インタビュー & 特集

『The Silver Tassie 銀杯』森新太郎さん&矢田悠祐さん&横田栄司さん座談会

物語の舞台は、第一次世界大戦中のアイルランド、ダブリン。出征するフットボール選手のハリー(中山優馬)を中心に、仲間のバーニー(矢田悠祐)や同じ共同住宅に住むテディ(横田栄司)、ハリーの母親(三田和代)ら、ダブリンの市井の人々を通して、戦争によって人生が変わってしまう様を描く本作。一種の反戦劇でありながら、10数曲もの歌あり、笑いあり、涙ありの賑やかな舞台になるという。1928年にアイルランドの劇作家ショーン・オケイシーによって書かれた戯曲が、現代の日本でどのように上演されるのか。演出の森新太郎と、出演する矢田悠祐、横田栄司に話を聞いた。(取材・文/高橋彩子、撮影/市間奈津美)

INTERVIEW & SPECIAL 2018 10/27 UPDATE

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――お稽古の中で今感じている、本作の魅力を教えてください。

横田:盛りだくさんでいろいろな要素がある作品です。人間が生きていく中で、喜びや楽しみを見つけたり、辛かったり悔しかったり傷ついたり……。人生がそのまま詰め込まれている作品だと感じています。

矢田:自分が触れたことのない時代ですし、最初、粗訳をいただいたときには、文語的な雰囲気で、素敵だったけれど難しい印象もあったのですが、台本はもっとわかりやすくなり、さらに稽古場で実際に役者が演じるのを見て、ああ、こういう感じなのだなと。想像以上に笑いのシーンも多く、楽しい作品になりそうだなと思っています。

森:矢田くんが難しいと感じたのには理由があって、原文は、アイルランド特有の訛りがある上に、少し前の時代の戯曲だということもあって、ネイティブでもわかりにくいような崩れた文体になっているんです。比喩表現も多い。しかも、アイルランドの徴兵という、日本ではあまり知られていない歴史が描かれている。その状況だとか、あるいはアイルランド人がどれだけお喋りするかとか、そういうことをきちんと俳優さんに伝えられれば、自ずと役の感情が出てくると考えています。

――森さんはアイルランドへの留学経験がおありですが、やはりアイルランドの人はお喋りだったのですね?

森:はい、それはもう! 観光ツアーに行っても、「さっきも朽ちた教会を見たな」という感じで、そんなにいろいろと見るものがあるわけではないのですが、バスガイドの話がめちゃくちゃ面白くて。バーでも男たちが飽きずにずっとお喋りしています。お喋りでひたすら時間を過ごすのが、伝統になっている。ベケットがアイルランドの人なのは納得ですね。アイルランドは抑圧されていた時代が長いので、そういうことで憂さを晴らすしかなかったというのもあるのでしょう。だから皮肉が上達する。考えようによっては、一つの武器なんですよね。

――では、この戯曲の言葉にも、そうした武器が表れている?

森:そう思います。ちょっとやり過ぎなくらい常に場を盛り上げようとしたり、相手にユーモアで負けまいと皮肉には皮肉で返したり。でも、大阪人もそうですよね。僕は大阪に、アイルランドとすごく近いものを感じるんです。矢田くんは大阪出身でしょ?

矢田:はい。普通に喋ったら面白くないことを力技で面白くするところは、確かに似ているかもしれませんね。僕はそんなにあれこれ語る役ではないですが、主導権を握るためにちょっと気の利いたことを言う、みたいなところは確かにあります。

森:横田さんのご出身はどちらですか?

横田:僕は東京です。

森:僕も東京なので大丈夫なのですが、地方出身の人は、感情を爆発させる芝居のところで思わず訛りが出る。そこを標準語に直さなければならないのは、俳優には大きな枷でしょうね。今回は偶然にも、若手4人は安田(聖愛)さん以外、みんな関西なんですよ。一回、大阪弁でやってもらおうかと思っているくらい(笑)。

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――詩的なセリフが多いのも、本作の特徴です。

森:横田さんにとってはお手の物だと思います。文学座はこれくらい平気ですよね?

横田:ギリシャ悲劇やシェイクスピアを散々やってきたので、違和感はないといえばないですね。

矢田:僕は、これまでにやってきたものとはだいぶ違う雰囲気なので難しいです。聖書の引用なども多いですし。

森:聖書からの引用は本当に多いです。普通に、ただのおっさんが「シバの女王」と言ったりしますから。しかも言葉を入れ替えて、聖書を逆説的に使っていたりするんです。それが痛烈な皮肉になっているのですが、日本人だけではなく、今のロンドンの人たちが観ても、ちょっとインテリじゃないとわからないであろうところがあります。でも、演出家の鵜山(仁)さんがよくおっしゃっていますが、翻訳劇は日本独自の文化のようになっていて、「ケツの穴にミートパイつっこんでやる」みたいな台詞は普段、絶対に言わないけれど、劇の中では不思議と成立する。そういう楽しさがあると思いますね。

――ここで、矢田さん、横田さんが演じられる役をご紹介いただけますか?

