インタビュー & 特集
INTERVIEW! 舞台『メトロポリス』松たか子さん&森山未來さん
巨匠フリッツ・ラング監督によるSF映画の金字塔「メトロポリス」が舞台化される。「メトロポリス」は、1926年に製作されたドイツのモノクロ・サイレント映画で、製作時から100 年後の未来都市を描いている。串田和美による舞台化に、10年ぶりの共演となる松たか子と森山未來が挑む。(取材・文/高橋彩子、撮影/石原敦志、スタイリング/梅山弘子[松]、ヘアメイク/稲垣亮弐[松、森山])
INTERVIEW & SPECIAL 2016 9/2 UPDATE
――お二人の共演は、2006年の『メタルマクベス』以来、10年ぶりだそうですね。お互いをどう見ていますか?
松 未來がやっていることを私は全部観ているわけではないですが、「あ、遠くに行くんだ」「よかった、無事に帰って来て」といった思いを何回か繰り返していて、とにかく「生きていてくれてよかった」という気持ちですね。色々な経験をする中で、彼の顔が、キツくなるのではなく、ストイックなところはありつつ、むしろ優しくなっていくのを感じて、とても素敵だなと思っています。
森山 松さんは、僕が今更語ることもない方だと思いますけど、大好きです。一人で空間全てをもって行っちゃう人で……。
松 それ、だめじゃない(笑)。
森山 いやいや、それくらい力がある人だから、いつもどこを突こうかなって(笑)。
松 厳しいんですよ。芝居を観に来ると、いつも「それでいいのか?」というような、はっとする感想を言ってくれる。自分でもわかっているつもりなんだけど、つい没頭してしまうようなタイミングで来てくれるので、「いかんいかん、がんばらなきゃ!」と思わされます。
森山 皆、「松さん、良い」と言うから、俺くらいはちょっと言っておこうかと思って。
松 私のほうはいつも、未來の舞台を観て、素直に「すごい、すごい」とだけ言っています(笑)。だって、あの身体能力は、言われ飽きているかもしれないけれど、他の人にはないものだから、いっぱい言われてほしいなって。
森山 「すごいね、がんばってね、じゃあね」とだけ言って、すぐ消えちゃうよね(笑)。たまに、踊りのことは、聞いてくるんですけど。
松 そう、『もっと泣いてよフラッパー』の時、「どうすればいい?」と聞いたら「こういうのを見て」と教えてくれた映像がジーン・ケリーやシド・チャリシーのもので、「これは無理!」って。なのに、『もっと泣いてよフラッパー』の公演の時には日本にいないっていう(笑)。
森山 イスラエルにいたから、観られなくて。
―― 一度の共演で、なぜそこまで仲良くなられたのでしょう?
森山 僕は『メタルマクベス』の稽古の時、「クソだ」みたいなことをすごく言ってて。自分自身がそういうふうに言わないとやっていられない時期だったのかもしれないです。最終的には楽しいと感じられたんですけど、多分、その辺りで波長が合ったのかなと。
松 私と未來と北村有起哉さんは、劇団☆新感線初参加で、収まるというより挑戦したいという思いが強い三人だったんです。で、夜に飲んで、昼間走ってお酒を抜いている二人を、私は見ながら、「へえ、そうなんだ。楽しいのに。二人だって楽しいんでしょ?」って(笑)。
森山 でも俺と有起哉さんは「楽しいとは言いたくない」みたいな(笑)。
松 それでいて、当たり前ですけど舞台ではきちんと仕事をする人達で、だからこそ騒げたし、楽しかった。今でも緊張するし、共演が楽しみな相手です。
――今回の『メトロポリス』はどんな舞台になるのでしょうか。演出の串田和美さんとはお話を?
森山 僕はまだ、原作になっているフリッツ・ラング監督の映画のトレーラーしか見ていないのですが、群衆がばーっと動いたり規模で見せたりしている印象ですよね。でも舞台は出演者もそんなに多くないですし、またがらりと違う感じになるのでしょう。串田さんからは色々聞くのですが、次に会うと前に話していたアイデアが霧消していたりする(笑)。稽古場でもギリギリまで決めない演出家だと聞いたことがあるけど……松さんは串田さんの舞台によく出てるよね。どんな稽古なの?
松 私もまだ何も聞いてないです。串田さんは、ワークショップというかたちでその場の人をどんどん巻き込んでいく作り方で、決めないかと思いきや、ある時突然「できているでしょ」と大人の顔をする、怖い方(笑)。今回もそうだけど、オンシアター自由劇場出身の先輩方がアイデアを出して動き回ってくれるから、こちらは弱音を吐けず、やらなきゃ!みたいになるんです。
森山 なるほど。
――森山さんは長塚圭史さん演出『タンゴ』で、串田さんの美術のほうは体験されていますが、いかがでしたか?
