インタビュー & 特集

ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』吉柳咲良さん&藤田俊太郎さん

1981年の日本初演以来、夏の風物詩となっているブロードウェイミュージカル『ピーターパン』。これまでにも、笹本玲奈さん、高畑充希さん、唯月ふうかさんらがピーターパン役をきっかけに羽ばたいていきました。昨年、10代目のピーターパンに抜擢されたのは吉柳咲良さん。13歳で初舞台を踏みました。今年2度目の夏を迎える心境について、演出を手掛ける藤田俊太郎さんと一緒に語っていただきました。(吉柳ヘアメイク/真知子[エムドルフィン]、吉柳スタイリング/徳永貴士、取材・文/千葉玲子、撮影/須田卓馬、吉柳衣装クレジット/ロンパース¥5,900[ヘザー](アダストリアカスタマーサービス0120-601-162)

INTERVIEW & SPECIAL 2018 6/8 UPDATE

初舞台のハードルを乗り越えたから
今、「楽しかった」と言える

――吉柳さんは、2016年に「第41回ホリプロタレントスカウトキャラバン PURE GIRL2016」のグランプリを受賞されて、昨年、13歳で『ピーターパン』で初舞台。もともと女優を目指したきっかけは?

吉柳:きっかけは、TVで観ていた石原さとみさんの存在です。一番の憧れの方です。

――どんなところが?

吉柳:ドラマを観ていると、自然とお芝居に引き込まれて、その役柄の人として存在していて、石原さとみさんとして見ていないんですよね。本当に、今、道端で起きている会話を聞いているような気持ちになる…演じていると感じさせないのがすごいなと。また、バラエティに出演されているときは、すっごくキラキラしていて。私もああなりたいと思ったのがきっかけで、芸能界に入りたいと思って、オーディションを受けて…という感じでした。

――舞台やミュージカルをご覧になったことは?

吉柳:『ピーターパン』の出演が決まるまで、観劇に行ったことがなかったんです。HIP HOPダンスをずっと習っていたんですが、歌はお母さんとカラオケによく行っていたぐらいで。初舞台が決まってからいろんな舞台を観に行くようになったんですが、演じている人との距離が近くて、感情が直に伝わるし、歌やダンスで表すことで舞台から客席に生の迫力が伝わってきますよね。ドラマや映画とはまた違っていて、観ていてものすごくワクワクしました。舞台って何が起こるかわからない。毎日観たい!って思うくらい、舞台って楽しいなと感じました。

――ご自身も昨年『ピーターパン』で舞台に立ったわけですが、昨年の思い出というと、どんなことが思い出されますか?

吉柳:稽古場が本当に楽しかったことが印象に残っています。家族みたいな存在というか。最初は、まさかこんなに大きな作品に参加できると思っていなかったので戸惑いましたし、お稽古の最初の頃はものすごく緊張していて…私、人見知りなので。

――そうなんですか?

吉柳:はい。ずっと(うつむいた仕草で)「はい」、「はい」っていう感じだったんですけど、周りの方々が本当に優しく接してくださって。神田(沙也加)さんや鶴見(辰吾)さん、もちろん藤田さんも、いつも気にかけてくださって、困っていれば助けてくださるし、わからなければ一緒に考えてくださいました。もちろん皆さん大先輩で尊敬しているんですけど、家族みたいに感じていました。そんなふうに周りの方々にたくさん助けていただいているのに、私が何もできなかったら、ダメなので…この素晴らしい作品で主演させていただくからには、もっとちゃんと責任感をもってやらなきゃ、という自覚を持つようになって…すみません、うまくまとまらないんですけど…。

