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インタビュー & 特集

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三島由紀夫の美をめぐる葛藤 舞台『黒蜥蜴』デヴィッド・ルヴォーさん

江戸川乱歩の探偵小説を三島由紀夫が戯曲化した『黒蜥蜴』。三島の世界に魅了されたことが親日へのきっかけの一つだったと語るデヴィッド・ルヴォーさんの演出で、来年1月から東京・大阪で上演されます。9月に来日した際、黒蜥蜴役の中谷美紀さん、明智小五郎役の井上芳雄さんらとワークショップを開催。来日中に開かれた記者会見の直後に、ホットなお話をうかがいました。(取材・文/高橋彩子)

INTERVIEW & SPECIAL  2017 10/20 UPDATE

三島が書いたイメージを
追求するために何が必要か
美しさとグロテスクさの対話

DSC02593ーー今回の来日では、公演に先駆けてワークショップをされたとか。どのようなことをなさったのですか?

ワークショップの主な目的は、物理的な要素をどう使うか、空間を物語のためにどのように使っていくかを、実験することでした。というのも今回の『黒蜥蜴』では、具体的に場所が変わっていくというより、映画的な雰囲気で流れるような変化を作りたいからです。ある場所から別の場所へとどう移り変わり、キャストがそこに関わっていくかということを、ワークショップではじっくりと見ていきました。特にアンサンブルの人たちは、そうしたストーリーの流れに、かなり深く関与していくことになります。

ーーさらに今回は、ダンサーの方も出演しますね。振付は柳本雅寛さんだそうですが、彼らは人ではなく抽象的なものを表すのでしょうか?

二人のダンサーは、黒蜥蜴が連れている侏儒(しゅじゅ)として、彼女の世界の一部となるのですが、それ以外にも、彼女達が持つフィジカルな力を生かしたいと考えているところです。その際、タンゴの、ダークでエッジの効いた、死の感覚も加わったエロティシズムが効果を上げるでしょう。三島とタンゴの組み合わせは不思議に思われるかもしれないけれど、彼は海外のものに言及することも多い作家だったし、ダークでエッジのあるタンゴこそ、三島の暗さと機知の両面を伝える気がするのです。

ーーワークショップを通して、どのようなことを発見しましたか?

観客は複数の物事を自分たちの想像力で結びつけることができるのだから、作り手がすべて、字面通りにやる必要はないということです。例えば、後期のマティスの絵は青の形だけであっても、人間の脳が、ダンサーだと判断し、そこからさらに、喜びや軽やかさなどいろいろな感情を感じ取ることができる。そして劇場は、説明し過ぎる直喩よりも、ほのめかすような隠喩が多く使われる場所です。例えば今回、ドアが動き回るようにしてみたんです。普通はドアが固定されていて、そこを人が動いて通っていくけれど、我々の三島の世界では、時に人間がじっとしていて、ドアのほうが動く。というのも三島の作品には、夢の中に出てくるイメージを、夢から目覚めることを怖れる人が書いたように感じるのですが、夢では物事が唐突に起きたり、突然、何かが物質化したりということがありますよね。そうしたある種の唐突さが『黒蜥蜴』には重要だと思います。

ーー実際、『黒蜥蜴』では驚くようなことが次から次へと起こりますね。

『黒蜥蜴』の中に、黒蜥蜴がソファに向かって話し、ソファからは明智の声が聞こえてくる、という場面があります。とても不思議な発想ですよね。黒蜥蜴がソファと愛を交わしているとも考えられ、不穏な気持ちにさせられるし、エロティックでもあるし、同時に孤独でもある。どうやってそのイメージを追求するかが面白いのです。
……そうだ、ワークショップ中に撮影した写真をお見せしましょう(と、半透明のスクリーンの向こうから幾つもの手だけが見え、それらの手の下に一人の女性が立っている写真を見せる)。この写真は、身体を使ってグロテスクでロマンティックで官能的な雰囲気を追い求める作業の過程で生まれたのですが、いかにも三島的だと思うのです。手は夢と同じようにどこからともなく現れているように見え、女性は夢遊病患者のようでもある。そこには夢見る人の苦痛も感じられます。夢から逃れられず、目覚めることを怖がっている、夢見る人。これが三島の風景なのではないでしょうか。

ーーこの女性は黒蜥蜴を表すのでしょうか?