矢田:僕が演じるバーニーは主人公ハリー(中山優馬)の親友です。リーダーシップもフットボールの実力も人としての魅力もハリーがダントツなので、結果的に二番手になっているのですが、ハリーやテディ(横田栄司)と一緒に戦地へ行き、怪我をしたハリーを助けて帰ってきた後には、彼が持っていたものを奪ってしまう。だから主人公からしたら嫌な人物ですが、どの人を見るかでそのときの状況が違ってくる群像劇なので、一概に嫌な人物というわけではないと思います。

森:この作品では、常に誰かが誰かを支配しているということが、日常的に描かれています。テディと奥さんとの関係もそうですよね。

横田:そうなんです。僕が演じるテディは、登場こそは割と力強い暴力的な男性として描写されるのですが、戦地では上官に支配され、戦争で身体に傷を負って帰ってくると、今度は家庭での立場も変わってしまう。なかなか過酷な人生です。最初に暴力的なのも、元を正すと戦争のトラウマというか、PTSDみたいなものがあったのかもしれないですし。でも後半になるにつれて詩的なセリフを言うようになるので、いろいろな側面のある面白い人物だなと感じます。

森:さまざまな関係が縦横無尽に張られている上、稽古によって解釈もどんどん変わっていくと思います。その自由度があるホンですし。
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――横田さんは、戦場が舞台の第2幕では“兵士4”もなさいます。

横田:この兵士4には、(とてもテディに似ている)とト書きがあるんです。これはオケイシーが書いたんですよね?

森:そうです。2幕は、バーニーだけが「バーニー」と明記されていて、ほかの人はみな、「兵士」「慰問者」「参謀将校」などと書かれている。これは固有名詞が剥ぎ取られている状態だというのが、僕の読みです。そこにオケイシーの工夫がある。そもそも戦地に行ったことのない我々が戦場の場面を作るのは大変ですよね。オケイシーも苦労したと思いますよ。

――オケイシーも実際には、戦場を経験していないそうですね。

森:経験していないです。だから、2幕はあえて反リアリズムで描いている。やっぱり、ちょっとやそっとで扱える地獄じゃないですよね。僕らからしたらキツイと感じる戦争映画でも、実際に戦地に行った人は「美化されている」と感じるそうです。爆発の描写にしても、あれはあれで美しく撮りますし。それを演劇でやるにあたって、具体的にやろうとすればするほど嘘になる。なので、なるべくお客さんが頭の中で豊かにイメージできるよう、抽象化する必要があります。

――どのように演出なさるのでしょう?

森:等身大の俳優ではなく、人形を使って虚構のフィルターをかけようかと考えています。バーニーには生身でいてもらうのですが、横田さんたちには人形を使いながら台詞を言ってもらおうかと。

――興味深いです。森さんの演出の中でも新基軸ではないでしょうか。

森:前に円の『景清』で人形を使って以来、その世界にすっかり惹かれてしまって。僕は昨年、文化庁の新進芸術家海外研修制度でシンガポールに行ったのですが、その研修先もパペットの劇団だったんです。

横田:そうだったんですか!

森:東南アジアには、インドネシアのワヤン・クリ(影絵を使った人形芝居)など有名なものがあるので、それらもデザインのヒントになったりするんじゃないかと、衣裳スタッフと相談しています。人形のことだけ考えてシンガポールに行ったわけではないのですが、今回は有効だろうと判断しました。

――つまり、同じ戦場の場面に、矢田さんと人形とが存在している、と。

森:戦場全体を、バーニーが見ている風景として象徴的に表現できないかと目論んでいます。

矢田:確かに、バーニーは、同じ戦場にいても他の人との会話にあまり参加していないし、ちょっと、“蚊帳の外”感があるんですよ。人形でやったら、僕からしたらすごく怖い景色になりそうですね。

――どの作品にもチャレンジがあるとは思いますが、森さんにとって今作が大きなチャレンジになるというお気持ちはありますか?

森:2幕は見せどころではあると思います。戯曲の構成自体がそうなっていて、海外でも、演劇評論家や大学教授は皆、2幕をどうやるのかに注目するので、そこは面白く見せたいですね。
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――このお芝居には歌も出てくるそうですが、ミュージカルとはまた違うのですよね? どんなものになるのでしょう?

矢田:これまでとぜんぜん違う歌い方になりそうです。今回の歌稽古は、“ビブラート禁止ゲーム”から始まったんです。実際には役に則ってやる分にはいいけれど、とりあえず最初はナシにしてみましょう、と言われて。あまりやったことがなかったので、新鮮でしたね。それに、心情を歌っていくのとは違う曲が多いので、それも僕の中では新しい挑戦です。

森:通常のミュージカルではシンプルに心情を表現することが多いですが、この作品はちょっとひねくれているというか、歌に複雑なレトリックがあり、感情というより理屈で作っていくという工程が入るんです。そこが通常のミュージカルとちょっと違うところですね。

――矢田さんと横田さんは一緒の場面も多いです。お互いの印象や、聞いてみたいことなどはありますか?