藤田:大丈夫、まとまってます(笑)。

吉柳:ありがとうございます(笑)。なので、昨年は、自覚を持って前向きに頑張れたと思います。

藤田:『ピーターパン』は子供も大人も一緒にめいっぱい楽しむ作品だと思っているので、稽古場から楽しくあるべきだと思って演出しています。でも、咲良さんの「楽しかった」という言葉の裏には、たくさん乗り越えてきたものがあっただろうと思うんです。なんせ初舞台…ピーターパンはセリフや歌の量も多いし、フライング、ダンス、立ち回り、もう満載ですからね。それを稽古期間の中で一つひとつ着実に積み重ねて。僕はニコニコしながら厳しいこともけっこう言っておりますし、昨年たくさんのハードルを乗り越えたからこそ、今、「楽しかった」と言えるんじゃないかと思います。

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――誰もが知っている物語ですが、ピーターパンってとても不思議な存在ですよね。いざ演じるとなったら戸惑いはありましたか?

吉柳:ピーターパンって、ものすごく自信家で、永遠に少年のまま…不思議ですよね、本当に。きっと世界中のみんなの心のどこかにピーターパンがいて、だから、誰の心にも寄り添える存在…なのかな…って。確かに石鹸で影をくっつけたりとか現実では絶対にできないんですけど、「できると思えば、できる!」「ピーターが言うならできるよ」っていう感覚になるんです。「じゃあやってみようよ!」「やってみなきゃわかんないよ」って。ピーターの言葉で、自分やお客様が動かされているところもあると思います。あと、ピーターパンの負けず嫌いなところとか、自分と共通する部分もあったりして。

――吉柳さんも負けず嫌いなところが?

吉柳:めっちゃ負けず嫌いです(笑)。

――藤田さんから見て、吉柳さんはどんな方ですか?

藤田:二つありまして。今おっしゃった通り、負けず嫌い。もう一つは、妄想家(笑)。僕の想像では、咲良さんは普段からたくさんの妄想をしている方だと思うんです。頭の中でピーターパンとかさまざまな人物を演じている、演じるってことが自然と脳内でリピートされているんだろうと。普段の生活の中でも、「これがピーターパンに近いんじゃないか」、「演じるってこういうことなんじゃないか」ってずっとイメージし続けているんじゃないでしょうか。先ほど「人見知り」とおっしゃったことにも通じると思います。快活で負けず嫌いで、演出家にくらいついてくる。歌もダンスも負けず嫌いだから何度も繰り返すし、やるたびにうまくなるっていう面だけじゃなく、相反する二面性を持っていて、だから演技者として成長が早い方だと感じます。そもそも持っている資質が女優・俳優なのではないでしょうか。

吉柳:…当たっていると思います。正直その通りで、お母さんからもよく言われるんです。「日常から、お芝居のこと考えてるよね」って(笑)。頭の中でいろんな場面をイメージして、こんなときはこう演じるのかな?とか想像したりするのが好きなんです。いきなり、ちょっとした小説やマンガを書き出したりとかもあって。小学生の頃、友達と、「ここはこういうセリフがあったほうがいいんじゃない?」とか言いながら小説やマンガを一緒に作ったりしていました。

――そうなんですね! お話を伺うと、なんだかキラキラしていますね。

藤田:ほんと、キラキラしていますよね。そしてキラキラしているだけじゃなくて、自分の明るい部分と、暗い部分、両方を客観的に見ることができるところも魅力だなと思います。


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少年から少年に成長するピーターパンと
少女から母になるウェンディ

――藤田さんは、昨年から『ピーターパン』の演出を手掛けることになりました。

藤田:初めて演出するにあたっては、1950年代ミュージカル版ブロードウェイ初演の訳詞、上演台本とスコアを用いました。これまでたくさんの演出家やピーターパン役を演じる女優によって作品のディテールが変化してきましたが、10代目のピーターパンと10代目の演出家として、せっかくだから原点回帰でやりたいなと。

――演出意図はどんなところにありますか?