そう解釈することもできるでしょう。これはワークショップの実験に過ぎないので、そのまま公演で使うというわけではないのですが。
ワークショップではまた、美しさとグロテスクさの対話にも着目しました。そこで浮かび上がってきたのは寺山修司の存在です。寺山の演劇はショッキングで、グロテスクで、そして説得力があった。寺山と三島が違うのはわかっていますが、寺山からも学ぶことがあると考えています。

それでも黒蜥蜴は
明智という男に惹かれてしまう
三島の美をめぐる葛藤

DSC02581ーー今回の『黒蜥蜴』はハリウッドのスタジオで展開するという設定だと聞きました。なぜ、ハリウッドなのですか?

やはり華やかでゴージャスですから。『黒蜥蜴』はスリルがある芝居で、フィルム・ノワール的ですし。撮影所というのは、インダストリアルな何もない空間なのだけれど、そこから魅惑的な世界が生まれる。大きなライトやファンを使って、夢の中に入っていく、という設定が好きなのです。

ーー会見ではフェリー二の名も出ました。

フェリー二はグロテスクな要素の扱いに長けています。彼の感性は三島とはまったく違いますが、フェリー二が言及する映画の技術ということに魅力を感じます。彼は時に、映画の中でカメラを見せてしまうことで、映画がどんなしかけか見せてくれました。裏の世界を見て、観客は一層作品に惹きつけられる。魔法の力が強くなるのです。

ーー美に対するアプローチという点で、硬質さが著しい三島と、過剰さが特徴的なフェリーニとでは異なるようにも思います。

面白い指摘ですね。私は何年間もハロルド・ピンターというイギリスの高名な劇作家と仕事をし、また、やはりイギリスの劇作家のトム・ストッパードとも何度も仕事をしていますが、ある時、二人と夕食を囲むというおかしなシチュエーションになったことがあるんです。トムの芝居『コースト・オブ・ユートピア』のプレビューを観た直後だったんだけど、ハロルドはトムに「舞台装置をあんなに使わなくてもいいんじゃないの?」と言った。いかにもハロルドらしいですよね。トムは「高いお金を出して観に来るお客さんに報いるためにお金をかけたかった」と答えました。そうやってしばらく二人の会話が続いたあと、突如、ハロルドが僕に「どう思う?」と話を振ってきたんです。僕はとっさに「太陽と月に挟まれて座っている気分だな」と言ってしまって(笑)。すると当然のことながらトムが「どっちが太陽でどっちが月なの?」と。「それをこの場で言うのは差し控えます」と言ったらハロルドが「彼は正しい。言わないよ」と言いました。でも実際のところ、ストッパードが太陽で、ピンターは月だと思う。ハロルド・ピンターは何もない部屋を使い、そこで世界が見渡せるようにするのに対して、トム・ストッパードは何もない部屋に、世界の様相をこれでもかと詰め込む。やり方が逆なんです。
話を戻すと、フェリーニはイタリア人ということもあって、感性豊かで太陽のようだけれど、三島は闇に取り巻かれていて、まるで月のようです。彼は歌舞伎や文楽や能といった古典芸能に惹かれていたけれど、古典芸能の本質は、あまり動いていなくても感情が力強く表れるところにある。僕も初めて茶道を経験した時、ものすごく意識を高めてくれて、何か本質を感じさせてくれる作業だと思いました。ただのミニマリズムではなく、本質的なパワーを感じさせてくれるもの。そうした日本的なものを三島には感じます。言うなれば三島は一本の薔薇をくれる人で、フェリーニは何百本もの薔薇をくれる人ですね。

ーーでも、月と太陽の間にいて、どちらの良さもご存知なルヴォーさんは、今回の『黒蜥蜴』に両方の要素を反映なさる?

そうですね。どの戯曲にも、風景というものがありますが、この『黒蜥蜴』で、風景がどこまで広がり、あるいは狭まるかということを、観ていきたいと思います。実際、『黒蜥蜴』の基調は、子供っぽかったりシリアスだったりと、常に変わっていきます。三島自身、楽しいジョークが好きで子供っぽくもあり、かと思えば急に絶望もする人物でした。だから、彼に関しては、月と太陽を意識しますね。そういえば、面白い話があって、僕が初めて三島の戯曲を演出したのは『サド侯爵夫人』だったんだけど、ボブ・クローリーというアイルランドの素晴らしい美術家に美しい空間を作ってもらい、第一幕は18世紀、第二幕は19世紀、第三幕は第二次世界大戦下の1940年代に設定したんです。そして三幕の最後に太陽を昇らせ、ほんの一瞬、18世紀の女性が横切るようにした。絶望が漂う時代の中に、美しい閃光が走るようなイメージでね。この公演を、三島の未亡人が観に来ました。彼女が気に入らなかったら上演中止になってしまうかもしれないから、みんな彼女を恐れていたけど、緑色のネイルをした、とても魅力的な人でした。有名な画家(杉山寧)の娘さんなんですよね。終演後、僕と夫人は小さなバーで隣り合って会話をしました。すると彼女はとても真剣な態度でこう言ったんです、「あの太陽の意味は何ですか?」。「来た!」と思いながら「あなたが思う通りの意味です」と答えたら、彼女は「ああ!」と言って、事なきを得ました(笑)。

