インタビュー & 特集

INTERVIEW!『葵上・卒塔婆小町』 美輪明宏さん

美輪明宏さんの演出・美術・主演による『葵上・卒塔婆小町』が7年ぶりに登場、3月下旬からの東京公演を皮切りに、現在、全国で公演中です。三島由紀夫氏に「ぜひ俺の『近代能楽集』をやってくれ」と頼まれ、美輪さんが演出プランを話すと、三島氏は満足そうにうなずいていたそうです。そんなお二人の貴重なエピソードから、美輪さんの不思議な声の波動についてまで、たっぷり語っていただきました。(取材・文/小野寺亜紀、撮影/御堂義乘)

INTERVIEW & SPECIAL 2017 4/27 UPDATE

“三島由紀夫×美輪明宏”の舞台といえば、深作欣二監督によって映画化もされ、世界的に大反響を巻き起こした『黒蜥蜴』があります。寺山修司氏の『青森県のせむし男』『毛皮のマリー』に美輪さんが主演し、新宿の大通りまでお客があふれているのを見た三島氏は悔しがり、『黒蜥蜴』を依頼してきたと言います。

美輪明宏 AAII5218 - コピー「『黒蜥蜴』は江戸川乱歩原作で、三島由紀夫さんが脚色をなさり、私の代表作となりました。映画化もされ、ニューヨークやヨーロッパでも大評判となり、私が海外でコンサートをやるきっかけになったお芝居です。これがあまりにも大当たりしたものですから、三島さんは次を狙って、『ぜひ俺の『近代能楽集』を、どれでもいいからやってくれ』と仰ってきました。お薦めを伺ったら『道成寺』や『弱法師』、『綾の鼓』はどうかと言うのですが、私は気が進まず、『大劇場のお客様を満足させる空間の処理の仕方を、よっぽど考えないと失敗しますよ』とお答えしました」

美輪さんは三島氏に『葵上』『卒塔婆小町』を提案。『葵上』の装置はサルバドール・ダリと尾形光琳の世界観を組み合わせることや、『卒塔婆小町』での公園から鹿鳴館へと一瞬で転換する方法の案を述べました。

「ダリは時空を超えるという作家のポリシーにぴったりでしたし、尾形光琳の『紅白梅図』は、中央に川が流れていて、紅梅がこの世、白梅があの世でそれを川が隔てていると解釈した本を読んだことがありました。そこでダリと尾形光琳の両方をミックスしたいと伝えました。『卒塔婆小町』の鹿鳴館への場面は、紗幕やライティングの効果的な使い方を述べますと、“なんだ全部(演出が)できているじゃないか”と仰いました。私は台本を読むとき、そういう計算をしながら読んでいくんです。ただ、当時の日本は貧しくて、これらの演出ができる大きな劇場がなかなかありませんでした。そこで『条件が整いましたらやりますね』と言っていたのですが、その後三島さんはお亡くなりになられて。『卒塔婆小町』は人数が要りますが、『葵上』ならできるということになり、彼の一周忌にまず『葵上』を上演。評判も良く、三島さんの奥さまもとても喜んでくださいました」

『葵上』は「源氏物語」の光源氏、葵の上、六条御息所の物語をベースにした能の謡曲を、三島氏が現代化。生霊・六条康子(美輪)が、過去の恋人・光を幽玄の世界へと引き込んでいきます。

「お能の『葵上』は、六条御息所が新しい奥さん(葵の上)のところへ生霊となって毎夜通い取り殺してしまう、という単純なお話なのですが、紫式部の『源氏物語』には、六条御息所が先の帝の妃という高貴な身分で、心の格式をきちんと持っている人だと描かれています。覚醒しているときは恨みに思っていない彼女は、あるとき自分の衣裳に悪霊退治の護摩木を焚いた匂いがして、ひょっとすると自分は物の怪になっていたのではと気付きます。なんてあさましい、落ちぶれた女になったのだろうとしみじみと泣くのですが、お能ではそういったところは省かれているので、私は性根として持ちながら演じています」

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『卒塔婆小町』は、絶世の美女と謳われた小野小町と深草の少将との伝説をベースにした物語。

「いろんな人が小町に求婚に来るのですが、“100日通えばあなたのものになってあげます”と条件を出すんですね。ところがみんな脱落していき、深草の少将だけが通い続けます。舞台では彼女は醜い老婆の姿なのですが、詩人(深草の少将)にはすごい美女に見えてくる。でも美しいと言ってしまえば男は死んでしまう、という呪いがかけられているので、小町は彼に愛情を感じるゆえに『どうか美しいと言わないで』とお願いするわけです。この物語では、最初から最後まで老婆の姿で演じられるのが主流でしたが、わたくしは20歳の小町と99歳の老婆の二役を早替わりで演じます。私も80歳を超えて体力的に楽ではないのですが、醜い女が『美しいとは言わないで』とお願いするよりも、美しい女が『醜いと言いなさい』と一生懸命にお願いする方が、心象風景、哀れさ健気さでお客様に感動をお伝えできると計算したんです。ですから最初は老婆のまま、途中で声だけ変化させるテクニックも使い早替わりをします。筋肉をこういうふうに使い、節という節が曲がり、横隔膜が圧迫されて……『ちゅうちゅうたこかいな――』(と、台詞を言いながらその場で老婆の口の動きや声質、表情を実演!)。この舞台をご覧になられた泉ピン子さんが、『美輪さんがいつまでたっても出てこない。それにしてもあのおばあさんは達者だな』と思っていたらしいです。『だませた!』というのもこの舞台の醍醐味で、そういう遊びもできるお芝居でもあります」(笑)

