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INTERVIEW!ミュージカル『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』入野自由さん&河原雅彦さん Part.2
INTERVIEW & SPECIAL 2016 8/26 UPDATE
※→Part.1からの続きです。
――稽古はどのように進めているんですか?
河原 まず、さとしさんと岸さんでそれぞれのシーンを初めにあたって、それを他の若い人たちが見守っている感じ。おじさんたちはすぐ疲れちゃうので、そうしたら若者たちが続く(笑)。若い人たちにとっては、これまでやってきたことではちょっと立ちいかないものをすごく求められる、非常に大変な作品なんです。若い人たちは若い人なりに突出した良いところを持ってると思いますけど、やっぱり総合力があるのは、場数を踏んできているキャリア組のさとしさん&岸さん。この二人の稽古を見て、若者たちは自分たちの弱いところを意識的に考えながら埋めて稽古に臨んでくれるので、この後もすごく楽しみだったりします。みんな、それぞれいいんだけど、入野君は芝居への向かい方がいいと思います。
――入野さんの芝居への向かい方は、河原さんにはどういうふうに見えているんでしょうか?
河原 すごく当たり前のことですけど、自分を置いといて、役のことを真摯に考えて稽古に臨んでる。そういう当たり前のことが、実は難しいんですよ。若い時って、自分もそうでしたけど、自己顕示欲っていうか、自分の見え方とか、自分のやりやすい方法でやろうと思ったりしがちなんです。そのほうが自分の良さを生かせるんじゃないかとか思っちゃう。でも本当はそうじゃなくて、役っていうのは役割の“役”ですから。単純に、与えられた役にひたすら寄り添うことにしか突破口はないんです。入野君はそこをわかってて役を構築している感じがすごく良いと思う。入野君のテオがどうなるか、楽しみですね。
入野 ありがとうございます!――入野さんは、いまテオをどういうふうに演じていきたいと思っていますか?
入野 方向性はシンプルに、兄弟の見え方をちゃんと意識して作っていきたいと思っています。稽古場で、先輩方が先に細かい段取りとかを作っているのを見て、本来なら先輩方の“いいとこどり”をしてうまくできるはずなんですけど、立ってみるとなかなかそうはいかなくて……。
河原 そりゃそうだよ。先輩方は場数踏んで得てきたんだからね。今回の歌詞にもありますけどね、“頭の中ではわかっているけど”って。頭でわかっていても、すぐにはその通りにできるわけない。稽古場に立って何回もやることで掴めることも多いから、できるだけそれぞれが多く稽古できるように時間をやりくりしようと思っているけれど、今回のようにペアが多いと時間は限られてしまう。とすると、逆に俳優たちは限られた稽古場での時間をどれだけ有効に使うかなんです。僕は今回、それがいい効果になると思う。演出家からの言葉を待つのではなく、俳優たちが台本と向き合って考える時間が増えたり、やらなきゃいけないことがぱっと掴めなくても、経験豊富な先輩たちの芝居を目の前で見ることができるとか。そういうことが、すごく有益に働くんじゃないかなと思う。入野君にしたらさ、同年代の人たちがやるのも、おじさんたちのも見ることができる(笑)。勉強って言葉とは違うけど、とてもいろんなものを感じる稽古場になってるんじゃないかな。
入野 そう思います。役を作っていく肉づけをしていく上で、稽古場で見ている時間がすごく重要というか。足りない部分や気付かないことが他のチームの中にいっぱい散らばっていて、それを集めて自分を大きくしていく感があります。昨日も稽古が終わった後、河原さんから「こういう時にはこうしようという感覚や、セリフ一つひとつにこういう意味があるんだってことをもっと考えたほうがいい」と言われたんです。確かに、自分にはそれが足りなかったなと、改めて感じました。表面的な段取りや動きばかりに必死になっているけれど、実は、気持ちだったり細かいところを拾っていくことで動きも自然と連動してくるんだってこととか。橋本さんたちがそれを自然にやっていらっしゃるのが見ていてわかっているはずなんですが……。頭ではわかっているのに、それが難しいですね。
河原 演劇って面白いなって思うよね。さとしさんも、若者たちの芝居を見ては落ちこんで帰っていってるよ(笑)。若い人たちは段取りの覚えも早いし、記憶力もいいしね(笑)。
入野 でもその段取りも、橋本さんの中でパンとはまった瞬間のすごい素敵な感覚を目の当たりにすると、すごい……って思います。本番を観るのももちろん楽しいですけど、すごい人たちの稽古を目の前で見られるのは、楽しいですし、本当に勉強になります。
河原 一つひとつの段取りに、心情の流れとか物語の展開がすべて計算されていて、そこに行けばいろんなものが用意されている、というようなことなんですけど。この作品は映像と連動した段取りが本当に多いから、あっちいってこっち、次こうして…って、感情は置いといて動きに追われちゃいがちではあるよね。さとしさんでも、入りづらい段取りは慎重に整理しながら進めてる。瞬間、瞬間の感情の流れが役の動きを決めていくわけだから、そこをクリアにしていくことが段取りをスムーズにこなす一番の近道になる。そういう意味では、ヴィンセントとテオの人生を終始ちゃんと生きないと、映像に軽くひねられちゃうよ。
入野 すでにひねられています。いまはまだ、舞台上の僕の姿は映像に隠れて見えないかもしれません(笑)。
河原 俳優がいなきゃ映像をもっと楽しめるのに、とか言われちゃったらさ(笑)。ほんと大げさなようだけど、そう言っても過言じゃないくらい、俳優としては相当怖い舞台だと思いますよ。段取りが入ったからよしっていうことでもない、映像に合わせた動きをする“段取り奴隷”にならないようにね。役者たちがとても良いパフォーマンスをした時に、映像と相まっていい舞台、面白い舞台として伝わるはず。
入野 顔合わせの時、河原さんが、「本番を観た後に、お客さんが『映像すごかったね』ってなるんじゃなくて…」って話されましたけど、本当にそう思います。
河原 知り合いの舞台を観た後で楽屋に行き、感想言うのが困るなってことあるけど、この芝居はラクですよ。「映像すごかったね」って言える(笑)。でもそれは悔しい。「本当に良い芝居だった、もちろん映像もすごいけど」にしたい。勝負ですね。
――ミュージカルですから、音楽、歌も重要ですよね。
河原 歌も難しい曲ばかりですけど、きちんと役として昇華して歌えば、難しいぶん、とても良いものになると思ってます。
入野 曲も難しいですし、ずっとコード進行だけだったりと伴奏の中にヒントが少ないので、歌い出しのきっかけを見つけるのが難しいです。
河原 コード進行だけの曲って、演者に歌い出しがわかるようにきっかけを教える音が入ってたりするけど、そういうのがこの作品では少ないんだよね。韓国の方たちも、しれっとやっていると見せかけてかなりの練習量だったと思う。
――歌詞は森雪之丞さんが担当されていますね。
河原 日本版として日本のお客さまに届けるために、「韓国版ではこんなことを歌っているけれど、日本版ではこんなことも込めてみたい」と相談しながら雪之丞さんに合わせていただきました。すごく良い落とし込み方をしてくださって、魅力的な歌詞に仕上がっています。
※→Part.3へ続きます。