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インタビュー & 特集

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INTERVIEW!こまつ座『円生と志ん生』鵜山仁さん&大空ゆうひさん

第二次世界大戦後、ソ連軍下となった中国・大連。街に居残りになった二人の噺家、円生と志ん生は、さまざまな女性たちに囲まれながら、笑いの力でたくましく生き抜いてゆくーー。井上ひさしの傑作劇の三度目の上演。初演から演出を手がける鵜山仁さんと、こまつ座初出演の大空ゆうひさんに意気込みをお聞きしました。
(取材・文/藤本真由[舞台評論家]、撮影/須田卓馬)

INTERVIEW & SPECIAL  2017 9/5 UPDATE

はじめましての二人だけど
稽古場でざっくばらんに話ができている

――大空さんはこまつ座初出演ですが、これまでのこまつ座の舞台の印象は?
大空 こまつ座にはこまつ座独特の空気感がありますね。どの人物にもすごく温かい温度があって、何だか懐かしいというか、不思議な気持ちになれる気がして。リズムであったり、セリフのどの箇所で句読点を打ったりするかとか、そんなところに言葉の力というものがあって、そのテンポが観ていてとてもおもしろいんですよね。人に浸透させる何か、それが、出演している役者にとってもきっと何かあるんだろうなと思って、体験してみたいなと憧れていて。その夢が今回かなったという感じです。

――今、お稽古していていかがですか。
大空 鵜山さんのいろいろなアイディアに絶対ついていきたいと思って、そのことに必死で、すごく刺激を受けています。まだまだできないんですけれども、なぜか毎日稽古場に来るのがとても楽しくて、今日も絶対何か吸収したい!と思っていて。挑戦ですね。全体の空気がとても温かくて居心地のいい稽古場なんです。
鵜山 今回、たまたま僕より年下の方ばかりの稽古場なので、言葉が通じるかどうか気になるんですけれども、初めてご一緒する大空さんには、好意的に、オープンマインドで拾ってもらえているなと。いろいろ投げている中には、時にはゴミみたいなのもあるかと思うんですけど、それでもちゃんと拾ってもらえている(笑)。
大空 そんな。ゴミはないです(笑)。
鵜山 かれこれ30年近くこまつ座で演出をしてきた。最初の頃は先輩ばかりでしょう、役どころでいっても、例えば今回の円生と志ん生だったら、当時は僕のお父さん、おじいさんという世代感覚でした。でも今はもう、この作品で描かれている二人より年齢的には上なわけで。もともとは大空さん目線で見ていたのが、今やおじいさん目線になっている。芝居のおもしろさという意味でも、ここが勘所だというところがうまく伝わるのかどうか。そういう期待、心配があるんですけど、自分自身、30代、40代で感じていた芝居のおもしろさと、今感じている芝居のおもしろさが全然違うんです。またおもしろさが発見できるんじゃないかなという思いと、もうどこかさびついているんじゃないかという思いと両方あるんで、若い稽古場にはやはり刺激があって。今回、大空さんとも稽古場でざっくばらんに話ができているのがありがたいですよね。

