インタビュー & 特集

INTERVIEW! こまつ座『たいこどんどん』 柳家喬太郎師匠

ラサール石井が井上戯曲の演出に初挑戦する『たいこどんどん』が5月に上演されます。タイトルの「たいこ」とは、宴会やお座敷で席を取り持つ職業「たいこもち」のこと。江戸に暮らす若旦那・清之助(窪塚俊介)とたいこもち・桃八(柳家喬太郎)が、ひょんなことからみちのく、北陸と流れ旅をしていく物語。江戸から東京へ移り変わろうとする時代を捉えた大喜劇に臨む喬太郎師匠に、稽古が始まる直前の心境を伺いました。(取材・文/高橋彩子)

INTERVIEW & SPECIAL 2018 4/17 UPDATE

 

ひょっとすると落語は
“陰”や“闇”に裏打ちされた笑いなのではないでしょうか

ーーこれまでに5本ほどお芝居に出演なさっていますが、こまつ座には初出演ですね。

 もともと、お芝居が好きでたまに拝見するのですが、最初に出演したPARCO劇場『斎藤幸子』(2009年)の時は、「好きだから観る側に回っていたい」と、初めはお断りしたんです。でも結局、やらせていただくことになって、それ以来、2〜3年に1回くらい舞台に立たせてもらっています。今回は、ラサール(石井)さんが僕の連絡先を知らないというので、春風亭昇太兄さんが間に入ってくれまして、僕が「無理ですよ」と断ろうとしたら兄さんが電話の向こうで「喬ちゃん、噺家がこまつ座って、こんな機会ないぜ」と言うから、つい「わかりました」と言っちゃって。だから昇太兄貴のせいですよ。せいってこと、ないですけど(笑)。
 実は『斎藤幸子』の前にも、つかこうへいさんの『熱海殺人事件』の木村伝兵衛を演じたことがあります。昔から、噺家が顔を白く塗って歌舞伎などをやる“鹿芝居”というのがあるのですが、飲んでいるときに「そういうものばかりじゃなくて『熱海殺人事件』とかをやったら良いんですよ」と言ったところ、春風亭小朝師匠が覚えていて、05年の大銀座落語祭でやることになったんです。てっきり噺家だけでやるのかと思ったら、噺家は僕一人で、劇団ひとりさんやアリtoキリギリスの石井正則さんや小川範子さんとの共演でした。その後、風間杜夫さんとご一緒した際、「映像はないのかな? 見たいな!」と言われちゃって(笑)。考えてみれば、そのときの演出はコント赤信号の渡辺(正行)リーダーだったので、今回のラサールさんで赤信号の方は2人目。残るは小宮孝泰さんですね。

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ーー喬太郎師匠が演じる桃八はかなり台詞量の多いハードな役ですが、いがかですか?

 僕と窪塚(俊介)さんは多いですよね。井上(ひさし)先生が生きていらしたら直談判するところですよ、「こんなに書かないでください」って(笑)。落語の場合、人にもよりますが、一言一句同じようにはやらないことが多いんです。押さえなければならない流れや言わなきゃいけない言葉はあるけれど、その日その日で台詞が変わることは往々にしてある。だからつい、芝居でもだいたいのところで台詞を言ってしまうんです。去年出演したペテカンという劇団の主宰・本田(誠人)さんにも「師匠、言ってることは間違ってないんですけど……」と言われました。今回は特にそれが通用しないようなので、どうなりますやら(笑)。けど、僕と窪塚さんだけでなく、他の皆さんも役を替えてほぼ出ずっぱり。方言も変えながら演じなければならないので、そっちのほうがよっぽど大変です。僕は意外と、今までやらせていただいた舞台の中では、ひょっとすると一番、台詞が入ってきやすいかもしれません。

ーーそうですか! いいことを伺いました。

 言わなきゃよかった(笑)。お芝居をしていて噺家はダメだなと思うのは、第一に、掛け合いが苦手。(『斎藤幸子』ほかの演出を手がけた)河原雅彦さんからは、「師匠は一人でやっちゃってるんですよね」と言われました。台詞を喋って相手の台詞待って、一応、会話の体(てい)をなしているんだけど、一人で演じている、と。第二に、普通の台詞を言うことが多分、あまり得意ではない。どこかでウケようとしたり、さらっと言えばいいところも癖をつけて言ってしまうんです。でも、今回はたいこもちの役なので、例えば「東夷南蛮北狄西戎(とういなんばんほくてきせいじゅう)、世界の涯までお供します」なんて台詞の意味はなんとなくわかる。少しホッとしていますね。

ーーたいこもちという仕事と噺家と、何か通じるところもありますか?