矢田:横田さんの声が大好きなので、そういう素敵なハスキーボイスになるにはどうしたらいいのか知りたいです。

横田:現場でしごかれてこんな声になっちゃったんです。お金を払って身につけたものでもないので面映いですね。

――でも、もともとよく通る声ではあったのですよね?

横田:声はデカかったと思いますが、今考えると、耳の遠いおじいちゃんと暮らしていたのも大きかったかもしれないですね。おじいちゃんの肩を揉んだり一緒にテレビを観て感想を言い合ったりすると、小遣いをくれたんです。だから、これは半分冗談で半分マジなんですが、モチベーションは、お金(笑)。

矢田:なるほど!

森:蜷川(幸雄)さんが演出した『ジュリアス・シーザー』(14年)で、シーザー役の横田さんがウィスパーで客席の奥までセリフを届けていたのは、すごかったですよね。舞台上に人がいるのに聞こえていないように見せるシーンって、いつも困るんです。でも、あのウィスパーは確かにそこに聞こえていないかもしれないと思わせてくれて、けれども客席にはちゃんと聞こえていて。

横田:嬉しいです。自分が言われたから言うわけではないんですが、僕は矢田くんの歌声が大好きですね。稽古場でオーダーにすぐ応えて、それでまたグンとカッコよくなるから、いいなあと思っています。

――最後に、現時点での目標を教えてください。

矢田:個人の目標としては、まだ自分のお芝居の引き出しにはそんなにたくさんのものは入っていないので、森さんや素晴らしい先輩方の中で、沢山勉強し、吸収しまくって、新しい景色が見られたら良いなと思います。それから、僕の同年代くらいのお客さんにも、あまり堅苦しく考えず、観に来てほしいですね。掛け合いも楽しいですし、歌や踊りが入ったエンターテインメント性が高い場面もあるので、ぜひ楽しみに来てほしいです。

横田:そうですね。戦争や恋愛など、いろいろな意味での人生の不条理みたいなものを、僕らも考えたいし、お客さんとも、生きているというのは素晴らしいことなんだっていうことを一緒に考えていきたいですね。ちょっと大げさかな?(笑) あと、矢田くんのファンをストレートプレイのファンにするという野望があります!

森:同感です。スターを使ってカミュや唐十郎をやった蜷川さんのプロモート力には大いに学ぶところがありました。今回も芝居を楽しんでもらいつつ、普段、触れないことやものを考えたり調べたりするきっかけになれば嬉しいです。
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森新太郎(もり・しんたろう)
1976年生まれ、東京都出身。演劇集団円に所属。自信が主宰するモナカ興業でも活躍中。09年、毎日芸術賞演劇部門・第11回千田是也賞、第64回文化庁芸術祭優秀賞受賞。14年に『汚れた手』『エドワード二世』などの演出で第21回読売演劇大賞・最優秀演出家賞、および第64回芸術選奨新人賞受賞。近年の演出作品に、『パレード』、『怪談 牡丹燈籠』、『謎の変奏曲』、『管理人』、『TERROR テロ』など。18年2月から8月中旬まで文化庁の新進芸術家海外研修制度でシンガポールに滞在。『The Silver Tassie 銀杯』は帰国後1本目の演出作品となる。

矢田悠祐(やた・ゆうすけ)
1990年生まれ、大阪府出身。雑誌の読者モデルを経て、12年に舞台『合唱ブラボー』で俳優デビュー。同年12月にミュージカル『テニスの王子様』7代目青学・不二周助を演じ注目を集める。その後も、16年と17年にミュージカル『王家の紋章』ルカ役、17年にミュージカル『アルジャーノンに花束を』チャーリィ・ゴードン役(初主演)、今年8~9月にブロードウェイ・ミュージカル『ロジャース/ハート』ロレンツ・ハート役など。今後、19年1月には『Nostalgic Wonderland♪2019』が控えるなど、さまざまな舞台で精力的な活動を続けている。

横田栄司(よこた・えいじ)
1971年生まれ、東京都出身。94年に文学座研究所入所、99年に座員となる。劇団内外の舞台に加え、TVドラマ、映画にも幅広く出演。『ロミオとジュリエット』、『ハムレット』、『リチャード三世』、『リア王』、『ジュリアス・シーザー』をはじめ多くの蜷川幸雄演出作品に出演し、蜷川シェイクスピアに欠かせない存在であったほか、串田和美、鵜山仁、栗山民也、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、長塚圭史、上村聡史らの演出作品にも出演。近年の出演作に、『エレクトラ』、『白い病気』、『ヘンリー五世』、『レインマン』などがある。

『The Silver Tassie 銀杯』
2018年11月9日(金)~25日(日)世田谷パブリックシアター
作:ショーン・オケイシー
翻訳・訳詞:フジノサツコ
演出:森新太郎
出演:中山優馬、矢田悠祐、横田栄司、浦浜アリサ、安田聖愛、土屋佑壱/麻田キョウヤ、岩渕敏司、今村洋一、チョウヨンホ、駒井健介、天野勝仁/鈴木崇乃、吉田久美、野田久美子、石毛美帆、永石千尋、秋山みり/山本亨、青山勝、長野里美、三田和代
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