あまりに美しく生まれたために不幸になる、というのは、美輪さんが唱える「正負の法則」にまさしく当てはまります。

「いいことがあれば悪いことが起きる。プラスとマイナス、陰と陽、吉と凶、二つの相反するものが訪れるのは宇宙の法則であって、それは何びとたりとも跳ね返すことはできない、というのが私の持論です。と言いますのも、私は1935年に生まれて81年間、ずっと色々な方の人生を見てきて、“満つれば欠ける”を実感してきました。満月になれば後は欠けるだけ。だから満月に、頂点にならなければいいのです。二番手であればやる気も出ますし、希望がありますでしょ。クレオパトラも楊貴妃も小野小町も、ひどい死に方をします。あんまり美人に生まれるとそういうことになる。どうにか見られるかな、というぐらいの容貌の方が無事に生涯を送れるんですよ。きれいに生まれるばかりが幸せじゃない、妬み嫉みひがみを感じることは全くない。そういうことがこの芝居を観ればお分かりいただけると思うんですね。三島さんから依頼があったときも、そんな話を長々としました」

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『卒塔婆小町』では輪廻転生も一つのテーマになっていると話します。

「スピリチュアルな霊能者とか95パーセントは偽者が多いですが、本物の方も5パーセントはおります。私はそういう方々と60年ぐらい他流試合をし、見分けてきました。本当にそういう(スピリチュアルな)ことってあるんですね。私も知人も、何度も不思議なことがありました。三島さんは最初、霊的なものは一切信じない合理主義者だったのですが、彼が亡くなる前にある不思議なことがございまして。三島さんは思い当たることがあり愕然となされて、否定派だったのが肯定派に変わり、仏教に興味を持つようになられ、すぐ東南アジアへ飛んで行かれました。それで私とも色々とお話をしまして、最後の作品『豊饒の海』になったんです。『暁の寺』というのは東南アジアのお寺へ行って下調べされたのが作品の基となりました。『春の雪』に登場する女性のモデルは、私と三島さんとの共通の知り合いでした。そのように色々ございましてね。三島さんとは18年のお付き合いとなりましたが、また『葵上・卒塔婆小町』を上演するということで感無量です」

今回7年ぶりの登場で、時代の急速な変化の流れを感じながらも、今作の上演の意味をかみしめています。

「ツイッターなど通信手段もものすごい変わりようでしょう。産地から問屋さんを通し売店に行くという物流の流れが、自分でPRできるツイッターができたら、産地から直売になりました。私たちの時代は手紙と電話ぐらいしかなかったですから。ただ、いまだに常識の方が正しくて、真理はなおざりにされているところがあります。その中で、時々振り返って、真理のほうに引き戻す役目をしているのが“文化”です。人間の身体は肉体と精神でできています。肉体の栄養剤は過剰なぐらい出回っていますけど、精神の栄養剤、美術、文学、音楽、スポーツといったもの、人間の生きがいとなるものを持たない人が増えています。持っているとしても粗悪なものがすごい勢いで流れ込んでいます。舞台芸術に関しては、“うわー! きれい”と感じる舞台装置だとか、芝居を観て泣く機会のない出し物が多すぎるように思います。以前に瀬戸内寂聴さんが私の演出の『愛の讃歌』をご覧になられて、終演後楽屋にいらっしゃり『数えきれないぐらいお芝居を観てきたけれど、これが一番、最高よ! しばらく泣かせて』と仰って、ずっと泣いてらっしゃいました。昔の作品にはこういういいものがあるんですよ、と私のような生き残りが伝えていかなくては。今回で『葵上・卒塔婆小町』をやるのは、ひょっとしたら最後になるかもしれません。ただわたくし、声のキーは変わらないものですから…」

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通常は60歳を過ぎると声のキーは下がってくるそうですが、美輪さんの場合、歌にしても10代の頃の楽譜をそのまま使えるのだそうです。不思議な声の魅力もあいまって、三島文学の美しい日本語を如実に伝えることができるのです。

「わたくしは2オクターブ半の、いろんな種類の声が出ますのでね。私の声を科学的に分析すると不思議な結果が出ました。自然界の波の音や風の音、“ゆらぎ”というそうですが、そういう音波、波動の声を持っているそうです。それは美空ひばりさんや、ジョン・レノンさんと同じだと言われました。それだけではなく、もう一つ“カリスマ波動”といって、人を説得できる波動も持っているそうで、この両方の波動を持っている人は見たことがないと、そこの研究所の方は驚いてらっしゃいました。あら、なんだか話が余計なほうにばかりいっちゃいましたね」(笑)

まだまだお話は終わらないような、温かい雰囲気の取材となりました。三島文学の傑作と言われる作品に美輪さんの美学が息づくこの舞台でも、その唯一無二の存在感、演技力は圧巻です。不思議な雰囲気をまとった冒頭の登場シーンから、今回も瞬時に別世界へと導いてくれるでしょう。


【公演データ】
近代能楽集より『葵上・卒塔婆小町』

作:三島由紀夫
演出・美術・主演:美輪明宏
出演:美輪明宏、木村彰吾、他

◆東京公演
2017年3月26日(日)~4月16日(日) 新国立劇場 中劇場

◆仙台公演
2017年4月23日(日) イズミティ21 大ホール

◆浜松公演
2017年4月26日(水) アクトシティ浜松 大ホール

◆名古屋公演
2017年4月28日(金) 愛知県芸術劇場 大ホール

◆松本公演
2017年5月4日(木・祝) まつもと市民芸術館 主ホール

◆福岡公演
2017年5月11日(木) 福岡市民会館

◆大阪公演
2017年5月18日(木)~5月21日(日) シアター・ドラマシティ

◆横浜公演
2017年5月29日(月)~5月30日(火) 神奈川県民ホール 大ホール

公式HP http://www.parco-play.com/web/play/sotobakomachi/

 


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