ーー(笑)。三島の世界にも、ナンセンスな可笑しさは描かれていますよね。

例えば歌舞伎『鰯売恋曳網(いわしうりこいのひきあみ)』などはコミカルで面白い作品ですね。

ーー先程、「グロテスク」という言葉が出ました。ワークショップでもよく「グロテスクな美しさ」とおっしゃっていたとか。グロテスクと美醜についてのお考えをうかがいたいです。

まず、何が美か?という問題があるでしょう。そこにはたくさんのクリシェ(常套的表現)が存在している。だから、時にアーティストは、みんなが美しいと思っているものを犯してショッキングなものを生み出し、それを美しいと思わせたりもします。社会通念として醜いとされているものの中には、実際には近くで観ると美しいものもありますし、三島はグロテスクなものを美しいものとして描くこともしたでしょう。『黒蜥蜴』に関して言えば、そこには三島の美をめぐる葛藤がよく表れています。黒蜥蜴は恋をすると人間らしくなり、不完全になってしまうという理由で、明智への愛を抑えようとしています。完璧でなくなってしまうことは、傷つきやすくなってしまうことを意味するから。それでも彼女は明智という男に惹かれてしまう。そこがいかにも三島らしいなと思うのです。絶対的で純粋でありたいのに、実際にはそうなれないことへの大きな悲しみ。それこそが、三島が抱えていた内的葛藤なのではないでしょうか。

ーーそこに『黒蜥蜴』のドラマがあるのですね。

そうです。黒蜥蜴は意に反して自分の完璧さを剥ぎ取られてしまい、しかし死の直前に人間らしい美しさを備えた女性となっていきます。最終的には、巨大な人間の爆弾が爆発するのであり、徐々に爆発の瞬間に近づいていくという筋書きになっているのだと思います。

ーーなるほど! 舞台の上でどのような爆発が起きるのか、楽しみでなりません。


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デヴィッド・ルヴォー
1957年イギリス生まれ。82年『日陰者に照る月』でウエストエンド演劇賞を受賞。同作品をブロードウェイでも演出し、トニー賞最優秀演出賞を含む4部門にノミネートされる。 88年松竹『危険な関係』で初来日。その後、東京で注目を浴びる一方、ロンドンでロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのアソシエイト・ディレクターとして『あわれ彼女は娼婦』『ロミオとジュリエット』を連続上演。ロイヤルナショナルシアターでは『父』『ジャンパーズ』を。93年ブロードウェイ『アンナ・クリスティ』でトニー賞5部門にノミネートされ、リバイバル作品賞を受賞。98年に演出した『テレーズ・ラカン』は、第1回読売演劇大賞と演劇作品賞、紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。また、2003年のブロードウェイ作品『ナイン』は、トニー賞最優秀ミュージカル演出賞など6部門にノミネート、ベスト・リバイバル・ミュージカル賞など2部門で受賞。近年の主な演出作品として、14年6月日生劇場にてハロルド・ピンター作『昔の日々』(出演:若村麻由美、麻実れいほか)、16年3月Bunkamura シアターコクーンにて谷賢一作「ETERNAL CHIKAMATSU-近松門左衛門『心中天網島』より-」(出演:深津絵里、中村七之助ほか)、16年10月にニューヨークのパブリックシアターにてレイチェル・ワイズ主演『プレンティ』。

舞台『黒蜥蜴』
[東京公演]2018年1月9日(火)~28日(日)日生劇場
[地方公演]2018年2月1日(木)~2月5日(月)梅田芸術劇場メインホール
原作:江戸川乱歩
脚本:三島由紀夫
演出:デヴィッド・ルヴォー
出演:中谷美紀、井上芳雄/相楽樹、朝海ひかる、たかお鷹/成河
一倉千夏、内堀律子、岡本温子、加藤貴彦、ケイン鈴木、鈴木陽丈、滝沢花野、長尾哲平、萩原悠、松澤匠、真瀬はるか、三永武明、宮菜穂子、村井成仁、安福穀、山田由梨、吉田悟郎(50音順)
ダンサー:小松詩乃、松尾望
※詳細は公式サイトhttp://www.umegei.com/kurotokage/をご覧ください。

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