 やっぱり、場を和ませる、みたいなことは染みついていますよね。それに、今はお座敷が少なくなり、ごく稀にあっても料亭の表玄関からつい入ってしまいますが、昔は座敷に呼ばれて芸人が正面から入ったら大変なこと。我々は本来、裏から回る商売ですから、桃八っつぁんの気持ちもどこかわかる気がします。ただ、芸人だから客と喧嘩しちゃいけないというのは根底にありつつ、噺家は意外と我が強いから、いざとなったらケツまくるけれど、たいこもちには絶対にそれがない。そこが根本的な違いです。落語協会に昔、僕の大師匠である先代の(柳家)小さんと小学校の同級生だったという事務員のおじいさんがいて、聞いたら七代目の(林家)正蔵師匠に入門して噺家になりたかったそうです。「正蔵師匠はいいって言ったんだけど親に反対されてよ。しょうがないからたいこもちになったんだ」って。

ーーたいこもちは許可されたのですね!?

 なんで噺家がダメでたいこもちならいいのかさっぱりわからないんだけど(笑)、たいこもちになってしばらくお座敷に出ていて、辞めたきっかけが、お客に「庭に出な」「頭出せ」と言われて頭を出したら、旦那が上からションベンしたんですって。酷いでしょ。それでもその人は「よっ、大将。養老の滝!」と言ったそうです。その後は洗濯屋になったらしく「ランドリー(乱取り)って言うけどそんなに金取れねぇんだよ」と言ってました(笑)。そういう、まとっている空気がものすごく“芸人”な人が身近にいて、ほんのひとっかけらでも話を聞いたことを今回、思い出しますね。だけど、一番怖いのは、たいこもちを演じているようで噺家になっちゃうこと。もしくは、噺家が落語の中で演じるたいこもちになってしまうこと。落語の中のたいこもちは、噺にもよりますけど、その噺の世界観に合わせてデフォルメしてありますから。とはいえ稽古前の今は、ホンを読んでるとどうしても(古今亭)志ん朝師匠が出てきます。けっこう、僕の中では志ん朝師匠の雰囲気が強いかなあ。柳家はあまりたいこもちの噺をしないので。それが今は楽しいのですが、稽古が進んでいけば、また変わっていくと思います。


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ーー現時点で、作品全体の魅力をどうお感じですか?

 こんな目に遭うのか、こんな目にも遭うのかといった具合に、情け容赦なく清之助と桃八をいたぶっていく。容赦しないところが、とても面白いですね。そうやって手を緩めない場合、もっと重くなったり暗くなったりしそうなものだけれど、そうではなく明るいトーンで、内容は相当、残酷。井上ひさし先生が猫なら、2人をねずみのようにいたぶります。そもそも僕は暗い話が嫌いじゃないんですよ。桃八も清之助も、慟哭しつつ、それでも生きていこうとするところがまたいい。運命に翻弄されながら逞しく生きていくというより、弱い人間で、愚痴を言うし人を恨むし、でも生き生きしていて、救いがあるけど救いがなく、救いがないけど救いがある。素敵なホンだなあと思います。

ーー何故、暗い話に惹かれるのでしょう。

 僕が、“陰”の部分がたくさんある人間だからではないでしょうか。明るい話も好きですが、若い頃は落ち込むことも多く感情の揺れが激しいタイプでした。鬱に近い状態のときに明るいものを観るのって残酷なんです。ハッピーエンドがものすごく空々しく思えて。そういうことも影響しているのでしょう。だからって、無意味に暗くするのは嫌なんですけどね。落語はわーっと笑っていただくものが殆どですが、『牡丹燈籠』にしたって『真景累ヶ淵』にしたって、大長編で最終的に救いはあるけれど、“闇”のある世界。若い頃、歌舞伎でもやる『怪談乳房榎』を、僕と(林家)彦いちさんと(三遊亭)白鳥兄貴でリレーするという企画が出て、3人で読んでみて「怖くてできない」という結論に達したことがあるんです。“乳房の中から雀がつつく”なんていう表現を、三遊亭圓朝はよく書いたなと思います。ラストは仇討ちでの勧善懲悪になるけれども、こんな怖い話は、できない。だけど、惹かれますよね。そもそも落語自体、笑いに変えてはいるけれど、ストーリーをまともに取ったらこのあと大変なことになる、というような残酷な噺も多い。ひょっとすると落語は、“陰”や“闇”に裏打ちされた笑いなのではないでしょうか。その上澄みを、明るく陽気に楽しくお見せするのが僕らの商売ですが、裏にはそういうものがある芸能だと思います。そこに飛び込んでいるから、暗いものに惹かれるのかもしれません。

ーーということは、暗い要素を明るく見せる点で、『たいこどんどん』と落語は共通する、と?

