インタビュー & 特集

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「演劇を特別なものにしたくないんです」――『フリー・コミティッド』で一人芝居に臨む成河さんにインタビュー

6月からDDD 青山クロスシアターで開幕する『フリー・コミティッド』で一人芝居に挑戦する成河さん。オフブロードウェイで1999年に初演されたコメディ作品で、成河さんは人気レストランの電話係をしている売れない俳優サムをはじめとして、裕福な社交界の夫人や日本人観光客、カリスマ・シェフ、ドミニカ共和国出身のコック、下っ端のマフィアなど全38役を演じます。今、この東京で成河さんが演じる意味、そして演劇での俳優と観客の関係性について、奥深く、情熱的にお話いただきました。(取材・文/大原薫、撮影/本多晃)

INTERVIEW & SPECIAL  2018 5/22 UPDATE

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他人の要求に延々と振り回されて
自分では何一つ選び取れていない

――『フリー・コミティッド』出演のお話を聞いたときはどう思いましたか?

 「これは無理だろう」と思いましたね(笑)。いや、一人芝居であることと38役を演じることが問題じゃないんです。それは簡単とは言わないけれど、どうにかなる。でも、この作品を日本で上演する意味は何だろう?と考えて。

――上演する意味?

 そう。この作品で描かれているのは「ニューヨークあるある」。この作品では、サムが人気レストランの予約を頼もうとするいろんな人の電話を取り次いでいるんだけど、そこで百人斬りのようにやり合う中でショーケースのようにいろんな英語の喋り方をする人が出てくるんです。それを見て、お客様が「ああ、ニューヨークに生きる人たちってこうだよね」と共感するんです。たくさんのキャラクターがいろんなサインを出すことが面白さにつながる芝居だけど、果たしてこれを、翻訳劇で日本人の前で演じる意味があるのか。日本の都会で聞く話し言葉は、若者世代の言葉かお父さんお母さん世代か、オフィシャルの言葉かアンオフィシャルか、くらいですからね。最初はイメージがつかなくて困りました。

――そうでしたか。そういうスタートから、実際に取り組み始めてみてどうだったんでしょうか。

 演出の千葉哲也さんと翻訳の常田景子さんと話し合いながら何度も読み返しているうちに、作者のベッキー・モードさんがこの脚本の中で言わんとしていることの核心がちょっとずつ見えてきたんです。それは「都会の暮らし」ということ。都会に住む自分たちがストレスと矛盾を抱えながら暮らしているということを描こうとしている作品なんだと気づいたとき、ニューヨークと東京がつながったんです。それで俄然やる気になりました(笑)。この作品で「一人38役」というのはあくまでも物語に連れていくための手段でしかないんです。「90分間で38キャラクターが一瞬で切り替わる」みたいな芸は僕の仕事じゃない。ベッキーさんがこの脚本の中で何を言わんとしているか、それを表現することが僕の仕事なんです。

――なるほど。

 もっと言っちゃうとね、僕がこの脚本から感じ取ったのは、「自分で選び取る」というテーマです。都会の暮らしというのを考えたときに、サムは他人の要求に延々と振り回されていて、自分では何一つ選び取れていない。「こんなに一生懸命やっているのに、なんで自分は恵まれていないんだ」と思って生活している。そんなサムの姿が都会で生きる僕たちそのものなんじゃないかと思うんです。面白いのは、サムは決して超人ではない。究極の凡人で、何一つ英雄的なことも劇的なこともしていないんです。そんな彼が物語の最後に選び取ったことは、都会で生きる上で大きな成長と言えるんじゃないかと思って。そこに気づいたときにすごく感動しましたね。ああ、これがベッキーさんのやりたかった「都会に生きて、都会を描く」ということなんじゃないかと思って。
 これって、演劇では稀なジャンルなんですよね。小説や映画ではあるでしょうけど、演劇で今の都会の暮らしをそのままのスピード感で描いているのは珍しい。それは、ベッキーさんがドラマのシナリオも書く方だからかもしれないですね。この戯曲と向き合ううちに、ああ、「僕たちって矛盾があるよね」と気づくんです。難しいことでもなんでもなくて、「いやあ、電話を取らないのって難しいよね」というだけの話なんで(笑)。「その行為、自分で選んでいるつもりになってるけど、違うんじゃない?」ということを自覚してみようよと。そして、それを軽やかに笑い飛ばせるのが素敵だなと思うんです。

