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武道館で輝く「刀剣男士」の熱い息吹! ミュージカル『刀剣乱舞』 ~真剣乱舞祭2018~
NHK紅白歌合戦への出場を果たし、注目の大舞台で快進撃を続けるミュージカル『刀剣乱舞』。昨年末には、刀剣男士たちが一堂に会してライブを繰り広げる「真剣乱舞祭2018」が開催され、審神者(さにわ)の皆さんと共に大きな盛り上がりを見せました。
日頃はグランドミュージカルの取材が多い筆者の目線で、日本武道館でのステージをレポートします。
取材・文/大原 薫
INTERVIEW & SPECIAL 2019 1/31 UPDATE
クイーンもビートルズも日本で最初に公演したのは日本武道館。日本のエンターテインメント界の歴史を語るには欠かせない場所で行われた、ミュージカル『刀剣乱舞』 ~真剣乱舞祭2018~。そこには日本の演劇界には今までになかった、新しいエンターテインメントの形があった。
「刀剣乱舞-ONLINE-」は、「審神者」と呼ばれるプレイヤーが主(あるじ)となって、名だたる刀剣が姿を変えた「刀剣男士」を集めて、育て、戦うという人気刀剣育成シミュレーションゲーム。ミュージカル『刀剣乱舞』はこのゲームを原案としてミュージカル化したものだ。1部はミュージカル、2部はライブという形式は宝塚歌劇団や歌手の座長公演などと同じで、日本で長く楽しまれるスタイルに乗っ取っている。「真剣乱舞祭」は、ミュージカル『刀剣乱舞』に登場する刀剣男士が集まって行う大型ライブで、今回は3年目。18振りの刀剣男士が集まり、福井、東京、宮城、大阪、千葉の全国5か所で行われた。
筆者は2016年に行われた「阿津賀志山異聞」の公演を見ているが、この3年の間に嚴島神社の奉納公演やパリでの公演を成功させて、客席に集う「審神者」の皆さんを熱に巻き込みながら作品としても、そして出演する若手俳優たちも大きく成長してきたのだな、というのが感じられた。
オープニングは巴形薙刀(丘山晴己)の弔いの舞。東西南北に向かってこうべを垂れて、魂を鎮めるとする深い思いがあふれた。前半は刀剣男士が二組に分かれての、東西祭り対決。そして後半はミュージカル『刀剣乱舞』の楽曲を怒涛のライブで構成する。
ライブで私が驚いたのは、「センター」がいないことだ。曲のある部分で活躍する刀剣男士はいるが、一曲を通してセンターを務める刀剣男士はいない。私は長年ショー作品を見てきているけれど、宝塚で象徴されるとおり、日本ではトップスターからのヒエラルキーで作られるショーが多い。しかし、「真剣乱舞祭」では各々の見せ場はあっても、センターはいない。日本の芸能でも珍しいスタイルを取るのは、この作品の世界観に合わせたものかもしれない。
ライブ後半では刀剣男士が審神者の皆さんに手を振ったり、笑顔を見せて交流する場面もあった。高揚感が客席を包む。
そして、この空間を成立させているのは、18振りの刀剣男士を演じる俳優たちの真剣さだ。彼らが各々に役柄を見つめ、真摯に取り組んでいるからこそ、観客は審神者として、それぞれの「刀剣男士」への思いをかけることができる。
また、私はいわゆるグランドミュージカル取材が多いが、その現場で出会った俳優が「真剣乱舞祭」でも活躍していることに目を見張った。
「真剣乱舞祭」の直前までブロードウェイミュージカル『ジャージー・ボーイズ』で大役を演じた太田基裕さんが千子村正、spiさんが蜻蛉切に扮して並んでいる姿も微笑ましかった。太田さんの千子村正はキャラクターをしっかりと押し出してポイントとなったし、spiさんの豊かな歌唱力は日本武道館の大空間を満たした。
荒木宏文さんは、取材で話を伺ってとことんまで役を追求する方と感じたが、にっかり青江の独特の雰囲気ある姿は荒木さんの追求のたまものと思う。ブロードウェイミュージカル『RENT』でエンジェルを演じた丘山晴己さんは巴形薙刀。静かな佇まいでエンジェルとはまた違う姿を見せた。
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』にマーキューシオ役で出演が決定した黒羽麻璃央さんは三日月宗近役。2015年のトライアル公演、2016年の「阿津賀志山異聞」から経験を重ね、大きく成長してきたことを感じさせた。ミュージカル『レ・ミゼラブル』日本初演30周年記念公演にマリウス役で出演が決定した三浦宏規さんは髭切役。幼少期から始めたバレエの実力で生かしたダンスがダイナミックで、日本武道館の大舞台に映える。
かつてはいわゆる2.5次元作品と東宝ミュージカルに象徴されるグランドミュージカル作品には垣根があったように思う。出演者も分断されていて、グランドミュージカルに出演するようになると、「2.5次元作品を卒業」とみなされる向きもあった。
しかし、2.5次元作品とグランドミュージカル出演を両立させている人も増えてきた。上にあげたメンバーがしかり。それにより、各々の分野で観客層の広がりが見られることは日本の演劇界にとっても望ましいことだと思う。
2.5次元作品に必要なのは、世阿弥言うところの「時分の花」。若さと勢いで、今を盛りと鮮やかに咲き誇るもの。俳優としてやがて「まことの花」を咲かせるためには、存分に「時分の花」を咲かせることが必要だ。
和泉守兼定役の有澤樟太郎さんが確かな存在感を示して目を惹きつけられたし、芝居力に優れた鳥越裕貴さんが大和守安定役で愛らしい姿を見せた。眼の疾病により「阿津賀志山異聞2018 巴里」パリ公演が声のみの出演となってしまった小狐丸役の北園 涼さんの復帰に、あたたかな応援が寄せられたのも感動的だった。
時は移ろいやすく、留めることはできない。だからこそ、今の輝きが貴重なのだ。日本武道館の大舞台でまぶしく輝く「刀剣男士」の熱い息吹は、確実に観客の心を動かした。
[公演データ]
ミュージカル『刀剣乱舞』 ~真剣乱舞祭2018~
[福井]11月24日(土) サンドーム福井
[東京]11月27日(火)・11月28日(水) 日本武道館
[宮城]12月5日(水)・12月6日(木) セキスイハイムスーパーアリーナ
[大阪]12月11日(火)・12月12日(水) 大阪城ホール
[千葉]12月15日(土)・12月16日(日) 幕張メッセ国際展示場9・10・11ホール
出演:黒羽麻璃央 北園 涼 崎山つばさ 佐伯大地 大平峻也 鳥越裕貴 有澤樟太郎 阪本奨悟 高橋健介 伊万里 有 荒木宏文 太田基裕 spi 横田龍儀 三浦宏規 高野 洸 田村 心 丘山晴己/田中しげ美 荒木健太朗 冨田昌則 加古臨王 郷本直也 高木トモユキ 新原 武 藤田 玲 ほか
©ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会