――昔と今とで感じる芝居のおもしろさの違いとは?
鵜山 若い頃は、自分がどうすればいいか、自分がやりたいことをどうしようかということを考えていて。でも、全体を見る立場上、今はやっぱり、キャッチボールのおもしろさとか、他人に影響されるおもしろさに魅力を感じる。それでいて本質的には人は変わらないということも何となくわかるし。僕らの年齢になると、またみんな身勝手な人になるというか(笑)。駆け出しの頃のように自分のことしか考えない、ある意味子供還りみたいな面が出てくる。芝居を作っているとその両方のおもしろさがあって、チームプレイとか言っていられる時期は実はあんまり長くない(笑)。サッカーだと四十で引退するけど、芝居はずっとやっているわけだから、もっと複雑でややこしい関係なんです。そこがまたまた楽しみなんですけどね。
大空 鵜山さんの演出は、びっくりするようなおもしろい球を投げてくださるので、それが大好物になって、犬みたいに必死で走って取りに行くみたいな、これを絶対キャッチしないと役者としておもしろいことを逃してしまうんじゃないかという思いがあって。誰も予想しないような球でも、実は一番咀嚼しやすいものだったりして、こうしたらみたいな一瞬の一言でも、何か見ている景色をぱっと変えてくださる新鮮な感じがあります。役者って自分の世界、自分の思い込みでホンを読んできて、それを稽古場で破壊するために試行錯誤するんですけれども、鵜山さんには、ソフトな投げ方ですぐ視界を変えてくださる魔法がある気がして、すごくおもしろいですね。知らないうちにすごくしごかれているのかもしれないけれども、こちらはすごく楽しんでいて、不思議な快感があります(笑)。
鵜山 井上さんの戯曲のストライクゾーンってすごく広いから、ああでもない、こうでもないっていろいろ挑戦できる可能性があるし、演出の方は、良くも悪くも役者の顔色を見てやっているというところがあるから(笑)。自分勝手な印象でしかないんですけれども、何をやったらこの人と楽しめるかというのが、一番楽しいところですよね。自分一人で発見していることは何一つない。大道具一つ、小道具一つ選ぶにしても、そのときどきの稽古場の空気、役者の状態や顔色との化学変化で決まっているような気が実はしていて。そうでないとやっぱりライブって退屈ですよね。大空さんはいろいろな可能性を持っている方だと思いますね。僕、人見知りなんですけど、比較的話しやすい。なんといってもまだそんなに話してないですけど(笑)。
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言葉をひっくり返すと
世界がひっくり返るような感覚

――役どころ的にはいかがですか。
大空 円生と志ん生の二人の師匠がいて、女性四人が各場面、師匠たちがいる場所を作っていっている感じで、移り変わりが非常に早いんですよね。そこが大変ですし、一つの作品で五役演じるというのもなかなかないことですけれども、一人で五役考えるのではなくて、いつも四人で違う人になっていく、そのバランスがあるんですよね。バランスってもちろんどんな芝居でもあるんですけれども、今回は、こういうメンバーの中で自分がどう見えて、どういう役割でということを考えていて、しかもそれが次々と移り変わっていくから、いつもとは違う作業をしているというか。難しいんですけれども、自分を客観視するというか、自分って役者としてどう見えているんだろう、どういう居方をするとこの芝居の中で役に立つんだろうということを考える機会がいつもより多いので、すごく勉強になりますね。一つ一つの役についてはまだまだ探っていって、それぞれもっと生き生きと演じていきたいですし、それが全部そろったとき、変わっていくことがすごくおもしろいだろうから、役者としてすごくやりがいがあって。変わること、自分の変化が楽しめるまでに、役として成長させていきたいと思いますね。
鵜山 噺家二人と違い、女性の方は別に有名な人物が登場するわけではないし、それだけに味わいが複雑というか、みんなそれぞれ背負っているものが全然違う。だけど総体として女性の思いみたいなものを表しているというか。男が名前とか立場とか大義名分とかで突っ走っていっちゃって、その始末をどうつけるのか、それを全部女性たちがやってくれている。噺家二人はそのつなぎ役みたいなところもあるんですよね。女性たちがどう感じるか、それが男にとってはすごく大きな問題。男同士だと意外に相手の話とか聞かないんですけれども、女性相手だと、そうか、そういうふうに考えて感じているのかとか聞こえてくる。一人一人の思いがうまく重なっていくと、この芝居のいいところが出てくるんじゃないかなと。作者としては「女性たち」に託しているところが多分にあると思うので、そこが立体的に浮かび上がってくるといいんじゃないかなと思いますね。

――そのあたりも含め、作品の魅力をお話しいただけますか。
鵜山 人間ってどうやって生き延びていくんだろうという大きなテーマがある。男性的なエネルギーと女性的なエネルギー、もちろん共通する部分も違う部分もあると思うんですけれども、それが持ちつ持たれつ、ぶつかったり、くじけたりしながらまた何とか立ち上がる。そういう意味では作者の温かさ、前向きな思いを感じますよね。実は、もっと若い頃は井上さんのそういう考え方が何となく生温かくて、それが腹立たしかった時期もありました(笑)。それも今は自分の中で変わってきました。生前井上さんもおっしゃっていたんだけれども、状況がそれだけ厳しいんだから、少なくとも舞台の上では温かく、というね。厳しさが背景にあるからこその温かさだったりするということは、だんだんわかってきたことですけれども。
大空 作品の中にいる自分としては、円生師匠と志ん生師匠が愛おしくてたまらない気持ちになるんですよね。この時代の中で噺家さん二人が、言葉のわかる人の前で落語がやりたいとか、言葉が自分の中で回ってゆらゆらしちゃうとか、そう言うのを聞くと、もうね。こんなに落語って素敵なんだ、と思いますよね。噺家二人の落語を愛する気持ちに、一緒に出ていて夢中という感じですね。それが私にとっての作品の魅力かな。