――私も戯曲を拝読しましたが、そこまで読み取れませんでした。

 いや、僕だって最初は「どうしよう」とノイローゼになりそうなくらいでしたから(笑)。僕は性格的に、何のために上演するかを考えないではいられない。僕はね、演劇はお薬だと思っているんです。

――お薬?

 今、どんな問題が起きているのか整理してみようか、というのが劇場での時間。今、自分たちにどういう薬を処方すべきか、というのが演劇だと思っているんです。「この脚本で描かれているのは何だろう」と考えているうちに、今、自分が生きて感じている問題点とリンクしてくるんですね。今、僕が喋ったことって、ベッキーさんを問い詰めたら、全部一致することじゃないのかもしれない。でも、明らかに僕がやる意義が生まれたんですよね。
 面白おかしそうなのに、こんな真剣な話(笑)。でも、面白いコメディだからこそ、中身が大切ですからね。


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――成河さんのここ数年の出演作品を拝見していると、ある流れがあるような気がして。

 何でしょう、詳しく聞きたいです(笑)。

――たとえば、『エリザベート』『グランドホテル』のようなミュージカルに出演する時期、『髑髏城の七人』のような大規模なエンターテイメント作品に出る時期があって、今年は『フリー・コミティッド』のあと二人ミュージカルの『スリル・ミー』が控えている。今は小空間でじっくり芝居をするターンに来ていらっしゃるのかなと感じます。

 なるほど。もちろんいただくお仕事なので全部が計画を立てて選んでいるわけではないですけれど、小さい空間でやってみたいという欲求がここ数年あったんです。上演する上では小さい空間で長期間演じるのが一番いいけれど、それはなかなか興業側の採算が合わない。今回の『フリー・コミティッド』が200人規模で1か月やれるというのも、なかなかないことですよ。日本語で、些細で地味だけれどとても大切なことを200人の人にしっかり伝えられたら本当に素敵だなと思う。運営上は厳しいけど、どうしてもチケット代は7000円より安くしたくて、公演回数を2、3回増やしたんです。本当はもっと安くしたいのですが、これがぎりぎりで。

――そういうことまでお考えになるのですか。

 演劇はある限られた層の人たちが観るものになったら、もったいない。演劇を特別なものにしたくないんです。特にこの作品は、シェイクスピアやギリシャ叙事詩のように特別なものじゃなくて、都会で生きている人たちの生活の話ですからね。この芝居は、観るのに何の準備もいらないですよ。僕たちにとって身近な話をしますから。リラックスして観に来ていただきたいし、最終的に僕たちの都会の暮らしって何だろう、そんなに捨てたものでもないのかなと皆で思えたらいいなと思って。僕もそう思いたくてやるし、僕がそれをやることでお客様にもそう思っていただけたらいいと思います。そんな関係性を作りたい。皆で一個のことを考えるには、この200人という空間はいいなと思いますね。

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鬼になった様を見てくれる人がいるから
俳優は鬼にならなくて済む