藤田:ジェームス・M・バリの原作へのリスペクトを大事にしています。原作に描かれているのは、永遠に大人になりたがらない少年、キラキラしたピーターパン。先ほど、ピーターパンって何者なんだろう?って話がありましたけど、僕は、ピーターパンは生きている、永遠に生き続けていると信じておりまして。

――生き続けている。

藤田:はい。ピーターパンが存在する条件は飛べると信じること、ピータパンを信じることだけなんです。ただ楽しいことを考えれば飛べる。それは誰しもの中にある、永遠に少年でいたいとか、子供のままでいたいという、世界中の「永遠」というものに対する願望に繋がるのではないか思います。その願望がピーターパンの魅力として輝き続けている。上演台本の中に「若さ、喜び、そして自由」と言うピーターパンのセリフがあります。若くて、喜びに溢れて、ネヴァーランドの中では自由でい続けるピータパン。それと対比的なのがウェンディという存在。

――くわしく教えてください。

藤田:ウェンディは、この劇中、少女から母になります。ピーターパンと出会ってネヴァーランドで仮の母親を演じていたウェンディは、自分の生きているロンドンのダーリング邸という現実に戻って、何年後かに本当の母親になる。ジェインという子供が生まれて母になったウェンディと、何も変わらない少年のままのピーターパンが再び出会うのが、この芝居のラストシーンなんです。

――切ないですね。

藤田:そのとき、ピーターパンも成長しているんですよ。少年のまま、少年から少年に成長している。何も変わらずに。光輝きながら。一方のウェンディは、「成長した」と言うべきなのか「成長してしまった」と言うべきなのか、少女から大人になった。この二人の成長をきちんと描くことが、このミュージカルを上演するにあたって一番大事なことなんじゃないでしょうか。
 かつて子供だったお客様、これから大人になるであろうお客様、もしくは永遠に子供のままでい続けるお客様や、はじめから大人だったかもしれないお客様…さまざまいますけれども(笑)、それぞれの中のピーターパンやウェンディを発見できるんじゃないでしょうか。それを体感することが、この芝居の醍醐味なんだと思います。


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――藤田さんならではの演出というと、どんな部分でしょうか?

藤田:ピーターパンは、ネヴァーランドという日常ではない場所からやって来ますよね。本の向こう側のような世界から。舞台でも、まるでお客様が開いた本の向こう側からピーターパンがやって来るような作品にしたいと思いました。劇場に集ったみんなで本を開いて、最後にはみんなで本を閉じるように。

――二重構造を作ったのでしょうか?

藤田:はい、でもそれだけですよ。ピーターパンの魅力を最大限に伝えるために、あたかもお客様が本を開いているかのような錯覚に陥る構造をつくったというだけです。そのことによって、よりジェームス・M・バリの原作を演劇として体験することに近づけるんじゃないかと思いました。

――2年目の今年、変更点などは?

藤田:原作を大事にという点は今年も変わらず、去年クリアできたことよりもさらに高く、でも稽古を楽しみながら俳優の皆さんに乗り越えられるハードルは渡したいなと思います。

吉柳さんから見ると、
藤田さん=ピーターパン!?

――先ほど吉柳さんの印象を伺いましたが、吉柳さんから見て藤田さんはどんな方ですか?

吉柳:まさに藤田さん=ピーターパンです。一緒にお稽古していても、「今の藤田さん、ピーターパンっぽい!」って思ったりするんですよ(笑)。藤田さんを見てるとだんだんわかってきたりとか…ピーターってこういう気持ちなのかもしれないって藤田さんから学べるというぐらい、私の中ではピーターパンですね。だから私、ピーターパンを想像するときに、自分で想像すると私に近くなっちゃうので、まさにピーターパンである藤田さんを頭の中で想像しながら台本を読んでみたりもするんですよ。