森山 実験的な美術でしたよね。僕は舞台上でとにかく台詞を言い続ける役でしたが、頭でっかちな人達の言葉の応酬に付随させるというより、言葉から連想するものを全て抽象化しようとするようなトランスペアレント(透明)な美術で、すごく好きでした。
松 串田さんはシアターコクーンの空間を一番わかっていらっしゃる演出家だと思うんです。あの空間でできる美術や世界を、私は本当に信頼しています。それにしても、未來が串田さん初めてというのは意外で。
森山 これまで、客席から『十二夜』『ひょっこりひょうたん島』など、串田さんの舞台を幾つか観てきました。ホンも書くし美術もなさるから、戯曲から始まりつつ、もうちょっと違うところからの視点もあるのかなと。身体表現的な要素も強いし、色々なものを織り交ぜようとしている印象があって、皆、動き回って創ることになるんじゃないかと思います。頭でっかちにならず、串田さんが見たいものや見たくないものを提示していきたいですね。
――今回は振付家の山田うんさんが振付として参加されます。
松 私は初めてです。
森山 僕はイスラエルに滞在していた時、うんさんと川合ロンさんのデュオ『結婚』がテルアビブの劇場に招聘されたので、お会いして、作品も観ました。すごく身体に負荷をかける動きで……。
松 そうなの!?
森山 でも演劇のステージングもなさっているみたいだし、今回は串田さんの推薦ということなので、また状況が違うでしょうから、どういうふうになるのか楽しみです。
――1926年に撮影された映画「メトロポリス」が描いているのは2026年。つまり、今からちょうど10年後の社会が表現されているのですよね。
松 今の人は疲れてしまったのか、先を想像するということをあまりやらないけれど、この時代は未来を「こうなんじゃないか、ああなんじゃないか」と想像していたんですよね。勿論、私たちが今上演するのだから、当時を再現するのではなく、現代のものにならなければいけないけれど、よくあんな映画を創ったなあと思うし、当時の人たちの想像力や思いに敬意を表したいです。
森山 映画「メトロポリス」の台本を書いたテア・フォン・ハルボウの小説版が新訳で出ているようなのですが、訳者の方が新たに翻訳したきっかけが「派遣切り」だったそうです。いくらテクノロジーが進化しても、使う人が距離感を保てなかったら破綻するんですよね。映画には「頭と手をつなぐものは、心でなければならない」 という言葉が出てきますが、それは今に通じることだと思います。舞台の技術も発達してきていますが、そういうテクノロジー=「頭」と、今回の松さんや飴屋法水さんをはじめとする力強い人達の肉体という「手」で、作品をどう成立させるのか、そこがキモなのではないでしょうか。
松 そうですね。おとぎ話でもないしメッセージだけが残ればいいのかというとそうでもないし、想像力と、そこにある現実との両方を受け止めてもらえたらと。そもそも舞台自体がそういうものだから、すごく演劇的なことができるのかなと思いますし、私自身も、今までの串田さんのお芝居での経験とは違う挑戦をしなくてはならないと考えています。とても面白いメンバーが揃ったと思うので、ぜひ観に来ていただきたいです。
森山 実験的なものも、良い意味でステレオタイプなものも、前面に押し出せる人たちが集まったので、お客さんも巻き込んで見せていきたいですね。
松たか子(まつ・たかこ)
1977年6月10日生まれ、東京都出身。1993年、16歳の時に歌舞伎座『人情噺文七元-結』で初舞台。以来、ストレートプレイやミュージカル、映画、ドラマなどで幅広い役柄を演じている。読売演劇大賞 最優秀女優賞、朝日舞台芸術賞など受賞歴多数。近年の主な舞台にNODA・MAP第20回公演『逆鱗』、『かがみのかなたはたなかのなかに』など。『セツアンの善人』『VOYAGE~船上の謝肉祭~』『十二夜』『もっと泣いてよフラッパー』など、これまでにも多数の串田作品に参加している。
森山未來(もりやま・みらい)
1984年8月20日生まれ、兵庫県出身。数々の舞台・映画・ドラマに出演する一方、近年ではダンス作品にも積極的に参加。文化庁文化交流使として13年秋より1年間イスラエルに滞在、インバル・ピント&アヴシャロム・ポラック ダンスカンパニーを拠点に活動。第10回 日本ダンスフォーラム賞 2015受賞。近作として、直島・ベネッセハウスミュージアムにて岡田利規×森山未來『In a Silent Way』、名和晃平×ダミアン・ジャレ『Vessel』など。9月に映画「怒り」の公開が控える。今回が串田作品初参加となる。
シアターコクーン・オンレパートリー2016
『メトロポリス』
2016年11月7日(月)~11月30日(水)Bunkamuraシアターコクーン
原作:テア・フォン・ハルボウ
演出・美術:串田和美
出演:松たか子、森山未來、飴屋法水、佐野岳、大石継太、さとうこうじ、内田紳一郎、真那胡敬二、大森博史、大方斐紗子、串田和美
伊藤壮太郎、島田惇平、浅沼圭、坂梨磨弥、高原伸子、摩耶リサ、安澤千草
ミュージシャン:平田ナオキ、エミ・エレオノーラ、青木タイセイ、熊谷太輔
公式サイトhttp://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/16_metropolis/