――確かにそうですね。話が変わりますが、成河さんは脚本を書いたり、演出をしたいというお気持ちはあるのですか。

 演出はありますね。心ある演出家の方は皆さんそうおっしゃるけど、演出というのは特別な仕事じゃないんです。演出という仕事が生まれたこと自体、演劇史としては最近のことで、照明技術が生まれたあとのことですから。歌舞伎や能には演出家はいなくて、俳優だけでやっていますよね。今回の演出の千葉さんと話しても、演出というポジションは役者をやるときの動機と何ら変わらないという姿勢でいらっしゃる。そういうところからも学びましたし、演出に回ってみたいという欲求はあります。
 でも、書くという行為は違う。それは一人称の芸術か、三人称の芸術か、ということなんです。たとえば、絵は見られる人がいるかどうかに左右されない、一人称の芸術です。自立しているんですよね。でも、演劇は見る・見られるという行為が必要で、三人称の芸術。僕の中では、自立した何かを作ろうという欲求はあまりないかな。詩はよく書いてるけど。
 演劇という三人称の芸術をやっていると「あとのことはどうでもいい」とは思えないんです。相手次第なものですから。「人によってコロコロ変わるなんて、三人称の芸術は不埒だわ」と思われる方もいるかもしれないけど(笑)、僕たちからすると自己満足な絶対なんて何の価値もないと思ったりする。演劇に身を置くということは、三人称を考えることなんだなと最近思ってるんですよね。

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――では、成河さんにとって観客の存在は?

 ありがたいですね。お客様がいるから、自分がわかる。お互い鏡だということですよね。今もこうやって延々と喋っていることを聞いてもらうことで、考えが整理されたり、改めてわかることもあって。聞いてくれる人がいるから、自分もわかる。それがお客様との関係なのかなと思うんです。勝手だよね(笑)。
 人間って生活の中で鬼になってしまうことってあるじゃないですか。イライラして人の道を外してしまうこと。それを鬼になるという言葉で表現したとき、鬼にならないようにするために画家は絵を書くし、作家は小説を書く。じゃあ、俳優に何ができるだろうと考えると、鬼にならないために鬼になるということじゃないかなって。

――たとえば『人間風車』で成河さんが演じた、純粋なゆえにとてつもない狂気に陥る、童話作家の平川とか?

 そう。それは、役者が普段言えないようなことを舞台で言って発散するということじゃないんです。お客様が見ている前で鬼になれるような技術というのが、俳優術だと思うんですよね。そのことがスタニスラフスキーシステムにも書いてありました。役者がリアリティを持つことにこだわるのは、見ている人がいかにリアリティを持てるかに関わって来るから、と。
 鬼になった様を見てくれる人がいるから、俳優は鬼にならなくて済む。そして、お客様は鬼になった役者を見ているだけで鬼になれるから、(実生活では)鬼にならなくて済むんです。そう思うと、三人称の芸術も捨てたもんじゃないなあ、と思えるんですよね。
 
――なるほど、そうですね。今日はとても興味深いお話をありがとうございました。

 ああ、思いがけずこんな話までしちゃった。あと1時間くらい、お茶でもしながら話したいですね(笑)。

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成河(そんは)
1981年生まれ。大学時代から演劇を始め、舞台を中心に活躍。つかこうへい、野田秀樹、ジョン・ケアード、サイモン・マクバーニーら国内外の著名演出家から絶大な信頼と高い評価を受ける。平成20年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞、2011年に第18回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。最近の舞台では、『スポケーンの左手』(15)、ミュージカル『グランドホテル』REDチーム主演、東宝ミュージカル『エリザベート』(16)、ミュージカル『わたしは真悟』(16~17)、劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season 花、『子午線の祀り』、『人間風車』主演(17)、『黒蜥蜴』(18)などに出演。NHK朝ドラ『マッサン』、映画『脳内ポイズンベリー』などに出演のほか、映画『美女と野獣』ではユアン・マクレガー演じるルミエールの吹き替えを担当。

『フリー・コミティッド』
2018年6月28日(木)~7月22日(日)DDD 青山クロスシアター
作:ベッキー・モード
翻訳:常田景子
演出:千葉哲也
出演:成河
詳細はhttps://www.stagegate.jp/stagegate/performance/2018/free_committed/をご覧ください。
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