藤田:咲良さんの指摘は鋭いですね(笑)。改めて思うことは、演出家としてこの作品に関わることができるのは、僕にとってこの上ない幸せだということ。演出するときに、自分の過去とか願望とか、何をこの作品に投影できるんだろうってことは、やっぱり考えますよね。まったく遠い出来事ではなく、自分の中に生きているピーターパンや自分の中にある願望を、咲良さんに投影できるといいな…と。そうすると、演出家と俳優、演出家と作品は幸せな関係でいられるんじゃないかなと。
 あまり作品に入り込み過ぎてもいけないなとも思うんですけど、少なくとも言えることは、ピーターパンがネヴァーランドでしか生きていけないように、僕自身、演劇でしか生きていけないのではないかなと思っています。僕は当事者として舞台の上にはいられないけれど、稽古やさまざまな過程で咲良さんにたくさんの想いや作品の解釈を渡すことはできる。もしかしたら、そういう自分の中の資質…というと大げさかもしれないですが、この『ピーターパン』という作品に投影する願望は、ピーターパンそのものでありたいという想いかもしれないですね。

――ありがとうございます。最後に、2年目の公演に向けて意気込みをお願いします。

吉柳:昨年は初舞台のプレッシャーでいっぱいいっぱいだったんですが、今年はさらに細かい部分まで一つひとつ丁寧にできるようにして、「あのときのピーターパンが良かった!」と思っていただけるよう最大限の努力をしたいです。例えばフライングで足先や指先まで伸びているか、皆さんに届くように感情を込めて歌えているか…その日観に来てくださったお客様はもちろん、世界中に届くぐらいの勢いでやりたいなって。去年のピーターパンは、13歳の私にしかできなかったと思うんです。今年14歳になって、13歳のピーターパンより成長しなきゃいけない。さっき藤田さんが「ピーターパンは少年のまま成長してる」とおっしゃったんですが、私が成長していなきゃピーターパンも成長できないですよね。だから、私自身が成長した姿を見せられれば、少年のまま成長したピーターパンを今年はお見せできるのではないかと思います。


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吉柳咲良(きりゅう・さくら)
栃木県出身。2016年、「第41回ホリプロタレントスカウトキャラバンPURE GIRL2016」でグランプリを受賞。同時に角川映画のヒロイン役が決定。2017年に初主演となるブロードウェイミュージカル『ピーターパン』で初舞台。史上最年少タイの13歳で、10代目ピーターパンを演じた。新星女優として、今後の活躍が期待される。

藤田俊太郎(ふじた・しゅんたろう)
1980年生まれ、秋田県出身。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科在学中の2004年、ニナガワ・スタジオに入る。当初俳優として活動したのち、05年から15年まで蜷川幸雄作品に演出助手として関わる。これまで手掛けた作品は、『美女音楽劇 人魚姫』『ミュージカル 手紙』、『ダニーと紺碧の海』、『Take Me Out』など多数。『ザ・ビューティフル・ゲーム』で第22回読売演劇大賞 杉村春子賞 優秀演出家賞、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』で第24回読売演劇大賞 最優秀作品賞 優秀演出家賞、『ジャージー・ボーイズ』と『手紙2017』で第42回菊田一夫演劇賞を受賞している。

青山メインランドファンタジースペシャル
ブロードウェイミュージカル
『ピーターパン』
【東京公演】2018年7月21日(土)~8月1日(水)東京国際フォーラムホール
【大阪公演】2018年8月12日(日)梅田芸術劇場メインホール
【金沢公演】2018年8月22日(水)~8月23日(木)金沢歌劇座
【名古屋公演】2018年8月25日(土)~26日(日)御園座
原作:ジェームズ・M・バリ
作詞:キャロリン・リー
作曲:ムース・チャーラップ
翻訳・訳詞:青井陽治
演出:藤田俊太郎
出演:
吉柳咲良/ピーターパン
ISSA/フック船長・ダーリング氏
河西智美/ウェンディ
莉奈/タイガー・リリー
入絵加奈子/ダーリング夫人
久保田磨希/ライザ
萬谷法英、笠原竜司、章平、森山大輔、井上祐貴
小島亜莉沙、鈴木亜里紗、滝川華子、鈴木麻祐理、出口稚子
小山圭太、長嶋拓也、松本城太郎、石上龍成
三浦莉奈
持田唯颯、岡本拓真、山田樺音
※詳細はhttp://hpot.jp/stage/peterpanをご覧ください。

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