 そうですね。落語がというより、落語の話芸で表現している物語達と、すごく共通項がある気がします。

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ーーちなみに、『たいこどんどん』を落語にするとしたら、どのようにされますか?

 うーん。どのシーンも20分くらいの落語になりますが、せっかくやるなら全部ですかね。すべてを1時間程度の噺にまとめたら面白かろうと思います。落語なので、台詞を変えるのも勘弁していただいて(笑)。桃八や清之助じゃない人物、たとえば田舎の岡っ引きや山賊を主人公にして、そちらの目線で「たいこもちっていう人が来たことがあっただなあ」みたいに話をさせるのもいいですね。……でもやらないよ?(笑)

ーーどなたかと競作というのもアリですね。

 こまつ座さんのお許しがあって、やってみないかっていう話があったら、「そんなことできるわけないじゃないですか」と言いながら引き受けたりしてね。その際は(柳家)三三さんも白鳥兄さんも入れて、数人で演じて物語が一つ終わるとか。あ、その日はオレ、仕事があってダメなんだ。あれ、まだ日にちは決まってない? 弱ったな、どうも(笑)。

ーー古典落語も新作落語もなさり、多彩な活動を展開される喬太郎師匠だけに、夢が広がります! 千葉雅子さんとのタッグによる落語会「キョンとちば」で昨年披露なさった新作落語『秘境温泉名優ストリップ』も、師匠のストリップが色っぽくて引き込まれました。

 千葉さんがそういう噺を書いてくれるから、僕も刺激されて。原作には脱ぐなんて書いてなかったのですが、「師匠の好きなようにやってください」と言っていただいたので、ストリップ風の照明を作ってもらって、自分が持っている羽織の内で一番薄い、チョゴリの布で作ったものを羽織って後ろ手に脱いで、物語は完結してないけどそこで幕を下ろしてもらいました。あとからスタッフの方に聞いたところ、僕がつかさんの芝居が好きで、しかもストリップの噺だからということで、紀伊國屋ホールの方が、つかさんが昔『ストリッパー物語』のときに使用した幕を使ってくださったそうなんです。それを知ってまた「お芝居って、いいな」と感激してしまって。と同時に、お芝居を利用しているつもりはさらさらないけれど、やっぱりその経験が本業の血肉になればとも思っています。そういうのはエキスとか栄養だから、昨日食べたトンカツが分解されてどうこう、なんてことを感じないのと同じで、具体的にどう変わるかは自分ではわからないんです。
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柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう)
東京都出身。1989年柳家さん喬に入門。前座名「さん坊」を名乗る。93年には二つ目に昇進し、「喬太郎」に改名。2000年に真打に昇進。古典落語を演じると共に、数多くの新作落語を発表。「午後の保健室」を演じてNHK新人演芸大賞の落語部門で大賞を受賞。その後も「彩の国落語大賞」大賞、「花形演芸会」で三年連続大賞を受賞し、06年文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)を受賞。TVや舞台にも積極的で、舞台『斎藤幸子』『ぼっちゃま』、TVドラマ『ちゅらさん4』『坂の上の雲』、映画『落語物語』『スプリング・ハズ・カム』など出演多数。こまつ座には初出演となる。

こまつ座第121回公演
『たいこどんどん』
2018年5月5日(土・祝)~20日(日)紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(タカシマヤタイムズスクエア南館7階)
作:井上ひさし
演出:ラサール石井
出演:窪塚俊介、柳家喬太郎、有薗芳記、木村靖司、俵木藤汰、野添義弘、森山栄治、小林美江、酒井瞳、武者真由、新良エツ子、あめくみちこ
入場料:8,500円 U-30〔観劇時30歳以下〕:5,000円

【スペシャルトークショー】
5月6日(日)13:00公演後
ラサール石井(演出家・俳優・劇作家)―井上ひさしの言葉と向き合って―
5月9日(水)13:00公演後
柳家喬太郎、窪塚俊介、あめくみちこ
★追加イベント★
5月15日(火)13:00公演後
浅野祥(津軽三味線奏者)
―みちのくの響きと共に―
※詳細はhttp://www.komatsuza.co.jp/をご覧ください。


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