へといざなう試み。
倉科カナ(主人公・お勢役)コメント
倉持さんとは2回目です。倉持さんの作品はとても言葉が巧みで、見終えた後も劇中の台詞が頭から離れないような感覚が残ります。観るのも演じるのも大好きな倉持さんの舞台で、このお話をいただいた時はとてもプレッシャーを感じましたが、大きなご褒美をいただいたような気持ちです。とても嬉しくて、幸せを感じています。今回は悪女お勢を演じますので、悪女とは何か考えながら、けれども、お勢はまずどのような人物かに向き合っていきたいと思います。作品を作る過程は大変ですが、今回、江戸川乱歩と倉持さんが出合い刺激的な作品となると思います。共演させていただく手練れの俳優さんたちと共に努力し楽しみたいと思います。ぜひ劇場にいらしてください。
『お勢、断行』
原案:江戸川乱歩
作・演出:倉持 裕
音楽:斎藤ネコ
出演:倉科カナ、上白石萌歌
江口のりこ、柳下 大、池谷のぶえ、粕谷吉洋、千葉雅子
大空ゆうひ、正名僕蔵、梶原 善
【東京公演】2020年2月28日(金)~3月11日(水)世田谷パブリックシアター
【愛知公演】2020年3月14日(土)春日井市民会館
【島根公演】2020年3月17日(火)島根県芸術文化センター「グラントワ」大ホール
【兵庫公演】2020年3月21日(土)~22(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
【香川公演】2020年3月25日(水)サンポートホール高松3階大ホール
【長野公演】2020年3月28日(土)まつもと市民芸術館 主ホール
※チケット一般発売:2019年12月15日(日)10:00〜
※詳細は公式サイトhttps://setagaya-pt.jp/performances/osei2020.htmlをご覧ください。