インタビュー & 特集
ナイロン100℃ 45th SESSION『百年の秘密』稽古場レポート
今年で結成25周年をむかえた劇団「ナイロン100℃」。25周年記念の一作目は、主宰のケラリーノ・サンドロヴィッチさんが「近年の劇団公演の中では抜きんでた一作」「どうしても再演したかった」と語る『百年の秘密』を4~5月に再演します。二人の女性を軸に、ある一族の栄枯盛衰を描き出した一大クロニクル。4月7日の初日を目前に控え、稽古場レポートをお届けします。(取材・文/藤本真由[舞台評論家])
INTERVIEW & SPECIAL 2018 4/4 UPDATE
2012年に初演され、好評を博したケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)作・演出『百年の秘密』が、ナイロン100℃結成25周年の節目に再演される。庭に不思議な木のあるお屋敷、そこに生きる人々の日常を、ティルダ(犬山イヌコ)とコナ(峯村リエ)という二人の女性の友情を軸に描き出す。劇中、約80年の年月が流れるが、時系列順ではなく語られていくという趣向が凝らされている。初日まで半月あまりとなった日の稽古場を訪ねた。
この日稽古されていたのは物語の大詰め。老境に差し掛かったティルダと、彼女の幼馴染み・チャド(みのすけ)が木の前で語らっており、ティルダはチャドに重大な願いをする。そこにコナがやって来て、ティルダと久々の再会を果たす。そして訪れるクライマックス。巻き戻される月日――。
まずは犬山とみのすけとのやりとりが入念に繰り返される。キャストが内から出してきたものの中から、演出家が何を取捨選択していくのか。「そこは二人の問題として言ってみて」「ここって一言で気持ちが変わらなきゃいけないから難しいじゃない?」「どこまで事情を知って言っているんだろうね」などなど、一つひとつのセリフのニュアンス、そこに込める思いを、キャストたちとじっくり探っていくKERA。気持ちの盛り上げ方を説明していく様子は、さながら、作曲家が自作曲の演奏の仕方を演奏者に説いていくようでもある。自作ながら、「正解はわからないんだけれども」「台本は気にしなくていいよ」との言葉も飛び出す様が興味深い。
人生の黄昏を迎えたティルダはときに、自分が年老いた身であることも、向かい合って話しているチャドの名前をも忘れる。そんなティルダに記憶を取り戻させようと懸命に過去について語るチャド。人間存在を形成するところの、些細な事柄の記憶。その記憶がこうしてうつろう様は、世界とは、一人ひとりの人間にとってそれぞれ異なるように認識され、記憶されているという、ある種の揺らぎを観る者に突き付けずにはおかない。ティルダへの思いをにじませるチャドを演じて、みのすけがときに色っぽい。そして、うつろう記憶の中、コナへの変わらぬ思いをにじませるティルダ役の犬山が切ない。それでいて、「あなたは知らなくていいことをなんでも知っていたわ」といったKERA風の警句や、おかしみをたたえたやりとりも交じり、笑いを誘う。そこへコナがやって来る。ティルダとコナが下す決断とは――。
そんな人々の営みをすべて見、聴いている木と、その木に棲まう幻と。生と人の世の不思議とが詰まった『百年の秘密』の世界に、もうすぐ劇場で再会できる。
ナイロン100℃ 45th SESSION
『百年の秘密』
[東京公演]2018年4月7日(土)~30日(月・休)下北沢 本多劇場
[兵庫公演]2018年5月3日(木・祝)、5月4日(金・祝)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
[豊橋公演]2018年5月8日(火)、5月9日(水)穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
[松本公演]2018年5月12日(土)、5月13日(日)まつもと市民芸術館 実験劇場
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:犬山イヌコ、峯村リエ
みのすけ、大倉孝二、松永玲子、村岡希美、長田奈麻、廣川三憲、安澤千草、
藤田秀世、猪俣三四郎、菊池明明、小園茉奈、木乃江祐希、伊与勢我無/
萩原聖人、泉澤祐希、伊藤梨沙子、山西 惇
※詳細はhttp://www.cubeinc.co.jp/stage/info/nylon45th.htmlをご覧ください。