――落語という芸についてはいかがですか。
大空 言葉を扱う仕事ですよね。そして、一つの作品を一人で最後まで引っ張り続ける。今回も稽古場に噺家の方が指導にいらしているんですけれども、その姿を見るだけで、人生が噺家さんなんだと思うんですよね。噺の世界に生きてらっしゃるという。そうなってくると、言葉がすごく魅力的に思えるし、ますます落語の世界に興味を持ちますよね。
鵜山 僕が育ったのは、ちょうどテレビで落語を盛んにやっていた時期でした。子供のころ、「隣のうちに囲いができたんだって」「へえ」とか、死ぬほどおかしかったですね。言葉をひっくり返すと世界が引っくり返るような感じ。そういう意味では随分影響を受けているかもしれないですね。噺家って、存在全体がおもてなしでできあがっているエンターテイナーという感じがして。そこまで言葉を使いこなせるというのはすごいことですし、ある意味こわいことだなと。井上さんご自身、しゃれが好きですし、権柄尽くの世の中を言葉もろともひっくり返しちゃえみたいなところもありますよね。
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距離も時間も超えて
遠いところに呼びかけるとき
歌の力って大きい

――井上作品の音楽劇としての魅力についてはいかがですか。
鵜山 距離も時間も超えて遠いところに呼びかけるとき、歌の力って大きいですよね。今回は本歌取りみたいな感じで、ベートーヴェンだったり、ミュージカルだったり、宇野誠一郎さんの他の作品から取ってきた曲があったりして、ちょっといろいろな記憶を引っ張ってきてシャッフルするみたいなところがあるというか。そういうとき、便利ですよね、歌って。ときどき理屈に疲れたら歌、そんな感じになってるんじゃないですかね。
大空 難しいのは、ミュージカルだとその時々の感情に当てはめて曲が作られているけれども、今回はすでにある曲にお芝居、歌詞が当てはまっている。でも、どーんとそこにいくパンチ力が逆にいいのかなと。言葉がすごく強く入ってくる感じがしますよね。一回聞くとずっと頭の中を回っちゃうみたいな曲の力強さもあって。その曲の持っていき方もおしゃれだな、センスがすばらしいなと思うんです。
鵜山 井上さんって、死んだ人、昔の人、客席に座っている人、いろいろな階層の人とコミュニケーションしたいという気持ちがあったと思うんですよね。そのためには何でも利用する。この作品にも不思議なマーチが出てきますし、『紙屋町さくらホテル』の体操の曲なんてもろに軍歌なんですよね。歌詞や歌い方を変えたらたちまち世界が変わってしまうみたいなこわさもある。歌の持っている、みんなを引っ張っていく力、そのこわさをよく知っていらしたと思うんです。
大空 言葉についていうと、さっき鵜山さんがおっしゃっていたように、井上先生の作品はストライクゾーンが広くて包容力がある、でもだからこそ、いかようにもできるというところで難しいんですよね。自分のイマジネーションの乏しさみたいなものにぶつかるわけで。やっぱり只者ではないというか、自由な部分がとてもあって、その使い手がちゃんと使えないと負けちゃうんだろうな、みたいな。会話劇で、そこで自分の感情がこうなったからこう発しましたというストレートな感じではなくて、いろいろな言い方があるんじゃないかということを問われるというか。正反対に、怒っているところを笑って言ってみたら意外とはまった、みたいなことがあるので。そういうことをこわがらずに楽しんでいきたいなと思えるのは、鵜山さんのアドバイスあってのことなんですけれども。いろいろ壊して楽しんでいきたいですよね。
鵜山 表はヒューマニズムで、裏にかなり黒々としたものを抱えているみたいなところがありますからね(笑)。でもそれこそがバイタリティだから、上澄みだけじゃやっぱりもったいないというかね。やってる人の人生観も出ちゃいますし。作っている人それぞれの特徴が出れば、井上さんも喜ぶんじゃないかな。

