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インタビュー & 特集

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SPECIAL! 葛河思潮社第五回公演『浮標』劇評

8月4日にKAAT神奈川芸術劇場で幕を開け、全国公演を経て、9月2日(金)~4日(日) 世田谷パブリックシアターで上演される、葛河思潮社第五回公演『浮標』。大詰めの東京公演を前に、劇評をどうぞ!(文/湊屋一子 撮影/五十嵐 絢也)

INTERVIEW & SPECIAL  2016 9/1 UPDATE

人は心の中に収まりのつかないこと、納得できないことがあるとイライラする。早く終わらせて、わかりやすくラベルを貼って、箱の蓋を閉めて棚にしまいたい。そうすれば心穏やかに次に進める。しかし人の心をざわつかせるもののほとんどが、そんな風には終わってくれない。すべては絡み合い、連続し、明確な終わりなどないのだ。そう、死すらもすべてを終わりする力がないのだから。

葛河思潮社の第五回公演『浮標』。五回のうち三回がこの作品を上演しているが、観るたびに発見のある作品だ。
中央にしつらえられた大きな砂場が居間になり、縁側になり、海辺の茶屋になり、波打ち際にもなる。役者たちはある時はその場にいる人物として砂場を歩き回り、ある時は砂場の両側にあるイスに腰掛け、静謐な空気を作る道具となる。

日中戦争の中、肺病の妻を連れ千葉の海岸沿いに引きこもり、かつての弟子の紹介で子ども向けの絵本の仕事で口に糊している画家。しかし生活は貧しく、妻の病は重る一方だ。やはりこれも昔からの友人である金貸しに大きな借金があり、それを返せぬことに苦悩しつつ、自分が尊敬できない画壇の大家に頭を下げて仕事をまわしてもらうように勧められると、カッとなり彼をののしってしまう始末。また妻の母や妹が見舞いに来れば、その用事の1つに妻名義の土地の権利書の名義を唯一の長男である末弟名義に書き換えろという、いわば妻が生きているのに死後の財産の行方を案じている態度に腹を立てる。

約4時間にわたる3幕ものである本作の中で、繰り返し観客に見せつけられるのは、「矛盾したものの、違和感のない同居」だ。例えば画家は怒り狂って金貸しや医者を侮蔑の言葉でののしるが、その言葉が彼の本心であることも間違いないのと同時に、彼が心から彼らに感謝し彼らが自分に示してくれる好意を疑っていないのもまた事実という、一見相容れない感情も、画家を演じる田中哲司の肉体を通して演じられることで、矛盾しながら1つの一貫性を持っていると観客は確信できる。また義理の母も死の気配を漂わせる娘を見て身も世もなく泣き叫びながら、病人に酷であろう権利書の書き換えを迫る。行為だけ見れば矛盾する姉娘への愛情と悲しみ、末息子への盲愛ゆえの冷酷な仕打ちだが、池谷のぶえの演技によってそれは愛情深くしかし思慮の浅い母親の愚かさという一本の糸に寄り合わされていく。これ以上例を挙げることはしないが、登場人物それぞれにそうした矛盾とそれを矛盾ではなく生きることの複雑さとして描き出す、セリフの積み重ねがあり、それを演じる役者たちの“生きている”エネルギーが充満している。

これだけ心理的に重層な物語を伝えようと思えば、やはりある程度観客に時間を「体感」してもらわなければならないだろう。2度の休憩をはさみ4時間というのはかなりの長丁場であるが、絡み合い、連続し、終わりのないものを描ききるのに、この時間は必要なのだ。上映時間の長さがリスキーであることはわかっていても、この作品を繰り返し上演したいと思う理由は何なのか、この作品を体感すればその尽きぬ魅力はわかるはずだ。ここには、簡単にラベル化出来ず、また蓋を閉じることが出来ない、人間がもつ複雑で大きなうねりが在る。

葛河思潮社 第五回公演『浮標(ぶい)』.
作: 三好十郎
演出:長塚圭史
出演: 田中 哲司、原田夏希、佐藤直子、谷田 歩、
木下あかり、池谷のぶえ、山﨑 薫、柳下 大、長塚 圭史 ほか

【東京公演】
9月2日(金)18:00
9月3日(土)12:00/17:30
9月4日(日)13:00

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