――今の段階で、これまでの上演では感じなかった発見などありますか。
鵜山 妙にね、これからどうするんだ?と言われている気がして。現代の我々、お客さんがどうするのか、と。昔々こういうことがありました、日本があちこちに行って負けて帰ってきました、さあ、これからどうしますか。そう言うことを、昨今差し迫った問題として感じてしまうんですよね。
大空 今回の座組みでのこの作品のおもしろさを出したいなと思いますけれども、今の自分、今までの自分を問われているようなことがあって。この作品に出会ったことで、もう一味ぐらい足されていると思うし、まっさらの今の自分をお見せするしかないので、稽古場でいっぱい恥もかきつつ、作品の中で自分の味が何かしらの調味料になれるように、そして心に何かを持って帰っていただける作品になるように頑張っていきたいと思っています。
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鵜山仁(うやま・ひとし)
1953年生まれ、奈良県出身。文学座演出部所属。主な演出作品に、『グリークス』『女たちの 十二夜』『リア王』『ロンサム・ウェスト』『ゆれる車の音』『舞台は夢-イリュージョン・コミック』『くにこ』など。こまつ座では『雪やこんこん』『人間合格』『連鎖街のひとびと』『紙屋町さくらホテル』『円生と志ん生』『芭蕉通夜舟』『イーハトーボの劇列車』『小林一茶』『マンザナ、わが町』など。『父と暮せば』などで読売演劇大賞優秀演出家賞、『おばかさんの夕食会』などで毎日芸術賞千田是也賞、『コペンハーゲン』などで紀伊國屋演劇賞、『兄おとうと』などで読売演劇大賞グランプリと最優秀演出家賞、『ヘンリー六世』で読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞。1987年の『雪やこんこん』以来、こまつ座の公演を2000ステージ以上手がけており、井上ひさしが絶対的な信頼をおいていた演出家の一人。2016年、『マンザナ、わが町』、『廃墟』の演出において第二十三回読売演劇大賞最優秀演出家賞受賞。近年の作品に『トロイラスとクレシダ』『エレクトラ』『幽霊』『ヘンリー四世』など。

大空ゆうひ(おおぞら・ゆうひ)
1992年に宝塚歌劇団入団。月組、花組を経て2009年に宙組男役トップスターに就任。12年に退団後、翌年に蜷川幸雄演出『唐版 滝の白糸』で女優として再スタート。以降、舞台や映像作品で活躍しながら、自身が企画・プロデュース・主演を務めた『La Vie』や、音楽活動としてライブを開催するなど多彩な表現活動を展開している。近年の主な出演作に、【舞台】『HEADS UP!』(演出:ラサール石井)『現代能 安倍晴明』(演出:梅若六郎玄祥、野村萬斎、藤間勘十郎)『SHOW ル・リアン』(構成・演出:本間憲一)『冷蔵庫のうえの人生』(演出:謝珠栄)『磁場』(作・演出:倉持裕)『カントリー~THE COUNTRY~』(演出:マーク・ローゼンブラット)【TV】「紅白が生まれた日」(NHK)、「誤断」(WOWOW)など。今回、こまつ座初出演となる。

こまつ座第119回公演
『円生と志ん生』
[東京公演]2017年9月8日(金)~24日(日)紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(タカシマヤタイムズスクエア南館7階)
[兵庫公演]2017年9月30日(土)、10月1日(日)兵庫県立芸術文化センター
[仙台公演]2017年10月8日(日)日立システムズホール仙台
[山形公演]2017年10月14日(土)川西町フレンドリープラザ
作:井上ひさし
演出:鵜山仁
音楽:宇野誠一郎
出演:ラサール石井、大森博史、大空ゆうひ、前田亜季、太田緑ロランス、池谷のぶえ、朴勝哲(ピアノ演奏)

【スペシャルトークショー】
9月11日(月)13:30公演後 樋口陽一(比較憲法学者) -井上ひさしにとっての笑い-
9月14日(木)13:30公演後 大空ゆうひ、前田亜季、太田緑ロランス、池谷のぶえ
9月17日(日)13:30公演後 大森博史、ラサール石井
9月21日(木)13:30公演後 雲田はるこ(漫画家)-『昭和元禄落語心中』ができるまで-
(第 21 回手塚治虫文化賞 新生賞受賞)
※詳細はhttp://www.komatsuza.co.jp/をご覧ください。

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